Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.368:大学キャリア教育の分類項目

2010年07月12日 | 授業のおはなし
■そもそものきっかけ「なかなかピンと来ない」
現在産業能率大学でキャリア教育の担当をしているコガは、その改善のためと称して様々な研究会や学会に参加し、他大学でのキャリア教育の実践事例に関する情報を収集しています。そんな中、キャリア教育に関する事例発表は他のテーマの教育と比較し、内容をきちんと把握できるまで時間がかかるのに気がつきました。話の内容は理解できるのですが、ピンとくるまでの時間が長いのです。

その原因は、大学のキャリア教育は他の科目に比べ実施内容や対象等が「多様」なためではないかと考えています。例えば産業能率大学での1~2年を対象としたキャリア教育は、正課の授業で、かつ学部の必須科目として実施しています。仮にそうした前提条件を明確しないまま実施内容だけを紹介すると、正課外でキャリア教育を実施している大学や、正課内でも選択科目として実施している大学の関係者にとっては、キャリア教育の前提がずれているのでその内容にピンとこないはずです。

こうした認識のズレを小さくするためには、発表の冒頭に各大学のキャリア教育の前提条件を共通の枠組で明確にすることが有効と考えます。この「共通の枠組による前提条件の明確化」を効率的・簡便に実施するため、大学キャリア教育の「分類項目」というものを考えてみました。

■大学キャリア教育5つの分類項目
今回考えた大学キャリア教育の「分類項目」はやや強引ですが、5W1Hに基づき、下記の5つの項目を設定しました。

【1.Who=授業の実際の担当者】
他のテーマの教育と比較し、キャリア教育ではその授業の実施者が多様です。法政大学大学院キャリアデザイン学専攻調査委員会の『大学におけるキャリア支援・キャリア教育に関する調査報告書』(2006)によると、その選択肢は、

・専任教員みずから実施
・専任教員がコーディネーターとなり外部講師を活用
・非常勤講師みずから実施
・非常勤講師がコーディネーターとなり外部講師を活用
・担当部局が直接外部講師に依頼
・担当部局が業者に委託し、業者が講師を選定
・職員がみずから実施

と多岐に渡ります。
なお非常勤講師と外部講師の違いは、
非常勤講師=別の大学で専任教員の先生
外部講師=キャリアコンサルタント等普段大学教員以外の仕事に就く人
と区別されるのものとコガは考えています。

【2.When==授業実施年次】
どの学年を対象にキャリア教育を実施しているのかで分類します。大学によっては特定の年次の学生を対象としてキャリア教育を実施するのでなく、複数年次の学生が受講可能とするケースもありますし、各年次で異なる内容のキャリア教育を段階的に実施している大学も存在します。それらを明確にすることが認識のズレを軽減する上で必要と考えます。

【3.Where=授業提供の場】
やや苦しい当てはめとなっておりますが、Whereはキャリア教育の提供が正課のカリキュラム内なのか、それとも正課外のプログラムなのか、さらに正課の場合は必須科目なのか選択科目なのかという分類を考えました。学生のモチベーションは、正課必須→正課選択→正課外という順番で高くなっていくため、それぞれの提供の場ごとに動機付けの方法が異なってくると考えます。

【4.Why=授業目的】
「キャリア教育-小道具と本筋」(『IDE現代の高等教育No.521大学とキャリア教育(2010/6)』)の中で、金子元久先生は大学キャリア教育の方向性として「マッチング主義」「構え主義」「能力主義」の3つを挙げています。この方向性に基づき、キャリア教育の授業の目的を3つに分けてみました。

「マッチング主義」とは、「学生と職業のマッチングをスムーズにするために、一方で学生自身の適性を診断するとともに、他方でどのような職業があり、またどのような内容をもっているかについて情報を提供することをねらう」というキャリア教育の方向です。ここでは己を知り、相手(会社)を知るための『知識』を習得することがキャリア教育の目的となります。

次の「構え主義」とは、「学生に職業に対する意欲や興味、言いかえれば『構え』を育成すること」です。つまり、就業感や職業観の醸成といった意識面の涵養がここでの目的となります。

そして、最後の「能力主義」とは、「職業に具体的に役立つ知識を習得させる」ことです。古くから大学が行ってきた、医師や弁護士などプロフェッショナルの養成に加え、最近では職業関連の資格取得、あるいは社会人基礎力等の「コミュニケーション能力や論理的思考能力などの基本的な能力」を大学の中で育成する機会が増えており、これらが「能力主義」に含まれます。
さらには、就職活動に役立つ知識やスキルの修得といった目的も、広い意味でこの「能力主義」の範疇に入るとコガは考えております。

これら3つの方向性(目的)のうち、どれか一つを狙ってキャリアの科目を実践する場合もありますし、複数のねらいを単一のキャリアの科目の中にもたせる場合もあります。

【5.How many=クラス規模】
1クラスあたりの学生数は、大学のキャリア教育を理解する上で重要なファクターとなります。何百人もいるような大教室での授業と、数十人の少人数クラスでは、自ずと授業の運営方法や授業形態が異なってくるからです。

また、キャリア教育が学部の必須科目になっている場合、多くの大学では複数のクラスを並行して運営することになります。その際、クラス数やそこに関わる教員数の設定は、運営上大きな課題となります。例えば少人数クラスで実施すると、当然クラス数が多くなります。その場合、一人の先生が複数のクラスを担当するか、それとも複数の先生で分担して担当するかという選択に迫られます。前者の場合特定の教員に多大な負荷がかかることになりますし、一方後者の場合、内容の共通性や質の保証をどう担保するのかという課題を抱えることになります。

■具体的な表示例
以上のような5つの前提を明らかにした上で、授業内容(What)や授業方法(How)の説明をすれば、より「ピンとくる」キャリア教育の実践事例発表になるのではと考えております。ちなみに産業能率大学で実施している「キャリアを考える」というキャリア科目を、この分類項目で表示すると下記のようになります。

【1.Who=授業の実際の担当者】
基本は専任教員みずから実施しているが、15回の授業のうち3~4回は専任教員がコーディネーターとなり外部講師を活用している。
【2.When=授業実施年次】
大学1年生後学期に実施。ちなにみ、大学2年の前学期、後学期にも継続してキャリア教育を実施している。
【3.Where=授業提供の場】
正課の授業で、必須科目として実施している。
【4.Why=授業目的】
就業に対する「構え」の育成が主たる授業目的であるが、書く力を中心とした基礎能力の養成、会社についての基本的な知識の修得も一部教えている。
【5.How many=クラス規模】
1クラス100名弱の比較的大人数のクラスを4クラス同時間帯並行で実施。専任教員4人で担当している。

さて、こうした分類項目というのは、他の教育テーマでも意外と整理されていないのが実情ではないでしょうか?キャリア教育以外の大学教育、あるいは企業内教育においても、こうした分類が整理されると、互いの教育実践内容を共有化するのにも役立ちますし、自己の実践を客観的な視点から再確認するのにも役立つのではないかと思った次第です。

今回お示ししました分類はあくまでもコガの試案です。こんな風に変えた方がよい、あるいは別の分野で分類項目を考えてみたというご意見等ございましたら、本メール宛に返信いただければ幸いです。

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