ボクは雑草です

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小さな港町の夏祭り~愛知県蒲郡市~

2011-08-11 22:51:37 | 報道/ニュース
愛知県のほぼ真ん中、海に面したところに「蒲郡」(がまごおり)という町があります。人口はおよそ8万人。いかにも海の町という地名の通りぐるりとまわりは海。漁港だけでなく形原、西浦、蒲郡、三谷、幸田の温泉観光地をもち夏は海のレジャー、冬は温泉、いつでも楽しめる手軽な行楽地として関東・関西からの観光客にも人気でした。ところがこの数年は観光客の減少が止まりません。どの温泉地も半数以上の旅館が営業休止または廃業。存続の危機に直面しています。
形原温泉で昭和のはじめから営業している平屋作りの温泉旅館を訪ねました。引き戸を開けると土間があります。営業中の看板があっても泊り客はいません。中へ入ると品の良い70代半ばの美人が立っています。この旅館の女将さんでした。ボクが訪ねた訳を話すと「どうぞ上がってください。」だれもいない板の間に上がり古いソファにすわると、大急ぎで沸かしたお茶が出てきて、女将さんは以前のにぎわい振りをとつとつと話してくれました。話を聞いているうちに夜のちょうちんの灯りと泊り客の下駄の音が聞こえてくるようでまるで昭和のはじめに戻ったような気分になりました。まるで・・川端康成の伊豆の踊り子にもこんな風景があったような・・などとボクが空想にふけっていると「おとなりも、その向こうの旅館も今年廃業しました。お向かいは廃業してもう7年、ずっと売りに出しているけどまだ売れないんです。取り壊すだけで1億かかるそうですから。」「ここは水車のある温泉が珍しいと言ってときどきドラマの撮影に来るんですよ。水車は回らないけどお湯はまだ出るんです。」女将さんの声で平成の“今”に戻りました。
そんなムードを吹き飛ばすような光明を見ました。地区ごとに行っている手筒花火です。手筒花火は竹の筒を縄で巻き火薬を入れ両手でかかえます。火柱は10メートル以上にもなり手筒を持っている人に火の粉が降りかかるという勇壮なものです。学区ほどの範囲で21の地区が参加、毎年4月から10月まで毎週土曜か日曜にどこかで行われ、街おこしとふるさと回帰で参加地区は年々増えているそうです。
そのうちのひとつ三谷温泉の中区という地区の手筒を見ました。地区の神社で奉納し港で厄年の若者を中心に20名ほどが手筒を持ちます。およそ2ヶ月前から近くの竹林で竹を切り、中の節をくりぬき、縄で何重にも巻き、手筒を作ります。竹の選び方、縄の巻き方は間違えたら事故のもと、先輩から後輩へ代々受け継がれ、自分だけの手筒が完成します。火薬は生もので前もって詰められません、前日の夜から火薬師の手を借りて調合し徹夜で慎重に詰められます。いよいよ当日、手筒は背丈の何倍もの炎の柱となり降りかかる火の粉に耐えおよそ30秒後に大きな爆発で終わります。お父さんが火を付け息子が持つ、兄が火を付け弟が持つ、18歳以上の男子が青年部に入り代々受け継がれてきました。祭り当日、手筒を作り終えた達成感に酔いしれる若者、それを支える年配の元青年部の人たち、お囃子をする人、浴衣を着て集まるこどもたち。「海の上を泳ぐ金魚花火をぜひ見てください。」地元の人の郷土自慢を聞いているとまるで自分が外国人になったような、外国人から日本人を見ているような、そんな気持ちになりました。
蒲郡では年に一度の大花火大会が行われています。4000発の花火が上がり20万人が集まります。そんな大きな花火大会とは別に地区ごとに場所を変え毎週行われる手筒花火。集まる人は少なくても気持ちのこもった手作りの手筒は大きな花火大会にはない味わいを伝えてくれます。これが町内の絆、ふるさとでしょうか。祭りの原点を見た気がしました。

※お祭りの動画はこちらで見られますYouTubeふるさと港町の手筒花火