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斎藤昌三の『閑版 書国巡礼記』

2008年11月14日 00時02分21秒 | Weblog
斎藤昌三の書物随筆集第2弾『閑版 書国巡礼記』を紹介します。第一弾の番傘装訂『書痴の散歩』が好評だったため満を持して一年後の1933年(昭和8年)12月、これまた珍妙な蚊帳を表紙に使用した装訂で限定1000部を発行しました。各冊に限定番号をスタンプで押しています。角背・打ち抜き綴じ(ぶっこ抜き)製本のため一見状態は美本に見えても、綴じ部分の金釘が酸化してさびが生じ、本文用紙が離れた状態のものもあります。限定本とはいえ1000部発行され売れ行きもよかったようで、『閑版 書国巡礼記』古書店でよく見かけます。古書価格は2万円前後でしょう。



『閑版 書国巡礼記』斎藤昌三 限定1000部 各冊限定番号入り 
1933年(昭和8年)12月 蚊帳装 天銀 函


『閑版 書国巡礼記』の巻頭に、斎藤昌三邸汗牛充棟的書庫写真が掲載されています。ルーペを使用しても残念ながら一冊一冊の書名は読めません。昭和初期、日本において愛書家は確実に育ちつつありました。彼らは、全国各地に点在しており美しい装訂の書籍蒐集の道を邁進しておりました。この写真を見た愛書家は、ため息を流したに違いありません。書名は読めませんけどね。つづいて、斎藤昌三、自画自賛の装訂本の書影も「何と!」8冊も掲載しているではありませんか。

自慢の装訂本は、以下の8冊であります。

『西園寺公望』木村毅 限定1000部 昭和8年5月 背は竹を紐で組み合わせ、平は筍皮装、背文字は竹に彫刻
『閑談の閑談』吉野作造 特製260部 昭和8年6月 上製はコーネル革装、平はクロース装。特製は背革・仙台平装
『退読書歴』柳田国男 限定1000部 昭和8年7月 織布装、背革
『野客漫言』馬場孤蝶 限定1000部 昭和8年9月 葛布装
『志るえっと』矢野峰人 学芸社 限定500部 昭和8年9月 白樺装訂 背キャンパス
『汲古随想』田中敬 限定820部 昭和8年10月 うち特装50部、和装三冊帙入 並装は葛布背洋布装
『梵雲庵雑話』淡島寒月 限定1000部 昭和8年11月 装訂は草双紙の絵袋で帙はソロバン珠を染めた手拭い
『成簣堂閑記』徳富蘇峰 昭和8年12月 和漢洋古版本貼合布装1000部

いずれも誠にラッキーなことに、すべて家蔵本でありますから、一冊ずつ紹介する機会もあるでしょう。

本文は『書痴の散歩』と同じく雑誌・専門誌等に書いた斎藤昌三の書物随筆を再編集し掲載したものです。第一書房の出版制作への批判や蔵書票の話、装訂美について語っている点が面白いですね。

斎藤昌三ご自慢の蚊帳装訂。実は前例がありまして、『閑版 書国巡礼記』発行の3年も前に「風俗雑誌」1930年(昭和5年)8月号で、風俗研究会の藤澤街彦がすでに試みております。「食べられる紙」や「音の出る紙」、「匂いの出る紙」を付録に付けるなど新機軸なアイデアを多用した雑誌で、蚊帳装訂も人の目を奪う企画だったようです。が、発想が斬新過ぎてか7月号から9月号までの3冊で廃刊となってしまいました。



浴衣のぼかしも美しい「風俗雑誌」風俗研究会・藤澤街彦編 平凡社 
1930年(昭和5年)8月号 蚊帳装 3号で廃刊となった


「日本雑誌興亡概史」等を書き、雑誌類に目を配る斎藤昌三。例え3号廃刊の雑誌とはいえ、知らぬはずも無く蚊帳装訂のアイデアを頂戴したのは間違いの無いところでしょう。まあ、特許があるわけでもないですけども。「風俗雑誌」が浴衣を着た色っぽい女性を蚊帳の中に描いているのに対し、斎藤昌三の『閑版 書国巡礼記』は、本を読む自身のシルエットを配しています。


国書刊行会から『少雨装書物随筆』と題して2006年(平成18年)1月31日定価12600円で、斎藤昌三の初期随筆集『痴人の独語』、『書淫行状記』、『紙魚供養』が一冊にまとめて復刻されました。赤字覚悟のずいぶんと思い切った企画ですね。一体どのくらい印刷し、いかほど売れたのでしょうか。他人事ながら心配になります。絶対に売れるわけないから。でも、気がつけば私、実は買っておりましたけど。元・平凡社(「風俗雑誌」も平凡社の発行です)の川村伸秀の「編注」と「解説 斎藤昌三展望」を買ったみたいなもんです。松岡正剛と山口昌男の巻末のわずか12頁の解説対談は、面白くありません。対談の冒頭で「斎藤昌三を全く知らず、編集部からコピーをもらって初めて知りえた人物」と告白しております。知人の飛騨の仙人からもお話しがあり、「千夜一夜」のブログ等よく存じておりますが、この対談は失敗だったでしょう。編集部サイドの12頁にまとめた苦労が忍ばれます。



『少雨装書物随筆』山口昌男監修 川村伸秀解説・編集 
国書刊行会 12600円 2006年(平成18年)1月31日
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