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俳句 川柳を超えて

2011年02月17日 00時00分00秒 | Weblog
バブルなく不況はキッチリ来る会社
子はかすがい孫は生きがい嫁疎外

覚えているだろうか。
昔むかし、こんな川柳ばかりが載った『万能川柳』なる本。
今から17年も前の1994年3月、毎日新聞で掲載された市井の人々の川柳をコピーライターの仲畑貴志の手により編集され「みんなのつぶやき」と副題が付いて出された。
身近なテーマから社会問題まで。
一般の目線から汲み取り呟かれた川柳の数々だ。
中々に面白く当時話題として結構取り上げられた気がする。
ビデオをテーマにした句もあった。

ビデオとり見ぬまにまた次をとり
レンタルのビデオで映す貸衣装
よその子のビデオあくびをかみ殺し

ビデオなんて今ではとっくに死語となっている。
録画方式はビデオからDVへ更にブルーレイやハードディスク。
アナログからデジタルへ変貌しているよね。
ちょっと辛口の鋭い切り口で当時の世相を映し出したものもあった。

古古米に似てる元元元の付く総理
品格は問わぬ議員の叙位叙勲

自由民主党がまだ政権与党だった時代ですな。
懐かしい。
今よりは随分と良かった気がする。
また、ちょっぴり悲哀ある句。

貸したのに持っていかれたボールペン
気付かれず今年も過ぎた誕生日
外人に道を聞かれそうで一寸それ

なんかも掲載されていた。
しかし、今から読み返すと全体的にやはり古さは否めない気がする。
五七五の音調が旧式さを髣髴とさせるからであろう。

それが、今。
川柳から俳句へ。
役割はバトンタッチされたようだ。
俳句の決まりきった制限から脱却すべく誕生した川柳を超え、本家帰りを成し遂げた俳句の逆襲であろう。
秀逸な2冊を紹介しよう。
『機嫌のいい犬』と『まさかジープで来るとは』だ。

前者は朝日新聞で連載している女流作家川上弘美の作。
後者は文筆家せきしろとコメディアン又吉の共著だ。
昨年末から今年の始めにかけて相次いで出された。

川上は言葉の新たな組合せにより進化した表現を生み出すという魔術を駆使した新感覚な俳句集である。
『機嫌のいい犬』より四句紹介しよう。

髪切つてチェリオ飲んで遅日なる
方恋や目刺の鰓のひらきよう
つつじ咲くパンツとパジャマ専門店
十四ポ岩田明朝冴返る

特に「方恋や」の句は、「木枯らしや目刺にのる海の色」。
芥川龍之介の名句を髣髴とさせる秀句ではあるまいか。
方恋が良い。

また、又吉の繰り出す自由律俳句は、『万能川柳』を吹き飛ばすほどの新感覚とインパクトを持っている。
まるで、尾崎放哉の平成版である。
ご存知だろうが放哉の有名な句をいくつか紹介する。

かたい机でうたた寝して居つた
足のうら洗へば白くなる
すさまじく蚊がなく夜の痩せたからだが一つ
墓のうらに廻る
肉がやせて来る太い骨である

いづれも80年以上も前の句とは思えない。
そして、又吉の句。
あっ。
又吉とは、今出ていないチャンネルはないほどの有名人。
吉本興行所属のピースというコンビのコメディアンの片割れである。

敗訴の文字が勝ったみたいに
詐欺だと数年後に思った
寸分の狂い無く思い出せる横顔
明日が嫌だから眠らない
貰ったのに枯らしてしまった
暗い外国人を見てびっくりする
立ち小便の湯気に怯える
差し出した手に気付かれない

うーん。
素晴らしい。
80年後にも読まれる句ではあるまいか。
尾崎放哉と又吉の句を逆転させても違和感がない。
驚きである。
また、短編エッセイが添付されているがそれも面白い。
特に沖縄出身の父のエピソードは爆笑モノであろう。
川上本は集英社から。
又吉本は幻冬社から。
それぞれ出版されている。
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