マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

オフサイド・ガールズ

2007年08月28日 | 映画
 フェミニズムの視点から考えると、この作品に女性差別の匂いを嗅ぎつけ、イランという国に憤りを感じる人もいるだろう。なにしろ、イランでは、法律上、女性のサッカー観戦は禁止されているからである。

 2006年のドイツワールドカップ出場がかかったバーレン戦に、どうしても生で試合を見たいイランの少女たちが、男装してスタジアムに忍び込む。だが、あっけなく警察にバレて捕まってしまう。

 スタジアムの外に設けられた仮設留置所に保護された少女たちは、まさに「蛇の生殺し」状態。スタジアムのお客たちの歓声や罵倒から、イランチームの状況を想像し、共に喜び、怒り、落胆する。

 少女たちのサッカーへの熱意と愛情がひしひしと伝わり、どこかコミカルで楽しいシーンである。

 一人の少女がトイレに行きたくなる。しかし、スタジアム内には女性トイレが無い。看守がトイレにいる男性客を締め出して、少女を一人だけにする。このチャンスを狙って、少女は脱出し、うまくスタジアムに潜り込むのに成功する。

 少女がぼそっと言う。「日本人観光客の女の人のためには、トイレがきちんと用意されているのに!なんで私たちは?」
 
 このセリフこそ、法を犯してまで、サッカー観戦をしたかったイランの女の子たちの肉声であり、イラン政府の矛盾への憤りなのであろう。

 しかしである。確かにこの作品はイランの女性差別をモチーフにしているものの、私はむしろ、そんな重いものは全く感じなかった。

 この少女たちは、単純に全世界のサッカーファンの気持ちを代弁しているだけに過ぎないのではないか。ドイツワールドカップのチケットを「ヤフオク」で落札できず、泣き泣きドイツ行きを諦めたファンや、会場には行けないが、日本チームを応援するためにアウトビューイングに集まる熱狂的な日本のファンの気持ちと重なる。

 スタジアムに入れないからこそ、画面や音声から伝わる試合の展開に、一喜一憂する運命共同体のファンたちを、女の子はスタジアムに入れないというイランの古い法律を借りて、実は全世界の熱狂的なサッカーファンの深層心理を描いた、実に新鮮で楽しいスポーツ映画なのである。


9月1日より公開

監督 ジャファル・パナヒ
脚本 ジャファル・パナヒ ジャドメヘル・ラスティン
出演 シマ・モバラク・シャヒ サファル・サマンダール シャイヤステ・イラニ
    M・キェラバディ イダ・サデキ ゴズナル・ファルマニ
配給 エスパース・サロウ
 
公式サイト  http://www.espace-sarou.co.jp/offside/


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