マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

蟹工船

2009年06月30日 | 映画
 大学時代、小林多喜二の小説「蟹工船」を読んでいたら、友達から

「ガチガチのプロレタリアートなんだね?ちょっと古くないか?」と奇異の目で見られたことがある。

 当時流行っていた文学といえば、芥川賞受賞した村上龍の「限りなく透明に近いブルー」だった。米軍基地福生を舞台に、セックス・ドラックに溺れる若者を描いた斬新な文学だった。

 でも、なぜか私は「蟹工船」に魅了されていた。なぜだったんだろう?労働者が国家権力の元にある漁船の中で、命果てるほどこき使われ、搾取される物語に、「限りなく透明に近いブルー」以上の魅力があったのかもしれない。

 そしていつしか、馬車馬のように働かされている貧しく無学な労働者たちのそれぞれの不満が爆発し、権力に立ち向かう大きなパワーが燃え滾り始まる。労働者の権利を命がけで主張し始めるのだ。
  
 これが労働組合の原点であったことを知り、私は大きな衝撃を受けていた。

 あれから、33年。最近、不景気のせいか、小林多喜二の「蟹工船」が若者の間で再ブレイクし、ベストセラーになっている。なぜ、「蟹工船」なのかは、多分、私が大学時代に受けた衝撃を、今の若い人もなんらかの形で同じように受けているからであろう。「蟹工船」は派遣、非正規労働者、契約社員という日本の曖昧な労働体系に身を置くワーキングプワーたちに、大きな勇気と意気軒昂を与えているのかもしれない。

 これは、とてもいいことである。

 おまけに、「蟹工船」は映画化されてしまった。主演が松田龍平、西島秀俊。若いファンを魅了するキャスティングで作られた「蟹工船」は、時代背景はもちろんそのままだが、蟹工船経営者側と労働者側が、あたかもラッバー同士がバトルロワイヤルをやっているかのような、軽いノリであった。

 労働者のコスチュームもSF映画に出てきそうなビニール製の雨合羽だったので、これにはちょっと笑ってしまった。ラッパーのノリと雨合羽。実に妙な組み合わせなのだが、小林多喜二の原作に新しい香辛料が加わり、プロレタリア文学の貧乏臭さを残しながらも、新しいタイプの摩訶不思議なスタイリッシュな作品に出来上がっていた。

 小林多喜二もあの世で相好を崩しているに違いない。労働組合結成の原点となったこの物語に、現代の搾取されたワーキングプワーの若者たちも徒党を組んで、この格差のあり過ぎる社会に打ち勝つパワーを持ってほしい。

 蟹工船公式サイト

監督・脚本: SABU
原作: 小林多喜二
出演 松田龍平 西島秀俊 高良健吾 新井浩文 柄本時生 木下隆行 木本武宏
7月4日、シネマライズなどで公開