今日は秋晴れの日曜日だ。西武秩父駅はいつもより人が多い。これから周辺の山々へ出かけるハイカー、あちらこちらでロードバイクを組み立てている若者たち、タクシーやバスを待つ観光客。
みみ爺は9時ちょうどに出発したよ。早朝4時前には布団から出ていたけれど、少しも眠くはない。心も体も完璧だ。
いつものようにコンビニで水とおにぎりを仕入れ、ペダルをこぎ始めた。今日はのんびりと秩父を楽しむつもりだよ。暑くもなく寒くもなくちょうどいい。
今日はこの秩父公園橋は渡らず、下をくぐり、武の鼻橋を渡っていくことにしたよ。
2年前のちょうど今頃、八丁峠へ向かったときに秩父公園橋の上からこの武の鼻橋を見下ろして、いい橋だなと思ったんだ。で、今日はこちらを選んだ。
武の鼻橋から大きな秩父公園橋を見上げる。ケーブルがハープの弦のように見えることから、秩父ハープ橋ともいわれているよ。大きすぎてカメラに入りきらない。
下流の景色だよ。青空を映して、流れる川の水も青い。ほんとにいい天気だねえ。
秩父公園橋の向こうに武甲山も見える。
県道72号を横切って音楽寺へ向かうよ。
上に見えるガードレールのある広い道まで、恐ろしく急勾配の細道だった。自転車を押し上げるのもきつかったよ。近道というのは大体こんなもんだ。
この石段を登ると音楽寺だ。
松風山音楽寺。音楽寺という名は、松の梢を吹く風の音から生まれたという。名の由来がとてもおしゃれだね。
この大きな観音堂は江戸中期のものだそうだよ。
梵鐘の下部周囲には、千手観音、如意輪観音など六観音が鋳造されているんだ。
千手観音
如意輪観音
十一面観音
不空羂索観音
聖観音
馬頭観音
秩父市街と武甲山だ。
ミューズパークのスカイロードは銀杏が色づき始めている。
静かで走りやすい道だね。
さあ、ミューズパークを後にして、文殊峠に向かうよ。気持ちのいい下り坂だ。
そこここでコスモスが咲いている。
草刈機を担いでいるお爺ちゃんの姿が何かいい。
ここにもコスモスがきれいに咲いているよ。
文殊峠へ向かう林道釜の沢伊豆沢線の起点だ。ここは法性寺への道の分岐でもある。
法性寺まではそれほど遠い距離ではないので、ちょっと立ち寄ってみることにしたよ。
これが法性寺山門だ。なかなか立派な山門だ。秩父札所32番とあるよ。
般若山法性寺というんだね。なるほど、怖い般若が睨みをきかせているよ。
石段を登ると本堂だ。
さらに進むよ。
この上が観音堂だね。
古刹という言葉がぴったりだね。
奥の院まで登ってみたいところだが、かなり山道を登っていく山の上だし、時間を考えて今日はやめておくことにした。
ふたたび林道起点まで引き返し、釜の沢に沿って林道を上りはじめたよ。
この辺はまだそれほどきつい勾配ではないよ。
林道布沢線が左へ分岐している。
林道らしくなってきたよ。勾配もだいぶきつくなってきた。このまま10%前後の勾配が峠まで続くんだね。
暑くはないが、上り坂はやっぱり汗が吹き出てくるね。背中がびっしょり濡れているよ。
いたるところに小さな崩落はあるが道はきれいだね。走りやすい林道だよ。もちろん車やバイクにも出会わない。静かな林道だ。
ハンドルにくくりつけたクマよけ鈴が、カランカランといい音色で静けさの中に響いている。クマは出ないとは思うが、やたら栗やどんぐりが落ちている道だからね。もしかしたらどこかに潜んでいるかもしれないよ。
ようやく峠に着いた。峠の標示板は今にも折れてしまいそうなほど朽ちているよ。でも、なかなかいい味を出しているね。
金精神社だ。金精神社というのは、男根の形をした御神体を祀っている神社ということだよ。
金精神社の反対側には長若天体観測所への石段がある。
石段の上には小さな天体観測施設があったよ。
ここからの眺めは最高にすばらしい。少し靄がかかっているのが残念だね。
武甲山をこんなふうに横から眺めるのは初めてだよ。
二子山や両神山も見える。
うっとりとするような静けさのなかにいて、このすばらしい景色を前に、みみ爺は今生きていることの喜びを体中で感じているよ。感激して胸がいっぱいになる。涙さえ出てきそうだ。
あと何年先かわからないが、自分に死が訪れるのはそれほど遠い未来ではないと思う。
死とはきっと何もない真っ暗闇の世界だ。その暗闇すら感じ取ることができないのが死だと思う。実感としては想像がつかないが、つまり、心も体も世界も自分からは無くなってしまう。何も無いのが死というものなのだろう。
今、青い空を見、山の空気を感じ、緑の山々を眺め、静けさを楽しむことができるのは、まさに生きているからだ。生きているって、ほんとにいい。
気温が低いのか、下り坂はとても寒い。
大きな岩が崩れ落ちているよ。
かなりの急勾配の下りが続く。ブレーキはずっとかけっぱなしだ。ブレーキレバーから手を離すと、再びブレーキをかけようと思っても止まらなくなりそうだよ。
寒い。怖い。
林道の終点だね。下りは早い。あっという間だったね。
文殊堂だ。文殊菩薩は、知恵と勇気を授ける学問の神様として有名だそうだ。こんな寂しい山の中の小さなお堂だけれど、2月の縁日には無料の送迎バスも出て、たくさんの人々がお参りに来るらしいよ。
林道釜の沢伊豆沢線終点の標示板だ。なかなか走り応えのある、あまり荒らされていない感じの、いい林道だったよ。
伊豆沢沿いの、長閑な景色を楽しみながらさらに下っていく。
雲龍寺という寺があった。
雲龍寺は、秩父十三仏霊場の一つなんだ。
秩父34札所というのは有名だけれど、秩父十三仏霊場というのもあるんだね。
そういえば、ついさっき立ち寄った文殊堂も秩父十三仏霊場とあった。
後で調べてみたら、こちらの雲龍寺は文殊菩薩(文殊堂)の納経所ということだそうだよ。
まだまだ下っていくよ。
赤平川だね。
小鹿野の町の中を抜けていくよ。先月、西秩父林道へ向かった時にも通った道だね。
ずっと気になっていた鳳林寺だ。この山門もすばらしい。まさに古刹というにふさわしいね。
この寺は、秩父七福神めぐりの一つになっていて、この寺の毘沙門天は特に崇敬があついという。
鳳林寺をあとに、国道299号を避けて裏道を行く。
しかし、これは道といえるのだろうか。ともすれば脇を流れる水路に自転車ごと落ちてしまいそうだよ。
赤平川を渡る奈倉橋からの眺めだ。
ここは秩父札所33番、延命山菊水寺だ。
みみ爺はここでおにぎりをいただくことにした。
桜井橋で赤平川を渡り、続いて吉田川を吉田橋で越えていく。
ここにもコスモスが揺れているよ。今日はほんとによくコスモスを目にする。優しげできれいな花だね。
道の駅龍勢会館だね。大勢の人々で賑わっているよ。今日はここでお昼を食べようかと考えていたんだが、やめておいてよかった。
遠くに平べったい形の蓑山が見える。皆野はもうすぐだね。
県道37号のこのあたりはとてもいい雰囲気だよ。車もほとんど来ない。みみ爺のお気に入りの道の一つに加えておこう。
赤い橋は赤平川を越える郷平橋だ。
郷平橋から下流を望む。下流といってもすぐ先が荒川との合流点だよ。正面には宝登山が横たわっている。
こちらは荒川に架かる皆野橋だ。左手から赤平川が合流してきているよ。
秩父鉄道の皆野駅だ。その先に見えるのが宝登山。
さあ、これから蓑山(美の山)に上るぞ。
林道蓑山線の標示板が立っているよ。ここからは林道なんだね。
しょっぱなからかなりの急勾配だよ。今日最後の上りだ。頑張ろう。
おや、こんなところに温泉施設があるよ。
きっと展望のいい大浴場でもあるんだろうなあ。泊まってみたいね。
それからさらに上り続け、やっとの思いで頂上にたどり着いたよ。さすがにこの年で山を三つはきついね。今日はこの蓑山の上りが一番長くつらかったよ。
しかし、頂上の展望台の上からの眺めはすばらしかったよ。夕もやに煙ってはいたけれど。
武甲山と秩父の市街が一望できる。ここは夜景でも有名なところだと聞くが、それはきっとそうだろうと思う。
小鹿野の二子山も遠く望むことができるよ。
さあ、だいぶ日が傾いてきたね。あとは下るだけだ。
秩父十三仏霊場の一つ、瑞岩寺だ。
本堂裏手の山の天然記念物岩ツツジが有名なんだそうだよ。今はその季節ではないけれど。
こちらの欅も天然記念物とある。さすがに立派な欅だね。
お堂から見上げる断崖にへばりついているのが岩ツツジなのだろうか。
上っては来たけれど、下りはちょっと怖い急な石段だよ。
県道11号だ。武甲山が真正面に見えるよ。
これが秩父札所4番、高谷山金昌寺なんだね。朱塗りの立派な山門(仁王門)には大きな草鞋が掛かっている。
1300余体もの石仏が境内を埋め尽くしていて、石仏の寺として知られているよ。
山門の楼上にも羅漢や観音などの仏像群が並んでいる。
山門から中へ一歩足を踏み入れると、そこはもう静まり返った別世界だ。
金昌寺の名物石仏の一つともいわれる「酒飲み地蔵」だ。
この石仏の数には圧倒されるね。
これも有名な如意輪観音菩薩だ。
観音堂を囲むようにたくさんの石仏が並んでいるよ。
こちらは「亀之子地蔵」。
それにしても、ものすごい数の石仏だよ。
観音堂の外縁には優しい表情をした顔の慈母観音(子育て観音)が安置されている。
観音堂の裏手にも数多くの石仏たちがひっそりと並んでいる。
目が洗われたような心もちになって金昌寺をあとにしたよ。
あたりはだいぶ薄暗くなってきたね。
この橋で横瀬川を渡る。
秩父の名峰武甲山が大きく堂々と立ちはだかっている。
傷つき、巨大で、とてつもなく威厳があり、まるで武将のように秩父を睥睨し治めているかのようだ。
秩父の人々はきっとこの山に大きな誇りを抱いているに違いないね。この、とほうもなく巨大な山の下に立つと、自分も自分の人生も、いかにちっぽけなものかと思い知らされるようだよ。
羊山公園の「姿の池」だ。
大雨のたびに堤の決壊があり、通りかかった尼僧が人柱になり堤の中に埋められ、それ以後決壊しなくなったという伝説があるよ。
取水塔の向こうを西武秩父線の電車が走っていくよ。
羊山公園からの下りの途中に、「牧水の滝」というのがあったよ。でも、これは人工の滝だそうだ。大正時代に数回訪れている歌人・若山牧水にちなんで名前がつけられたらしい。
遠い雲間からわずかに夕日が降り注いでいる。もう駅は近い。
今日はのんびり走るつもりだったが、そうもいかなかったよ。
お疲れさん、みみ爺。まるで巡礼に来たような一日だったね。今夜はよく眠れそうだよ。