臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

結社誌「かりん」11月号より(かりん集より抜粋)

2016年12月13日 | 結社誌から
○ 人間のうろこのような山奥の棚田に秋のひざしのそよぐ (横浜)中山洋祐

 「山奥の棚田に」の「山奥の」は不要とも思われるが、「棚田」を「人間のうろこのような」と直喩表現した時は、「山奥の棚田に」と「山奥の」が在った方が宜しいかとも思われる。


○ ホテルに変わった小学校を見下して一本杉を越える満月

 少子化社会の我が国に於いては、人口減や市町村合併などに伴って住民の血税を費やして建てられた小学校や中学校の校舎が不要となり、その転用などが社会問題化している。
 本作の場合は、かつての「小学校」が「ホテル」されているとのことであるが、それは、過疎地の小学校と言うよりも観光地の場合でありましょう。
 その「ホテルに変わった小学校を見下し」て、今しも「満月」が村の「一本杉を越え」ようとしているのである。
 地元住民の感慨や如何?


○ ゆきすぎる海岸線を見るために、今、やわらかく捩じられた首 (名古屋)辻聡之
 
 結社誌「かりん」の次代を背負って立つ辻聡之さんは、愛車を飛ばして渥美半島一周のドライブにお出掛けになられたのでありましょうか?
 であるならば、「ゆきすぎる海岸線を見るために、今、やわらかく捩じられた首」の「首」のオーナーは、この度、お付き合いを初めたばかりの若き女性歌人でありましょう。

 
○ だれもみな頼りない首その上で笑ったり恋したり死んだり
 
 さすがは結社内受賞歌人の辻聡之さんである。
 件の彼女が「ゆきすぎる海岸線を見るために」「首」を「捩じ」曲げた時に、彼女の一瞬の動作を「やわらかく」と感じはしたが、直ぐ様、彼女及び彼女の「首」を見つめる視線が鋭く客観的なものになり、冷淡にも「だれもみな頼りない首その上で笑ったり恋したり死んだり」と詠むに至ったのである。
 歌人としての面目ここに在り、とでも言うべき作品である。


○ 水鳥も魚も食べず空っぽの胃袋のまま川は流れる (京都)大竹明日香

 言われてみればその通りで、「川」はいつでも砂利や泥や芥を飲み込む「胃袋」なのである。
 然るに、とある日のとある時刻の件の「川」に「水鳥」が浮かび「魚」が泳いでいたのであるが、それを見てとった作者は、「あの『川』は『胃袋』のくせして『水鳥も魚も食べず』に『空っぽ』のままで流れている」と洒落のめしたのである。
 洒落のめすこと、即ち、文学的修辞である。


○ 給与明細の数字もこもこ増えるかもベーキングパウダー振りかけおけば

 本作も亦、京都市にお住まいの歌人・大竹明日香さん一流の文学的修辞からなる一首である。
 「ベーキングパウダー振りかけ」れば、「給与明細の数字」が「もこもこ増える」のならば、私も川崎信用金庫の私名義の預金通帳に「ベーキングパウダー振りかけ」たいものである。
 それにしても「もこもこ増えるかも」とは、よく言ったものである。
 
○ コミークス巻頭カラーへ戻り来れば戦争前夜ののどかな酒場

 やや文意不明瞭な作品であるが、それを因って、この一首の深みが増すという側面もありますから、そこの辺りがこの一首の魅力なのかも知れません。


○ 執着とはアヲハタジャムの瓶の糊一箇所離れぬラベルのことか (横浜)長谷川典子

 ふとした発見・気付きが魅力の一首である。
 それにしても、「執着とはアヲハタジャムの瓶の糊一箇所離れぬラベルのことか」とは、良くぞ気付きたり!良くぞ言ったり!よくぞ詠んだり!
 そうです。然りです。
 私・鳥羽省三の場合は、「執着とはアシナガバチに刺されたっきり、いつまでもひかない頬ペタの腫れのことか」と思われます。


○ 再稼働再生支援再構築「再」付す言葉が虚しく増える (松山)吉岡健児

 全く以て「『再』付す言葉」とは「虚し」いものですね!



○ 色褪せたアグネス・ラムのポスターが未だ壁にある実家の部屋の

 我が国・日本で最初のグラビアアイドルと大活躍した「アグネス・ラム」さん。
 あのスリーサイズ〈B:90〉〈W:55〉〈H:92cm〉のナイスバデーの「アグネス・ラム」さんも今や五十七歳。
 寄る年波には勝てずに、あの〈ナイスバデー〉も今や沈没寸前とか?


○ 遮光せし薄暗がりにもの言はずわれを見据ゑる人体模型は

 「人体模型」が「われを見据ゑ」てものを言ったとしたら、浅草の奥山に小屋掛けして大儲けが出来るのではありませんか?


○ 夜の更けに帰りゆく道こおろぎの声を贅とし闇にやすらう (伊豆)船本惠美

 「こおろぎの声を贅」として聴くくらいが、私たち庶民にとっての身分相応というものでありましょうか?


○ 帰りたくないのであろう なかなかに灯ろうとせぬ流燈の火は (広島)岩本幸久

 「なかなかに灯ろうとせぬ流燈の火」を見て、「(ご先祖様たちも)帰りたくないのであろう」と思ったのは、最高最大のご先祖供養というものでありましょう。 


○ 黙し聴く 今そばにいる亡き父と車山山頂にうなる風音 (鴻巣)江川美恵子

 「亡き父」が「今そばにいる」との感覚が宜しい!


○ 夜空にも干支にも姿なけれども猫の気配は我家に残る (つくば)小野雅敏

 「夜空」とは星座。
 「干支」に「猫」の「姿」が無いのは、商(殷)代の中国で暦を作った者の責任として追求しなければなりません。
 また、星座に〈猫座〉が無いのは、古代ギリシャの王宮の守衛たちの責任として、これも亦、多いに追求する必要があろうかと存じます。
 それはともかくとして、つくば市にお住まいの小野雅敏さんのお宅では、今は亡き飼い猫・タマの「気配」が、今も尚、残っているのでありましょうか。


○ 猛暑日の陽を背負いたる大けやき樹液循環激しかるべし

 「猛暑日の陽を背負いたる大けやき」を目にして、「樹液循環激しかるべし」と思ったのは、さすがの小野雅敏さんです。
 なにしろ、彼っと来たら、三年前に死んだ飼い猫・タマの気配を未だに感じているくらいなんですから!


○ 藤村は末期の花袋に「死ぬのはどういう気持ちかね」と聞きたり (横浜)金井省二

 私も何かの本で読んだことがありますが、あの島崎藤村なら、それ位のことは仕出かしかねません。
○ 植木屋が上部(うえ)を切るしかないと言う我に見立てて愛でたる犬黄楊

 「我に見立てて愛でたる犬黄楊」の「上部」を鋸で切られてしまったら、横浜市にお住まいの金井省二さんは、気が狂ってしまうのではないかしら!
 

○ ハイジャンプ一度でいいからしてみたいタカアシガニは脚折りたたむ(相模原)羽嶋聡子

 「タカアシガニ」が「脚」を「折りたたむ」のは、「ハイジャンプ」する為なのでありましょうか?
 私は、魚介類の生態に就いての知識がまるっきりありませんから、何方か教えて下さいませ!


○ 兵児鮎の逆立ち泳ぎを見ておれば今の自分でいいかと思う

 『goo辞書』は、件の「兵児鮎」に就いて、「ヨウジウオ目ヘコアユ科の海水魚。全長約15センチ。体は細長くて著しく側扁する。体の後端はとげ状の突起になり、背びれが腹側に回って尾びれに接する。口は管状に長く、プランクトンを吸い込む。本州中部以南に産し、海底近くで、逆立ち姿勢をとる。」との解説を為している。
 それはともかくとして、私・鳥羽省三の場合は、「兵児鮎の逆立ち泳ぎ」に限らず、何を見ても「今の自分でいいかと思う」のであります。 



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