臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

大室ゆらぎの短歌(其のⅣ)

2017年08月18日 | 結社誌から
○  鳴り出づる声明かとも思はれて忙しい夏の冷蔵庫歌ふ(2014/11)

○  悪口を言へばすなはち唇は歪みぬ野辺の草摘まむかな

○  山かひのひとすぢ道を人が来る物言ふゆゑに恐ろしき人(2014/10)

○  静脈に投入される麻酔薬ぱたんとまぶたのうへに落ちる闇(2014/8)

○  このうへなく落ち着き払つて頭からひゆつと闇黒に吸ひ込まれたり

○  桐の花を仔細に見むと桐の木に立て掛ける梯子ひかり眩しも(2014/7)

○  真つ暗な堤のうへを人魂のやうに灯して過ぎる自転車(2014/6)

○  石鹸と湯でいくたびも洗ふゆゑ老婆のやうな手をしてわれは

○  雨が降れば早くも夜になる空に眠りはきざす五時から眠る(2014/5)

○  半壊の元牛小屋の暗がりで飼はれて犬は吠えやまぬかも

○  剃り立ての頭を揃へしんしんと寒川高校野球部はしる(2014/4)

○  揃へずにをられぬ丸谷才一の全集を買ふ出るたびに買ふ(2014/3) 

○  夜を行く列車の音にこなごなに轢かるるこころ轢かれてしまへ(2014/1)

○  新聞は四時半に来るそれまでの時間が長いまだ暗ければ

○  死んでゐても毛はふはふはで撫でまはせばやはらかな毛が抜けやまぬよ(2013/12) 

○  うるさいのに何だか眠つてしまひさうほのあたたかくて少し汗ばむ(2013/11)

○  ニ十分は短い方と言はれたりさうかと思ひ薄く横たはる(2013/10)

○  奇つ怪な音を発する機械かなこれは何かに似てゐるテクノ

○  わが駆るは青い小さいシトロエンひかり眩しき半島を行く(2013/7)

○  シトロエンのかたちに自我は拡大すわれがくるまかくるまがわれか(2013/6)

○  山峡のゆふべ旧家の白壁にほつほつ落つる紅椿のはな(2013/5)

○  内容に飽きるのではなく文体に飽きるらしくて持ち替へる本(2013/4)

○  膝の高さにまつはる犬を掻き分けて朝の机にやうやう落ち着く(2013/3)


     「結社誌『短歌人』会員2欄」より抜粋   



○  峡覆ふ青葉の界に参入す いささかわれを失はむとして(2011/8)


     「結社誌『短歌人』会員1欄」より抜粋 


























                 


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