○ トイレの紙ぐるぐるとるはもつたいないもつたいないとぞ大正びとわれ (川崎)岩田 正
「大正びと」ならぬ〈昭和十五年生れ〉の私・鳥羽省三も亦、「トイレの紙ぐるぐるとるはもつたいないもつたいないとぞ」思っています。
○ 「主よ」と呼ぶしづかな声をわれはもたず目つむれば夏の空に樹が響る (市川)日高堯子
吾も亦、「『主よ』と呼ぶしづかな声」を持っていない人間でありますが、今、「目」を「つむれば」、部屋の中を飛び舞う死に損ないの蠅の羽音が聞こえて来ます。
○ 華氏百度日本に満ちて犬の鼻、蛙の水かき、わが脳乾く (つくばみらい)坂井修一
「華氏百度」とは、摂氏に換算すると「37.8度」に過ぎません。
仮に日本中が摂氏37.8度の高温に見舞われたとしたら、「犬の鼻」や「蛙の水かき」が「乾く」かも知れませんが、「わが脳」即ち、鳥羽省三の「脳」は「乾く」暇も無く、極めて順調に活動することでありましょう。
東京大学大学院の教授様よ、軟弱なことを言ってはいけませんぞなもし!
○ 「国の秀や久住や高し」ちちははの飢ゑて仰ぎし久住連山 (千葉)川野里子
「草深野ここに仰げば国の秀や久住は高し雲を生みつつ」とは、北原白秋作の一首であり、竹田市久住町には、この歌を刻んだ石碑が立っている。
○ 鳩山邦夫の訃報届きぬ椰子しげる公園にけふも舞ふ青き蝶 (台湾)日置俊次
今は亡き・鳩山邦夫と「蝶」との関係、また、彼と台湾との関係は、本作の読者の皆様のご存じの通りでありますが、鳩山邦夫と本作の作者・日置俊二氏との関係は、寡聞にして私も知りません。
○ 手術のたびあと二年は生きたしと夫の二年の更新つづく (横浜)佐波洋子
○ オウム教にも大臣をりき 表情なき顔が議事堂の組閣にならぶ (横浜)池谷しげみ
○ やあやあ我はと始まるような戦争をなつかしむのは危険だけれど (沖縄)松村百合子
○ 鵺鳴くは地震の前触れかもしれず遠く近くを救急車ゆく (川崎)池内桂子
○ かまびすしすだく政治家蟬の声新緑染むまぶたをとぢむ (小野田)高崎淳子
○ 気位が高いと言へばすこし違ふよそよそしさが持ち味であり (浜田)寺井 敦
○ 一日の疲れの量に触れるごとまぶたの上に指先を置く (我孫子)遠藤由季
○ 二段階認証のやうな仏壇用ライターにて線香に火を移したり (横浜)鹿取未放
○ 憧れの名残りのごとくかすれつつ飛行機雲に白さまだある (さいたま)古志 香
○ 大きなる水玉模様の衣をまといはじけて歩く術後二年を (川崎)佐怒賀弘子
○ 辞書くりて見つけたる語の「隠し」には三つ目に載るポケットの意味 (新発田)泉 弘子
○ いいよどむ言葉をたれも補うな悲哀のごときもの消ゆるまで (新潟)西埜明美
○ わたし今何かをうたいたいだろか蟬全霊で鳴いている昼 (新潟)髙崎尚子
○ この夏も久住守景が妻子連れ涼みに来さうな夕顔の棚 (東根)庄司天明
○ 祝ひごとの後に聞きたり友の娘うつ病み飛び下り自死したること (千葉)齊藤みつ子
○ 棕櫚の葉にすがる二匹の空蟬をよけてホースの水を放ちぬ (鹿児島)辰野千鶴子
○ あの蟬にどんな世界が開けたか空蟬は虚空を見つづける (水戸)前野道子
○ 姉妹五人叔母につれられ亡き母の声聴くと訪ひし降霊の家 (八王子)白河里子
○ 良き事は気のせいなればうち捨てていつもの心保ちてゐたり (水戸)園部啓子
○ わが病や小康戻り白猫の野良また家に棲みつくらしき (千葉)田中茂子
○ 全局で選挙速報始まりぬカリンニコフに逃避する夜 (松戸)あさひな公枝
○ 親を送りはじめての夏私の立ち位置がいまだに分からずにいる (滋賀)佐々木まどか
○ お月さま見上げ本日平穏に勤めたことをまず感謝せり (横浜)高橋律子
○ 虚しさを両ポケットに閉ぢ込めて歩行マシンの一歩踏み出す (鹿児島)鷲尾陸子
○ 日に四度コーヒーを飲み浮かびくる歌会でしやべりしおのが愚かさ (盛岡)鈴木梅子
○ 「まだ歌を詠んでゐるのけ」と問ふごとく遺影の義姉は小さく笑まふ (柏)苅部國松
「大正びと」ならぬ〈昭和十五年生れ〉の私・鳥羽省三も亦、「トイレの紙ぐるぐるとるはもつたいないもつたいないとぞ」思っています。
○ 「主よ」と呼ぶしづかな声をわれはもたず目つむれば夏の空に樹が響る (市川)日高堯子
吾も亦、「『主よ』と呼ぶしづかな声」を持っていない人間でありますが、今、「目」を「つむれば」、部屋の中を飛び舞う死に損ないの蠅の羽音が聞こえて来ます。
○ 華氏百度日本に満ちて犬の鼻、蛙の水かき、わが脳乾く (つくばみらい)坂井修一
「華氏百度」とは、摂氏に換算すると「37.8度」に過ぎません。
仮に日本中が摂氏37.8度の高温に見舞われたとしたら、「犬の鼻」や「蛙の水かき」が「乾く」かも知れませんが、「わが脳」即ち、鳥羽省三の「脳」は「乾く」暇も無く、極めて順調に活動することでありましょう。
東京大学大学院の教授様よ、軟弱なことを言ってはいけませんぞなもし!
○ 「国の秀や久住や高し」ちちははの飢ゑて仰ぎし久住連山 (千葉)川野里子
「草深野ここに仰げば国の秀や久住は高し雲を生みつつ」とは、北原白秋作の一首であり、竹田市久住町には、この歌を刻んだ石碑が立っている。
○ 鳩山邦夫の訃報届きぬ椰子しげる公園にけふも舞ふ青き蝶 (台湾)日置俊次
今は亡き・鳩山邦夫と「蝶」との関係、また、彼と台湾との関係は、本作の読者の皆様のご存じの通りでありますが、鳩山邦夫と本作の作者・日置俊二氏との関係は、寡聞にして私も知りません。
○ 手術のたびあと二年は生きたしと夫の二年の更新つづく (横浜)佐波洋子
○ オウム教にも大臣をりき 表情なき顔が議事堂の組閣にならぶ (横浜)池谷しげみ
○ やあやあ我はと始まるような戦争をなつかしむのは危険だけれど (沖縄)松村百合子
○ 鵺鳴くは地震の前触れかもしれず遠く近くを救急車ゆく (川崎)池内桂子
○ かまびすしすだく政治家蟬の声新緑染むまぶたをとぢむ (小野田)高崎淳子
○ 気位が高いと言へばすこし違ふよそよそしさが持ち味であり (浜田)寺井 敦
○ 一日の疲れの量に触れるごとまぶたの上に指先を置く (我孫子)遠藤由季
○ 二段階認証のやうな仏壇用ライターにて線香に火を移したり (横浜)鹿取未放
○ 憧れの名残りのごとくかすれつつ飛行機雲に白さまだある (さいたま)古志 香
○ 大きなる水玉模様の衣をまといはじけて歩く術後二年を (川崎)佐怒賀弘子
○ 辞書くりて見つけたる語の「隠し」には三つ目に載るポケットの意味 (新発田)泉 弘子
○ いいよどむ言葉をたれも補うな悲哀のごときもの消ゆるまで (新潟)西埜明美
○ わたし今何かをうたいたいだろか蟬全霊で鳴いている昼 (新潟)髙崎尚子
○ この夏も久住守景が妻子連れ涼みに来さうな夕顔の棚 (東根)庄司天明
○ 祝ひごとの後に聞きたり友の娘うつ病み飛び下り自死したること (千葉)齊藤みつ子
○ 棕櫚の葉にすがる二匹の空蟬をよけてホースの水を放ちぬ (鹿児島)辰野千鶴子
○ あの蟬にどんな世界が開けたか空蟬は虚空を見つづける (水戸)前野道子
○ 姉妹五人叔母につれられ亡き母の声聴くと訪ひし降霊の家 (八王子)白河里子
○ 良き事は気のせいなればうち捨てていつもの心保ちてゐたり (水戸)園部啓子
○ わが病や小康戻り白猫の野良また家に棲みつくらしき (千葉)田中茂子
○ 全局で選挙速報始まりぬカリンニコフに逃避する夜 (松戸)あさひな公枝
○ 親を送りはじめての夏私の立ち位置がいまだに分からずにいる (滋賀)佐々木まどか
○ お月さま見上げ本日平穏に勤めたことをまず感謝せり (横浜)高橋律子
○ 虚しさを両ポケットに閉ぢ込めて歩行マシンの一歩踏み出す (鹿児島)鷲尾陸子
○ 日に四度コーヒーを飲み浮かびくる歌会でしやべりしおのが愚かさ (盛岡)鈴木梅子
○ 「まだ歌を詠んでゐるのけ」と問ふごとく遺影の義姉は小さく笑まふ (柏)苅部國松