今年も終わりということで、今年読んだ本のベスト10を選出してみた。
1位 イアン・マキューアン『贖罪』
何と言ってもその綿密な構成に圧倒される。
人間としての自責の念、自意識、自己弁護、誠意、作家としての業、すべてを再現し、物語へと昇華しえたマキューアンの手腕に脱帽するほかない。
2位 アントン・チェーホフ『かわいい女・犬を連れた奥さん』
短い紙数の作品の中に、人間たちの愚かで、愛らしく、そしてどこか悲しい姿を描き上げている点が印象深い。
短編というスタイルで、ここまで奥行きの深い作品が書けるものかと感心してしまう。
3位 川上未映子『乳と卵』
口語体の文章のテンポの良さ、そこからかもし出されるユーモアとセンスのある間合いのとり方、そしてラストのカタルシス。そのどれもが一級品である。
新人離れした作品で、女性的なテーマであるものの、女性性を越えた共感を得ることができる。
4位 ダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』
意識の流れというよりも、主人公の妄想の流れとも言うべき内容で、読んでいらいらもするのに、この抜群のおもしろさは何だろう。
この作品は本当にふしぎな作品だ、といろいろな意味で思う。
5位 水森サトリ『でかい月だな』
キャラ造形のセンスが圧倒的に上手い。特に中川はセリフも含めて格好いいの一語。
思春期の主人公の心をうまく活写しており、絶望にも見えかねないラストに鮮やかな光を当てている点にも高いセンスを感じる。
6位 J・M・クッツェー『鉄の時代』
アパルトヘイトという二元論の世界において、その境界に立つ白人女性の姿が印象的。
どちらか一方の側に立つのではなく、他者を受け入れるというシンプルな姿勢に希望が見出せる。
7位 アントニオ・タブッキ『供述によるとペレイラは……』
供述体という文章により、思想背景などを説明せず、ペレイラのかくされた心情を仄見せる手腕はさすが。
不穏な世界を舞台に、人間の意志の力を感じさせる展開が胸に響いてくる。
8位 ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』
古臭さはあるものの、全体のために個が犠牲にされるという姿は現在にも通じるところがあるのではないか。
物語には緊張感があり、サスペンスフルで、ラストに深い余韻が漂っていたところも忘れがたい。
9位 横光利一『機械・春は馬車に乗って』
作者の意図がどの程度あったかはわからないが、ここにある喜劇的な要素はおかしく、人間というものの滑稽さが伝わってくる点が良い。
作者の優しい視点も心地よく、横光利一という作家を大きく見直した。
10位 桐野夏生『残虐記』
一般人には到底理解できない世界を、想像力をもって構築し、リアルに見せる作者の手腕に脱帽。
人間の想像力で、苛酷な現状に対抗しようとする作家らしい姿勢もユニークである。
◎番外
芥川龍之介『河童・或阿呆の一生』
J・M・クッツェー『夷狄を待ちながら』
フョードル・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
フョードル・ドストエフスキー『地下室の手記』
4つとも初読ではないのでランキングからは除外したが、どれもがびっくりするくらいの傑作ばかりである。
●総括
突き抜けておもしろい、という作品はなかったが、粒ぞろいの作品に出会えて個人的には満足だ。
海外文学がずいぶん上位に来てしまったが、これは僕の読書傾向が今年は偏ってしまったことの証左だろう。
来年はもう少しバランスよく本を読んでいきたいものだ。
過去の私的ランキング
2006年度 私的映画ランキング
2007年度 私的映画ランキング
2006年度 私的ブックランキング
2007年度 私的ブックランキング
1位 イアン・マキューアン『贖罪』
何と言ってもその綿密な構成に圧倒される。
人間としての自責の念、自意識、自己弁護、誠意、作家としての業、すべてを再現し、物語へと昇華しえたマキューアンの手腕に脱帽するほかない。
2位 アントン・チェーホフ『かわいい女・犬を連れた奥さん』
短い紙数の作品の中に、人間たちの愚かで、愛らしく、そしてどこか悲しい姿を描き上げている点が印象深い。
短編というスタイルで、ここまで奥行きの深い作品が書けるものかと感心してしまう。
3位 川上未映子『乳と卵』
口語体の文章のテンポの良さ、そこからかもし出されるユーモアとセンスのある間合いのとり方、そしてラストのカタルシス。そのどれもが一級品である。
新人離れした作品で、女性的なテーマであるものの、女性性を越えた共感を得ることができる。
4位 ダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』
意識の流れというよりも、主人公の妄想の流れとも言うべき内容で、読んでいらいらもするのに、この抜群のおもしろさは何だろう。
この作品は本当にふしぎな作品だ、といろいろな意味で思う。
5位 水森サトリ『でかい月だな』
キャラ造形のセンスが圧倒的に上手い。特に中川はセリフも含めて格好いいの一語。
思春期の主人公の心をうまく活写しており、絶望にも見えかねないラストに鮮やかな光を当てている点にも高いセンスを感じる。
6位 J・M・クッツェー『鉄の時代』
アパルトヘイトという二元論の世界において、その境界に立つ白人女性の姿が印象的。
どちらか一方の側に立つのではなく、他者を受け入れるというシンプルな姿勢に希望が見出せる。
7位 アントニオ・タブッキ『供述によるとペレイラは……』
供述体という文章により、思想背景などを説明せず、ペレイラのかくされた心情を仄見せる手腕はさすが。
不穏な世界を舞台に、人間の意志の力を感じさせる展開が胸に響いてくる。
8位 ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』
古臭さはあるものの、全体のために個が犠牲にされるという姿は現在にも通じるところがあるのではないか。
物語には緊張感があり、サスペンスフルで、ラストに深い余韻が漂っていたところも忘れがたい。
9位 横光利一『機械・春は馬車に乗って』
作者の意図がどの程度あったかはわからないが、ここにある喜劇的な要素はおかしく、人間というものの滑稽さが伝わってくる点が良い。
作者の優しい視点も心地よく、横光利一という作家を大きく見直した。
10位 桐野夏生『残虐記』
一般人には到底理解できない世界を、想像力をもって構築し、リアルに見せる作者の手腕に脱帽。
人間の想像力で、苛酷な現状に対抗しようとする作家らしい姿勢もユニークである。
◎番外
芥川龍之介『河童・或阿呆の一生』
J・M・クッツェー『夷狄を待ちながら』
フョードル・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
フョードル・ドストエフスキー『地下室の手記』
4つとも初読ではないのでランキングからは除外したが、どれもがびっくりするくらいの傑作ばかりである。
●総括
突き抜けておもしろい、という作品はなかったが、粒ぞろいの作品に出会えて個人的には満足だ。
海外文学がずいぶん上位に来てしまったが、これは僕の読書傾向が今年は偏ってしまったことの証左だろう。
来年はもう少しバランスよく本を読んでいきたいものだ。
過去の私的ランキング
2006年度 私的映画ランキング
2007年度 私的映画ランキング
2006年度 私的ブックランキング
2007年度 私的ブックランキング
拙い文章&感想にそのような言葉をもらえるとは思ってませんでした。僕のレビューを参考に読んでいただけるのであれば、それに勝る喜びはないです。
『供述によるとペレイラは……』は本当にいい作品ですね。
これを読んだ直後は卵料理にはまってました。そういう風に読み手に感じさせる作品ってすばらしいです。
本のレビューが的確でわかりやすく、いつも感嘆しながら読んでいます。読書の幅も広いですね。ここのレビューを参考にして、私もいろんな本を読もうと思います。
ちなみに『供述によるとペレイラは……』は私の昨年のベストワンでした。本当に感動的な名作ですよね。須賀さんの訳もすばらしいです。