人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年二人組。ある日、彼らの生活に一人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。各々の人生を懸け、彼らが企てた大計画とは? 息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして感動の結末。道尾秀介の真骨頂がここに!
出版社:講談社(講談社文庫)
単純におもしろい作品である。
リーダビリティがあって、テンポも良い。そして最後には大仕掛けが待っている。見事なエンタメ作品だ。
特にすばらしいのはどんでん返しのラストだろう。これはもうきれいにだまされてしまった。
確かに読んでいる間、ささいな点で引っかかるポイントはいくつもあったのだ。アルバトロスの章の最後の展開がご都合主義的でげんなりしたことも確かである。
だが、それをいちいち気にしていては先に進めないので、全部無視して読み進めていた。
それら無視してきたすべてに、ちゃんと意味があるのだ、とラストに至って明かされ、ともかくびっくりしてしまう。ここまで見事に、してやられると、むしろすがすがしいほどだ。
道尾秀介の技量の高さはすでに知っているけれど、改めて思い知らされる思いがする。
内容も良かった。何よりそれぞれキャラが立っているのがいい。
むかし自分が起こした事件で負い目を持っている武沢や、飄々とした感じがあって憎めないテツさん、まひろ、やひろ、貫太郎の若者陣も個性があって、それぞれに読ませる。
個人的には、武沢とテツさんの関係がいい感じだ。
微妙にずれたようなかけあいなんかは読んでいても、なかなか楽しい。
そして二人の間にきずなができたからこそ、最後の会話が生まれたのだろう、と思わせられる。
その場面でテツさんが語った、詐欺師に関する言葉が読ませる。そこには彼なりのつらい人生や悔いが見えてくるようだ。
そして彼の悔いが、全員に明るいラストをもたらしており、読後感はとても良く、ともかくもさわやかだ。
この後味のよさは大きな魅力である。
エンタテイメントとしても、人情話としてもすてきな一品である。満足の作品だ。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
そのほかの道尾秀介作品感想
『シャドウ』
『向日葵の咲かない夏』
『骸の爪』