私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『遠い声 遠い部屋』 カポーティ

2006-04-28 20:53:07 | 小説(海外作家)


戦後アメリカ文学界に彗星の如く現われた作家、トルーマン・カポーティ。
本書はカポーティ最初の長編小説で、刊行と同時に注目を浴びた記念碑的な作品である。


若干、難解に感じられる作品である。
その理由としては所々に幻想が混じりこむ文体であり、盛り込まれるエピソードのつながりが今一つ見えてこないためにあるのだろう。そういった点のために、結局、最後までよく理解しきれないままで読み終えることになってしまった。
しかしわからないなりにこの作品を読むことは楽しい経験であった。

この作品でわからないなりに良かったと感じたポイントは四つある。
一つ目は所々に垣間見られる死のイメージだ。
この作品は南部ゴシック小説と言われているらしいけれど、こういった死のイメージもその一環なのだろう。そのイメージが何に繋がるのかはわからないままだったけれど、印象に残るものであったことはまちがいない。

二つ目は主人公の傷付きやすいイメージだ。
主人公のジョエルは特に繊細な傷付きやすい少年である。彼が感じる思いのいくつかは僕にも経験があるものがあり、懐かしさすら感じた。
例えば誰もが自分に対して悪意を感じているのではないか、と思うところや、お世辞を言われてからかわれているのではと疑うところ等は記憶を呼び起こすものがあり、パーソナルな部分に訴えるものがあった。

三つ目は個性的で魅力的な登場人物である。
ランドルフもなかなかいい存在だが、個人的にはアイダベルが気に入った。彼女のはちゃめちゃに見えるけれど、どこかに繊細さな傷付きやすい少女像は完全にヒット。アイダベルが登場する部分は読んでいる最中、萌えまくりであった

そして四つ目はこの作品の底辺に流れる切なさである。
例えばジョエルとアイダベルが喧嘩をして眼鏡が壊れたとき、「あんたのせいじゃないわ」と寂しそうに言うシーン。
ミス・ウィスティーリアが小さな男の子たちがいずれ大きくなっていく、と考えて泣くと語るシーンや、そのミス・ウィスティーリアをジョエルが見捨てる形になるシーンは何とも言えず切ない。そこには失われていくという根源的な恐ろしさと悲しみが流れているように思えて心に響いた。

というわけで作品を理解できなかったもの、所々に光るイメージの数々のため、読後に清新な感覚を残すこととなった。この作品に関しては、それで充分だという気がする。ブルース・リーじゃないが、「Don't think. Feel!」こそがこの作品を楽しむカギかもしれない。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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