「イングリシュ・ペイシェント」というタイトルで映画化もされた、ブッカー賞受賞作。
第二次大戦下のイタリアの僧院を舞台に、全身火傷を負った謎の患者と、彼に付き添う若い看護婦らの、ミステリアスな世界を描く。
若干読みづらい作品であるということは否定できない。人称の曖昧さや、錯綜するエピソードなど、物語を頭の中で整理するのに苦労する構成になっており、とっつきにくさはある。
しかし、そこで展開される文章の美しさは特筆に価する。その繊細な詩的イメージには心震えるものがあった。これぞ名訳と呼ぶに足るものであろう。
エピソードも複雑に入り組んでくるが、全体像が見えてきたときは、何とも言えない感動を呼び起こすものがあった。読みづらいが、とにかく面白い作品である。
この作品には主要人物が4人いるのだが、どの人物も心に何かしらの傷と過去を背負い生きている。その影を背負いながら、四人が暮らす空間には切なさが溢れていて、美しさすら感じる。
個人的にはキップがお気に入りだ。死と背中合わせの作業が彼の心を犯していくイメージや、アジア人というアイデンティティを感じさせるラスト付近のエピソードは悲しくてならなかった。
これを読み終えた後には、映画化作品の「イングリッシュ・ペイシェント」も見たくなってきた。そう素直に感じさせるすばらしい作品である。一読の価値はあるだろう。
だけど、この作品。実は既に絶版になっているそうな。BOOK OFFに行けば普通に売っているけれど、できれば再販してほしいものだ。こんなに美しい作品が忘れ去られるなんて、もったいないと本気で思うから。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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