私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ザ・マスター」

2013-05-12 08:56:05 | 映画(さ行)

2012年度作品。アメリカ映画。
第二次世界大戦末期。海軍勤務のフレディ・クエル(ホアキン・フェニックス)は、ビーチで酒に溺れ憂さ晴らしをしていた。やがて日本の敗北宣言によって太平洋戦争は終結。だが戦時中に作り出した自前のカクテルにハマり、フレディはアルコール依存から抜け出せず、酒を片手にカリフォルニアを放浪しては滞留地で問題を起こす毎日だった。ある日、彼はたまたま目についた婚礼パーティの準備をする船に密航、その船で結婚式を司る男と面会する。その男、“マスター”ことランカスター・ドッド(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、フレディのことを咎めるどころか、密航を許し歓迎するという。フレディはこれまで出会ったことのないタイプのキャラクターに興味を持ち、下船後もマスターのそばを離れず、マスターもまた行き場のないフレディを無条件に受け入れ、彼らの絆は急速に深まっていく。
監督はポール・トーマス・アンダーソン。
出演はホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマンら。




感情の流れがいまひとつ見えないせいか、よくわからない映画である。

しかしつまらないわけでもなく、わからないことを理由に否定する気にもなれない。
わからないなりに、何かが心に引っかかる作品、「ザ・マスター」を個人的に形容するなら、そういうことになる。

要するに、判断に困る映画ってところだ。
そう言えば、「マグノリア」もそんなタイプの映画だったように思う。


戦争から帰還した男フレディが主人公だ。
彼は戦争後、心に傷を負ったらしい。まともな職について、うまく生活を送っているように見えながら、反社会的な行動を取ることもある。それだけで病んでいることは充分に伝わる。
そして、たまたま乗り合わせた船で、新興宗教の教祖ランカスターと出会う。

この宗教は催眠療法的なところがある。
教義は非科学的だが、ランカスターの人身掌握術は抜群にうまい。
そしてその人身掌握術にはまるのは、フレディとて例外ではないのだ。


プロセシングというカウンセリングのシーンは圧巻だった。
そこでフレディはランカスターの問いに対し、はぐらかすような言葉を吐き続ける。
それに対してランカスターは、質問を意図的にくり返すなどして、対象の心をゆさぶる。
それにつれて、フレディが本心を吐露するようになる。

そのようにして、人の心を突き崩していく様には、見ていてぞくりとさせられた。
カリスマ宗教家の姿がひしひしと伝わるシーンである。

そしてトラウマを抱えたホアキン・フェニックスと、フィリップ・シーモア・ホフマンのカリスマ宗教家のぶつかり合いは、ともかくも忘れがたい


フレディはそのような経緯もあり、その宗教にのめりこんでいく。
フレディはたぶん何かに依存していたいのだろう、と見ていて感じた。
それがランカスターと出会う前は酒だったが、宗教に移り変わっただけだと見える。
トラウマを抱えていることを考えると、それもさもありなんと思う。

しかし、依存を願う心情と、ランカスターが信頼できるかは、また別問題なのだ。
フレディはランカスターが逮捕されたとき、監獄の中でぶち切れながら疑いの言葉を吐く。
彼はランカスターにのめりこんでいるように見えて、のめりこめていない。

だからふっとしたときに、ランカスターの元を離れることになる。
彼はそのとき昔恋した女に会いに行って、過去をふり返り、やがてランカスターの元を去っていく。そしてラストに至る。

この過程が僕にはどうもピンと来なかった。
彼がランカスターの元を離れるのは、雰囲気としてはわかるけれど、説明不足と見えなくもない。そのためもどかしくある。
そしてもどかしい気もちのまま、エンディングに突入したため、放り出されたような気分になったことは否定しない。


しかし、それでいて、何か引っかかるものがあるのも事実なのだ。
何が引っかかるのか、僕にはいまだにわかっていない。
ずっと考えているけれど、今でも答えは出ないままだ。

けれどそのわからなさもまた一つの魅力なのかもしれない。
そしてそういうわからなさを受け入れる映画も、たまにはいいものだ、と僕は思うのだ。

評価:★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「世界にひとつのプレイブック」

2013-04-09 20:43:48 | 映画(さ行)

2012年度作品。アメリカ映画。
妻の浮気が原因で心のバランスを崩し、すべてを失ったパット(ブラッドリー・クーパー)は、実家で両親と暮らしながら、社会復帰を目指してリハビリをしている。そんなとき、近所に住むティファニー(ジェニファー・ローレンス)と出会う。ティファニーは愛らしい姿からは想像もつかない過激な発言と突飛な行動を繰り出し、パットを翻弄する。実は彼女も、夫を事故で亡くし、心に傷を負っていた。立ち直るためにダンスコンテストへの出場を決意したティファニーは、パットを強引にパートナーに任命する。こうして、2人の人生の希望を取り戻す挑戦が始まった……。
監督はデヴィッド・O・ラッセル。
出演はブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンスら。




人はある程度はクレイジーだ、って感じのセリフが最後の方に出てくるけれど、確かに一面では正しい。

この映画の中で心の病を負っているのは、主人公2人である。
けれど、それを見守る周囲の人間だって、見ようによってはどこかクレイジーだ。

主人公の父親は、アメフトのスタジアムで暴力沙汰を起こしているし、主人公の兄貴も似たことをしている。それに父親はギャンブル中毒と言ってもいいような状況だ。
ただ彼らが、心理療法を受けないのは、それを極端な形で発露しないからだろう。


一方の主人公の行動は、やや極端だ。
妻の浮気現場を目撃して、浮気相手をぶん殴るのは、良しとしないまでも理解はできる。
だがその後の、本の内容が気に入らないからと窓を壊して親を叩き起こしたり、結婚式のビデオが見つからないと深夜に騒ぐのは、やはり常軌を逸している。

見つけたいものが見つからなくていらいらする気持ちはよくわかる。
問題は、彼はそのいらいらを行動として表さざるを得ない点にあるだろう。
そんな風に騒がずにいられない姿を見ていると、当人もしんどいだろうし、周囲もきついのだろうな、と見ていて感じる。

人生はときにおいては、とかく生きづらい。

そんな主人公は妻とよりを戻そうと焦そうとあくせくする。
いやいや無理だろう、とは思うのだが、彼としては真剣だ。
そしてその過程で夫を亡くして、性的な意味で荒れてしまった女、ティファニーと出会う。


ティファニーもなかなかエキセントリックな女性である。
同僚男性全員と性的関係を持つという時点で、精神的にかなり不安定だということはよくわかる。クレバーな人とは思うが、やはり何かがゆがんでいる。

実際感情を暴発させる場面も見られるわけで、これはきついな、と感じる面はあった。
彼女も生きていくのは大層しんどいことだろう。

そんな二人じゃ、精神的に合わないよね、とは思うのだが、いろいろありながらも、ラストのダンスシーンに向けて、二人して関係を築いていく。


そんな物語はよく言えば予定調和である。
物語展開にひねりはあるけれど、着地する場所は、概ね予想通り。
個人的にはあれほど妻と会うことに執着していた主人公が、ヒロインに心を移す過程が、ピンとは来なかったけれど、つっこむのは野暮なんだろう。

だがよくまとまった物語で、それなりに楽しめるのは事実である。
心を病んでいる主人公たちの描き方なども結構好きだ。
もどかしさはあるけれど、よくできた作品ということは確かだろう。

評価:★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ジャンゴ 繋がれざる者」

2013-03-07 20:45:34 | 映画(さ行)

2012年度作品。アメリカ映画。
1958年、黒人奴隷のジャンゴは、テキサスの荒野で賞金稼ぎのドイツ人・キング・シュルツ医師と出会う。ジャンゴはシュルツの手伝いとして、以前働いていた牧場の監督官をしていたブリトル三兄弟を見つけ出し、殺す。その腕を見込んだシュルツは、彼を相棒にすることに。やがてシュルツに心を許したジャンゴは、自分にはブルームヒルダという妻がいたが、奴隷同士の結婚は許されず、引き裂かれてしまった哀しい過去を話すのだった…。
監督はクエンティン・タランティーノ。
出演はジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツら。




西部劇である。
しかしそこはタランティーノ、ジャンルはどうあれ、彼の個性がよく出た内容となっている。
とにかくスプラッタで、えぐいな、と感じる部分が散見された。

だがそれを含めてなかなか個性的で、長くはあるが、おもしろい作品である。


舞台は十九世紀半ば、奴隷制度が色濃く残るアメリカ南部だ。
物語は奴隷商人の前に、一人の賞金稼ぎが登場するところから始まる。

このクリストフ・ヴァルツ演じる賞金稼ぎシュルツが、実にいいキャラだった。

紳士的でおだやかにふるまい、法もきっちり守り、他人に対して親切でありながら、悪党を殺すときはためらいも持たない。
しかも口が達者で肝っ玉もでかくて、ちょっととぼけたところもある。
ディカプリオ演じる農園主との握手のシーンは、よくぞやってくれた、と叫びたくなった。

いろんな意味でおいしいところを持っていく、大層魅力的な男である。
前半だけなら完全に主人公のジャンゴを食っていたと思う。


そんなシュルツとジャンゴのコンビは妻を取り戻すために、ディカプリオ演じる農園主の元を訪れる。
そこでの野蛮な奴隷制度の実体は見応えがあるし、口八丁で相手を出し抜いてやろうとする際の駆け引きなどはおもしろい。
そしてそこから銃撃戦に発展、と手に汗握る展開が続いていく。

この映画では、銃撃の場面が特に見事だった。
人が本当にあっさり死んでいくところは、気持ち悪いけど、タランティーノらしくおもしろい。
脳漿がぶちまけられるあたりなんかは、監督のやりたいようにやっている感が伝わってきて楽しくもあった。


西部劇らしい銃撃戦、口八丁の化かしあいなど、楽しい要素にあふれている。
長い作品ではあるが、キャラクター、ストーリー、アクションにエンタテイメントらしい楽しさが感じられた作品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ゼロ・ダーク・サーティ」

2013-02-24 20:32:11 | 映画(さ行)

2012年度作品。アメリカ映画。
2003年、パキスタンにあるCIAに情報分析官マヤが派遣されてくる。捕虜の拷問に最初は目を背けるマヤだが、次第にそんな状況に慣れていく。やがてビンラディンの連絡員と思われる男、アブ・アフメドの情報を掴むマヤだが、なかなかその尻尾をつかめない。そんな中、CIA局員を狙った自爆テロが発生。同僚の死を受け、マヤの心の中の何かが大きく変わる。そしてマヤはアブ・アフメドを発見、はたしてビンラディンの居所は…?
監督はキャスリン・ビグロー。
出演はジェシカ・チャスティン、ジェイソン・クラークら。




同監督の「ハート・ロッカー」同様、この映画でもリアリズムが貫かれている。
CIAの現場に漂う、苛酷で現実的な側面を丁寧にあぶり出しており、印象的だ。

そしてその生々しさにもかかわらず、洗練さえ感じられる点に心を奪われる一品である。


舞台はパキスタン、そこにアルカイダを追うCIA職員としてマヤは配属される。

パキスタンで行なわれているのは、捕虜に対する拷問紛いの尋問である。
後に批判を浴びただけあり、21世紀の先進国のやり方としては非人道的だ。
捕虜の顔に毛布をかぶせ水を浴びせることで窒息させたり、糞便垂れ流しの状態のまま鎖でつないだり、とそれなりにあくどいことをしている。
赴任当初のマヤも、そんな非人道的な行為に眉をひそめている。

だがそんなマヤもやがてCIAのやり方に染まっていくのが生々しい。
アルカイダを追っても、なかなか情報をつかめない。そこから生まれる焦りが、拷問を許す空気を生み出しているのかもしれない。

しかしそれが非人道的である以上、その非人道的行為を行なう側も、心は傷ついている。
マヤの同僚は率先して捕虜への拷問を行なっていたけれど、そんな彼でさえ、拷問という行為には精神的に参っているのだ。
もっとまともな職場に行くよ、って感じのことを彼は言っていたが、そこからはテロリストだけではなく、CIA側にも苦悩があったことがうかがえる。


それでなくても、CIAは何かとキツイ立場にあることはまちがいない。

アルカイダを捕まえようとしているのに、何の証拠も見つけられない。
のみならず、アルカイダ系が引き起こしたテロが世界各地で巻き起こっている始末。
そして、CIAの職員もそのテロの標的となり、命を落としているのだ。
亡くなった職員と友人でもあったマヤとしては、かなりきついことだろう。

だからマヤが、アルカイダを執念深く追うことも何となくわかるのだ。
やがてビン・ラディンの居場所を突き止めた彼女は、慎重な姿勢をとるCIAに反発し、その反抗心によってCIA長官の判断にまで影響を与えるに至る。
それは熱意であり、彼女の執念だろう。

そうして、ビン・ラディン殺害のため、アメリカ軍は動くこととなる。


このビン・ラディン邸突入のシーンは本当にすばらしかった。
そう感じたのは、それが本当にリアルだったからだ。そしてそこにハリウッド特有の爽快感がないという点も大きい。

アメリカ軍はヘリでビン・ラディン邸に突入した後、銃で応戦する男をまず一人打ち殺す。
その男は明らかに死んでいるものの、アメリカ兵は、その死体に向けて、改めて銃弾をぶち込んでいる。
そうして邸内に進み行くアメリカ兵。彼らは相手が抵抗しようがしまいが、目の前に現われれば即座に撃ち殺していく。
それは男だけではなく、夫をかばおうとした妻でさえ容赦はしない。少しでも抵抗のそぶりを感じさせすれば、問答無用に撃ち殺すのだ。
おかげで、室内には妻子の泣き叫ぶ声が響きわたる。アメリカ兵たちはそんな妻子を一室に閉じ込め、おびえる彼女たちに銃を向けて監視をする。
その間、制圧が済んだアメリカ兵は、室内にあった資料やハードディスクを次々押収、場合によっては引き出しを叩き壊して、中のものを取り出そうとする。
そしてパキスタン軍が来たと知るや、脱兎のごとく逃走する。
以上が、ビン・ラディン邸突入の流れだ。

その場面を見ている間、僕が思い浮かべたのは、押し込み強盗、というフレーズである。
ビン・ラディンのコードネームがジェロニモ(一方的な搾取をくり返す白人に対し、抵抗のため立ち上がったアパッチ・インディアンだ)という点も皮肉としか言いようがない。

もちろんビン・ラディンが行なったことは、肯定されるものではない。
だがアメリカの正義は、非道すれすれのものであるとそれを見ていて感じた。

もちろんそこで描かれているのはただの事実でしかない。
そしてその事実にアメリカ人はある種の達成感でも感じるのかもしれない。
しかし日本人の(しかもやや左寄りの)僕は、その事実の中に、皮肉や反感、正義の皮をかぶった不正義さえ訴えているようにも感じる。

監督の意図はともかく、多様な思いを喚起する演出は、圧巻としか言いようがない。

ラストでマヤは涙を見せるが、その理由は語られないまま終わる。
それは喜びか、虚しさか、鎮魂のためのものか。きっと見た人で印象も変わることだろう。
その点もこの映画の印象の多様性を象徴している。


ともあれ、すばらしい作品だった。
骨太で、戦場の空気もよく伝わり、洗練されている。
アカデミー賞受賞作の「ハート・ロッカー」よりも本作の方が、僕は好みである。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「最強のふたり」

2012-10-03 21:25:28 | 映画(さ行)

2011年度作品。フランス映画。
パラグライダーの事故で首から下が麻痺し、車椅子生活を送る大富豪のフィリップ。その介護者募集の面接を受けにやってきたスラム出身の黒人青年ドリスだが働く気はなく、目的は“不採用”の証明書3枚で支給される失業手当。しかし、なぜかドリスは“採用”となり、周囲の反対をよそにフィリップの介護をする事になる。フィリップを障害者扱いせず、お気楽でマイペースなドリスに、次第にフィリップとその周囲の人々も心を開いていく。
監督はエリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ
出演はフランソワ・クリュゼ、オマール・シーら。




非常によくできたヒューマンドラマである。
そつがないくらいにまとまっているし、描き方も丁寧。しかも感動ものにくくられてもおかしくない内容なのに、決して感動を押し付けていない。
すべてにおいてのレベルは高水準だと思う。

それだけに僕の趣味に合わなかったのは残念である。
好きな人はきっと好きなのだろう、と感じるだけにややくやしい。


物語は大富豪と、その介護ヘルパーとして雇われた、スラム出身の黒人青年との友情物語、ということになる。
いかにも感動ものに陥りそうな題材だがすんなりと感動ものに収束しないのは、黒人青年ドリスがずいぶん無茶苦茶な男だからだろう。

ドリスのキャラクターを簡単にまとめるなら、ちょっとした不良である。
スピード違反や無免許運転は平気でするし、マリファナを吸ったりもしている。言うまでもなくすべて軽犯罪だ。
またオペラのシーンでは騒いだりするし、障害者をネタに笑いを取ろうとしたりする。

見ている分には結構おもしろいのだけど、当事者になったらめんどくさそうだな、なんて思ったりする。
しかしそれは言うなれば自然体なわけで、それがフィリップの心をつかむことになる。


障害者をかわいそうだと思う人は世の中には結構いる。
しかしそう思うこと自体が、相手との間に壁をつくることになることは言うまでもない。

そういう風にかわいそうだと思われることを心地よいと感じる人もいるかもしれないが、それにうんざりする人だっている。
フィリップは典型的な後者だろう。

実際フィリップの周辺にいる人物は、彼に敬意をはらいつつも、対等に向き合おうとしているように見える。
そしてそれこそ彼が求めていたことなのだろう。

ドリスはちょっとした不良かもしれない。
しかし粗野であっても、あくまで自然体であり続けるドリスは、フィリップにとって稀有な存在だったのかもしれないなんて思ったりする。

しかもドリスは、新しい世界も見せてくれるし、行動するための勇気をくれたりもする。
フィリップとしては、この上ないほどに刺激的でもあったのだろう。


そういった過程で友情ときずなが芽生えていく姿はなかなかすばらしい。
しかも変に湿っぽくしなかったのも好ましかった。
好みとははずれるが、やはりすてきな作品だと僕は思うのである。

評価:★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「少年は残酷な弓を射る」

2012-09-03 21:06:33 | 映画(さ行)

2011年度作品。イギリス映画。
自由奔放に世界中を飛び回る旅行作家だったエヴァは恋人フランクリンの子を妊娠し結婚するが、我が子への愛だけでなく違和感にも苛まれる。生まれてきた息子ケヴィンは悪意に満ちたとしか思えない反抗を繰り返し、3歳になっても言葉を発せず、6歳でおむつもとれない有様だった。やがて妹のセリアが生まれ、ケヴィンも美しく賢い少年に成長するが、エヴァとの関係は悪化するばかり。そして、恐ろしい事件が起きる。
監督はリン・ラムジー。
出演はティルダ・スウィントン、ジョン・C・ライリーら。




良い映画であり、もどかしい部分もある映画だ。
良い部分とは物語の見せ方であり、もどかしい部分とは物語の根幹である。あくまで個人の好みでしかないけれど。


物語は最初の内はなかなか見えてこない。

冒頭のトマト祭りも意味がわからなかったが(後にメタファーだと気づくが)、ほかにも、?って感じのことが多すぎて、情報を整理することが難儀である。
なぜ主人公の家はペンキでいたずらをされたりしているのか、通りすがりの女にいきなり殴られるのはなぜか、など、意味がわからなくて、なんだこれ、と戸惑う部分はあった。
加えて、過去と現在を複雑に行き来するので、わかりにくいなと感じる面もなくはない。

しかし徐々に、どうやらすべての原因は息子が何かしらの事件を起こしたためということが見えてくるのだ。

それに伴って、息子がどんな犯罪を行なったのか? その理由は? 息子が母になつかないのはなぜか? などの謎が、薄皮をはぐように浮かび上がってくる。
それを適度な緊張感で見せていてしびれた。


映画は、そんな母子の関係性を決して語り過ぎないように見せている。
それ自体はいいのだけど、幾分抑制が利きすぎているようにも見えなくはない。それが結構もどかしい。

はっきり言って、息子が母になつかない理由は、少なくとも僕は最後まで見ても、よくわからない。

息子が母親を愛していて、その愛情を求めているのは見ていてもわかる。母を困らせたり、怒らせたりするようなことばかりするののも、その延長だろう。
しかしなぜ彼が母に甘えられないのかが見えてこない。

僕は結婚すらしてないので、赤ん坊が親になつかない場合、それが後年にどういう影響を与えるのか、実例を知らない。
なつかない場合、それは大きくなっても、変わらないのか。いままでなつかなかったのに、愛情を求める行動を取るよう変化するのか。
そういったことがわからないので、どうもしっくりこないのだ。
加えて、あんな息子でも、母親はそれでも愛そうとするのか、ってこともわからない。

もちろんそういう少年がいると言われれば、ああそうですか、と言うほかない。
母に対してゆがんだシンパシーを持つ息子だっていてもおかしくはない。

だが彼の露悪的な行動は、物語の都合で行なわれているのでは、という気がふっとしてしまい、一瞬醒めてしまった。


とどうにも見終わった後には、もやもやしたものが残るが、そのもやもやを含め、いろいろなことを心に残し、考えさせる映画であった。
後味はよろしくないが、なんだかんだで、僕はこの作品が好きらしい。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「スノーホワイト」

2012-06-22 20:20:28 | 映画(さ行)

2012年度作品。アメリカ映画。
念願の女王の座に就いたものの、彼女にとって継娘スノーホワイトは己の支配と永遠の美しさを脅かす存在であった。この若き娘を抹殺するため、邪悪な女王は刺客として狩人を送り込む。しかし、スノーホワイトは女王の策略の裏をかき、狩人から闘いの戦術と生き抜く術を教わるのだった。
監督はルパート・サンダーズ。
出演はクリステン・スチュワート、シャーリーズ・セロンら。




グリム童話やディズニーアニメで有名な「白雪姫」を元にした映画だ。

だから途中のエピソードは概ね「白雪姫」の通りに過ぎていく。
毒リンゴを食べた後の展開もお約束通りで、ああ、いまの時代でも、やっぱりそれなんだ、と変なところで感心してしまう。


しかし現代的なアレンジが加わっており、それなりに楽しめる作品となっていた。

全体的に雰囲気はダークで、原作のわりにアクションもやや多目という印象を受ける。
そして白雪姫も守られるだけのヒロインではなく、戦うヒロインになっている。そんな感じだ。


ストーリー的には、たとえば白雪姫の特殊能力(主に治癒系))の描き方がぼんやりしているなど、脇の甘いと感じる部分はあるし、いくぶんテンポが悪い気もする。
けれど、それなりに楽しめ、そこはまちがいなく美点だ。

個人的には、シャーリーズ・セロン演じる魔女が良かった。

たぶん監督が描きたかったのは白雪姫よりも、美を求め、復讐するように国を手に入れようと願う魔女のキャラクターなのでは、とも感じる。
シャーリーズ・セロンがこの魔女の心の弱さや禍々しさを、上手く演じていて忘れがたい。


場面の雰囲気や暗さ、魔女の存在感などが印象的で、わかりきった展開でありながらそれなりに楽しむことができた。
ともあれ、及第点の作品といったところだ。

評価:★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「少年と自転車」

2012-05-13 18:48:49 | 映画(さ行)

2011年度作品。ベルギー=フランス=イタリア映画。
もうすぐ12歳を迎える少年シリル。彼の頭の中にあるのはただ1つ。自分を児童相談所へ預けた父を見つけし、再び一緒に暮らすこと。ある日、シリルは美容院を経営するサマンサと出会い、週末を彼女の家で過ごすこととなる。サマンサはシリルに愛情を注ぐことにより、彼の人生を変えようとするのだが……。
監督はジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ。
出演はセシル・ドゥ・フランス、トマ・ドレら。




独身なので、偉そうなことは言えないのだが、子どもを育てるってことはなかなか大変なことらしい。
子どもは決して聞き分けがいいと言えないし、ときにものすごく反抗することもあるからだ。

だがそれを理由にして、子を突き放してもいけないらしい。
そんな当たり前のことを、本作を見ていると気づかされる。


主人公の少年シリルは、経済的困窮を理由に父親の手により施設に預けられている。
少年は切実に父を求めるけど、父の態度はすげない。早い話、親に捨てられたようなものだ。

そんなシリルに対し、里親を引受けた女性サマンサは献身的に向き合う。
恋人よりも里子の彼を選択し、しつけもし、忍耐強く少年の相手をする。
はっきり言うが、なかなかできるものじゃない。少なくとも僕では自信がない。


だけどシリルは悪い仲間に目をつけられ、犯罪に手を染めることになる。
そのときのシーンが何とも悲しい。
サマンサはシリルのことを本当に思っているのに、少年はそれを無視してサマンサを刺してしまうからだ。サマンサが泣きたくなる気持ちもわかるというものだろう。

だけどサマンサは決して彼を突き放しはしない。
これが本当にすごいと思う。僕なら、確実にさじを投げる。
逆に言えば、彼女の思いがそれだけ真剣のものだ、ということなのだろう。それが伝わり、じーんと胸に響く。


そんな彼女の姿を見ていると、人を育てるには決して相手を見捨てないという、深い愛情が必要だということに気づかされる。

実際少年は、決して根本からの悪人ではないのだ。
金を盗ったのも自分のためではなく、他人のためだし、原因は愛情の欠如にほかならない。盗んだ金だって、着服するでなく、父に渡そうとしている。
それはシリルの素直さを示している。だからこそ、彼は愛情を受けて、まっすぐ育とうとしているのだろう。


もちろん現実世界で、サマンサのように、よその子どもへあれほどの母性を注げる人がいるかは疑わしい。大甘な映画じゃねえかよ、と言われれば否定はできない。

しかしフィクションとしては心地よく、救いがある点が何よりも良かった。
非常に優しい空気にあふれた、味わい深い一品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「J・エドガー」

2012-04-05 21:27:22 | 映画(さ行)

2011年度作品。アメリカ映画。
FBI初代長官として、アメリカの秘密を握ってきた男、J・エドガー・フーバー。彼は自分の業績を回顧録に残そうと考え、自らのキャリアについて語り始める。1919年、当時の司法長官の家が爆弾テロ事件の捜査で注目された彼は、FBIの前身である司法省捜査局の長官代行となる。独善的な彼には批判も多かったが、彼は成果を挙げ続けた。そんな彼を支えたのは、生涯彼の右腕であったトルソン副長官と秘書のヘレン、そして母親のアニーだった。J・エドガー - goo 映画
監督はクリント・イーストウッド。
出演はレオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツら。




元FBI長官エドガー・フーヴァーについては、あまりいい評価を聞いたことがない。
盗聴を行ない、得られた情報から歴代の大統領を脅すことも辞さない。アメリカを裏から操った男、そんなイメージばかりがつきまとう。

今回映画を見ても、その印象自体は変わらなかった。
だが人間である以上、多面的な側面はあるのだな、ということを同時に教えてもくれる。


とは言え、表面上の彼はやはり強権的で、高圧的で、偏見のかたまりのような人だ。

時代やお国柄もあるが、共産主義者に対する根深い蔑視や、キング牧師に対する敵対視などからは、どこか他人を見下した高慢な男の姿が浮かび上がってくる。
加えて、権力を駆使し、それを使って、自分を大きく見せることばかり汲々としているようにも見える。また自己演出も甚だしく、マスコミや自伝の対応を見る限り、見栄っ張りの側面もあるようだ。
はっきり言って、近くにいてほしくないタイプである。


しかしそんな醜い影の部分もあれば、光の部分もある。
科学捜査を司法の場に持ち込んだという功績や、全州に対して捜査権を持つFBIの創設などは立派な業績だろう。
それを築くために強引な手段を使っていることは事実だが、社会的に良い影響を与えているのもまた確かであるらしい。

また人としての弱さも描かれていて興味深い。
どうもバイであるらしい彼の性癖や、吃音に悩み、そのコンプレックスから強い自分を望み、権力欲を志向するに至る精神構造などは、興味深く鑑賞できる。


エドガー・フーバーという人柄を好きになる人は少ないだろう。
だが彼もまた生身の人間として苦悩があったかもしれない。そんなことを気づかせてくれる。

だからすべてが許されるというわけでもないけど、人間というものの弱さについて、思いを致す一品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・クリント・イーストウッド監督作
 「硫黄島からの手紙」
 「インビクタス/負けざる者たち」
 「グラン・トリノ」
 「スペース・カウボーイ」
 「父親たちの星条旗」
 「ヒア アフター」
・レオナルド・ディカプリオ出演作
 「インセプション」
 「シャッター・アイランド」
 「ディパーテッド」
 「ブラッド・ダイヤモンド」
 「ワールド・オブ・ライズ」
・ナオミ・ワッツ出演作
 「イースタン・プロミス」
 「インランド・エンパイア」
 「キング・コング」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「戦火の馬」

2012-03-13 20:49:14 | 映画(さ行)

2011年度作品。アメリカ映画。
第一次大戦前夜のイギリスの農村。貧しい農家にひきとられた一頭の馬はジョーイと名付けられ、少年アルバートと固い絆で結ばれる。折しも戦争がはじまり、ジョーイは軍に徴用され、英国軍騎馬隊の軍馬としてフランスの最前線に送られてしまう。敵味方の区別を知らないジョーイの目に、戦争は愚かさで悲惨なものとして映るだけだった。その頃アルバートは、兵士となりフランス激戦地で戦っていた。奇しくも共に激しい戦場に身を置くこととなったアルバートとジョーイの運命は……。戦火の馬 - goo 映画
監督はスティーヴン・スピルバーグ。
出演はジェレミー・アーヴァイン。エミリー・ワトソンら。




大河ドラマって感じの作品だ。

農夫の意地の張り合いから農耕馬として買い取られた馬のジョーイが、その後戦馬として買い取られ、戦場を点々とする。
そういった物語の流れは大きく、波乱万丈そのものである。

大きな素材をきっちりエンタテイメントにまとめ、楽しめる一品に仕上げている様は見事だ。
そこはさすがスピルバーグだな、と思う。


しかし同時に、本作を見て、一抹の物足りなさも覚えたことは否定できない。

主人公は人間というよりも馬なわけで、彼が流転していく軌跡を追っている。
そんなジョーイの感情をうまく表現しているのだけど、それでも人間でなく獣ということもあり、見てても一歩引いてしまった感がある。
そのため共感するまでには至らず、この映画を楽しむ余地をいくばくか奪ってしまったような気がした。ちょっとばかり残念な思いだ。


とは言え、映画を見ている間は充分に楽しめることはまちがいない。
特に映像の見せ方は優れている。その中でも、馬の描き方は満足ものだ。

ジョーイは栗毛(と台詞にあるが、どう見ても鹿毛)の四白流星だが、この馬が本当美しい。
筋肉質ながらしなやかに動く様はすばらしく、走る際のフォルムには惚れ惚れしてしまう。

それにこの馬、なかなか演技巧者だ。
獣なのに、どう調教して、どう撮影したのだろうな、と感心する場面にいくつも出くわす。これは本当にすごいことだ。

また映像がらみで言うなら、戦場の場面もすばらしい。
「プライベート・ライアン」の監督だけあり、その迫力は見ものである。


というわけで、期待が大きすぎたこともあり、その期待には届かなかったが、これはこれでいい映画だな、と感じる。
雄大なスケールの娯楽作品であった。

評価:★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・スティーヴン・スピルバーグ監督作
 「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」
 「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」
 「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」
 「タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密」
 「ミュンヘン」
・エミリー・ワトソン出演作
 「脳内ニューヨーク」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「灼熱の魂」

2012-03-07 20:55:16 | 映画(さ行)

2010年度作品。カナダ=フランス映画。
自らのルーツを語る事はおろか我が子にすら心を開く事もなく急逝した中東系カナダ人女性ナワル・マルワン。故郷を追われた若き日の誓いを知る者は誰もいない。双子のジャンヌとシモンに母ナワルが託した2通の手紙。宛先は死んだはずの父と存在すら知らなかった兄。彼らを捜し出して手紙を渡す事が姉弟への遺言だった。母の真意を計りかね戸惑うシモンを残し、ジャンヌはひとり母の祖国へ旅立つ。灼熱の魂 - goo 映画
監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。
出演はルブナ・アザバル、メリッサ・デゾルモー=プーランら。




「圧倒的な映像で描く至高のミステリー、魂が震える究極のエンタテイメント」と宣伝文句にあるけれど、確かにミステリアスでドラマチックな展開に富んだ作品である。
単純におもしろいし、それでいて、何かと考えさせられる部分もあった。


内容としては死んだ母の遺言に従い、双子の姉弟が中東で育った母の過去を探るという展開である。映画のスタイルとしては、過去と現在を交互に描くという形だ。

この母親の人生が非常にドラマチックなのである。
恋人が殺されたり、息子と離れ離れになったり、家族から逃れても、その後の内戦で苛酷な運命を背負ったりと、とにかくいろんなことが起きる。
しかしそれゆえに先が読めず、この先彼女はどうなるんだろう、と、終始興味を引かれっぱなしで、何度もワクワクした。


だけどここまで彼女の人生が劇的なのは、それだけ彼女の住まっていた土地が苛酷だからってのもあるのだろう。
特定されてはいないが、中東の国に生まれた彼女は厳しい環境に囲まれている。
そこでは宗教的な対立が起きており、ちがう宗教という理由だけで、人は平気で敵と味方を区別し殺すこともいとわない。

もちろん、これはフィクションであるけれど、そういう現実はこの世界にまちがいなく存在するのだろう。そう考えると、何とも気が滅入ってしまう。
バスのシーンなんかは見ていて愕然としてしまった。
人間は本当に醜い、とそういう場面を見ると思ってしまう。


そうして苛酷な人生を背負った彼女に、最後さらなる大きな展開が訪れる。
ある意味、それが本作最大の悲劇とも言えるだろう。

とは言え正直に告白すると、その劇的な、というかギリシャ悲劇的な展開は、やりすぎだ、と感じた。
確かにそこからは人間の運命が生んだ悲劇、というか、原罪めいたものは感じられる。
だけどちょっとつくりすぎな気もしなくはない。インパクトは大だったけれど、僕はそのシーンを見て、引いてしまった。
それまでが良かっただけに、文字通り興醒めである。


しかし最後までひたすら楽しませようと、物語をつくりあげたことはすばらしい、と思う。
物語的な盛り上がりが多く、何かと考えさせられる要素にも富む、そんな優れたエンタテイメントであった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・ルブナ・アザバル出演作
 「パラダイス・ナウ」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「サラの鍵」

2012-03-01 20:14:13 | 映画(さ行)

2010年度作品。フランス映画。
1942年7月16日のパリ。10歳の少女サラは両親と共に警官に連行される直前に、弟のミシェルを秘密の納戸に隠して鍵をかける。「すぐに帰る」と約束をして。しかし、それはフランス警察が1万3千人のユダヤ人を屋内競輪場(ヴェルデイヴ)に収容した一斉検挙だったのだ。2009年、フランス人と結婚しパリに暮らすアメリカ人ジャーナリストのジュリアはヴェルディヴ事件の取材を通じ、夫の家族の秘められた過去を知る事になる…。サラの鍵 - goo 映画
監督はジル・パケ=ブランネール。
出演はクリスティン・スコット・トーマス、メリュジーヌ・マヤンスら。




原作が良かったので、映画も見てみることにした。
だから多分期待しすぎたのだろう。
結論を先に述べるなら、映画自体は僕の期待を超えるほどの内容ではなかった。

もちろん、だからひどい映画だというわけでないのである。
実際、元々のストーリーがいいので常に興味をひきつけられるし、わかりやすく、かつ、手堅く物語をまとめていて、テンポも良い。
映画単品として見るなら、満足の内容である。

それでももどかしく感じたのは、単純に自分の中でハードルを上げすぎただけの話である。
原作を知っている作品を見るときは気をつけようと、これを機にちょっと反省してしまった。


内容は、ヴェルディヴ事件というフランス警察が主体となって行なわれたユダヤ人連行事件を扱った、「黄色い星の子供たち」にも通じるテーマの作品だ。

展開を知っている身としては、冒頭のサラとミシェルの姉弟が戯れ合っているシーンからして、すでに切ない気分にさせられる。
これだけ無邪気な笑顔を見せ合っていた姉弟が、その後あまりに苛酷な運命を背負うことになるからやりきれない。

特に原作でも衝撃だった、中盤の展開があまりに悲しい。
そしてサラは、そのことを大人になっても引きずって忘れられないでいるのだ。そんな彼女の心情を思うと、胸をしめつけられる。
世界はときとしてあまりに残酷だ。


そんな一人の少女の人生を、中年の女性ジャーナリストのジュリアは調べていく。
なぜそこまで熱心に調べるの?と見ていても感じるけれど、真実を知りたいという、理由のない衝動に導かれて、ひた走っていく姿は、どこか力強い。

そんなジュリアの姿を見ていると、真実を乗り越える力について、思いを馳せてしまう。
真実はときとして、苛酷なこともあるのだろう。だがひょっとしたら真実を乗り越える力は、ジュリアが示したような、衝動にも似た勢いの中にあるのかもしれないななんて、ちょっとだけ思ったりする。
そしてそれがラストシーンにもつながってくるのだろう。

ラストは非常に美しく、忘れがたいものになっている。
彼女が名づけた名前の中には、過去を忘れず、未来に向けて希望を託していこう、とでもいったようなほのかに明るい予感が感じられて胸に響く。


期待が高すぎたため、物足りなさを覚えたことは事実である。
けれど、中盤の衝撃と、ラストの希望がすばらしい。
たぶん予備知識のない人だったら、この作品を見て、何かを思うことだろう。そんな優れた作品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



原作の感想
 タチアナ・ド・ロネ『サラの鍵』

出演者の関連作品感想
・クリスティン・スコット・トーマス出演作
 「ずっとあなたを愛してる」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ステキな金縛り」

2011-11-03 20:26:01 | 映画(さ行)

2010年度作品。日本映画。
弁護士の宝生エミは、裁判を任されても失敗ばかり。ラストチャンスとして与えられた仕事は、妻殺しの容疑で捕まった矢部五郎の弁護だった。矢部は「犯行時間は、旅館で落ち武者の幽霊にのしかかられ、金縛りにあっていた」という。その旅館を訪ねたエミは、更科六兵衛という落ち武者の幽霊に遭遇し、裁判で矢野のアリバイを証言してくれるよう依頼する。六兵衛は証言台に立つことを承知するが、六兵衛は誰にでも見えるわけではなく…。(ステキな金縛り - goo 映画より)
監督は三谷幸喜。
出演は深津絵理、西田敏行ら。




三谷作品ということで、当然笑えるコメディを期待して見に行ったわけだが、これまでの三谷作品の中では少し弱いかな、と感じる。
個人的には「THE有頂天ホテル」とか「ラヂオの時間」とかの方が好みだ。

中身の弱さを感じた理由は、典型的なホラ話ってのが大きいのかな、って気がする。
幽霊を裁判の証人に呼び寄せるという設定からして、いかにもハッタリの利いたホラ話だ。
そういう話は決して嫌いじゃないのだけど、その設定のために、以前の三谷作品より物語と、僕との間に距離ができてしまったかな、という気もしなくはない。
要するところ、僕の趣味の問題だ。1

だが、いくら三谷作品の中で弱いと言っても、そこは彼もプロ。それなりに楽しい作品に仕上がっているのだ。
中井貴一が犬と戯れるシーンや、タクシー運転手のシーンなど、笑ってしまったポイントはいくつもある。
そういう点、映画としては及第点である。

僕的には、期待ほどではなかったのだけど、笑いはあり、最後はほろりとさせられ、よくできた娯楽映画に仕上がっている。
なかなか楽しい作品だなと思った次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・三谷幸喜監督作
 「THE 有頂天ホテル」
 「ザ・マジックアワー」
・深津絵里出演作
 「悪人」
 「女の子ものがたり」
 「ザ・マジックアワー」
 「博士の愛した数式」
・西田敏行出演作
 「THE 有頂天ホテル」
 「ザ・マジックアワー」
 「憑神」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「人生、ここにあり!」

2011-11-01 21:24:53 | 映画(さ行)

2008年度作品。イタリア映画。
1983年のイタリア、ミラノ。新しく制定されたパザリア法により精神病院が閉鎖され、行き場を失った元患者たちは、病院付属の「協同組合180」に集められ、慈善事業という名目の単純作業をしながら無気力な日々を送っていた。一方、労働組合員のネッロは熱心すぎる活動がたたり、「協同組合180」への異動を命じられる。ネッロはさっそく元患者たちに仕事をする事の素晴らしさを伝えるべく、「床貼り」の作業を提案するのだが…。(人生、ここにあり! - goo 映画より)
監督はジュリオ・マンフレドニア
出演はクラウディオ・ビシオ、アニタ・カプリオーリ ら。




いい映画である。本作を端的にまとめるならば、そういうことになる。

内容は、左遷的な扱いで障害者たちの作業所にやって来た男が、患者たちの個性を尊重し、ときに精神科医とぶつかりながら、寄木細工工房を立ち上げ、話題になっていくという物語である。
途中で悲劇的な事件は起こるけれど(結構ショッキングな場面だった)、最後に待っているのは、ポジティブなまでの人生肯定のメッセージである。

その視点はとっても優しくて、見終わった後には温かい気持ちになれる。
きれいにまとまりすぎていて、物足りなさを覚える面もあるけれど、この美点は誉められて然るべきだ。


しかしこの映画を見ていると、むかしの精神医学はこんなのだったのか、と愕然としてしまう。
二十年以上前の精神医学において、精神を病んだ人間は隔離するのが一般的な治療であったようだ。
むかしだからと言えば、それまでだけど、精神科医や、社会は、いまほど精神を病んだ人たちときちんと向き合えていなかったのかもしれない。

だがそんな風に隔離される人たちは、ただ社会的なルールに適応できないというだけの話でしかない。
それ以外は普通の人間と変わりない、と言い切っていいのである。

もちろん社会に適応できないがゆえに、他人に迷惑をかけるし、それがめぐりめぐって自分に返ってくる場面もなくはない。
そういう点、彼らが社会で暮らしていくののは難儀だろう、とは思う。

だが人間の良さは、社会適応性の有無で語られるものではない。
そんなシンプルな事実を伝えてくれる点もまた、本作の美点の一つである、と僕は思うのである。

評価:★★★(満点は★★★★★)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」

2011-10-31 21:23:15 | 映画(さ行)

2011年度作品。フランス=アメリカ=イギリス=ドイツ映画。
17世紀フランス。銃士になる事を目指し、田舎からパリへと出て来た18歳のダルタニアンは、偶然に憧れの三銃士アトス、ポルトス、アラミスと知り合う。国王・ルイ13世から宮殿に呼ばれたダルタニアンと三銃士は、そこで英仏の和平交渉にやって来た英国のバッキンガム公爵と美女・ミレディと会う。その頃、ルイ13世に不満を持つリシュリュー枢機卿は、王妃を巡る陰謀を企み、二重スパイのミレディに王妃の首飾りを盗み出させていた…。(三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船 - goo 映画より)
監督は「バイオハザード」のポール・W・S・アンダーソン。
出演はローガン・ラーマン、ミラ・ジョヴォヴィッチら。




何も考えずに楽しめる娯楽作品を大画面で見たい。
そう思い、選んだのが本作である。

そういう経緯で選んだ作品だから、つっこみを入れるのは野暮なのである。
武器が近代すぎるだろう、とか、モンゴルフィエ兄弟より前の時代に飛行船が飛ぶのかよ、とか、公爵がこんなところまで出張ってくるなよ、とか、そのほか諸々のことは言っても仕様がないのである。
ただ深く考えずに、すなおに楽しめばいいのだ。

物語は娯楽作品だけあって、わかりやすくて、なかなかに楽しい。
悪が誰かははっきり示されているし、首飾りを取り戻すという主人公たちの目的意識もはっきりしているし、テンポも良くて、見ていて退屈しない。
ミレディの読めない行動といい、エンタテイメントとして、きれいにまとまっていると思う(続編を意識したラストはどうか、と思うけど)。

また「バイオ・ハザード」の監督だけあって、アクションも見応えがある。
大砲をぶっ放す空戦のシーンや、剣を使った殺陣のシーンは臨場感もあって、楽しめる。

というわけで、多少の粗さはあれ、個人的には満足そのものの一品である。
よくできたエンタテイメント作品だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・ローガン・ラーマン出演作
 「3時10分、決断のとき」
・オーランド・ブルーム出演作
 「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」
 「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする