タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

そのおせちはあなたの伝統食ではない!?

2015年12月29日 | Weblog
もうすぐお正月。みなさんは、おせち料理のお重を予約されましたか?「お正月は日本人らしくおせちを食べよう」というスローガンがあちこちで聞かれるここ近年ですね。デパートやスーパーで扱っているお重や、市販の「おせち料理の作り方」本に載っているメニューこそが、我々日本人の伝統・・・と思っている方も多いだろうと思います。
今回ご紹介するのは、そのメニューが実は、あなたのご先祖様が食べていたものとは違うかも知れないという話です。

以前このブログに書いた通り、タミアの母は子ども時代、現在のおせち料理とは異なる料理を食べていました。農文教の「聞き書き〇〇県の食事」シリーズで確認したところ、確かに母の出身地では、市販のお重とも違うし、「おせち料理の作り方」本に載っているメニューとも違うものを食べていたことが分かりました。

タミアが、「日本人だから伝統のおせちを食べよう」と言って、スーパーや百貨店からお重を買ってきて、「ああ、美味しい。これぞ日本の伝統!」と舌鼓を打ったりでもしたら、空の上からご先祖様が見て「それ、わしらの食べていたのと違うぞな。」と舌打ちするんでしょうねえ。

昭和30~50年代に地方色豊かな伝統的おせちの多くが忘れられてしまい、そこへ、出版社が東京や京都中心のおせち料理の作り方の指南書を発行し、また、出来合のお重を売りたい業界等が、「これぞ日本の伝統」と売り込んで、こうして今に至っている訳です。

本州の北端と南端を例に、大正時代から昭和初期の実際の正月料理がどうだったのか見てみました(出典は上記の「聞き書き」シリーズです)。

まず、青森県南部地方上北の正月料理は「孤食」だったのです!よく最近の食育指導者は、「家族が別々に食べるのは悪い事です。」と主張するのですが、この地方の正月の伝統は、家族が別々に食べたり、子どもだけ集まって食べるのが慣わしだったのです。これだけみても、今日の食育の中には、伝統や地方の個性を無視した教育が行われていることもあるのが分かりますね。

 また、食事はお重ではなくお膳で配膳されました。つまり、個人ごとに料理が配られて、めいめいが食べていたのです。なお、昔は全国各地で、(ちゃぶ台とかではなく)お膳で個人個人に食事をしていましたが、その理由は、他の人と一緒の器や箸で食べるとケガレが伝染すると考えられていたからだそうです。そういう点から言っても、日本の食文化は孤食志向が元々強かったと考えるべきでしょう。

 話を元にもどして、この地域の日常食は、アワ飯や蕎麦などであり、白いご飯が食べられる機会はめったにありませんでした.お正月はその米の飯が食べられる貴重な時でした。おせち料理は、「つぼ(じゃがいも、にんじん、しいたけ、こんにゃく、ささぎ豆、油揚げ)」と「ひら(焼き豆腐、にんじん、ごぼう、むきたけ、つくねいも、するめの煮しめ)」と魚とどぶろく、そして豆腐と油揚げのすまし汁が付きました。今日のおせち料理の定番、伊達巻きもエビもかまぼこも昆布巻きも寒天料理もちょろぎもつくばねもありませんが、美味しそうな料理ですよね。

今度は、鹿児島県大隅シラス台地に行ってみましょう。
この地域の日常の伝統食は、アワ飯、サツマイモ、そば、里芋などで、やはり米の飯はめったに食べられる機会がありませんでした。元日の朝とお祝いと葬式の時だけが白米を食べられる日で、しかも陸稲でした。正月料理は、鶏をつぶして、煮物や刺身、吸い物、混ぜご飯などを作っていました。(よく「日本の伝統的料理は肉食をしない」と主張する人が多いのですが、それは誤解で、伝統的に日本各地で鳥料理や鯨肉が食べられていたのです)。

この地方の正月料理として、鶏の様々な料理のほかには、里芋、もやし、豆腐、なます、結び昆布、切り干し大根などが食べられていました。やはり、伊達巻きもエビも寒天もちょろぎも手まり麩もありませんが、美味しそうですよね。食事の出し方はやはりめいめいにお膳が出される方式でした。お重ではありません。

こうしてみると、改めて、日本の食の多様性に驚かされます。そして、今日これらの伝統文化が忘れられていることは残念でなりません。
皆さんのご先祖様は本当はどんなおせち料理を食べていたのでしょうか。
調べてみると、きっと面白い発見があると思いますよ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

頭が良くなる食事。

2015年12月28日 | Weblog
先日、ある企業の広告記事に「東大に入れる食事」というのが載っていました。広告記事とは、新聞社とタイアップして、新聞記事のようなレイアウトで紹介した広告の事です。公平なニュースかな?と思うと、下に小さく広告と書いてあるので見分けられるのですが、そうと気がつかず、記事と思って読む人も居るようですね。

ちょうど新聞広告で「身体に良いのは江戸時代の食事」という内容の雑誌広告を見てげんなりした後だったので、余計に気が重くなりました。江戸時代の食事って、いつのどの地域の食事なんでしょうか。元禄時代以降、江戸や大阪や京都では食事が原因でビタミン不足から脚気が大発生して、大勢死者を出しているのですけど~。

で、広告記事の方はというと、「東大に入りたかったら和食にしましょう。」という内容です。ホントかな?と思って知人の東大卒の方に聞いたら、大笑いになって

「子どもの頃から現在まで,朝食はずーっとパンだよ。それから、カレーライスやハヤシライスが大好きだったねえ。味噌汁は嫌いだったなあ。」

「あのお~、和食とか好きじゃありませんでしたか?」
「ああ、和食ねえ、うどんをしょっちゅう食べていたよ。」
「う、うどん・・・・粉食ですねええ。」

「要は栄養バランスが取れていれば和でも洋でもいいんだよ。和食を食べれば合格できると勘違いしている時点で、残念な人だよね。」
「そうですか。あ、そういえば、確かに、オックスフォードやカリフォルニア工科大に入っている人の大多数は、パンと洋食で育った人達ですよね。」
「そうそう、スタンフォードも・・・って、おい、まさかこれらの大学の方が東大より上だと言うのか!?すねるぞ!」
「うっひゃー!ごめんなさい!!」

というわけで、食の和洋は頭脳にはあまり関係がないようです。(笑)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメコミで食育!!

2015年12月24日 | Weblog
アメリカ製のコメディアニメ「ティーンタイタンズGO!」(注)を息子と見ていたら、なんと食育をテーマとする回がありました。

しかもギャグのオブラートに包みながらも、思想の自由の問題や行きすぎたベジタリアン主義の問題を扱う内容だったので、「ギャグマンガの中でこういう深刻な話を扱わなければならない位、米国では過剰な菜食主義が進行しているのか。」と考えさせられました。

アメリカで流行しているものはすぐに日本にも飛び火するだけに、こうした動きには気をつけていく必要があると思っています。

(注:アニメに詳しい方の中には「ティーンタイタンズGO!は、結構シリアスな内容では?」と思う方も居るかもしれませんね。確かに数年前まではそうだったのですが、現在はリニューアルして2頭身キャラのドタバタ喜劇になっています。)

お話の内容はこうです。
正義の味方の5人組「ティーンタイタンズ」は悪を倒す・・・はずが、過度の肉食で体調不良に陥り、パフォーマンスがすっかり低下。メンバー唯一のベジタリアンである「ビーストボーイ」がみんなに野菜を勧めると、皆は体調を回復して、次々お手柄をあげます。これに味をしめた皆は野菜しか口にしなくなります。

ところが3週間後、おかしなことが発生します。ビーストボーイ以外の仲間達は、野菜以外の食品は絶対だめ、ミルクも果物も食べてはダメだと言い始めます(欧米のベジタリアンにはいろいろな選択肢があって、牛乳や卵や魚などを食べるベジタリアンも結構居ます。また多くのベジタリアンは、果物は食べてOKとしています)。

ビーストボーイは果物さえダメといわれて驚いて、「ものには限度がある」というのですが、実は彼以外の仲間達は、いつの間にやら、野菜を信仰の対象とするカルトにはまっていたのです。仲間達は心を奪われた様子で「身体を汚すものを避けて、野菜の王国に受け入れられる。」などと唱え始めます。カルトの主催者は「肉をすべて排除してこの世界を浄化する」と主張します。

ビーストボーイは、自分がベジタリアンであることは認めつつも、これは食の多様性に対する弾圧であることから「お肉が美味しいと思う人もいる。」と自由の尊重を唱え、また、「バランスがとれていればいいんだよ。」と栄養バランスの大切さを主張するのですが、洗脳された仲間達の耳には入りません。

さあ、そこで、ビーストボーイがどうしたか・・・というと、ネタバレになってしまうからここには書きません。ただ、思いがけないドタバタがあって、そのノリに笑えるかどうかは視聴者次第なのですが・・・とりあえず、最後には栄養バランスの大切さにみんなが気がついて、カルトは崩壊してハッピーエンド、という筋書きです。

おもしろおかしく話を仕立てていますが、実は米国では1960年代にも、「肉や果物は悪い食品である。野菜と米しか食べてはいけない。」と唱える集団が登場して、死者や被害者を出して訴訟騒ぎになっています。この団体は一時は人気が下火になりましたが、今世紀に入って一部のセレブが愛好していると言ったりしたことから人気が再燃しました。おそらく制作スタッフは、過去の悲惨な事件が現代に再発しそうな社会的情勢を察知して、子ども達に「食の多様性を尊重しつつ、栄養バランスを取ることが大事だ。」と訴えたくて、こういうアニメを作ったでしょう。

ひるがえって、日本はどうでしょうか。残念ながら、米国と同様に一部の方々の間では、肉や牛乳など特定の食品を「悪い食品」として排除する動きが高まっています。「肉を美味しいと思う人も居る」とベジタリアンのビーストボーイが訴えたことは、実は非常に重く切実なものかもしれないと感じます。

今日はクリスマスイブ。多くの家庭で笑顔があふれる楽しい食卓が囲まれることを願っています。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ネスカフェの広告が面白い!産地より旬!

2015年12月17日 | Weblog
ネスカフェ香味焙煎の高級バージョンが、非常に勉強になる広告を打ちました。「究めれば、産地より、旬」のキャッチコピー。このコーヒーを勧めているのは、なんと、あの有名なつきぢ田村三代目の田村隆先生です。そしてこの商品について『「産地」ではなく「旬」にこだわる素材選び(中略)日本料理の哲学にも通じるところがあります。』と、HPで解説しています。

自然食運動や農村回帰運動をしている人々はしばしば「身土不二と言って地元の物だけを食べるのが日本の伝統である。たとえ旬の物であっても、他の産地の食品は良くない。」と主張します。

ところが、田村先生の出演するこの広告によると、「日本料理の哲学は産地より旬にこだわるところにあるのだ。」と自然食運動の方々とは正反対の主張をしているのです。

確かに歴史をひもとけば、特に江戸時代の食文化はその傾向にあったと各種の本に書いてあります。「特定の港から水揚げされた魚でなければダメ」「特定の産地の野菜でなければダメ」ということはなく、各地の旬の魚を食べ、各地の旬の野菜を食べていました(ただし以前このブログで書いた通り、野菜の摂取量は少なかったと考えられています。また、昆布だしや鰹だしのように、塩蔵品や乾燥品の多くは、旬を定義できません。さらに、お米は古米の方が珍重されていたと言われます)。

おもてなしするときの「ご馳走」という言葉も、元は「四方八方駆け回って各地から美味を集める」という意味です。大切なお客様にはそうやっておもてなしをしていたのが、日本の伝統的美学なのです。身土不二とはまるで正反対ですね。

身土不二という言葉は仏教哲学としては古くからありますが、食事と健康の関係を説く言葉として使用されるようになったのは明治末か大正初め頃であり、しかも、陸軍メンバーを中心とした「食養会」という健康食品販売・愛好団体の合い言葉でした。昭和初期に二木謙三博士が身土不二説を気に入り提唱しましたが、全国に広まるには至らなかったようです(二木博士の提唱した健康法のうち「玄米食が身体に良い」という部分は、国策に合致して政策的に広められたのですが)。昭和40年代にも革命の夢に破れた左派運動の人達が、農村で自給自足運動を展開しようとしてこの説を唱えましたが、やはり全国的人気を得るには至りませんでした。身土不二という言葉が現在のように大勢の人に知られる様になったのは、平成14~5年にマスコミが宣伝して以降のことです。身土不二を日本の伝統と主張するのは、やっぱり無理があるようです。

それにしても日本の伝統を外来食品であるコーヒーから学ぶとは、ちょっと面白い話ですよね。そういえば、伝統的和食の中にも、外国から学んだ料理を日本化する歴史から生じたものが多くあります。カステラしかり、天ぷらしかり、味噌や豆腐は中国由来という説があります。うーん、やっぱり和食は調べれば調べるほど奥が深い!

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

名古屋市の英断に拍手!

2015年12月05日 | Weblog
「朝食に菓子パン「OK」 まず毎日食べる習慣を」という記事が朝日新聞電子版(11月29日)に載りました。記事によると、名古屋市は策定中の食育推進計画の中で、菓子パンを食べた人も朝ご飯を食べた人にカウントすることに決めたのだそうです。

逆に言うと、今まで朝に菓子パンを食べた人は「朝ご飯抜き」とカウントされていたそうです。市の担当課では、「菓子パンの勧め、ではなく、まず毎朝何か食べる習慣を身につけることが大事」とコメントされているそうです。

名古屋市のこの英断に拍手を送りたいと思います。朝に「小倉トースト」(パンにあんこを塗ったもの)を食べる食文化が大正時代から存在している名古屋で、菓子パンを「朝ご飯」にカウントするのは、文化論からみても自然な流れです。また、パンのデンプンと適度の糖分は、身体へのエネルギー補給になるので、何も食べないで学校や職場に行くよりは、よっぽど食べた方がいいのです。

実際、フランスでは朝、パンにチョコクリームなどを塗ったものを朝食としてますし、それで十分に健康的に暮らしていることは皆さんご存じでしょう。「菓子パンだけではカロリーは取れてもビタミンや食物繊維やタンパク質が不足する。」と考える方は、その分、昼か夜のご飯で野菜や肉や魚や豆などを多めに摂れば良いのです。健康な人の場合に限ってですが、栄養は一食一食でバランスを完璧にしなくても良く、数日単位の中で帳尻が合っていれば問題が無い、というのが今日の多くの栄養学者が認める所です。

改めて名古屋市の英断に拍手します。心から応援します。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「疑似科学特集」中央公論12月号をおすすめ!

2015年12月04日 | Weblog
ネットの食育ページには「味噌汁が放射線障害を防ぐ」だの「牛乳はほんの少量飲むだけでも身体に悪い」だののトンデモ言説があふれています。こうした科学的に根拠のない話をニセ科学とか疑似科学とか呼びます。

残念ながら最近の食育の世界では、高等教育レベルまで疑似科学で汚染されつつあるようです。電車に乗ったら、隣の席で大学か専門学校と思われる学生達が困った様子で「〇〇先生が講義で、牛乳は人体に危険だと言っていたけど・・・信じがたい話だけど・・・・。」と話し合っていました。彼らも薄々、先生がおかしな説にはまったことに気づきつつ、でも成績評価を握られてる身では何も抵抗できないことに、落胆している様子でした。世の中変な方向へ行っているようです。

そんな社会の変化に、中央公論の編集者の方々も気づいたのでしょう。いささか旧聞で済みませんが、中央公論12月号が疑似科学特集を組みました。執筆陣に一流の先生をお招きしており、この人選に拍手です。安全・安心分野の心理学で著名な中谷内一也先生や、ニセ科学研究で著名な左巻健男先生、科学ジャーナリストの松永和紀先生、などなど、すばらしい人選です。(個人的には菊池誠先生や菊地聡先生や天羽優子先生の話も読みたかったのですが、きっと忙しかったのかもしれませんね。)

特に食の分野で怪しげな説を耳にして、ホントかどうか悩んでる読者さんには、松永先生の文章をおすすめします。食の疑似科学を見分けるポイントを簡潔に紹介していて、入門編としてぴったりです。さらに先生の著書「メディア・バイアス」も併せて読むと、食分野の疑似科学問題の深刻さがわかります。消費者一人一人が賢くなって科学的思考を身につけることの大切さが身にしみて伝わってくる本です。

左巻先生は今回の記事ではEM菌問題を指摘されており、これもおすすめです。ただ、以前聞いた講演会では、ある有名教育団体のテキストに疑似科学が紛れ込んでいるのがなぜか、詳しくお話されていたように記憶しているのですが、今回の記事では(紙面の枚数の都合からだと思いますが)この点についてはわずかしか触れてません。もしも先生にお会いしてお話を伺えるなら、その団体がなぜ、食養やマクロビオティックに傾倒しているのかについてお伺いしたいと思いました。夢ですが・・・・(笑)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする