タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

ネスカフェの広告が面白い!産地より旬!

2015年12月17日 | Weblog
ネスカフェ香味焙煎の高級バージョンが、非常に勉強になる広告を打ちました。「究めれば、産地より、旬」のキャッチコピー。このコーヒーを勧めているのは、なんと、あの有名なつきぢ田村三代目の田村隆先生です。そしてこの商品について『「産地」ではなく「旬」にこだわる素材選び(中略)日本料理の哲学にも通じるところがあります。』と、HPで解説しています。

自然食運動や農村回帰運動をしている人々はしばしば「身土不二と言って地元の物だけを食べるのが日本の伝統である。たとえ旬の物であっても、他の産地の食品は良くない。」と主張します。

ところが、田村先生の出演するこの広告によると、「日本料理の哲学は産地より旬にこだわるところにあるのだ。」と自然食運動の方々とは正反対の主張をしているのです。

確かに歴史をひもとけば、特に江戸時代の食文化はその傾向にあったと各種の本に書いてあります。「特定の港から水揚げされた魚でなければダメ」「特定の産地の野菜でなければダメ」ということはなく、各地の旬の魚を食べ、各地の旬の野菜を食べていました(ただし以前このブログで書いた通り、野菜の摂取量は少なかったと考えられています。また、昆布だしや鰹だしのように、塩蔵品や乾燥品の多くは、旬を定義できません。さらに、お米は古米の方が珍重されていたと言われます)。

おもてなしするときの「ご馳走」という言葉も、元は「四方八方駆け回って各地から美味を集める」という意味です。大切なお客様にはそうやっておもてなしをしていたのが、日本の伝統的美学なのです。身土不二とはまるで正反対ですね。

身土不二という言葉は仏教哲学としては古くからありますが、食事と健康の関係を説く言葉として使用されるようになったのは明治末か大正初め頃であり、しかも、陸軍メンバーを中心とした「食養会」という健康食品販売・愛好団体の合い言葉でした。昭和初期に二木謙三博士が身土不二説を気に入り提唱しましたが、全国に広まるには至らなかったようです(二木博士の提唱した健康法のうち「玄米食が身体に良い」という部分は、国策に合致して政策的に広められたのですが)。昭和40年代にも革命の夢に破れた左派運動の人達が、農村で自給自足運動を展開しようとしてこの説を唱えましたが、やはり全国的人気を得るには至りませんでした。身土不二という言葉が現在のように大勢の人に知られる様になったのは、平成14~5年にマスコミが宣伝して以降のことです。身土不二を日本の伝統と主張するのは、やっぱり無理があるようです。

それにしても日本の伝統を外来食品であるコーヒーから学ぶとは、ちょっと面白い話ですよね。そういえば、伝統的和食の中にも、外国から学んだ料理を日本化する歴史から生じたものが多くあります。カステラしかり、天ぷらしかり、味噌や豆腐は中国由来という説があります。うーん、やっぱり和食は調べれば調べるほど奥が深い!

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする