タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

坂本龍一さんに惚れ直し。玄米食主義からの脱出。

2019年12月25日 | Weblog
本心から言います。坂本さん、ありがとう。
感激で涙が止まらなかった。長年あなたのあの言葉を願っていました。

・・・・坂本龍一さんが、ある保険会社の広告記事に登場しました。一読して感銘を受けました。過去を振り返りながら、これからの生き方を考えた内容だったからです。

坂本さんは、デビュー当時から少々ナルシストな発言で逆に人気を集め、作品も画期的で才気ほとばしる新時代を切り開くものばかりでした。でも、いくら素晴らしい才能があるとは言え「時々イリーガル(違法)でいい」という腰を抜かす発言もありました。ドリンク剤のCMに提供した曲「エナジーフロー」が大ヒットした時、テレビに出演して「こんな曲がなんで流行るのかな、僕はもっといい曲を沢山作っているのに。」とお話しして、ファンを悲しませたこともありました。

 坂本さんは90年代末からはかなり極端な玄米食運動にはまって、熱心に他人に勧めてました。坂本さんの応援したのはビーガン運動とはまた異なるもので、「厳格な玄米食をすれば、ガンにならず、小柄だが心身健康になり、宇宙と一体化する。魚や牛乳や果物などを食べると病気になり、邪悪な心になる。」という不思議なものでした。この考えにはまった人は、栄養学指導者を激しく糾弾していたのです。「魚と肉を食べるな!みかんやトマトが体に良いなんてウソだ!」と。そのため、このムーブメントが大流行した2005~2014年頃は、栄養士や普及員などが断罪されるできごとが生じました。

坂本さんがあまりに素晴らしい曲を作るだけに、そんな神がかりな話を信じるとは「なんとも残念な方」という印象は拭えませんでした。
その坂本さんが、ガンにかかって、しかも治療法は一切外部に話さないと発表したのが2014年のこと。私はこのニュースを聞いて、坂本さん、どうか代替医療にはまりすぎて西洋医学を否定しないでくださいと願いました。

その後、坂本さんは無事復帰し、ある保険会社のインタビュー広告記事に出るようになったのです。そこでご自身が語られたのは、疑似科学にはまった自身を振り返り、どんな生活をしてもガンになることがあると気がつき、極端な考え方にとらわれてはいけないと悟ったことでした。

ニューヨークで放射線治療を受けていた間、痛みでスイカ以外のどを通らない時期もあって「スイカに生かされたようなものです」と語り、治療後オムライスを食べて「普通のことができるありがたさをしみじみと実感しました」と語っていました。坂本さんが信じていた玄米食運動では、スイカはあまり食べてはいけない食品、卵やトマトは食べちゃいけない食品に分類されてるので、ああ、坂本さんは本当に脱出できたんだなあ、と、ほろりとしました。

最後に坂本さんはこう締めくくってました。音楽を作ったり聴いたりすることはなんて幸せなことかと。「それは普通のご飯が食べられるしあわせに似ている。一膳の白いごはんのようなもの。それぐらいありふれたものであることが、しあわせなんだ。」
坂本さんが信じていた運動では「白いご飯は毒だから玄米を食べろ」と指導するので、坂本さんの声は運動否定そのもののです。当たり前の幸せ、あまりにも近くにありすぎて気がつかない幸せ、だけど「どこか遠く」に、「とても気高い理想があるに違いない」と信じて、そして時々、うっかり私たちは道を踏み外してしまうのかもしれません。それは、坂本龍一さんが出演した映画「戦場のメリークリスマス」と重なることに気がつきました。

(以下、映画と原作「影の獄にて」のネタバレが含まれます)。舞台は、第二次世界大戦中の、ジャワ島の日本軍捕虜収容所。坂本さんが演じたヨノイ大尉は、形式的規律を重視し過ぎて、自分の信じる正しさを他人に押しつける役柄です。ヨノイは審美眼が高い故に、収容されたセリアズ少佐の美しさに心を引かれます。でも、セリアズには、美しい心と声と恵まれない容姿の弟がいて、弟は学校でいじめに遭っていた。弟に負い目を感じたセリアズは、後悔の念から1人で信念を貫くぶれない生き方を目指し、それが、第三者の目には反抗的にも映るのでした。

クライマックスシーンでは、ヨノイが重病の捕虜を無理に歩かせよと命じ、捕虜の集団と日本兵は一触即発の危機に陥ります。そこへ唐突にセリアズが前に出て、ヨノイに頬ずりします。セリアズは自分の命を投げ出して、集団同士の対決の構造を個人対個人の構図に切り替えたのです。その頬ずりはフランス軍隊の激励の仕草にそっくりだった、と原作に書いてあります。しかし文化の違いでセリアズは処刑されてしまいます。ヨノイはセリアズの真意を悟り、戦後に特赦になった後、「この世になによりも大切にしていた」と、セリアズの遺髪を神社に納めて、その御霊に祈るのです・・・・。

戦場のヨノイの姿は、ある種の玄米食運動が普通の人の食事を否定する姿、に重なって見えます。坂本さんが、今は純白の心で言葉を紡いでいることを尊く思い、しみじみ感慨にふけりました。これからも坂本さんを応援します。
・・・メリークリスマス、坂本龍一さん、メリークリスマス。


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旬を覚える必要はない!佐々木敏先生の「栄養と料理」記事で判明。

2019年12月15日 | Weblog
以前、ある勉強会の会場で通りすがりにこんな会話を聞きました。
女性A「キュウリの旬は夏、キャベツの旬は冬から春。旬ではない野菜は体に悪いのよ。キュウリは夏だけ、キャベツは冬と春だけ食べるようにしなくちゃ。」
女性B「(気乗りせず)どの野菜の旬がいつか、一つ一つ覚えるの大変ね。」
女性A「(得意そうに)私はバッチリ30種類の野菜の旬を記憶してるわよ!」
女性B「・・・まあ、それは・・・(作り笑いで)努力家ですのね。」
こういうマウンティングもあるのかと、つくづくBさんに同情します。前にこのブログで書いた通り、旬を外れた食事で体に悪いとは立証されてません。

さて、このことに関して大変面白い科学記事がありました。我が国栄養学の第一人者、東京大学教授佐々木敏先生が書いた「栄養と料理」2019年12月号「佐々木敏がズバリ読む栄養データ 第105回」記事です。「旬がなくなった」と言われる現代ではありますが、旬を気にしなくてもただ普通のスーパーでそのとき売っているものを買って食べて栄養的にはほとんど問題がないことが分かったのです。

記事を要約するとこういう情報になります。
・よく「最近は季節感がなくなった」という言葉が聞かれるが、実態はどうなのか。
・実は、主食や主菜(特に肉類)には、旬がない。かつて旬があったのは、野菜と果物、それに一部の魚介類だった。
・今から50年以上も前の1965年にはすでに、キャベツやイカや豚肉など様々な食品の季節感がなくなり、一年を通して毎月同じぐらいの量を購入していた。
・きゅうりは1965年は夏の野菜で冬はほとんど購入しないものだったが、今では多少変動はあるが一年中購入されている。
・一方、みかんのように、今でも特定の季節に大量に購入されてるものも残ってはいる。
・一年中購入できるようになったものについては、科学技術の向上のおかげと考えられる。
・その結果、昔は季節による栄養素の偏りがあったと見られるが現代では季節による栄養素の偏りはほとんど見られなくなった。
・ビタミンC、鉄、カロチンには、いまだに季節変動が見られて、ビタミンCは特に秋に大量摂取している※(欄外注)が、そういう少数の例外を除けば、栄養素の偏りがない時代が現代である。
・だから、そのときに普通のスーパーで売っている食べものを買って食べて、栄養素の面では十分になった。

・・・と、書いても、駆け足の説明だったので、まだ分かりかねる人も多いので、もう少し、情報を補って説明しますね。佐々木先生は詳しくは触れてませんが、例えばレタスだと、春から秋は長野・群馬・北海道、秋から翌春は茨城・長崎・兵庫のを買うと、どれも旬なので、結局スーパーに並ぶレタスは年がら年中旬なのです!!!キャベツもダイコンもニンジンもトマトも同様に年がら年中「旬のもの」がスーパーに並んでます。そのため、消費者が旬を意識して生活したくても、「メジャーな野菜は年中旬」ということになってるんです。

科学技術の向上=全国各地で品種改良と栽培技術と冷凍・輸送技術が多いに向上したことと、南北にひょろ長いくて高低差も大きい日本の地の利もあって全国一年中どこかで「リレー栽培」ができるようになったので、ごくごくふつーのスーパーで何も考えずに野菜・肉・魚を買ってればそれで旬(魚の場合は旬の時期に収穫し、数ヶ月後に解凍したものも含めます。)なので、旬という概念自体が死語の世界になり、体に必要な栄養素が年中とれるようになりました。研究レベルが高くて栽培技術の向上に熱心な農家さんがいて多様な気候が各地にある日本に生まれて感謝です!っ的な話です。

年々、日本人は季節による栄養素の偏りが解消されて、それに主食や肉類はもとから旬がないので、佐々木先生は119頁の囲み文中で「栄養素にはあまり旬はありません」とはっきり指摘しています

今までの識者さんはしたり顔して「日本から旬が失われた。キュウリやトマトが年中手に入るなんていけないことだ。」と怒ったり悪い事だと嘆いていました。今思えば、彼らが嘆いていたのは俳句を読みたいためだったかもしれません。せっかく暗記した京都または東京中心主義の旬の知識。それが、いまじゃ全国各地からリレー出荷されるので読者から「その野菜は確かに東京では今が旬だけど、他の地方では別の時期が旬だし~。」と指摘されて地方軽視の都会重視主義が露呈してしまうことに気がつき、焦りがあったのかなあと思ったりします。

都会の文学者の旬知識を丸暗記して、「トマトときゅうりとピーマンの旬は夏だから夏しか食べない!ニンジンとダイコンとキャベツは冬だけしか食べない!」と意地を張っている人は、全国各地の様々な旬の物を食べる機会を失って栄養が偏る恐れがあります。

季節による食べものの偏りが減ったおかげで、旬など覚えなくてもなんとなく近所のスーパーで買うだけで健康の強い味方になってくれるありがたい時代です。スーパーの夏のニンジンは夏に旬が来る品種・産地のニンジン、冬のは冬に旬の品種・産地のニンジン。キウイフルーツが年中並ぶのは、ニュージーランドものと日本もので季節が逆だから。旬はミカンや柿や桃などの一部のフルーツ類にはこれからも残るでしょうが、そうしたものを除けば、旬を無理に覚えなくても、新鮮で安いスーパーの野菜が家庭の強い味方になってくれるという訳で、こんなに食に恵まれた日本に感謝です。

※秋にビタミンCを大量摂取してしまう理由は、柿とミカンを食べるからです。この雑誌を読む人は知ってるだろうと考えてか、先生は詳しく説明してませんが、ビタミンCはたくさん食べても体の外に排出されるので、蓄積は心配しなくて大丈夫。それとね、未だに誤解している人が多いけど、ビタミンCをたくさん取ってもガンが治ったりはしませんよ。1977年に物理学者のポーリング博士がビタミンを通常の100倍取る方が体にいいって間違いを主張したもんだから、名声に惑わされて今でもそんな説を信じてる人がいて困ります。ポーリング博士は物理学者だから専門外なのにね!


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