タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

1975年の食の健康性を過信するなと熊倉功夫先生が指摘。「和食という文化」1

2020年04月20日 | Weblog
和食研究で有名な熊倉功夫先生。先生が書いたNHKテキスト「こころを読む 和食という文化」をやっと入手。忙しかったので入手そびれて、やっと読みました。実に興味深い本です。熊倉先生も忙しい中でお書きになっている様子です。 読みどころ満載なので、数回に分けて内容をご紹介します。

今回は、あの有名な東北大学の都築毅先生の研究成果から出た「1975年ごろの食事が健康に良い」説の致命的欠陥を、熊倉先生が指摘したことを紹介します。両者ともアプローチ手法は別ですが「和食は良い」という点では一致されている方ですが、実は都築先生ご本人が、ご自身の研究結果を人間にあてはまることについて慎重な立場を表明されてもいるので、都築先生もこれを聞いたらむしろ安堵されるのかもしれません。

熊倉先生は同書の166頁以降で、都築先生の研究手法を説明しました。1週間分の献立をいちどに作り、これを全て混ぜて粉砕し、粉食にして、ラットに与えたことを。そして熊倉先生はなんと3頁にもわたって、攪拌して粉食にする前にはどんな料理だったのかを一覧表として載せています。例えば、ラットに与えられた「1975年の日本人の食事」の欄には、伝統的メニューに混じってサンドイッチ・コンソメスープ・ベーコンエッグ・オムレツ・クリームシチュー・フルーツヨーグルトなどの洋風のメニューがたくさん含まれることが示されました。

あの~~~私ですが~~~この3ヶ月間にコンソメスープもベーコンエッグもオムレツも全く食べてないので、この「1975年のメニュー」は令和の私の食事よりも洋風で大変驚きました。熊倉先生はこの研究について「和食の中でも一九七五年ごろの和食が日本人の健康を守る上で、すばらしい食文化であったことを、科学的に証明した画期的研究でした。」と述べて和食というのは洋食と中華料理がふんだんに混ざっている料理であることを認めながら直後に、実はこの研究成果をそのまま受け止めてはいけないとも指摘しました。熊倉先生は文化論がご専門なので、この一覧表をみて「和食だ」と言い切った以上、サンドイッチもベーコンエッグもオムレツも和食であると認めたことになります。

さて、上記の文章の後、熊倉先生は同じ頁で大変有名な栄養学者の豊川裕之先生の言葉を引きました。「人間は個体差が実験動物とは比較にならぬほど大きいので、実験結果を適用して説明するのに難しさがある」と。そして、熊倉先生はこうも指摘しました。実は都築先生の研究もご本人自身が非常に慎重な姿勢であること、この研究成果を極端に評価することはフードファディズムに陥りかねない、と。だからこの研究などについて「冷静に食と健康の関係を見ていく必要がありましょう。」と熊倉先生は締めくくっています。

そうです、全くその通りで、ラットやマウスの研究は、単一の成分についての効果を調べて人間に外挿することは可能でも、「食事メニュー」という何十種類もの物質の複合体をぐちゃぐちゃ混ぜて喰わせた結果を人間に外挿してよいのかということについては、疑問がつねに残るのです。

ラットやマウスに人間の「食事メニュー」を与えた時の結果を人間にあてはめていけない理由は他にもあります。
(1)実はラットやマウスは人間よりも食が植物性に偏っていること。
(2)人間には健康に役立つ成分が入っているのにネズミ類には毒になる食品があります。一例を挙げればネギ・タマネギがそうです。そういう食品が混ざっている研究は信用できません。
(3)一週間分の食事を全部一気に攪拌して粉砕・粉にして与えるのと、毎日それぞれの料理を皿や椀にとって少しずつ食べるのでは、血糖値の上昇パターンなどの生理反応が全く異なること。例えば同じおこめでさえも、炊いて食べるのと粉にして食べるのでは、粉で食べる方が血糖値が上がりやすい事実は有名です。だから、都築先生の研究は、人間の食事を反映した餌のように見えて、実際には、人間の食品と全く性質が異なる餌を喰わせているのです。

だからこそ、豊川先生の説明を引いて、熊倉先生は「都築先生の研究を極端に持ち上げるのはフードファディズムだよ」と言っているのです。そして、都築先生ご自身も、非常に慎重に、ご自身の研究成果を本当に人間に当てはめていいのかどうかをお話されていますので、読者の皆さんも、ちまたの「1975年の和食が体に良い」説はフードファディズムだから警戒してくださいね。
また、サンドイッチ・コンソメスープ・ベーコンエッグ・オムレツ・クリームシチュー・フルーツヨーグルトなどを食べても和食だと熊倉先生が認めたことは絶対に記憶してくださいね。
さーて、結局、なにが和食で何が洋食なのか、さっぱり分かりませんよね。世間の「和食が良い」という言葉が何を指してるのか、人によって全然ちがうんですから。これじゃ和食が良い悪いと議論しても、ボタンの掛け違いしか生じませんね。雑誌や新聞も、和食特集を組むときは、最初に「当社では和食とはこれこれだと考えます。」ってはっきり定義してから書いて欲しいものです。


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デマを阻止ししちゃいけないの?今問われる日本人の善意

2020年04月12日 | Weblog
今、新型コロナの大流行で私たちは厳しい局面にさらされています。一緒に打ち勝つために、デマとの戦い方について考えましょう。

2月27日にツイッターに投稿された「トイレットペーパーは中国産だから輸入できなくなる」とのデマに、大勢の方が「トイレットペーパーは国産。無くなるという話はデマだから、落ち着いて。」と善意でツイートしたら品薄になった、と4月6日付け日経朝刊一面に記事が載りました。この記事を見て、「たとえ善意でも、デマを阻止しちゃいけないの?」と不安になったかたも多いことと思います。でもご安心ください。答えを先に言うと、一般論としては、正しい情報だとする確証があるなら、デマを打ち消すことが社会の役に立ちます。でも、運悪く、トイレットペーパーの場合は特殊な事情が重なったため、善意があだになったのです。

なぜそう断言できるのでしょう。ITmediaビジネスonlineの3月16日記事によると、トイレットペーパーを買いだめした人にアンケートしたら、大半が「デマだと分かっていてそれでも買い占めに走った」と答えたそうです。大抵の人間は、デマがつまらないデマだと分かったら、そんなのに振り回されるのは人生無駄だから、節度ある行動に切り替えます。ところが今回のトイレットペーパーの件だけは、デマだと確信してて、それでも買い占めしたんだから、通常の例ではないことがわかりますよね。
 だから、もしもあなたが「カード会社の人が玄関先にカードを受け取りに来るという話はデマだから気をつけて」等、明らかに正確な話題をツイートするなら、決して萎縮しないで。

では、なぜトイレットペーパーの件だけは、人々はデマだと知っててそれでも買い占めしたのでしょう。実は、先ほどのITmedia記事によると、買い占め行動を後押ししたのは、ツイッターの善意投稿ではなくて、その後でメディア、特にテレビがトイレットペーパーのデマを報道したためでした。

その経過を詳しく説明しましょう。
まず27日午前10時過ぎに、デマが1つ投稿されました。それについてのリツイートはたった1件のみでした(日経によると、別アカで類似デマ投稿が2件あったが、それらもほとんどリツイートされてなかったそうです)。日経によると、このデマを否定する善意の投稿が、同日午後2時ごろ急増したとのこと。同紙5面にグラフが載っており、午後2時ごろにだいたい5万件のリツイートになってます。

そしてこの5面の記事に、夕方以降にニュースサイトと民放がこの話題を取り上げたと書いてありますが、そのことについてはそれ以上触れていません。一方ITmedia記事は、この夕方以降のメディアがパニック買いを引き起こしたとあります。どうしてでしょう。テレビや、テレビを転載したweb記事を見た人々が、「こんなデマを信じるつまらん連中が近所にいたら、結果的に迷惑を被るのはわしらだ。」と考えて自衛に走ったからなのです。なかでも決定的だったのがテレビ番組の影響だったと東大大学院の橋本良明教授(社会心理学)が分析していますので、関心のある方はITmedia記事原文を読んでください。日経さんの分析に協力した先生は、トイレットペーパーとツイッターの関係に注視するあまり、テレビの与えた影響までは想像してなかったのでしょう。


みんな知ってる通り、ツイッターは大体30~50歳代に利用されているので多くの利用者は「デマを信じるお馬鹿さんもいるのかねえ?」と思って読みますが、テレビ番組を転載したweb記事の読者は平均40~60歳代、さらにテレビ番組は60歳以上の高齢者が主な視聴者です。そして、60歳以上の人にはいまでもテレビは非常に信頼されており、テレビのニュースを見て、昭和のオイルショックのトイレットペーパー買い占め騒動を思い出すのもその世代です。そして、スーパーに繰り返し足を運んで多量にトイレットペーパーを購入する時間の余裕がある人はどの世代に多いでしょうか。その世代の方々のツイッター利用率はどの程度でしょうか?さあ、もうこれ以上言わなくてもわかりますよね?

マスコミの方々には、「物がなくなったスーパーの映像」を流すのは慎重にして欲しいと思いました。ニュースとしては面白い絵だとしても、見る側は、空っぽになった棚の映像を見て、「こんな馬鹿な連中が実在するのか?これは明日は俺たちの住む町のことかもしれない。静観していて迷惑を被るのはごめんだ。」と考えて、われもわれもと真似して購入します。それを見た人がさらに不安をあおられて「予言が成就」するのです。

ツイッターで投稿する方にもお願いですが、あやふやな情報しか持ってない方は善意でも投稿しないでください。多少教育を受けた読み手なら、あなたが無名だろうが有名だろうが、その投稿内容が何をデータソースとしているか、裏付けする専門家がいたり論文があるのか、投稿の信頼性をチェックしています。匿名でも、専門家の論文や正確なデータに裏打ちされた情報を誠実に提供するすばらしい方もいます。情報過多で揺れる不安な現代だからこそ、1人1人が誠実な情報提供に気をつけて理性的に行動したいですね。そして、このつらい危機をみんなで乗り越えましょう!!

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