タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

雑穀を駆逐したのはお米。

2016年09月30日 | Weblog
先日、ある広告に「食の欧米化が原因で、日本人は雑穀を食べなくなりました。」というトンデモが書いてありました。現在70歳以上の人にそんな話をしたらきっと、「今の若い人は物知らずだね~。」と大笑いされてしまいそうな話です。

実は、日本人が雑穀を食べなくなった最大の理由は、白米食が広まったためです。
その理由を時代を順に追って説明します。

まず元禄時代以降を例に挙げると、江戸の町人やお公家さんや富豪などが白米を食べていたのに対し、地方の農民等は少量の米に大量のアワ、ヒエ、キビ、大麦そのほか大根などの野菜を混ぜたりして食べていました。変な話ですが、そのおかげで農民は食物繊維を取れていたという訳ですが。

明治時代以降、政府は農村で「軍隊に入れば白米を食べられるぞ♪」と勧誘しました。若者達が入隊して白米を食べたら、確かに大変美味しい。それで、何かの折に帰郷した彼らが「白米は美味しいぞ」と広めたので、農村ではますます白米へのあこがれが募りました。

しかし、稲作不可能な地域(例えば麦作地帯など)では、白米食など夢のまた夢。稲作地帯でも、税金を払うためや衣類・日用品・農具購入に必要な現金を得るために、収穫した米を売ると自家消費分に残るのはほんのわずか。結局雑穀などを主体とする食事のままでした。白いご飯が食べられたのはハレの日(お祝いの日のことです。)ぐらいだった地域が多かったそうです。

それが第二次世界大戦中になって話が変わるのです。昭和17年、東条英機首相らは食糧不足問題への対応で、17年2月に「食管法」を定め、国民全員に米と麦を配給するようになりました。こうして、麦作地帯や貧農でも少量ながらお米を食べられる時代が到来したのです。

ただし東条首相らは「玄米を食べればおかずがほとんど要らなくなる。」と唱える二木謙三博士の玄米食運動に惚れ込んでしまい、11月には日本国民は玄米を主食としなければならぬ、と閣議で決定されてしまいます。つまり、ここにおいて法律にて明確に、雑穀は切り捨てられてしまったのです。

でも、配給された玄米のままでは味が悪いので、多くの人はこっそり精米して白米にして食べていたそうです。こうして白米のおいしさが全国に知られるようになりました。(一部地域では戦後になって白米の味が知られるようになった地域もあります。)

戦争末期から敗戦後は大凶作も相まって、激しい食糧不足が起こりましたが、その後社会が安定してくると、国民全体が「白いお米を!」「麦やアワやキビなどの混じってないお米を!」と強く求める様になりました。しかし凶作続きで農村ではまだ麦や雑穀などが頼りの暮らしが続きました。

昭和30年以降、天候が良かったり、社会が安定して用水路や水田が整備され、田んぼが増えて、お米が豊作となりました。配給制度は続いていましたが、一人あたり供給量は増加し、国民が等しく白いお米を沢山食べられるようになりました。その消費のされ方は、戦前からのあこがれの都会式の伝統的和食の食べ方、つまり「大量のお米を少量の塩辛い漬け物と、少量のおかずと汁で食べる」または「お茶漬け」という食べ方です。

このように、都会式の伝統的和食が広まった結果、雑穀飯はすっかり駆逐されてしまったのです。農村出身のご年配の方々にお話を伺うと、「昔は麦飯とかばかりだったが、昭和30年代に都会に出たら白米に味噌汁に漬け物に小魚、という田舎では考えられないすごいごちそうが毎日食べられて。・・それが気がついたら、当たり前の食事に変化したんだなあ。」と懐かしそうに話をされていました。

最近なんでもかんでも「食の欧米化が原因で悪いことが起こった」と唱える説が広まっているようです。こういうことばっかり唱えているのは、無知の印で恥ずかしいことだと思います。「食の欧米化が悪い」というキャッチフレーズを聴いたら、トンデモ説の前振りと思って気をつけて聞いた方がいいですよ。

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変な食育・A市の残念な給食

2016年09月22日 | Weblog
A市に住んでいる知人から相談がありました。市の公立学校で今度の11月と来年初春に奇妙な給食が実施されるとのこと。知人は言います。「学校からもらったチラシによると、多様な宗教や他文化と食物アレルギー児童への理解を深め、みんなで楽しく給食を食べて欲しいという趣旨なので、志はすばらしいのですが、メニューを見ると変なのです。」

早速チラシのコピーを見せてもらい、メニューにびっくりしました。「食物アレルギーのアレルゲン27品目と動物性食品を含まない食事。ただし、代表的アレルゲンの一つである大豆は味噌・醤油の形で利用する」。
A市の教育局の方々には済みませんが、はっきり申しあげると、このメニューでは、世界の代表的な宗教的食品禁忌についても、食物アレルギーについても、正確な理解が出来ません。子ども達に誤解や混乱を与えてしまうことでしょう。

A市にお住まいの保護者の方々がこのブログを見てくださっている可能性に賭けて、この給食のどこがおかしいのか、以下に解説します。A市の方々が「この給食って、本当に教育上有益なのだろうか。」と勇気を出して声にしていただくことを、心の底から願っています。

1.宗教的禁忌について
 (1)イスラム教の場合。
  国や宗派によって多少異なりますが、多くの宗派では「食器も厨房も、一度も豚肉に触れたりアルコールを用いたことがない」ことを求めています。また、料理人には一定のイスラム教徒が居なければなりません。A市は学校給食センター方式なのですが、センターで一度でも豚肉を調理したりアルコール消毒を行っていれば、イスラム教徒はこの給食を食べられないのです。

さらに、味噌・醤油は発酵過程で微量のアルコールが生成しますし、そもそも論として、製造工場では醸造用容器をアルコール消毒するのが通常です。だから厳格なイスラム教徒は味噌と醤油を避けています(このことは9月12日放映のテレビ東京「未来世紀ジパング」でも一部紹介されていました。)。

ですからA市のこの食育で「この、動物性食品を完全に廃した菜食味噌汁定食なら、イスラム教徒の方も安心して食べられますよね。」と指導したら嘘になってしまうのです。A市には多数のイスラム教徒が住んでおり、小学校にも大勢のイスラム圏出身の子どもが通っていると伺っています。味噌や醤油を使用する食事を提供して、イスラム教について正しく理解するのは無理です。

(2)キリスト教の場合。
 肉食を禁じているのはマイナーな一部の教団のみです。そういう教団でもたいてい牛乳や卵は許されています。

(3)ベジタリアンの場合。
 欧米にはベジタリアンという信条を持つ人が居ますが、ラクトベジタリアン(牛乳を飲み乳製品を食べるベジタリアン)やオボベジタリアン(卵を食べるベジタリアン)などがあり、しかもベジタリアンの多数派は、牛乳・乳製品と卵を飲食するラクト・オボベジタリアンです。
ベジタリアンとして有名だったスティーブ・ジョブズ氏はなぜか寿司が大好物だったのですが、実は広義のベジタリアンにおいては、魚も食べてOKだからです。魚を食べるベジタリアンはペスコベジタリアンという名称で呼ばれます。

動物性食品を完全に禁止しているのはビーガンと言うきわめて少数派の人達で、しかも、ビーガンの場合は食だけではなく、毛皮や革靴、皮の鞄、羊毛さえも身につけない厳格な信条を持っています。A市の給食では、ベジタリアン主流派の卵や牛乳を飲食する人達についても正確に理解できないし、厳格に動物愛護を主張するビーガンの人達の切実な気持ちも理解できないことと思います。

(4)仏教の場合。
 よく「天武天皇が675年に仏教に基づいて肉食禁止令を出して以来、日本では仏教によって肉食が禁止された。」という俗説が信じられていますが、これは中途半端な誤解です。実際の天武天皇の詔は、4~9月に限り馬、サル、鶏などを食べるのを禁止する内容であり、逆に10~3月は解禁されましたし、この詔で指定されなかった野鳥、ウサギ、イノシシ、鹿、鯨などの肉は一年中食べられて居ました。

お坊さんは一般論としては菜食ですが、在家信者は肉食を許されていました。法然や親鸞は教義でも肉食を容認して、自ら肉を食べています。また、中国仏教においても、精進料理では卵や牛乳を食べます。ですから、A市の給食を食べても、仏教文化や和食の伝統文化について深く理解するのは難しいことでしょう。

(5)神道の場合。
  鎌倉時代以降、民間人の肉食を許可しています。

(6)ヒンズー教やジャイナ教の場合。
  実は、ヒンズー教徒の多くは鶏肉や魚などを食べています。ヒンズー教の少数派のヴィシュヌ派と、ジャイナ教徒が菜食主義ですが、菜食主義者のインド国内に占める比率は20%ほどです。しかもインドの法律で「乳と乳製品は植物性食品」と定められているので、菜食主義者は牛乳やヨーグルトなども食べるのが通常です(出典:農文協「世界の食文化・インド」p153~159より)。
しかも、インド人はカレー味が非常に好きで、例えば世界中で日本食レストランが人気なのにインドでは出店ペースが遅いと言われるのも、カレー味が好きなあまりに日本食になじみにくい人が多いためだそうです。そういう方々に、牛乳や乳製品抜きの味噌・醤油ベースの味付けの菜食を提供して、喜んでもらえるのでしょうか。A市の提案するメニューでヒンズー教徒の気持ちが理解できるとは思えません。

(7)ユダヤ教について。
 豚肉、貝、クラゲ、カニなどを調理した器具は「不浄」なので使用出来ません。つまり、残念ですが、日本の給食センターの食事はほぼ全て、ユダヤ教上「不浄」な食です。A市の提案するメニューをユダヤ教の人に提供するのは、失礼なことに当たります。

以上のように、提案されたメニューは、結局、ほとんどの宗教的食のタブーについて、正確に理解できないものです。

2.アレルギー対応について
味噌と醤油はタンパク質がアミノ酸に分解しているので大豆アレルギーの人でも食べられるケースが多いのですが、重い大豆アレルギーの人はそれでも発症してしまいます。症状が重い場合には入院の可能性さえあります。アレルギーについて正確な理解を促進したいというのが今回の給食の趣旨だとすれば、味噌と醤油もぜひ避けるべきです。
今回の給食の意図は「みんなで食べる学校給食」という体験をさせることが目的だとチラシに書いてありましたが、重い大豆アレルギーの児童は皆と同じ食事を食べられず、ますます孤独感を募らせることになりやしませんでしょうか。

以上をまとめると、「たった一つの食事メニューで世界の多様な宗教を理解しつつアレルギーに対応しよう。」という考え自体が、実は多様性の否定に他ならないということです。
本気で多様性を尊重する食育を展開したいのでしたら、それぞれの文化やアレルギーに沿ったメニューをそれぞれの方に提供すべきと考えます。全員が同じ食事を取るようにすることよりも、他人と同じものを食べられないという人が居る、ということ自体を子ども達に教えることの方が、多様性の理解促進について重要なのではないでしょうか。もしもA市の保護者の方々やA市の教育関係者の方々が、宗教的多様性の理解促進の重要性や、アレルギー問題について真剣に考えているならば、きっとメニューを再検討していただけると信じて、このブログをしたためました。

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中華料理は日本食だ!?

2016年09月11日 | Weblog
日経新聞8月30日の「日本食レストラン バンコク飽和状態」の記事は、実に重要な事実を指摘していました。
近年「ニッポンすごい!」的お話がテレビや雑誌で大受けなのですがですよね。そうした中では「世界で日本食レストランが増殖している」という説もミミタコ状態です。その根拠の一つとして用いられている特定非営利活動法人「日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)」等の調査データでは、実は、中華料理レストランも日本食レストランに計上されていたのです。

記事曰く。JROと日本貿易振興機構(ジェトロ)が15年7月から16年6月までに共同で実施した調査によると、バンコク首都圏の日本食レストランは飽和状態にあり、2015年と2016年で比較すると増加率は1%どまりだった。特に「ラーメン・中華が8%減」であった。

日本式ラーメン(味噌や醤油などをベースにしたラーメンのこと。)を出す店と、中華ラーメン店(「湯(タン)」をベースにしたラーメンです。)を見分けるのは、店の外観からして違うので比較的簡単です。
一方中華料理となると、日本式中華と本格中華の店は、外観もメニューもかなり似ているので、見分けるのは非常に困難ですよね。資本や創業者の国籍で分類するのでしょうか。
「日本人が考案した「焼き餃子」を提供する店は日本食店で、中国古来からの水餃子を出していたら本格中華料理店。」と区別するのでしょうか。でも、焼き餃子と水餃子の両方を出している中華料理店が日本国内に結構あるのです。そういう店が海外進出した場合は日本食店?いや、海外の人の多くは中国料理の店と信じて食べていることでしょう。

気になったので、ジェトロのHPを検索しましたら、バンコクにおけるJROとの共同調査は過去にも実施されており、そこでは中華の項目はない代わりに、「洋食喫茶」が日本食として計上していたのでした。おそらくですが、トンカツやナポリタンやオムライス等を提供する店ならば日本食レストランなのでしょう。前にこのブログで書いた通り、和食研究の大家熊倉先生が、「トンカツは和食だ」とお墨付きをだしていますから・・・。

今回の話は、JROやジェトロに問題があるという訳ではありません。こういう統計だとしてきちんと発表しているので、むしろ、統計を読む私達のリテラシーの問題だと思います。とはいえ、多くの日本人は、「海外で和食や日本食のレストランがブームだ」との報道を聞いた時、まさかそこに中華料理や洋食がカウントされているとは気づきません。したがって、もっとマスコミの方々に積極的に報道して欲しいと思いますし、今回のこの日経の記事が嚆矢となれば嬉しいです。がんばれ日経!

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変な食育:氣のエネルギーは米からって本当?

2016年09月04日 | Weblog
最近、次のようなオカルトっぽい説が「食育」と称してあちこちの食育勉強会で広められているので、ぞっとします。
「元気の気の字は、旧字体の氣の字でなければならない。なぜなら、旧字体の氣の字を分解すると、中にお米の字が入っているからだ。氣のエネルギーはお米パワーから発せられる。お米を食べなければ健康になれない。だから断固として旧字体を使用して、お米をもりもりたべましょう!」

あの~、そんなに文字の起源にこだわるのでしたら、そういう方はお米(ライス)は食べちゃダメですよ。だって、米という字はもともと麦か粟(アワ、またはゾクとも読みます。)という雑穀を指す篆文(てんぶん)という文字が起源だったのですから。
氣のパワーを発揮したいなら、お米なんか絶対食べちゃダメ!麦かアワを食べてください!!!!

以下、説明です。我が国の漢字研究の大家、白川静先生の「常用字解」(p570,674~678)や、漢和辞典「漢字源」、世界史の教科書によると、こういうことです。

まず、甲骨文字(今から三千年以上前の殷王朝時代に発明された、最古の漢字。)にも米の文字が見つかるのですが、殷王朝は黄河文明なので、寒すぎてお米が栽培できない土地柄でした。お米が栽培できたのは長江以南でして、当時は黄河文明の範囲にありません。したがって、殷王朝は麦または粟(アワ)を食べていたと考えられます。この甲骨文字のコメの字は、現代私達が使っている「米」の字とは異なる形をしています。

時代は下って紀元前221年に西方の秦(シン)が統一王朝を打ち立てると、それまでの文字を廃止し、秦の文字、「篆文(てんぶん)」を採用しました。この篆文の「米」の字は、現代の米の字とそっくりで、この字が現代の「米」の字の起源となりました。しかも秦は麦文化圏でかつアワも多く食べましたので、篆文の「米」の字も当然麦またはアワを指したと考えられるのです。
ただし、秦国は統一前に、辺境の地であった稲作文化圏の楚国を併合したので、アワなどを主食としていた支配層の人々も、やがて、お米を見る機会も生じるようになったと考えられます。

さらに後漢の時代になりますと、古い時代の文字に対する知識が要求されるようになりましたが、もはや米という字はもともと何を指していたかについて分からなくなってしまいました。そこで許慎という学者が読解を試みたのですが、何しろ秦が古代文字を廃したので甲骨文字は人々の記憶から消えてしまっており、篆文等を参考にするより他に方法がなかったのです。

許先生は研究成果を著書「説文解字(せつもんかいじ)」にこう記しました。
「粟の實(み)なり、禾の實の形に象(かたど)る」と。
禾(か)の字はイネだけではなく穀類一般を象徴する文字です(常用字解「科」の項目、p43に基づく)。「漢字源」では禾の字について「象形。穂のたれたあわの形を描いたもの。」と明記されてますので、許先生自身も「あわの実をかたどったものだ。」と言う意味で「禾の實の形に象る」と書いた可能性が高いのです。

まとめましょう。甲骨文字の米の字は麦またはアワを指していました。その後の篆文でも麦またはアワを指していました。ところがその後戦乱等で記録が途絶えてしまったため、後漢の許慎先生が「米の字はアワの実を指す文字で、禾の実の形をかたどった。」と研究成果を発表したのです。で、ここが重要なのですが、禾という字はアワの象形文字ですし、先生は文章の前半ではっきり「アワの実を指す文字だ」と断言してしまっているんです。ですから、氣のパワーを発揮したいなら、お米(ライス)なんか食べちゃだめですよ、麦かアワを食べなくちゃ!

ちなみに、「漢字の起源に基づいた食事をしなければならない」なんて話、私は、ただのオカルトだと思っていますから、安心して今日もおいしいお米(ライス)を食べています。

2018年5月27日追記(1)わかりやすい文章にするために一部説明を追加しました。(2)最近ある子供向けの辞典に、米の字の成り立ちはもみがらを出た米粒を描いた象形文字です、というような説明が載っていますが、漢字についてもっとも歴史と権威がある研究書「説文解字」に明らかに反する説明であり、かつ、何を根拠に「もみがらを出た・・・」と唱えているかも記されていませんので、信憑性の薄い説です。事典を編纂する以上、信頼性の高い情報に基づいて情報の出所を明らかにして記してほしいものです。

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