タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

「腐る野菜・腐らない野菜」実験は、それだけじゃ意味なし。

2017年08月27日 | Weblog
ご隠居さんと熊さんこと熊五郎さんの会話です。

熊さん「ご隠居、あたしのとこのター坊のことでご相談なんですが。」
ご隠居「小学生のお子さんですね。また何かやらかしたんですか。」

熊さん「とんでもねえ。夏休みの自由研究の相談ですよ。
  ター坊が、学校の食育で、先生からこう習ったんですよ。
  『なんとか農法で栽培した野菜は、普通にスーパーで売ってる野菜よりも体に良い』、ってね。それは、どちらが先に腐るかという実験で、わかるっていうんですよ。」

ご隠居「ああ、食育や食農教育の本に時々そういう話が載ってますね。
  実は、本によって、薦める農法が違うのですが。」

熊さん「さすがはご隠居。何でもご存じだ。こいつは話が早い。
  実はター坊が、先生の説明した実験をまねてみたんですよ。
  なんとか農法の野菜を切ってシャーレに入れる。
  スーパーで買った普通の野菜も同じくする。
  で、どちらが先に腐るかを観察するって具合で。」

ご隠居「で、どうなりましたか?」

熊さん「それが、3回やって3回とも、先生と反対の結果になりましたんで、困ってるんですよ。」

ご隠居「ほほう。」
熊さん「先生は、こう言ったんですよ。
  『スーパーの野菜はすぐ腐るが、なんとか農法は腐りにくい。
  きっと抗酸化成分だかなんだかのおかげだから、体に良い』と。
  ところがター坊の実験は、なんとか農法の方が先に腐りやがった。」

ご隠居「あっはっは。それなら簡単なことですよ。
  自由研究の考察欄にこう書かせなさい。
  『腐らない野菜というのは不自然だ。
  なんとか農法の方がすぐ腐ったから自然で体に良い。』と。
  これは私のアイデアではなくて、実際に、
  別の農法を薦める本に書いてある話ですよ。」

熊さん「なるほど、さすがご隠居。
  ・・・あれ?でもその論法だと、どっちにしても
  スーパーの野菜の方が体に良いって言い張れるんじゃ?」

ご隠居「ほほう、どういうあんばいに言うんですかね?」

熊さん「そうっすねー。
  『なんとか農法は先に腐る。不衛生でばい菌まみれなんじゃないか?スーパーの方が衛生的で安全安心だ。』ってな具合にね。
 で、逆になんとか農法が長持ちしたら『腐らないのは不自然だ。』って言い張るんですよ。」

ご隠居「全く熊さんにしては上出来ですな。」
熊さん「それって褒めてくださってんですか?
  でたらめな論法って分かってて、あたしに薦めるとは
  冗談きついですよ。」

ご隠居「まあまあ、おこりなさんな。今の話を整理しましょう。
 その先生の説明した実験は、何かを説明してるように見えて、実は本当の説明にはなってない。実験結果の考察の段階で出た意見はあくまでも仮説です。この仮説を別の実験で立証してこそ正確な科学実験になるのですが、なぜかそこの段階をはぶいた、実験もどきの詭弁が、食育や食農教育を通じて広まっているのです。」

熊さん「ちょっとあたしには難しいので。別の実験で立証とは?」

ご隠居「なぜ先に腐ったか、あるいは腐らないのはどうしてかを考察しても、それはこの段階ではまだ仮説なので、別の実験をしなければならないって意味ですよ。例えば、先生の言う抗酸化成分説が本当なら、その成分の含有量を分析するなどの実験が必要です。その成分だけを抽出して、カビの生育を防ぐ作用の有無も確認しなければ。」

熊さん「先に腐る野菜が自然だ、という仮説は、どう実験するのですかね?」

ご隠居「それは無理ですよ。人によって、自然な野菜というのは違うものですから。ある人は有機農法だといい、別の人は有機肥料を与えるのも不自然だと言う。さらに別の人は、波動農法だとかEMだとか言う。人間が人為的に選抜したのが今の野菜だから、野草でないとだめだ、という人だっている。機械を使って収穫したら不自然だ、という人もいる。だから、腐る野菜が自然、という説明には意味がないのです。」

熊さん「なるほど。」

ご隠居「先生は何かの食農教育の本でこの『実験もどき』を読んで、そのまままるごと信じてお話されているのでしょう。まあ、最近の小学校の先生方は忙しいですから、詭弁を見抜けない方も、中にはいるのでしょうな。」

熊さん「うーん、ター坊がクラスでいじめられるかも。心配です。」

ご隠居「つらい話ですねえ。先生がなんとか農法にはまってしまったばかりに。先生と異なる研究結果になっても、なんとか農法が体に良いと詭弁を言わなければならないとは。」

熊さん「いやいや、キベンとかいうのには頼りません。
 ター坊にはこの自由研究をそのまま提出させますよ。」

ご隠居「そんなことして大丈夫ですか。」

熊さん「もちろん大丈夫です。PTAの会長が当たっちまったんですよ。小学校の校長とクラスの父兄に、このブログを印刷して渡しますから。」

おあとがよろしいようで・・・。

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クールビスにはパンを召し上がれ!?

2017年08月12日 | Weblog
ある県の教育研究会が、県の小学生の夏休み向けにある課題図書を推奨しました。
食育・食農教育の本だったのですが、その本によると「パン食は体を冷やす。お米は体を温める。」だそうです。

そうなのかー。じゃあ、夏はクールビスのためにも1日3食パンを食べようね。
エアコンも不要になって、パン食は環境保護の頼もしい味方だね!
地球に優しいエコでサスティナブルでロハスでエシカルな暮らしのために、夏は和食をやめてパンにしよう!

、じゃないですよねー!!と、和食大好きタミアは叫びます。

「パン食は体を冷やす」というお話の方が、疑似科学の匂いがプンプン漂います。

私の知る限り、パン食が体を冷やすことを医学的に証明した論文はありません。
民間療法でも、例えばアフガニスタンでは小麦は「熱い」食物に分類されています。メキシコではパンは「中性」(熱くも冷たくもないこと。)に分類しています(味の素食の文化センター「食の思想と行動」に収録された論文、「民間医療の中の食べもの」吉田集而先生、によります)。

つまり、パン食が体を冷やすという説は、血液型占いと同じく、日本など一部の国だけで信じられている迷信、と考えられるのです。ではなぜ日本ではパン食が体を冷やすと信じられているかを調べましたら・・・ああ、またかぁ。このブログでしばしば紹介している「食養」にたどり着きました。

食養思想の創始者である石塚左玄氏が明治時代に「カリウムの多い食品は体を冷やし、ナトリウムの多い食品は体を温める。小麦はカリウムを多く含むから、パン食は体を冷やす。」と唱えたのが始まりでした(参考図書「食医石塚左玄の食べもの健康法」ほか多数)。するとパンはカリウムがものすごく多いんでしょうか?

ということで、文科省の食品成分表で、食品100gに含有されるカリウム量(mg)を調べました。食パンと比較するのは、石塚先生が体を温める食品と指導した、玄米ご飯(食品成分表では「水稲めし/玄米」という名称で記載。)です。

水稲めし/玄米        95mg
食パン            97mg

あらら、ほとんど同じ値ですね。

ちなみに石塚先生が「体を温める」とした食品のカリウム含有量も調べてみました。
ダイコン(皮むき、生、おろし) 190mg
ニンジン(皮むき、ゆで) 240mg

・・・大変驚きますね。石塚先生は「カリウムの多い食品は体を冷やす」と唱えたのですが、石塚先生が「体を温める」と指導したダイコンやニンジンの方がパン食よりよっぽどカリウム含有量が多いのです。

公平のために、石塚先生が「体を冷やす」とした食品のデータも記します。
キュウリ(果実、生) 200mg
ナス(果実、ゆで) 180mg

これも驚きますね。ニンジンに比較したらむしろカリウムが少ない位です。おそらく明治時代の食品分析技術が低かったために、石塚先生は、いろいろと誤解したのでしょう。

以上のように現代の分析技術をもって考察すると、「カリウムが多いからパン食は体を冷やす」というのは勘違いなのです。それに、そもそも論としてカリウムが体を冷やすという前提が正しいなら、冷えが心配な方はまずダイコンやニンジンを避けるべきですね。

「それでもパン食は体を冷やす」と主張したい方は、でしたら、世のため人のため地球環境のために、夏は毎日ずーっとパン食で、エアコンも扇風機も止めて過ごしてくださいね。

(ご注意*「体が冷えるとはどういう現象か。何をもって冷えの指標とするのか。」は実はまだ医学的に明確に定義されていません。その上でこの文章は、仮に「体が冷える」が定義できたとしたらこんなおかしな論法になってしまう、ということを示しています。)



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おにぎり「だけ」推し栄養士にはご注意。

2017年08月06日 | Weblog
タミアは管理栄養士の成田崇信さんのファンです。最近、成田さんのお話のスタイルの上っ面だけをまねつつ、言葉巧みに、不健康なニセ科学的食事法を吹き込む栄養士らが現れたので、危機感を持っています。

成田さんは、「手作りが正しい」「和食が正しい」等の食育デマに振り回されて苦労している方々に、「加工食品でもパン食でも食べ方次第で栄養バランスはとれるので、そんなに焦らなくても大丈夫」とアドバイスしています。野菜嫌いの子を持つ家庭には、ご家族の気持ちに寄り添って、焦らず、長い目で少しずつ、野菜好きな子に育てることをおすすめしています。また、一部の食育指導者がやっきになっている「肉や牛乳は避けましょう。」という食育指導の危険性を指摘し、いろいろな食品をバランスよく食べることの大切さを指導しています。

ところが、よりによって「お米ばかり食べていれば栄養的に足りる。肉や魚などはほとんどいらない。」と、上から目線で変に厳格な食を押しつけていた一部の栄養士らが、最近になって、態度をコロッと変えて、成田さんのソフトな語り口をまねているのです。

やり方は非常に巧妙です。まず、子供の食育に困っている人々に「お子さんのおかずを毎食作ったり、野菜嫌いの子に野菜を薦めるのは、大変でしょう。」とすり寄って、「野菜も肉も、おかずなんて食べなくても大丈夫。子供の栄養はおにぎりだけで十分。」と驚かせて、とどめで成田さんの言い方をそっくりまねるのです。「ご両親の負担が軽くなって食卓の笑顔が増えることがまずは大事ですよね。」と。

育児に疲れている人で初めてこの話に出会った人は、「なんと優しい言葉だろう」と、干天(かんてん)の慈雨のように感じることでしょう。ですが、子供の成長にはタンパク質やカルシウム、ビタミンなどが欠かせない一方、おにぎりだけではこれらの栄養素が不足するのです。それに、どの子にも一律におにぎりを推奨する行為は、野菜が苦手な子供に野菜を無理に食べさせるのとあまり変わりない行為ですね。子供がおにぎり嫌いでしたら、むしろご両親の負担は重くなって、食卓から笑顔が消えてしまうことでしょう。

一方、成田さんはそんな矛盾は言ってません。成田さんの本は、「栄養学的には米飯食にこだわる必要はないし、偏食がひどいようであれば、時間をかけて少しずつ暖かく見守りながら直してあげましょう。」と、栄養バランスが大切だがその取り方は人によって様々な方法があるのですよ、という基本姿勢ですから、「おにぎりだけ推し」とは似て非なる指導法なのです。このページの読者の皆さんなら、成田さんの話の方が筋が通ってることはすぐおわかりですよね。

たぶん、これからますます、成田さんの話の上っ面だけをまねした疑似科学系栄養士や食育指導者が増殖することでしょう。皆さんも、「子供にはおにぎりだけで大丈夫」という甘言にはくれぐれも気をつけてくださいね。

3月16日追加記事:あるサイトで、成田先生がこのブログにコメントしてくださったそうです。たぶんまねをしているわけじゃないとおもいます、というご指摘でした。コメントありがとうございます。そうでしたか、もしかして偶然の一致だったのかな。言い方がよく似ているけど、中身が全然違う説ですよね。

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