タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

「和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたから**が流行した」は大げさ。

2023年09月24日 | Weblog
前回の山下さんの番組は録画したので後で見て感想を言おうと思います。その前に、日経の9月16日の記事が間違っているので、指摘しなければなりません。記事のタイトルは「瓶ラムネは過去のもの?」。ラムネのガラス瓶が不足しているという記事です。

この文章の最後に、ラムネ生産量が増えたのは欧米への進出に成功したからだと書いています。そこまではいいのですが、問題なのは、欧米に進出したきっかけは「和食」が2013年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されたことで欧米で日本独自の食品が注目されるようになったからだとしている部分です。それ、違いますよ!

英語圏のネットをいろいろなタームで検索しましたが、「ユネスコの無形文化遺産ニュースを聞いてラムネに関心を持ちました」なんて話は見つかりません。もしかしたら数十億人の外国人のうち100人ぐらいはそういう人もいたかもしれないけどせいぜいその程度です。

海外でラムネが人気になったのは、まず第一に、独特なボトルの形(コッドボトルと言います。)と開け方が海外のソーシャルメディアで話題になったためです

その形がそんなに受けるの?と思った方に、一例を紹介します。登録者が9万人いる英語圏ユーチューバーの「1D10CRACY」さんは7ヶ月前にHow to open Japan Soda called Ramune Drink. Why the funny bottle?という動画を公開して705万回再生されています。彼の動画ではBantaを紹介するのも64万回再生されています。
Banta(またはGoli)は、インドのコッドボトル清涼飲料水です。英語圏ウィキペデイアによるとイギリス支配当時からインドに広まったそうで、Bantaの風味は日本のラムネとちがいますが、日本の場合と同様にお祭りに欠かせないドリンクなのだそうです。

コッドボトル飲料は、現在では日本とインドの2カ国だけで販売されているんですよ。
要するに日本文化だからというよりも、「面白い開け方をする瓶だから試して見たくなる」なのです。

しかも、先ほど紹介したラムネ動画へのコメントで、一部の視聴者が「この瓶はもともとヨーロッパで発明されたんだよ」と指摘しています。そうなんです。イギリス人のHiram Coddさんが1872年に特許を取った瓶なのです。発明当時は欧米各国に広まったのですが1892年に金属の王冠でボトルの蓋を閉める方法が発明されたため、コッドボトルは消えていったのでした。イギリスでは1800年代のコッドボトルが収集家のアイテムになっているほど貴重なのです。つまり「僕ら欧米人の間で消えた伝統が、なぜか日本に残っている」というところも面白がられるポイントです。

もう一つ、ラムネ人気を担ったのは1980年代以降に大量に欧米に輸出された日本アニメやマンガです。ラムネを飲むシーンが描かれたため欧米の子供たちが飲んでみたいと思い、数年後には青年や成人になり、一部の人は来日したり何らかの理由でラムネを手に入れました。そこで改めて、欧米の伝統の味「炭酸水」とよく似た美味しい炭酸飲料だと確認し、ネットなどで情報共有して話題をじわじわ広めたのがゼロ年代頃以降です。ユネスコよりずっと早くから欧米でこうして人気のベースが作られたのです

また、ラムネは様々な味がありますが、ベースは大正時代に日本人が「欧米伝統の炭酸水」をまねて作ったものです。レモネードという言葉がなまってラムネになりましたが、味はレモネードをまねせず、その代わり欧米で日常的に飲まれる炭酸水をベースに甘い味と香りをつけ、のどに心地よい飲み物にしたのです。だから欧米のリピーターがついたのです。

そして、ラムネ消費が拡大した最大の理由は 「アベイラビリティ(手に入るようになった)」これにつきます。欧米のソーシャルメディアが話題に取り上げても、欧米で売ってなければ、「来日しないと飲めません」になる。日本のメーカーや輸出商社が、欧米スーパーとの契約に成功したから、世界中のスーパーでラムネが手に入るようになりました。

これがきっかけで、「わざわざ日本にいってまで飲みたいとは思わないけど1980年代や90年代の子供時代にアニメでみたあの飲み物はどんな味なのか試してみたいな」「インターネットで一部の人が面白くて懐かしい瓶のドリンクがあると言っていたので気になるな。でも探してまで買いたいとも思わないな。」とぼんやり思っていた層にも届いたのです。それで飲んでみたら欧米人にも受ける美味しい味だったのでまた近所のスーパーで買いたい、とリピーターがついた。この「アベイラビリティ」こそがラムネ売り上げに最大の貢献をしています。

新聞社さん、最近やたらと「ユネスコの和食登録が原因で日本の食品が人気」と話をでっち上げるのはなんでですかね?そんなにまでしてユネスコの話を作り上げなければならない理由でもあるんですか? どこかの政治家か官僚にそう言えとお叱りを受けているんですか?本当のところを教えて欲しいものですね。

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山下惣一先生が身土不二に疑問を持った理由。

2023年09月21日 | Weblog
NHKが近々、農民作家の故山下惣一先生の特集番組を放送するそうです。
NHKは生前から山下先生が好きでしょっちゅう登場させてたからなあ~。
心配なのは、番組予約画面で、「身土不二を唱えた山下さん」、って趣旨を言っているところです。

身土不二ねえ。あれ、食養会が発明してそのスピンオフのマクロビオティックが精力的に広めた言葉なんですけどね、食養会もマクロビも身土不二を盾に「ミカンを食べるな!」って禁止しているんですよね。
だって、昔の東京人からみたらみかんは遙か遠方の和歌山や愛媛などから届くから。「地元の食品じゃないのを食べると病気になる。それが身土不二という言葉の意味。」って理屈だったんですよ。

ましてや山下先生は佐賀県唐津市のミカン農家。身土不二なんて言葉は商売上の天敵ですよ。

山下先生は「身土不二の探求」という本で、この言葉のうさんくささも正直に記してます。仏教の身土不二(しんどふに)と食養会の身土不二(しんどふじ)は本来関係ないのに仏教と混合されたことや、それではもともと仏教の方ではどういう言葉なのか、などを調べた労作です。(ただ、今では彼の調査不足の点も明らかになっています。)
山下さんは身土不二について、魅力的だけどきわどい言葉と懸念も抱いていました。他のエッセイや講演などでは、韓国の農協幹部が食養の説に魅力されて韓国に広めようとしたけど、日本人が創作した言葉だなんて言う訳にいかないもんだから「我が国には中国伝来の身土不二の伝統がある、地元以外の食品を食べると病気になるという中国の伝統だ」と作り話を創作して韓国の辞書に載せたアカン経緯や、そんな韓国初発のでたらめな説を信じた日本で身土不二ブームが起こった、という、実にきな臭い裏事情も正直に語っています。
NHKの番組紹介欄に書かれているような単純に「唱えていた」というのとは山下さんの本音からはずれています。

山下先生も草葉の陰で歯がゆく思っているのでは。どういう番組になるのか期待と不安が入り交じってます。

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