タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

健康ニュース番組がまた粗雑化している。

2023年03月16日 | Weblog
数年前まで、テレビやネットの健康ニュースは本当にひどいものでした。統計的根拠も医学的根拠も無い、自称「識者」の思いつきを垂れ流す健康番組が多くて、だから私もブログでなんども繰り返し指摘してきたわけです。

一方で、業界の方も無責任な健康情報を流すのは国民に有害と気がつき、いい加減な情報は検索トップに上がらないようにこの数年で変化してきたわけです。ところがここに来て、またヤフーニュースがあきれた記事を紹介してきました。3月14日火曜日配信の「まずは検診を!専門家も呼びかけ「大腸がん」検診で早期発見」という記事です。

 なお、もとはTOKYO MX(地上波9チャンネル)の朝の報道・情報番組の1コーナーで紹介された情報で、それをテキスト化してヤフーニュースで紹介した、という流れです。

キャスターがあるクリニックの先生に大腸がんについて伺うと、先生は大腸がん患者の増加背景には「食事の欧米化」がある、と真っ先にあげました。でもですね、このブログで何度も指摘してきたんですが、昭和末から平成初めの日本人の方が、現代の日本人よりもよほど欧米化しているんですよ。例を挙げます。

・欧米化の象徴といえば牛肉を思い浮かべる方が多いでしょう。
 実は農水省データによると意外なことに1995~2000年頃の日本人の方が、現代人より牛肉を食べているのですよ。引用します。
 「平成12(2000)年度には1人当たり7.6kgに達しました。(中略)消費が急激に減少し、減った分の需要は豚肉や鶏肉に置き換わりました。令和元年度の1人当たり消費量は6.5kgで、ピーク時の水準には至っていません。」((https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/ohanasi01/01-04.html 参照 2023年3月16日))
 なお、牛肉と入れ替わるように豚肉の消費は増えましたが、豚肉はとんかつなどの和風料理や、肉まん・ギョーザ・ラーメン等中国料理に消費されることが多いので、これを「食の欧米化」と呼ぶのは間違いです。「食の中国支配」と言った方がいいかもしれません。

・農水省統計データによると一人当たりの野菜の消費量ピークは、米国の食文化の影響を強く受けていた昭和40年代で、例えば1971年は年間に119㎏も食べています。
 日本は古代から、野菜は少量だけ食べる文化でした。明治初期に日本に来た米国人ホーレス・ケプロンもあまりの野菜の種類や量の少なさに驚いたため、日本政府へ様々な野菜・果樹・家畜をプレゼントしています。しかし、明治時代に誕生した穀食主義(お米をたくさんたべればおかずは少なくても良いという考え方)が文化人に広まったため、野菜を食べる大切さはなかなか広まりませんでした。この思い込みが改善されたのが、第二次世界大戦後のことです。カレーライスや肉じゃが(洋食をヒントに誕生したと言われます。)やサラダなどが一般家庭に広まり、野菜をたくさん食べるようになりました。つまり次第に野菜の消費が減ったのは、日本の伝統に戻ったということです。
(3月26日、誤解のないように追記します。カレーライスや肉じゃが、サラダは、都会の中間層や地方の上流層は戦前から食べていました。ここで言う「一般家庭に広まり」というのは、戦後にほぼ全ての人が知る食べ物になったという意味です。)

・牛乳の消費ピークは1994年前後で、年に一人当たり34.7リットル。
 ちなみに2021年は25.5リットルだから9リットルも減ってます。
(出典 https://www.j-milk.jp/gyokai/database/raku_nyu-sanko.html)

・小麦の消費量も伸びてません。「長期的に見ても小麦の一人当たり消費量は年間29.0kg(昭和40(1965)年度)から31.7kg(令和2(2020)年度)へと3kg程度しか増えていません。」((https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/ohanasi01/01-11.html 参照 2023年3月16日))

さて、以上のように、牛肉、野菜、牛乳、小麦、これらの消費の動きはどれも、食事の欧米化どころか「食事の脱欧米化」を如実に物語っているのです。

クリニックの先生は一体何を根拠に「食事の欧米化」と言っているんでしょうね。
でも、このお医者さん程度ならまだ可愛いもので、この記事は続けて、食文化研究家という人物が登場して食の欧米化についてこんなことを言っているのですよ。引用します。

「今、私は日本で過ごしているけれど、自分の胃などに受け付けにくいような動物性タンパク質を食べてしまう。それが積み重なることで負担をかけてしまうのではないか。(中略)(食の欧米化が)どこに効くのか、どこに負担がかかるのか、それが自分の食生活に合っているのかなどは再認識していかないと、40歳、50歳になって検査をしたときに良くない結果に繋がってしまうと思うので、気をつけるべき」

驚きましたよ。食の欧米化が身体にどう影響するかについて統計データも医療データもなにも示さずに「と思うので」で締めくくる大胆さ。
それに「胃が受け付けにくい」という日本語は「個人的好き嫌いや満腹度や習慣などが理由で食べたくない」という意味の言葉です。個人的な理由で動物性タンパク質が苦手だと言いながら、他人にも動物性タンパク質がよろしくないような一般論として語ってしまうのは、自分と他人の区別がつかない混沌とした発言です。
また、「胃が受け付けにくい食べ物を食べると身体のどこかに負担がかかるのではないか」なんて「嫌いな授業を勉強したら頭が破裂しちゃうんじゃないかしら?」と同じレベルの空想です。

ヤフーさんにもテレビ局さんにもお願いですが、もう「食の欧米化」なんて使い古した作り話なんかやめて、信頼出来る健康情報を提供してください。

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