タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

和食は身体に悪い!?ヒ素の話と統計トリック

2016年01月30日 | Weblog
科学ジャーナリストとして著名な松永和紀氏が、FOOCOM.NETというサイトのコラム「編集長の視点」1月8日号に、とても気になるコラムを掲載しました。和食に含まれる無機ヒ素に発がん性の恐れがある、と(http://www.foocom.net/column/editor/13651/)。(なお、本日のブログでは、和食とは伝統的な食材から作られた、和のイメージの食事の事ですので、ラーメン等は含めません。)

無機ヒ素の主な摂取源はヒジキとお米で、食品安全委員会や農水省などもしばらく前からお米やヒジキに含まれる無機ヒ素について注意喚起していたそうです。しかし、日本のジャーナリズムは、ソーセージやベーコンにはあれほど大騒ぎしたのに、ヒジキについてはずっと無視し続けたのです。これが松永先生の主張する「メディア・バイアス」の典型例でしょう。

食品安全委員会のQ&Aを、松永先生が易しく解説した文章を以下に引用します。
「私(注:松永先生。)なりに日本人の摂取量データや、そのほかの論文等も参照しながら意訳すると、「米をたくさん食べる人、それにひじきを『健康に良い』などと信じて毎日食べたり、健康食品として摂取したりしている人の中には、がんを懸念される量食べている人がいますよ」ということです。」

・・・なかなか怖い話ですね。お米を沢山食べ、かつヒジキを毎日食べるような食生活をしている人というと、伝統的食事が一番身体に良いと信じている人達が思い浮かびます。その中には伝統食「もどき」である「食養」「マクロビ」「身土不二」などをモットーとしている人達も数多く含まれることでしょう(これらが実は伝統食ではないことも過去のブログで紹介しました)。これらの食事はやはり、あまり身体に良いとは考えられません。

ところで過日、さる分野の全国的女性団体の年に一度の大会で、茨城県在住の著名な食育指導者が、「食の欧米化の結果、がんなどが増加した。健康的な生活を取り戻すために伝統的食事に戻るべきだ。」と講演しました。しかしこの話は単純な統計トリックです。そのトリックとは?

多くのがんは、長生きすればするほど罹患の確率が上がるのですが、一方、第二次世界大戦後まもなくまでは、栄養不足で脚気や結核などになって早死にしていたので、がんに罹るまで長生きできる人は少数でした。昭和40~50年代は和食などに起因する塩分の取りすぎで脳卒中などで壮年期に無くなる方が多かったのです。だから昔はがん患者が少なかったのです。

和食で塩分取りすぎ、の実例をお話すると、昭和50年代にはお弁当のおかずの塩鮭にしても、表面に塩が真っ白に吹いているものがよく売られていました。この頃に小学校の担任の先生は、「今時の塩鮭は甘塩でいやだねえ。昔はもっとしょっぱかったのに。」とこぼしていました。それぐらい、かつては強烈な塩味が好まれていたのです。

そういうわけですから、伝統的食事の健康性を強調する食育には、懐疑的になるのが大事です。残念なことに上記の食育指導者の講演は大勢の参加者が鵜呑みにしてしまいました。全国各地から参加した受講者はそれぞれの地方に帰郷した後、事務局に「感動しました!子ども達の健康のために伝統食を指導します。」と熱狂的な内容の手紙を送ってきたということです。子ども達の健康がかえって害されるのが心配です。

現代において伝統食を伝える意義はなんでしょうか。たとえば、糧飯(かてめし)やそば、雑穀料理などのように、お米が少ししか食べられなかった歴史的記憶の染みついた食品があります。魚料理にしても、山間部では年に数えるほどしか魚が食べられなかったことなどから、お祝いの日の「行事食」として大切にされてきたのです。つまり、地域地域の伝統食には、昔の人々の喜び悲しみ、様々な複雑な思いや辛い記憶が染みついているのです。和食を大切にしたい、そのためには、負の記憶も含めて、まるごと後世に伝えていくのが大事ではないかと思います。大切な私達のご先祖の記憶が風化する前に。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一汁三菜で輸出は増加するか?

2016年01月23日 | Weblog
以前書いた通り、現在日本産食品の輸出が伸びている主因はいわゆる「和食ブーム」ではありませんでした(ここで言う「和食」とは、伝統的な食材で作る、和のイメージが強い伝統的食品のことです。ここでは和食にラーメン等は含めません)。また、ミラノ万博で宣伝された「和食の基本は一汁三菜」という説も、前回のブログに書いた通り近年に作られた人造的な標語であり、歴史的な裏付けはありませんでした。

さて、そこで考えてしまいました。タミアは、日本の食品が海外に輸出され農家さんや食品産業がもっと豊かになることを願っています。どのように海外に宣伝すれば、もっと国産品が海外で売れるようになるでしょうか。現在日本産の輸出が伸びている理由は、フランス料理や中華料理の材料として日本の食材が優れていることや、日本製の菓子や清涼飲料水が海外で絶大な人気を誇っていることなどが主な理由です。米や味噌の輸出は伸びていますが、金額ベースでは清涼飲料水に遠く及びません。

しかし、これからの伸びしろとして、「和食の基本は一汁三菜」と海外で宣伝すれば輸出は伸びるかもしれません。そこで、この仮説が正しいか、考察してみました。まず、一汁三菜というのをお米と味噌汁またはすまし汁、漬け物、主菜1品(魚介類)、副菜2品(野菜のおひたし、野菜の煮物)、そして海苔、と想定します。そして売り込み先はEUとしましょうか。
・・・そうすると、実はこんな大変なことが起こるのです!

一汁三菜を提供しようとするEUの日本料理店や、一汁三菜を食べたいと思ったEUの消費者は原料をどうやって入手するでしょうか。日本産米の価格は高いので、スペイン産米を代用することでしょう。

また、味噌汁やすまし汁を作るには、鰹節または昆布の出汁(だし)が必要です。ところが日本産鰹節は禁輸品なのです。なぜかというと、製造過程で発がん性物質のベンゾピレンが付着するからです。「ベンゾピレンは水に溶けないので健康上問題がない」と、日本国内では規制されてませんが、EUではそういう理屈は通りません(NHKの「時論公論「拡大できるか 日本産食品の輸出」2015年7月24日金、合瀬宏毅解説委員の記事に基づく情報です。NHKのHPでも読めます)。

そういえば、鰹節を出汁として使用すれば発がん性がない訳ですが、粉末にしてパラパラとおひたしやご飯や焼き魚などにかけると発がん性はどうなるのでしょうか?調べてみたのですがデータが見つからなかったので、ご存じの方は教えてください(信頼できる文献情報などの裏付けも示してくださいね)。

話を元に戻して、日本産鰹節には発がん性物質があるためEUに輸出できません。そのため、EUで鰹節を入手したいときは中国産鰹節を使うしかないのです。中国産鰹節にはHACCPという食品安全に関する国際認証を取ったものがあるからです。

じゃあ昆布出汁を宣伝しましょうか?実はこれも不可なのです。厚生労働省の畝山智香子博士の「「健康食品」のことがよくわかる本」のp55によると、昆布は欧州の人々が食べると健康障害を起こす可能性が高いため、欧州では販売が禁止されているのだそうです。ちなみにこの本によると、日本人でも妊娠中や授乳中の昆布の食べ過ぎは赤ちゃんに悪い影響が起こりえるそうです。なお、以前このブログでもおすすめした「管理栄養士パパの親子の食育BOOK」p51にも、日本人でも毎日昆布出汁を摂っていると過剰摂取になりかねないと書いてあります(マクロビオティックでは動物性食品である鰹出汁が禁止されているため、マクロビアンは毎日昆布出汁の味噌汁を召し上がるそうですが、上記情報から考察するとマクロビは身体に悪いようですね)。

さて、昆布は使えないので、EUでは中国産鰹節を使わないと味噌汁やすまし汁を作れないという結論になりました。

続いて漬け物ですが、梅干しやたくあんは欧州の人は苦手な人が多いので、定着させるには長い時間が掛かると思われます。それにHACCPという認証を取った工場の商品でないと輸出が難しいのですが、HACCP認証を取るには一説には5千万円かかるとも言いますから、中小企業の多い漬け物企業にはハードルが高いのです。また、浅漬けはEU国内で採れた新鮮な野菜から作れるので輸出に不向きですね。

次は主菜の魚ですが、これも、ノルウェイ産サーモンとか地中海産の豊富な魚介類、東南アジア産のエビカニで代用されますので、国産の輸出にはつながりません。

続いて副菜の野菜のおひたしや煮物。これも欧州の野菜で代用されてしまうでしょう。ちなみにEUでは基本的にグローバルGAPという認証を取得した農産物でないと流通できません。そして、日本国内でこれを取得した野菜農家さんは少ないのが現状です。こうした問題もあって、なかなか日本の野菜の輸出は難しいのです。早くこの問題が解消されることを願っています。

最後に海苔ですが、これも日本国内でHACCPを取った工場がほとんど無いことから、イタリアなどでは韓国産海苔が使われているそうです。

さて、以上のように、一汁三菜をEU諸国に宣伝したら、かえって喜ぶのはEU諸国や中国や韓国などの人々だろうと想定されることが分かりました。

米国にて宣伝した場合も、米がスペイン産から米国産などに置きかわるだけで、あとはだいたい似たような状況になると思われます。醤油は米国内に大規模工場がありますし、豆腐も米国内で生産可能です、なにしろ大豆生産国ですから・・・。

東南アジアで宣伝した場合には、醤油・味噌の製造にアルコールが使用されていることから「ハラル(イスラム教の戒律に則った食品等)」ではないとされ、醤油と味噌を多用する一汁三菜はむしろ敬遠されてしまうでしょう。最近ハラル醤油が開発されたそうで、今後の発展が期待されるところです。

というわけで、海外で日本の食を宣伝するとすれば、やはり、和牛のおいしさや、リンゴやミカンやゆず等の品質の高さなど、海外の原料では太刀打ちできない高品質な部分で付加価値を宣伝する方がよさそうです。もちろん、ある程度手の届く価格で、という条件が付きますが。

もちろん、日本の伝統的食文化を国外に宣伝すること自体は大切なことですが、前にブログに書いた通り、日本の伝統食は一汁三菜ではありませんので、これを宣伝するよりは、むしろ、きりたんぽとかせんべい汁とか煮込みうどんとか、非常に多種多様な地方の郷土料理があることを広告宣伝する方が、中国や韓国などの諸外国の材料を使ってすぐにまねすることが出来ないので、輸出に有利ではないかと考えます。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一汁三菜説は現代の神話!

2016年01月16日 | Weblog
日本経済新聞1月14日29面の記事は見逃せない内容でした。食文化研究で著名なあの石毛直道先生によれば、一汁三菜が和食の基本、と言われ出したのは「現代のこと」だそうです。

このブログの9月6日版「和やかな食事と書いて和食・・・」の記事の中で、ミラノ万博の頃から急に「一汁三菜が和食の基本」という説が聞かれるようになったことについて、疑問を書きました。つい最近まで「一汁三菜が和食の基本」なんて話は聞いたことがなかったし、それが本当ならうどんや蕎麦や寿司はどうなるんでしょう、と書いたのですが、やっぱり私の疑問には間違いがなかったのですね。「一汁三菜が和食の基本」という説は本当にごく最近に「誕生」した話だと考えるべきでしょう。

原田信男先生の著書「江戸の料理と食生活」を読むと、一汁三菜説は完全に覆されます。例えば冒頭の十返舎一九の食事。一汁二菜で、青野菜はほとんどありません(つけものは菜には数えない決まりです)。大ベストセラー作家でさえ、こんな生活だったのです。ましてや町民はどうだったか。朝は一汁一~二菜、昼は外食でファストフード(うどん、そば、寿司、天ぷらなど)、夕は茶漬けだったようです。うどん、そば、寿司、茶漬けなどは一汁三菜ではないことは言うまでもありません。

同著によると、井原西鶴はグルメの知識があり、商人同士のもてなしの献立を記述したそうで、三汁七~八菜のごちそうが載っているそうです。p21には将軍家斉は普段でも朝と昼で一汁四菜、夕は汁なしの五菜だったと書いてあります。p12には「七五三の膳を基本とする本膳料理によって今日の日本料理の基礎が形成された」とあります。・・・以上のことを重ね合わせて考えると、「一汁三菜が和食の基本」という説は、誰かの創作か誤解が広まったものとしか思えません。

江戸という一地域を見てもこのように和食は多様だったのですし、ましてや全国で見ると非常に多様な和食がありました。例えば琉球(現在の沖縄)の主食はイモでした。また先の日経の記事に戻ると、石毛先生のお話では、農村では長らく一汁一菜が食の中心だったそうです。もちろん、お米はご馳走であり、普段は麦飯やアワ飯などを食べていました。従って和食を「お米中心の一汁三菜」と唱えることには慎重になるべきでしょう。

では、誰が何の目的で「和食の基本は一汁三菜」という「現代の神話」を広めているのでしょうか。その点については調べても答えが見つからなかったのですが、一つだけ言えることは、この説が広まると有利になる人達が居ることです。

それは、「伝統的和食が一番健康に良い」と主張してきた人々です。彼らはかつては、多くの医者や栄養学者らから「炭水化物過多で、野菜も魚もごく少量しか食べない一汁一菜の食事では身体をこわす」と反論されて、言い返すことのできない立場でした。だからこそ、「日本では昔から一汁三菜だった。」というイメージが多くの国民に定着すれば、こうした人々は「ほら、私達の言う通り、伝統食は栄養バランスがいいでしょう?」と言い返すことが出来るのです。

実は、伝統的食材から作る一汁三菜は塩分が高くてカルシウム等が少ないので、栄養バランスがいいとは限りません。和食の一汁三菜=栄養バランスが良い、という奇妙なイメージが近年急速に広まっているのはなぜでしょうか。これは「和食」という言葉の定義の自体の問題が深く関わっているようです。則ち、和食研究の第一人者、原田信男先生は、別の著書の中で、カレーやラーメンも含めた日本人が改良した食品も和食ですと唱えており、同様に第一人者である熊倉功夫先生は、おかずがとんかつ等洋風のでも汁と飯が付けば和食だと唱えているのです。これら原田先生説と熊倉先生説に基づけば、洋食は和食の一種なので(!)、和食を食べれば牛乳や肉類やサラダも食べられるので(!)栄養バランスがとれて健康に良いのです。ところが一般の人の間では和食というと牛乳や肉類などを廃した料理とされがちです。こうした定義のねじれから、いろいろと奇妙な誤解が広まっているのではないかと思われます。

さて、以上のことから考えると、「伝統的食事が身体に良いとする疑似科学」に人々がのめり込んで健康を害しないように、私たちはきちんと、正確な知識と記録を次世代に伝えていきたいものです。

「和食は一汁三菜だけではなく、いろいろな形態がある。うどんや蕎麦や寿司のように汁と菜の概念がない料理だって、日本の誇る和食文化だ。ただし、和食が健康に良いかという話は、定義の問題から慎重に議論しなければならない。」と。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

深く共感・日経春秋欄1月10日

2016年01月12日 | Weblog
1月10日の日経新聞朝刊春秋欄にとても共感しました。多くの方に知ってもらいたいと思って大意をここにご紹介します。

ブルーノ・タウトが桂離宮を絶賛した逸話のように、外国人に褒められると日本人は自らの良さを再認識する傾向があるが、昨今のテレビはそのような感情をくすぐる話のオンパレードで「自己陶酔と非寛容の気配が漂わぬでもない」。タウトも実は地方都市では辛辣な指摘もしている。今の外国の人達の目にも、日本のすばらしいものばかりが写っているわけではないでしょう・・・こういう大意でした。

この指摘に深く共感しました。もちろん、日本には様々なすばらしいことが沢山ありますが、思えば私たちの父母の時代は謙虚でした。世界第二位の経済大国となっても「海外から学ぶことは山のようにある」と言って、世界中から様々な文化を吸収した時代でした。勉強したのは欧米の先端技術だけではありません、アジアやアフリカ、南米など様々な所へ日本人は出かけ、最新の情報から古来の伝承まで含む様々な文化に触れ、耳を傾けて、世界の文化のよい所を日本に取り入れようと努力していました。今やそういう時代も過ぎ去ったのでしょうか。

言うまでも無く、日本にはすばらしいところが沢山あります。しかし、繰り返しますが、私たちの父母の世代はそれを言うのは恥ずかしいことだ、もっと自分を磨くべきだという考えでした。こうした高潔な思想はだんだん廃れていくのでしょうか。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

和食ブームで輸出増は本当?

2016年01月09日 | Weblog
あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしく御願いします。

さて、新年最初のお題は和食と輸出の関係です。
一昨日、日本の農産物の輸出額が過去最高になったという、新年早々めでたいニュースが各社から報じられました。そうしたニュースの中には「背景に和食ブーム。(中略)世界的に日本食ブームが広がっていることなどが主な要因」と報じているものも。あれあれ?と思いませんか?
和食と日本食、結局同じなの?違うの?

知り合いなどと話をしているとどうも次のような話に落ち着く例が多いようです。「古くからの伝統的料理や和の伝統のイメージを全面に出した食品が和食じゃないの?一方で、ラーメンとかカレーとかのような、比較的新しい料理や外国由来の食品も含めると日本食と呼ぶのでは?」

うーん、確かに、ちょうど一年前の1月10日の「世界一受けたい授業」という番組では外国人1万人調査で好きな「日本食」は1位寿司、2位焼き肉、3位ラーメンという結果でしたので、マスコミが「日本食」という言葉で表現する時には、焼き肉(韓国由来。)やラーメン(中国由来。)のような食品も含むというのが、通例のようです。

するとですよ。日本の農産物の輸出が増加した原因は「和食」と「日本食」のどちらでしょうか?これって結構大きな問題ですよ。輸出する側にとってはどういうイメージで外国に売り込むかは死活問題です。戦略を間違えれば損失を被りますから。

実は、この答えを知る手がかりは、NHK首都圏NEWS WEB(1月8日)に掲載されていました。これによると、輸出を牽引しているのは「ながいも、りんご、ホタテ、サバ、米、醤油、みそ、日本酒」などだということです。ところが、私は数年前にある勉強会でJETROの専門家のお話を聴きましたが、実は上記の食材の大多数は、和食でも日本食でもない意外な理由で、人気になっているとの分析結果だったのです。

具体的にご説明しましょう。
まず「ながいも」は中国風薬膳料理の材料として引っ張りだこなんだそうです。中国文化では、ながいもは長ければ長いほど幸運を呼ぶと信じられており、日本産のながいもは中国よりも長いということで縁起物として輸出が伸びているのだそうです。全然、和食でも日本食でもないのです。

次に「りんご」ですが、中国文化圏の人々には、赤くて大きい日本産のリンゴは幸運のシンボルとしてモテモテなのだそうです。これも中国文化に根ざす話ですので、和食や日本食とは関係がありません。

「ホタテ」は高級中華料理やフランス料理として食べられており、「サバ」は現地風に味付けしたり二次加工して別の国に輸出したり・・・なので、これらも和食や日本食とは関係がありません。

また、これはJETROの方の話ではなくて、安西洋之・中林鉄太郎著「「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか」という本(p34~41)に書いてありますが、醤油は米国やオーストラリアなどでバーベキューなどの肉料理の味付けとして多用されているということでした。貿易統計で確認しても醤油は米国、オーストラリアへの輸出が多いことから、日本食や和食の調味料としてよりも、肉の味付け用に使用される割合の方が多いと考えた方が自然です(醤油で焼いたバーベキューを日本食と強弁するならば、日本食なのでしょうが・・・多くのかたはそれで納得出来るでしょうか。)

ちなみに、上記の本によると醤油は17世紀から輸出されており、現在ではフランスなどでも和食や日本食ではなく、日常の調味料として使用されているということです。

読者の中には「フランスは寿司ブームだと日本のマスコミが報道している。それで醤油の消費が増えたんじゃないか」と思う方も居るかもしれませんね。確かに数年前まではその傾向もありましたが、2015年からフランス人の寿司離れが顕著になり、寿司店には閑古鳥が鳴いています。元来フランス人は生魚が苦手だったためです(クーリエ・ジャポン 2015年11月号p30より)。

というわけで、日本食・和食ブームのおかげで輸出が伸びたと断言できるのは米と日本酒と味噌だけです。他の食材については、中国料理やフランス料理やバーベキューなどで使用されている割合が高くて、日本食等ブームの影響は思ったより小さいと考えたほうがいいのではないでしょうか。

ちなみに、消費が伸びたとされる味噌ですが、平成27年1~11月の輸出金額は25億円です。同じく米は20億円です。清涼飲料水の182億円と比較するとあまりの差に驚きます。しかも清涼飲料水の輸出の伸びは数量でも金額でも味噌よりはるかに高いのです。主な輸出先はアラブ諸国です。数年前に聞いた話では、その甘みがアラブの消費者の好みにマッチしているとのこと。金額ベースで、清涼飲料水はホタテに次ぐ日本の輸出の看板商品なのに、なぜかこのことは報道されません。なぜでしょうね。

さて、以上より、日本の食品の輸出が伸びている主因は、日本食ブームでも、ましてや和食ブームでもないと考えられることをお話しました。しかし、日本の食材が中華料理とかフランス料理とかの材料として非常に優れているという理由で購入されている訳ですから、日本の食材が諸外国のあこがれを受けていることは事実と思います。このことは私たちに大きな勇気を与えてくれます。日本の農林畜水産業を誇りに思い、これからも世界から愛されることを願い、応援していきたいと思います。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする