タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

日経6月2日「コメとタンパクと食文化」記事は事実関係を取り違えている。

2024年06月16日 | Weblog
このようなことを言うのは申し訳ないですが、コメ関連の話題については、大勢のマスコミの方がなんか誤解されているようです。特に、今回はこの記事でその傾向を感じました。

記事にはいろいろな誤解が含まれていました。
例えば冒頭では宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」を引き合いに出して、昔の日本人は玄米4合を食べていた、と記者が断言しています。でもあの詩のラストは「そういう者に私はなりたい」オチです。「私宮沢賢治は実際はそんなにたくさん米を食べてないので、もっとたくさん食べるようになりたい」という詩ですよ。

時代背景を知れば賢治の意図が分かります。
まず第一に、昭和5年の大豊作で米の価格が大暴落します。そこへ昭和6年は東北地方で大冷害が。賢治は岩手の農家の困窮に心を痛めたのでせめて自分も慎ましい暮らしをしようと心に誓ったのです。お金持ちのボンボンなので、魚でもかまぼこでも納豆でも様々なおかずを買えるのに、あえて安いお米で腹を満たして、あとは味噌と少しの野菜だけで腹を満たす人になりたい、と心に誓うことで、貧しい人の立場に寄り添いたかったのではないでしょうか。

第二の理由ですが、この当時、玄米を食べれば他の食品は不要だという変な説が都会で広まっていたので、賢治もおかしな健康情報にかぶれてしまったようです。

というわけで、宮沢賢治の詩を根拠に昔の日本人はみんな玄米4合食べていたなんて言うのは大間違いです

そもそも論を言うと、戦前の日本人は階級や地域によって違う物を食べていたので、米消費量の平均値をどうこうこと自体あまり意味がありません。そばや雑穀ばかり食べていた家庭もあったし、うどんの多い家庭もあったし、都会のハイカラ家庭はパン食を常食していました。日本人全員が米を食っていたなんて主張は歴史の勉強不足ですよ。

さて、次に記者は慶応大学教授の「白米を食べると頭が悪くなる」という説を紹介して「日本の食卓にごはんが並ぶ機会は結果的にその後減り続けた。日本的な食生活が後退したからだ。」と玉虫色の文章を書きました。さらっと読むとこの説のせいで米消費が落ち込んだように読めるが、実はそんなこと一言も言っていない文。誤読させる気満々で書いてますね?良心が痛みませんか?

次に記者は、牛のゲップで地球温暖化しているからお米の価値を見直す機運が来ていると言うのですが、これもとんでもないです。日本の温暖化ガス(GHG)排出量は11億7000万トンで、うち牛のゲップはたった772万トン(2021年データ)です。温暖化ガスは主に自動車などの工業や電気関係から出ているけど経済新聞としてはトヨタなどの批判を書けないから、牛のせいにしてるんですよね。

まあその次の段落の、米タンパク質の機能性への期待は、医学的研究取り組みは多様性があった方がいいから納得して読みました。しかしさらに次の段落で、米に含まれるタンパク質を増やすことで食糧問題を解決出来ると考える某先生を紹介しているので、ああやっぱりだめかと落胆しました。
某先生の着眼点は悪くはないのですが、実はお米のタンパク質を増やすことは、お米嫌いを増やすことと同じなんです。
もちろん記者も、日本人はタンパク質の多いお米を嫌うと書いていますが、某先生の助言により、インドでは米のタンパク質が嫌われてないどころかむしろ品種改良の目標になっていると述べています。

インドがそうだから日本も可能というのは楽観視しすぎです。なぜなら、現代の日本人は本当に本当にお米のタンパク質が苦手で、タンパク質が多いと食味評価が落ちて価格や地域の評価まで下がるんですよ。
毎年米の味について、あそこの産地のコシヒカリは特Aを取ったとかあそこの産地はA評価だったとマスコミが報道するでしょう?あの評価で、各市町村は毎年一喜一憂しているんですが、評価に重大な影響を与えるのがタンパク質です。タンパク質が多いほど雑味がある米として評価が落ちるんです。
だから地域としてはなんとしても低タンパクのお米を作って、うまい米の産地としてマスコミで大きく報道されたいのです。記者さんもこんな米業界の事情を知っていたら、ここまで楽観的な記事は書けなかったでしょうね。

どうしてもお米にタンパク質を多く含ませたいなら、いっそのことグルタミン酸などのアミノ酸をガンガン蓄積させる方向で育種しては。そうすれば、味の素を入れてないのに最初からうまみがついている米になります。チャーハンなどに使えば美味しいと言われるかもしれません、楽観的な意見ですが。

さて、記事の最後は、米のタンパク質含量を増やすことで、大切な主食を未来に伝える一助になると期待したいと述べています。いやいや、米はそんなことしなくても十分に日本人の主食でありつづけますよ。だって、日本人に聞けばほとんどの人が、主食は米だと言うじゃありませんか。それにも関わらず消費量が減退したここ最近の理由は、少子化とITの浸透が主因です。パクパク大量に食べる若者と肉体労働が減れば、そりゃお米の消費も減るわけです。

消費は減っても日本人の心の中で常にお米は主食です。だから、変な杞憂をこじらせて、米のタンパク質を増やせだの、唐突に米で頭悪くなる説を出して前後関係が不明瞭な文章を書くのは、もう止めてください。統計データと豊富な科学的な知見に基づいた良質な記事を期待しています。

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