心理学の本(仮題)

【職場に】心理学書編集研究会(略称:心編研)による臨床心理学・精神医学関連書籍のブックレヴュー【内緒♪】

【心理療法って】イギリスでは,アメリカでは【効果あるの?】

2006-03-16 13:09:20 | 効果・実証・エビデンス関連
 アメリカでは、ビジネスは能率第一、アメリカでは、お金と時間の無駄をはぶき、最小のお金で最大の利益を上げ、最小の時間で最大の効果をおさめます、アメリカでは、ビジネスの交渉は全部オフィス、社用族の接待戦術はありません……「アメリカでは」(作詞:谷川俊太郎,作曲:黛敏郎)より


 さて,先日のエントリ「精神分析的心理療法はエヴィデンス・ベーストの夢を見るか」にて,「次はCBTでやりまあす」とノンキにぶち上げたわけですが,いやあなかなかどうしてどうして。そこで,そこにいく前に,「効果研究」と「EBM」について,ちょっとまとめとこうと思った次第なんですわ。今日は「効果研究」ということで。
 まあpsy-pub風情がいくら頑張ったところでyour businessですから,そこらへんは気楽にいこうと思っとります。賛成の場合はパー,反対はグー,付け足しはチョキの合図にて,異論反論オブジェクションお待ちしてますヨン。


イギリスでは,


心理療法の効果
H.J.アイゼンク著 大原健士郎,清水信訳
誠信書房 1969

 まずはこれからってことで,Amazonでもbk1でも既にデータなく,リンクなしですが,御存知アイゼンクさんです。ドイツ生まれの大陸合理主義者が経験主義の国イギリスに来て,何を見たのでしょうか……なんつう思わせぶりで適当な感傷はさておいても,これ原著は1965年に出ております。一言でまとめると「精神分析意味なしだから行動療法やりなさい」って感じかな。理論的立場からすると,至極まっとうな結論ですな。ちなみに1960年にメラニー・クラインが逝去しておりますからそういうのもあったかもしれない(まあその前からずっと研究してたんだろうから,関係ないだろうけど)。
 ちなみに効果研究自体はアイゼンクさんがはじめてというわけではなく,アメリカのFiedler, E.E.さんなんかは1950年にすでにやっていたようですね。



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 アイゼンクさんと論争したことで知られるバーギンさんですね(現行版は「ヒルガード」方式ですな)。やっぱり「Therapist variables in psychotherapy process and outcome」なんかを考慮するところが,絶対アイゼンクさんは納得しないんでしょうねえ。でも力点としてはCBTに重点が置かれてると思います(特に現行では)。



What Works for Whom?: A Critical Review of Psychotherapy ResearchWhat Works for Whom?: A Critical Review of Psychotherapy Research
Anthony Roth Peter Fonagy

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 CBT関連の本では,必ずといっていいほど,1996年版の図表もしくは引用がなされているのではないでしょうか? そうです,皆さん一度は見たことあると思います。そういう意味ではバイブルといえるかも。「精神分析が敗北を認めた」とも言われたりしますが,どうなんだろう? あんまりそういう単一的な結論でもないような気がするんですが,必ずしも批判的ではなく,両者からよく引き合いに出されてる感じがしますね。


アメリカでは,


心理療法の比較研究 : 説得と治療
ジェローム・D.フランク著 酒井汀訳
岩崎学術出版社 1969

 ところ変わってこちらはアメリカ。1961年の原著。むろん品切まくり。フランクさんはなんて言ったらいいんだろうか,まあ無難に力動精神医学の人って感じかな。サリヴァンとかに近い? まあそんな感じ(と思う)。
 結論的には「異なる心理療法が効果を表す場合,それは異なる様相というよりも共通の様相によるものである」とかなんとかいってますね。これも理論的立場からすると,至極まっとうですな。ただ,アイゼンクさんのより実証性という意味では,弱いのかな。緻密には考えようとしてるとは思うけどね。

 ちなみに,この本,実はちょっと前まで版を重ねておりましたね(日本語訳はされてないけど)。



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 新版,読んだことないんですけど,結論変わったなら書名を変えるだろうから,まあそのままなんでしょう。娘さん(?)との共著になっておりますね。



The Heart & Soul of Change: What Works in TherapyThe Heart & Soul of Change: What Works in Therapy
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 ぐっと時代は飛んで世紀末アメリカ。まあその間に「メニンガー精神療法研究プロジェクト」なんかもあったりしたんですが,鳴り物入りで始まったわりには,これはちょっとマニアックに終わっちゃった感じがしますね。
 鏡スコットもとい,スコット・ミラーさんと,ツインタワーのティム・ダンカンもとい,バリー・ダンカンさん,元祖バブルガムブラザーズもとい,マーク・ハブルさんらの労作ですね。Heart and Soul Changeって,「心霊手術」みたいですが,そういうのじゃないですよ(ワカットル)。スイマセン,内容読んだことないもんで,つい出来心で……。気を取り直して次へどうぞ!



心理療法・その基礎なるもの―混迷から抜け出すための有効要因心理療法・その基礎なるもの―混迷から抜け出すための有効要因
スコット・D. ミラー マーク・A. ハブル バリー・L. ダンカン

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 上記てんぷくトリオ(失礼)の名著『Escape from Babel: Toward a Unifying Language for Psychotherapy Practice』(バベルの塔から怪鳥ロプロスに乗って脱出敢行)の翻訳といえばこれ。結構面白くて,とってもオススメです。
 結論から言うと,治療の効果の内訳は,「治療外要因40%」「治療関係30%」「プラシーボ効果15%」「理論・技法15%」。なかなか含蓄深い結果であります。たとえば,村瀬嘉代子先生の「6日と23時間」とか大野裕先生の「治療者のパーソナリティにあった治療」とか,そういうことが連想されますね。

 こうして見てくると,認知行動療法のメッカ,イギリスはさすが実証主義の国って感じがしますなあ。キーワードは「実証性」。でもタヴィストック・クリニックなど,現代精神分析のメッカでもあるんですよね。不思議な感じ。関係ないけど,キャロルもジョイスもイギリス人。やっぱEnigma the mysteryですねえ。

 一方アメリカ。さすが,ロジャーズやサリヴァンやオグデンを生み出した国という感じでしょうか。キーワードは「関係性」。もちろん,認知行動療法だって盛んですよ。Crits-Cristophとかね,すごい緻密なマニュアル作ってます。これはアメリカらしいといえばとてもアメリカらしいね。

 あとはねえ,

 フランスでは,精神分析といえば,ラカンです。
 ドイツでは,保険が利くのは,精神分析療法行動療法イメージ療法(KBI)
 アルゼンチンでは,ビオンがとっても有名です
 日本では,世界で一番ユング派多い……

 まあ次は,そもそも「EBM」ってなんじゃらほいということ。


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (【家族心理.com】管理人)
2006-03-16 14:53:48
今日のレビューも勉強になりました。

あまりの内容の厚みに感銘です。



 ところで、アメリカって一見「効果」「実証」を前面に押し出しそうなのにも関わらず、「関係性」などとむにゅむにゅ言ってるのはなんででしょ。

 単純に「いいやつ」を押し出したいからかな?ヒスパニック層が多いからかな?とか想像して見たり・・・ 牧師のかわりかなあ・・
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わからんのですが (psy-pub)
2006-03-16 19:47:04
「関係性」という語を持ち出したのは,サリヴァンとかロジャーズですが,彼らがいわば直感的に「関係性,大事,萌え」としたのに対し,ランバートたちは多くのレビューを通じて,「関係性」というキーワードを導き出したということです。

この違いは大きいような。



ま,「関係性」をロジャーズなんかが持ち出したのは,「関係性」がかの国に育ちにくい環境があったからじゃないですかね。



あ,すげーいま,テキトーに応えてます。
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打ち間違いかな (nana)
2006-03-17 01:59:26
>結論から言うと,治療の効果の内訳は,「治療外要因30%」「治療関係40%」「プラシーボ効果15%」「理論・技法15%」



「治療外要因40%」「治療関係30%」

で、パーセンテージが、逆ではないかしら。
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ありゃりゃ? (psy-pub)
2006-03-17 10:10:12


>nanaさま



 御指摘ありがとうございます! 大事なところ打ち間違えちゃってますねorz 早速修正しますた。



 また,大変有益なTB,ありがとうございます。もうこういう情報は本当どんどんお知らせしていただきたいです。他の皆さまもぜひぜひご覧下さい。
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Unknown (nana)
2006-03-17 19:48:23
psy-pubさま

修正、乙です。

おすすめ、恐れ入ります(*^^*)。
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