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『まぼろし』

まぼろし

2001年、フランス映画。
この時、主役のマリー演じるシャーロット・ランプリングは55歳。

まず、彼女の美しさに息を呑む。55歳!こんなに年齢を重ねてきた顔の皺の
美しい人は他にいるだろうか?彼女の視線や表情で多くを語る凛とした演技が
とても印象的だ。

長年連れ添った伴侶が、バカンスでやってきた海岸で、泳ぎに行った
まま姿を消す。失踪なのか、事故なのか、それとも自殺なのか。
自殺だとしたら彼に何がおきていたのか?
行方がわからないまま、マリーは夫になにが起きたのか理解できない
まま、現状を受け入れることができず、受け入れようとせず、苦悩する。

愛するものを失ったとき、人はどのように心の整理をし、それを受け入
れるのだろうか・・・

やがて長い心の旅を終えた彼女が、夫の死を受け入れる時、
その深い愛は、彼女の心を満たしていく・・・

・・・と書いてしまうと簡単なのだけれど、その長年連れ添った夫とのさりげない
時間を過ごすマリー、夫を見失った時の困惑するマリー、夫の死を理解しない
まま悲しみの中夫のまぼろしに救われるマリー、夫が波に消えていった
浜辺で嗚咽するマリー・・・・そしてすべてを受け入れたマリー・・・・・。
どのシーンをとってみても、その心の葛藤が美しくて、シャーロット・ランプリング
が美しくて、最後の海岸のシーンなどは、もう言葉を失う。

中でも、マリーが、マリーを気に入っている男性ヴァンサンに、ヴァージニア・
ウルフが入水自殺をする前に残した言葉を語るシーンがあるのだけれど、
その時のシャーロット・ランプリングの表情が素晴らしかった。

「気が変になりそう。声が聞こえてきて仕事に集中できない
の。努力したけどもうこれ以上耐えられない。貴方のおかげで私は
しあわせでした。愛しい貴方の人生を台無しにすることは出来
ません。」

この映画の最後で、マリーが夫の死をみとめ嗚咽するシーンがある。
確かにマリーは死を受け入れるのだけれど、
ただ、そのとき、彼女はその悲しみを乗り越え現実に戻れたのか、それとも
乗り越えられずに夫のまぼろしと生きていくのか・・・・
その辺は私ももっと年齢を重ね、そして伴侶を失ったその時にならないと
わからないのかもしれない、と、そんな事を思った。

ちなみに、この『まぼろし』、フランス映画で、原題は「Sous le Sable」直訳すると
「砂の下」だそうです。
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