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『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/不在の皇妃エリザベート

2008-01-12 | RUDOLF The Last Kiss
 アンサンブルキャストが発表された『ルドルフ』東宝公式サイトにも、ハンガリー版同様、エリザベート役はやっぱりありませんね。
 政略結婚で勢力を拡大し続けたハプスブルク家としては例外的に、ルドルフの両親フランツ・ヨーゼフとバイエルンの王女だったエリザベートは恋愛結婚です。当初はエリザベートの姉がお妃候補だったのに、フランツ・ヨーゼフがエリザベートの美貌に一目ぼれして強引に結婚したのだとか。彼は生涯を通じてこの美しい妻の虜だったそうです。
 エリザベートが血を受け継いだバイエルン王家には強い近親婚に起因するとされる精神障害の遺伝が認められ、エリザベートの従弟はあの狂王ルードウィヒ2世です。ベジャールが振付け、シルヴィ・ギエムが踊った『シシィ(エリザベートのあだ名)』には、空気が破片になって飛び散るようなエリザベートの神経の昂ぶりが描かれていますが、彼女は皇妃としての生活に精神的に耐えられず、宮殿から姿を消すことも多かったそうです。
 ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画『ルードウィヒ 神々の黄昏』にも、ルードウィヒの城をエリザベートがふらりと訪ねるシーンがあります。映画を見た当時はてっきり演出かと思っていましたが、これは事実で、今思えばウィーンには夫とまだ幼いルドルフが残されていたのですね。
 ルドルフのマイヤーリンク事件にも、読んでいて息のつまるような精神の閉塞を感じますが、それがバイエルン王家の血によるものなのか、そうした近親者の姿を見て抱く強迫観念によるものなのか、複雑に入り乱れていて言葉が出ません。
 舞台上では不在でも、ルドルフの、あるいはフランツ・ヨーゼフの心を常にかきたて、揺さぶるエリザベート・・・フランク・ワイルドホーンのこの作品では、彼女の存在そのものが、人の心の交錯する「舞台」なのかもしれません。