いい日旅立ち

日常のふとした気づき、温かいエピソードの紹介に努めます。

平成最後の大晦日に~12月の歌~

2018-12-31 17:52:33 | 短歌


今年もいろいろあったが、
もうすぐ
新年が来る。
今年を振り返りつつ、
12月の歌を
4首挙げたい。

‥‥‥

家をめぐりて 落葉のしぐれの音ひびく 12月8日 われは眠らず(岡野弘彦)

吊されし千尾の鮭をふり仰ぐ口の尖れる訳も聞きつつ(来嶋靖生)

明日は明日の清しさあらんひとりなる大つごもりの灯を消さず置く(尾崎左永子)

「よかよか」と是も非もひろく受け容れて阿蘭陀冬至にむかふ坂のまち(松本典子)


葬送の歌~森山晴美~

2018-12-31 17:35:36 | 短歌


死の歌は多いが、
葬送そのものを歌った歌は、
意外に少ない。
しんみりとした、
そのときの歌も、貴重である。
現代の歌人のひとり、
森山晴美が、
その、葬送の歌を
作っている。

‥‥‥

なきがらを囲めと言はれひたひたと我等は寄りつ仰臥のひとに

努めたる生の渚の果てに在す君を送ると佇むわれら

故郷より弟妹二人しづかにて面差し通ふさまも身に沁む

納棺師ふたり現れ亡き人を荘厳のさま我等に見しむ

人気の歌人梅内美華子の歌~その1~

2018-12-30 20:17:41 | 短歌


梅内美華子は、
現代を代表する歌人である。
写生と、叙情。
人生のさまざまなとき、景色を
淡々と歌う。
息の長い専門家であり、
多くの歌詠み人に愛されている。
歌論にも定評がある。

‥‥‥

脊椎のやうなる棒に支へられ秋に立ち上がる皇帝ダリア

大雨を生き残りたる虫たちの誰かをさがすやうな細鳴き

歌会を終へて出づれば後の月「ふつうにご飯」に行く若者は

お守りの鈴を鳴らしてお爺さんのパジェロは紅葉のドライブに行く

三枝浩樹の歌~青春~

2018-12-30 20:07:35 | 短歌


現在、青春を歌う歌人といえば、
三枝浩樹であろう。
平凡な日々を歌う。
かろやかに、
ひょうきんに。
具体的な情景をえがきながら、
そこには、
なにか
寂しい風情も漂っている。

‥‥‥

路地を入ったちいさな店がなくなりぬ「かみふうせん」の看板がない

「かみふうせん」のおばさん優しかりしこと 不良・はみだしにはことのほか

お好み焼き食べたい百円しかない子「アイヨ」と応え作りくれしよ

選りまどう駄菓子あれこれ ゆるやかに寄り道の時きみにながれて

卒寿を超えた歌人尾崎左永子の歌

2018-12-30 19:49:30 | 短歌


現在も活躍する
高齢の歌人の代表と言えば、
尾崎左永子であろう。
老いと病に向き合いながら、
さまざまな感動、苦渋を歌い続けている。
現在は、入退院も多いが、
老境にある歌人の在り方を示す人として特筆すべきである。

‥‥‥

残生は確実に減る過程にて色淡き月光に照らさるるいま

屹立に近き日々なり甘え得る人なきもわれの孤独のひとつ

ことしの暑き夏には海辺に出でざりき朝の病床に潮騒とどく

戦中戦後ひたすら生きて九十年夢の一生といふはたやすし


父の死に臨んで~浜名理香~

2018-12-25 17:49:11 | 短歌


浜名理香は、
肉親の情を
多く歌に詠んだ。
自然な感情の流れ、
的確な描写の力が
その骨格をつくっている。
父との別れを詠んだ句を
挙げてみる。

‥‥‥

頭からかぶってすとんと膝に落つ夏の喪服のワンピースの裾

七曜のひと日ひと日の波かがしらくぐりて父の今日七七忌

お母さんが嫌わないかと言いだして置きまどう父の骨壺の場所

精進を落としにきたる昼餐の卵のスープ連華に掬う

夫と妻~その別れ~

2018-12-25 17:29:27 | 人生


歌人の永田和宏と河野裕子は、
高名なおしどり夫婦であった。
河野は、54歳の時
乳癌に罹患し、
10年の闘病生活ののち、
64歳にして自宅で息をひきとった。

その別れの場面は、
何度読み返しても
涙を誘われる。

それまで裕子の顔の横で
「おかあさん!」と
呼びかけ続けていた娘の紅が、
いよいよといいうとき、
永田に声をかけ、
席を移した。

以下は、
永田が綴る、
そのときの様子である。

息がとまったとき、
「裕子」と呼んだのだったか、
「行くな」と叫んだのだったか。
その私の声に応じるかのように、
裕子はもう1度だけ息を吸ってくれた。
私への最期の思いやり、
精一杯のいたわりだったのだろう。
彼女の耳に最後に届いたのが
私の声であったという確信は、
これからの私を
いろんな面で救ってくれることになるのだろう。

「老いらくの恋」川田順

2018-12-24 20:10:46 | 短歌


歌人川田順は、
歌人であるとともに
実業家であった。
住友本社の常務理事まで務めた。

退職後は、
妻と死別し、
京都に住み、
「新古今集」の
研究に没頭していた。

ところが、
ここで、
京都大学教授の妻、
俊子と恋愛事件を
引き起こしてしまう。

俊子は離婚し、
川田と27歳年下の俊子は、
神奈川県国府津に住むようになる。
「老いらくの恋」として、
有名になった。

その頃のことが、
以下のように歌われた。

わが夢は現となりてさびしかり田舎のすみかに枕を並ぶ

水野昌雄の歌~その1~

2018-12-24 19:58:54 | 短歌


水野昌雄は、
すぐれた自然詠、社会詠を
多くつくっている。
研ぎ澄まされた目、
温かいまなざし、
ときにするどい見方。
次々に名歌が生まれている。

‥‥‥

それぞれの草は自立したくましく群れをなすとき雑草とよぶ

立葵土手の斜面に散在すまっすぐ伸びて花は明るく

除草機は唸りをあげてすすみ来て立葵の花もなぎ倒していく

さまざまな事件の続くこの国に賭博犯罪さらに増えゆく

誕生日を迎えて

2018-12-24 19:48:00 | 人生


今日で、67歳の誕生日を迎えた。
いろいろあったけれど、
後悔せず、
前を向いて歩いていこうと思う。
多くの師、肉親、友人、先輩、後輩、に恵まれた。

幸運だったのは、
いくら失敗しても、
間違えても、
100人のうち99人に
見放されたと思ったときも、
必ず支持してくれる人が
現れたこと。

常に配慮してくれる人がいて、
守られてきたことを、
改めて思う。

感謝の念を忘れず、
命尽きるまで
精進したいと思う。

障害と人生

2018-12-17 18:13:14 | 人生


パラリンピックなど、
を契機として、
障害を持つ人への
関心が高まっている。

なかには、
「障害をもっていても同じ人間、区別してはいけない」
という趣旨の発言もある。
それはその通りだし、
ある意味では、
全ての人が障害を持つ、
という見方もできる。

しかし、
ことはそう単純ではない。
障害が重いばあい、
特別な配慮が必要なこともあるのだ。
少なくとも、
障害の程度、内容はよく知って、
対応しないと、
その人にとっても
難しい問題をつきつけることもある。
差別ではなく、
理解が必要なのだと思う。、

地域や組織の中で
問題を解消しようとするのは
大事だ。
しかし、
その反面、
障害の内容への理解を
深めることもまた、
問題への解決を
進める契機となることも
心しておきたい。

自戒をこめて。

不運な歌人正岡子規と凡河内躬恒

2018-12-17 17:42:43 | 短歌


短歌を読んでいると、
人生において、名誉や地位をわがものにしながら、
実は、
大変な苦労や不運に見舞われる人が多いのがわかる。
そういう意味で、
普遍的な幸福とは何か、
という思いを馳せることは多いのである。
人生の幸福とは何か、という思いに誘われるのだ。
そういう意味で、
歌人やその作品を紹介している。
波乱の人生は、
われわれにも身近なものと
感じられるのである。

古今の短歌のうち、
人生においては
不運であった
2人の歌人を確認したい。

ひとりは、
「古今集」の選者であり、
そのなかで
紀貫之に次いで
多くの作品をとられた
凡河内躬恒がいる。
歌壇的には高名であったが、
この世における地位は低く、
殿上人にもなれなかった。
代表歌は以下のとおりである。

今日のみと春を思はぬ時だにも立つことやすき花のかげかは

一方、
明治時代に、
短歌を革新し、
古今集以来の
華美な歌を批判した
正岡子規。
肺結核とカリエスのため、
闘病生活ののち、
34歳にして逝った。
代表歌のひとつを挙げる。

いちはつの花咲きいでて我目には今年ばかりの春ゆかんとす

平凡な生活を続けるわたしたちと変わらない、
ときにはもっと悲惨な人生を送る人が
多いことを思う。












水原紫苑の歌~その1~

2018-12-15 22:57:58 | 短歌


水原紫苑は、春日井建に師事した。
雄大な歌、自然の歌、空想の歌を
つくった。
月や太陽の歌にも優れたものがある。

‥‥‥

朝露の花の目覚めに立ち会へばわれの一生に恋なきごとし

御衣黄のさみどりわれは土民にて高貴の花に近づきがたし

後の世はやまざくらばな、けだものの犬と交わり鬼を生むべし

水と花とわれのあはひに翁在り恋とは突然変異に似たり

高野公彦の歌~その1~

2018-12-15 22:39:57 | 短歌


高野公彦は、
新聞歌壇の選者として
有名である。
自然と人生の機微を
健やかに歌う。

‥‥‥

無数なるいのち養うこの星のオーラのごとし夕あかね空

白鷺は鳴かず飛びをり天地の間身一つで行き身一つで死ぬ

やはらかな大和の歌のひらがなのやうな息してねむるみどりご

月浮かび真澄の夜半となりにけり誰も名のなきいのちの始め

歌論にも優れた三枝昂之

2018-12-15 22:25:24 | 短歌


歌論にも優れたものを書いた、
三枝昂之。
歌の歴史も踏まえた、
現代的な作風で知られる。
自然を詠み
人を詠んだ。

‥‥‥

それぞれの暮らしの襞を垣間見せ江戸屋横丁伊勢屋横丁

立志像となりたるかなり果てたるか高杉晋作突っ立ったまま

とはいえど走って走って走り抜く若さ眩しと思うときあり

こころざしは人を滅ぼす久坂玄瑞二十四歳高杉晋作二十七歳