いい日旅立ち

日常のふとした気づき、温かいエピソードの紹介に努めます。

将棋の短歌、というジャンル

2019-08-21 21:01:38 | 短歌


短歌には、あらゆるジャンルがある。
最近、
将棋の短歌、
というジャンルが確立されつつある。
将棋の対局や友人関係を題材にしている。

将棋を指していると、
あらゆる常識が問われていることを自覚する。
ある短歌は、後期高齢者で、
すさまじく強い方を詠んでいる。
例は、
次の機会に書く。

若い頃、重病に遭遇し(出会い)、
精神や肉体をを侵された方が、
復活される。
薬も飲まなくてもよくなっている。

そういうアマ高段者に、たくさん出会った。
将棋の効用の一つである。





ある男の信仰 三田和美の短歌⑥

2019-08-18 22:27:39 | 短歌


高校のクラスメートがいた。
真面目で、
いきるのがへたで、
つまづいてばかりいた。
が、愛すべき男だった。

彼は、信仰の道に入った。
しかし、彼の生きづらさは変わらず、
115首を残して、早逝した。

彼の短歌を読んで、どう思われるだろう?

……

差し出せる 救いのみ手に ハイとただ素直にのるが 一念のとき
うれしやな 何ともないが そのままに 一念の信に 蓮華花咲く
業道は 悲しいけれども み仏の 仰せ一つに ほほえみてぞ生きる









梅地和子さんの歌②

2019-08-15 22:20:38 | 短歌


初孫をいとほしみつつ胸満たす友の掌にある確かな力

……

初孫が生まれると、うれしいものだ。
おじいちゃん、おばあちゃんたちの喜びは、
通り一遍ではない。
両親より、もっとかわいがる。
老いた友が、赤ちゃんをかわいがる。
胸がはりさけんばかりに。
子は宝。
孫は黄金。
衰えていたはずの掌に強い力が残されていたことを実感するのである。





青春の歌 栗木京子の代表作 観覧車

2019-08-14 23:12:48 | 短歌


栗木京子は昭和29年愛知県生まれ。
京都大学時代から高安国世に師事。
代表歌を挙げる。

……

観覧車回れよ回れ想い出は君には一日我には一生

青春時代、好きで好きでたまらない人がいた。
ふたりで観覧車に乗った。
しかし、作者は知っている。
この人は、わたしと恋人になることはない。
それはわかっているけれど、
せめて一緒に観覧車に乗りたかったのだ。

君にとっては、私とは、最後。
でも、わたしは一生あなたのことを忘れないだろう。
君には1日
私には一生。

でも、先は長い。



母の歌、自分の歌~鳥居~副作用

2019-08-14 20:43:36 | 短歌


鳥居の歌

……

副作用に侵されながら米を研ぎ、とぎつつ呻くあの人は母

鳥居の母は、彼女が11歳のとき、自死した。
鳥居は、母を愛しつつも憎むという自己矛盾に苦しむ。
母は、精神科の薬を飲んでいたのである。
副作用もあるが、飲んだほうが良い。
あるとき、母は、薬を飲まなくなり、
結果として、自死した。
鳥居は、生涯、母の歌を詠い続けるであろう。

ひとつめの「研ぐ」と
ふたつめの「とぐ」が
対照的である。
ひとつめ「研ぐ」は、固く、厳しい。
では、
ふたつめの「とぐ」は、
なぜ、ひらかなのだろうか。
そこからは、
副作用に苦しみつつも
それに打ち克とうとして、
鳥居のためにがんばっている
「やさしさ」がくみとれる。

周知のように、
鳥居は、今は立派な社会人として、
障害者、マイノリティの味方として活躍している。
自らも、抗精神薬を飲みながら。

精神障害をもっていても、
人は
立派に活躍できる。

終の敵、終の味方~友情は死ぬまで続くか~

2019-08-13 19:43:13 | 短歌


一生付き合う親友というものは存在するのだろうか。
なかなかに難しい問題で、百人百様であろう。

ある歌人は、次のような短歌を詠んだ。

……

あかるさの雪ながれよりひとりとてなし終の敵、終の味方

……

作者は、60年代の学園紛争に加わった。
その苦い経験から、
死ぬまでつきあえるような人間などいやしない、
と言い切ったのである。

若い頃、
わたしは、私淑する先生に、
「君は、1人だけでも味方がいたらすごい力を発揮するんだよ」
と言われた。
それは、
身に沁みてわかった。
だれだってそうだ。
死ぬまで付き合う友など、
そうたくさんできるものではない。
「神様だけは死ぬまで味方よ」などと甘いことは言わない。
そんな事を言うと、笑われるだけだろう。

ところが、
そういう友が、できた。
普通の人なら一生でそいいう人がひとりいれば十分だろう。
が、
いま、終の友が3人いる。
「おれが生き残ったら、必ず葬式に行く」
と誓いあった。

かつて、
父が79歳で亡くなったとき、
「終の友」がひとりだけいたことを知った。
葬式にも来てくれた。
それは、どんなひとなのか。

次の機会に、書く。








職業訓練校にて~セーラー服の歌人⑥~

2019-08-02 09:38:03 | 短歌


セーラー服の歌人鳥居は、精神障害を持っている。
才能と、特異な体験を持っていると言っても、精神障害であると、
苦労は多い。
鳥居は、自立のため、職業訓練に通ったこともある。
しかし、そこでも、精神障害ゆえの苦しみを味わうのである。
精神障害治療のための薬は、副作用を伴うから、
使いすぎないほうが良い、というのは、常識である。

……

音もなく涙を流す我がいて授業は進む次は25ページ

障害ゆえ、気分の変動は激しい。
ちょっとしたきっかけでも心が沈むことがある。
その変動は、突然やってくる。
授業は進む。
しかし、障害は、鳥居に突然昔の悲しみを思い出させる。
自らの涙と
淡々と進む授業。
そこには、埋めるべからざる断絶があるのである。

……

セパゾンの袋をコートに隠しつつ「不安時」の印見られぬように

鳥居は、クラスメートに、自分が精神障害であることを隠している。
偏見のため、やむを得ないのだ。
セパゾンは、抗精神病薬で、不安や緊張を抑える。
普段飲んでいる薬では不安が和らがないとき、
「不安時」の頓服が処方され、
患者は、自分の判断で飲むのである。
しかし、クラスメートに見せるわけにはいけない。
学校に知られると就職に響く。
現在では偏見はおさまってきた。
求人には「障害者枠」というのもある。
だが、社会は、人情味豊かな人ばかりで構成されているわけではない。

……

強すぎる薬で狂う頭持ち上げて前見る授業を受ける

ときに、症状の重さの故、
大量の薬を服用することを強いられる。
頭が重く、淀んだ気分になる。

障害ゆえ、薬を飲まざるを得ない。
それで得られるものは大きい。
しかし、失うものは、これもまた大きい。








職業訓練校にて~セーラー服の歌人⑥~

2019-08-02 09:38:03 | 短歌


セーラー服の歌人鳥居は、精神障害を持っている。
才能と、特異な体験を持っていると言っても、精神障害であると、
苦労は多い。
鳥居は、自立のため、職業訓練に通ったこともある。
しかし、そこでも、精神障害ゆえの苦しみを味わうのである。
精神障害治療のための薬は、副作用を伴うから、
使いすぎないほうが良い、というのは、常識である。

……

音もなく涙を流す我がいて授業は進む次は25ページ

障害ゆえ、気分の変動は激しい。
ちょっとしたきっかけでも心が沈むことがある。
その変動は、突然やってくる。
授業は進む。
しかし、障害は、鳥居に突然昔の悲しみを思い出させる。
自らの涙と
淡々と進む授業。
そこには、埋めるべからざる断絶があるのである。

……

セパゾンの袋をコートに隠しつつ「不安時」の印見られぬように

鳥居は、クラスメートに、自分が精神障害であることを隠している。
偏見のため、やむを得ないのだ。
セパゾンは、抗精神病薬で、不安や緊張を抑える。
普段飲んでいる薬では不安が和らがないとき、
「不安時」の頓服が処方され、
患者は、自分の判断で飲むのである。
しかし、クラスメートに見せるわけにはいけない。
学校に知られると就職に響く。
現在では偏見はおさまってきた。
求人には「障害者枠」というのもある。
だが、社会は、人情味豊かな人ばかりで構成されているわけではない。

……

強すぎる薬で狂う頭持ち上げて前見る授業を受ける

ときに、症状の重さの故、
大量の薬を服用することを強いられる。
頭が重く、淀んだ気分になる。

障害ゆえ、薬を飲まざるを得ない。
それで得られるものは大きい。
しかし、失うものは、これもまた大きい。








セーラー服の歌人鳥居④~精神病棟の中で~

2019-08-02 07:30:34 | 短歌


セーラー服の歌人鳥居。
入水による自殺未遂のあと、彼女は精神病棟の中にいた。
自殺未遂をしたあと、助かれば、まず精神病棟に収容される。

……

植物はみな無口なり自死できず眠ったままの専門病棟

入水自殺に失敗した鳥居は、精神病棟の中で横たわっていた。
そこは、無機質で、蠟のようである。なにか、生気がない。
まるで植物のように。
重症患者は、大量の薬を投与され、眠り続けることになる。
そこは、死の世界であるかのような匂いを漂わせる。

……

錆びているブーツの金具 入水した深夜の海を忘れずにいて

深夜に入水自殺を図った鳥居。
履いていた、錆びたブーツよ、
苦しかったわたしのことを忘れないでいて、
と呼びかける。
わたしは、たしかに存在していた、
ということを世が忘れないように…

……

「精神科だってさ」過ぎる少年は大人の声になりかけていて

精神病棟の中で眠る鳥居。
外から、少年の会話が聞こえてくる。
「ここ、なんの建物?」
「精神科だってさ」
違った人種だと言われるようで、寂しさを増す。
少年は、こうして大人になりゆく。
大人になりかかった声が、それを物語っている……






自死しようとしたセーラー服の歌人鳥居④

2019-08-01 22:18:07 | 短歌


セーラー服の歌人鳥居は、自死しようとして、
海に飛び込んだことがある。
さいわい、人に見つけられ、助け出された。
その時の歌。

……

助けられぼんやりと見る灯台はひとりで冬の夜に立ちおり

助け出され、寝かされている。
あたりには、人がいる。
灯台をじっと見ながら、鳥居は何をしたらいいのかわからないでいる。

……

入水後に助けてくれた人たちは「寒い」と話す夜の浜辺で
自殺未遂に終わったが、
孤独感はかわらない。
話している人々と同じ人間だ、という感じがしないのである。

……

病室は豆腐のような静けさで割れない窓がひとつだけある

自殺未遂後に精神病院に入ったのだろう。
夜は、ひっそりとある豆腐と同じようなやわらかさ、静けさの中にある。
これから、どう生きていけばよいのか、そのことさえわからずに呆然としているのである。

施設でのいじめに耐える~セーラー服の歌人鳥居③~

2019-08-01 22:02:32 | 短歌


セーラー服の歌人鳥居は、
身寄りがなくなり、
児童養護施設に入所した。
そこには、激しいいじめが待っていた。
自らを守ることもできず、
鳥居はひたすら耐えた。

……

全裸にて踊れと囃す先輩に囲まれながら遠く窓見る

裸になって踊れ、と先輩に囃される。
恥ずかしいなどとは言っていられない。
拒否したらどんないじめが続くか、わからない。
踊る。
そのとき、窓から遠くの景色が見えた。
なんとも言えない風景である。

……

爪のないゆびを庇って耐える夜「私に眠りを、絵本の夢を」

いじめられ、指の爪をはがれてしまった。
痛いが、耐えるしかない。
眠りたい。
遠い昔に読んだ絵本の夢を見たい。
あんなに幸福だった、あの頃に帰りたい……













母の自死~セーラー服の歌人鳥居②~

2019-08-01 21:18:14 | 短歌


鳥居の両親は、彼女が2歳のときに離婚してしまう。
そして、小学校5年のとき、
精神を病んでいた母は、自死してしまう。
学校から帰った鳥居は、なすべくもなく、座り込んでしまう。
知らせを聞いて駆けつけた警官は、強い冷房をかける。

……

冷房をいちばん強くかけ母の死体はすでに死体へ移る

それは、母であっても母ではない死体である。

……

灰色の死体の母の枕にはまだ鮮やかな血の跡がある

首を切って、出血多量で死んだのだ。
あたりには、血がにじむ。
鮮やかな血。

……

透明なシートは母の顔覆い涙の粒をぼとぼと弾く

まだ11歳である。
病んでいた母とはいえ、たったひとりの頼りだった。
透明なシートをかけられた母の前で、
鳥居は泣く。
涙が頬をつたう……

自殺してはいけない。
あなたの周りにも、あなたを必要とする人がいる……








友達の飛び込み自殺の瞬間~セーラー服の歌人鳥居①~

2019-08-01 20:59:45 | 短歌


鳥居は、様々な苦難を経て、現在は歌人、小説家として活躍している。
激しい体験を多くする。
それらを、詠う。
今回は、中学生の時に、友人が飛び込み自殺をしたときの歌。

……

しゃがみこみ耳を塞いだ友だったあんなに大きな電車の前で
……
友人が自殺したいというのである。
鳥居が引き止めるが、友人は、踏切を越えて、線路の上に座る。
そして、電車が来る、
彼女は耳を塞ぐ……
……
警報の音が鳴り止み遮断器が気づいたように首をもたげる

電車が来た。
遮断器が降りる……

そして電車は行ってしまう。
あとには、なにもなかったように、
静けさがおりる。
線路にはもう友人はいない。
雪が降っている。
彼女は、天国に行ったのだろうか?
……

君が轢かれた線路にも降る牡丹雪「今夜は積もる」と誰かが話す

森閑とした冬の雪が降る……

鳥居~セーラー服の歌人~自死と虐待を超えて

2019-08-01 17:29:46 | 短歌


鳥居。
セーラー服の歌人。
はるか昔に中学を中退した。
そののち、中学に復学することを志願。
ところが、学校は、すでに中学を卒業しているから、
と受け入れなかった。
そこで、鳥居は、抗議の印として、
公式の場にでるときは、必ずセーラー服を着用することにした。
これを機に、文科省が動き、2015年、中学の形式卒業者を夜間中学校に受け入れるよう、全国に通達を出した。
鳥居は、凄まじい過去を持つ。
2歳のとき、両親が離婚する。
小学校5年のとき、精神を病んでいた母が、自死した。
のちに、そのときのことを繰り返し繰り返し作品にした。
それ以来、学校にはいけず、
小学校、中学校は不登校であったが、
国は、「形式卒業者」として、
中卒扱いとした。
既述のように、それに抗議して中学に通いたい、という彼女の願いが、
文科省を動かしたのである。
母が自死したあとは、叔父に虐待され、
養護施設に入っても凄まじいいじめを受けた。
成り行き上、あるときから、ホームレスとなった。
当然、漢字は書けない、読めない。
落ちている新聞を読んで、漢字を学んだ。
そして、あるとき、穂村弘の短歌に感動し、
作歌をはじめる。
歌人吉川宏志に手紙を出し、生い立ちを明かした。
彼から、歌を作ることを勧められ、
短歌の創作を始める。
2016年、最初の歌集「キリンの子」を出版。
歌集としては異例の2万部が売れた。
2017年、第61回現代歌人協会賞を受賞。
それ以来、作歌、小説創作を続けている。
現在でも、公式の場に出るときはセーラー服を着る、
と言われる。
作品は、少しずつ紹介するつもりであるが、
2つだけ例を挙げる。

①母が自死したときの歌

灰色の死体の母の枕にはまだ鮮やかな血の跡がある

②中学生の時、友人が飛び込み自殺をしたときの歌

しゃがみこみ耳をふさいだ友だったあんなに大きな電車の前で
警報の音が鳴り止み遮断器が気づいたように首をもたげる
君が轢かれた線路に積もる牡丹雪「今夜は積もる」と誰かが話す

彼女は健在であり、
限られた範囲ではあるが、情報を得ることもできる。
















と受け入れなかった。