名歌鑑賞㉒~栗木京子~現代感覚の歌人 2019-04-12 22:56:13 | 短歌 栗木京子。 京大の理系の学部を卒業した才媛。 昭和29年愛知県生まれ。 わたしの中では、ナンバー3の位置にある。 大好きである。 NHK講座の講師も務めた。 若々しい、颯爽とした歌が多い。 高安國世に師事。 「コスモス」を経て 「塔」選者。 …… 観覧車回れよ回れ思ひ出は君には一日吾には一生 「君には一日吾には一生」と対比される 時間間隔のずれは冷静に感じ取られている。 痛切でありながら、甘やかな青春の普遍性を感じさせる。
名歌鑑賞㉑~永井陽子~アンダルシアはと遠けれど 2019-04-11 21:53:37 | 短歌 永井陽子。 昭和26年愛知県生まれ。 「短歌人」編集委員。 「現代歌人協会」会員。 …… ひまはりのアンダルシアはとおけれどとほけれどアンダルシアのひまはり 上下が鏡像をなす歌。 アンダルシアへのあこがれを歌うが、 2つめのアンダルシアが切ない。 一度でいいから「アンダルシアのひまはり」を見てみたいと。 若くして、自死。夢はかなわなかった。 …… ゆふぐれに櫛をひろへりゆふぐれの櫛はわたしにひろわれしのみ
名歌鑑賞⑳~道浦母都子~催涙ガスの中 2019-04-10 21:17:42 | 短歌 道浦母都子(みちうらもとこ)。 昭和22年和歌山県生まれ。 70年安保に参加し、闘士として戦った。 獄中の歌もある。 「未来」に所属。 歌集に「無援の叙情」などがある。 …… 催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり 昭和55年に刊行された 「無援の叙情」は全共闘世代を代表する歌集として 広く読まれた。 催涙ガスにはレモンが有効だと言われた。 過激な場面に突如匂ったレモンの清冽な香りが 闘う個人の哀しみを誘う。
名歌鑑賞⑲~小高賢~家長という立場 2019-04-10 10:40:03 | 短歌 小高賢。 昭和19年東京生まれ。本名鷲尾賢也。 編集者時代に作歌を始め、「かりん」創刊に参加。 歌集に「耳の伝説」等がある。 戦後民主主義の洗礼を受けた世代にして、 「家長」「父の座」 というような存在がある。 …… 雨にうたれ戻りし居間の父という場所に座れば父になりゆく 鴎外の口ひげに見る不機嫌な明治の家長はわれらにとおき 暴力は家庭の骨子__子を打ちて妻を怒鳴りて日々を統べいる
名歌鑑賞⑱~高野公彦~北半球で朝顔開く 2019-04-09 22:45:32 | 短歌 高野公彦。 昭和16年愛媛県生まれ。 「コスモス」選者。 「桟橋」創刊。 歌集に「汽水の光」がある。 知的な作風に特徴がある。 …… みどりごは泣きつつ目ざむひえびえと北半球にあさがほひらき …… 眠っていた嬰児が不意に泣き出し、己の泣き声に自らめざめる時刻。 そして朝顔。ひえびえとしたしばしの時間が詠われる。「北半球に」 というとらえ方によって、俯瞰的な視線が確保され、大きなスケールを 感じさせる歌となっている。
名歌鑑賞⑰~石川不二子~農業開拓に生きた歌人 2019-04-07 23:05:43 | 短歌 農工大学を卒業し、 島根県、岡山県の開拓に 夫とともに従事した。 農耕関係の歌 子どもを詠んだ歌 など、生活を詠んだものが多い。 五男二女を育てた。 自然詠にもすぐれたものがある。 「竹柏会」で佐々木信綱に師事。 次の歌は、具体的で力強いことで有名である。 …… 睡蓮の円錐形の蕾浮く池にざぶざぶと鍬あらうなり
名歌鑑賞⑯~たった一つの表情~ 2019-04-06 20:45:50 | 短歌 現代短歌のベスト5に入る歌。 小野茂樹作。 …… あの夏の数限りなくそしてまたたった一つの表情をせよ …… 一緒に過ごしたひと夏の時間。 その時間の中であなたの数限りない表情を見た。 あのときの、あの表情をもう一度見たい。 若さゆえの、1度きりの時間の哀切。 小野茂樹。 「地中海」に所属し、 香川進に師事。
名歌鑑賞⑮~岡野弘彦~さくらふぶく、焼死体 2019-04-05 20:11:45 | 短歌 岡野弘彦。 歌会始め選者。 「鳥船社」所属。 歌集に「冬の家族」がある。 東京大空襲の時、 夥しい数の焼死体を片付けた体験がありという。 すさまじく花を散らす桜の前に、 人間は、ただ立ち尽くすしかない。 …… すさまじくひと木の桜ふぶくゆゑ身はひえびえとなりて立ちをり 湖になびく 梅津の糸桜 心にしみて生きたかりけり
新つじどう会の作品①~初春の歌~ 2019-04-04 19:31:15 | 短歌 藤沢市で、月1回、「つじどう会」という短歌サークルが開かれます。 私以外は、女性、後期高齢者ですが、 それぞれに個性があり、楽しめます。 今回は、会長の村上きょうこさんの作品を3首。 村上さんは、このブログでも紹介した 「吉田茂と学舎耕余塾」の著者でもありす。 売れてきたようですよ。 …… 平成の御代の終わりの初日の出 富士の高嶺の光たまゆら 襷かけ走る選手を応援す 夜の初夢われ走りたり 「初競り」の豊洲市場に春嵐 高値記録の大間のマグロ
名歌鑑賞⑭~大西民子~幻の椅子 2019-04-04 18:46:04 | 短歌 大西民子。 夫と離別し、孤独な時間をもった。 幻の椅子。 …… かたはらにおく幻の椅子一つあくがれて待つ夜もなし今は …… 椅子が部屋のそばに置かれている。 座る人はいなくなってしまった、突然に。 その悲しみを思い出さされる。 いったいどこへ。 大西民子は大正13年岩手県生まれ。 前川佐美雄、木俣修に師事。 「形成」創刊に参加。 「まぼろしの椅子」「不分の掟」など。 …… 前髪に雪のしづくを光らせて訪はむ未知の女のごとく
名歌鑑賞⑬~五島美代子~美智子皇后の歌の師匠 2019-04-04 17:29:44 | 短歌 五島美代子は、「心の花」に属し、 活発な作歌活動を展開した。のち、 「尖端」「立春」を創刊。 歌集として、 「暖流」「新編母の歌集」 などを出版した。 美智子皇后の歌の指導をしたことも有名で、 厳しく「今の心」を詠むことを昌道した。 娘は、戦後初めて女性を受け入れた東大に入学した。 喜んだ美代子自身も東大で講義を聞いた。 しかし、 その愛する娘が自死してしまった。 次の歌は、その娘の幻影を追うように、つくられた一首である。 …… 亡き子来て袖ひるがえしこぐとおもふ月白き夜の庭のブランコ
名歌鑑賞⑫~金子薫園~叙景歌の巨匠 2019-03-25 21:24:50 | 短歌 金子薫園は、明治の歌人。 叙景歌が有名である。 景色やものをうつすといっても、 子規のような徹底的な写生、 ということではない。 大きな風景、 田園の景色、 そういったものも歌った。 明治9年東京生まれ。 落合直文に師事し、 「光」創刊。 作風には、西欧の風景画の影響もあったろう。 次の歌は、その代表である。 …… 枯れはてし蓮田の末にあひる飼ふ家ふたつ見へて秋の空たかし
名歌鑑賞⑪~山崎方大~ 2019-03-25 17:49:28 | 短歌 山崎方大は、放浪の歌人といわれる。 戦争で視力を失い、生還したものの、 普通の人の生活は送れず、 多くの人の世話になることになった。 作風は、 軽く、 ユーモアに満ちた、 おかしみを感じさせる歌である。 山梨県生まれ。 「工人」創刊。 代表作を挙げる。 …… こんなにも湯飲み茶わんはあたたかくしどろもどろに吾はおるなり
名歌鑑賞⑩~窪田空穂~信濃の国を行かば 2019-03-24 21:27:09 | 短歌 窪田空穂は、89歳まで生きた。 浪漫的な歌からはじめ、叙景歌にまたがる、 優れた作品の数々を残している。 明治10年、長野県に生まれた。 歌集に「濁れる川」などがある。 次の一首がもっとも有名である。 …… 鉦鳴らし信濃の国を行き行かばありしながらの母みるらむか (巡礼となって鉦を鳴らして故郷信濃の国をあちこち訪ね歩いたならば生前のままの母を見ることができようか。) …… 息子の窪田章一郎も高名な歌人である。
名歌鑑賞⑨~落合直文~死なれざりけり 2019-03-24 18:59:46 | 短歌 落合直文は、明治時代の歌人である。 伝統的な和歌と近代的な短歌の橋渡しをした。 江戸時代末期の生まれであるから、 短歌を作るにあたっては、 従来の技法や作法を 心得たうえで作っていることは間違いない。 しかし、花鳥風月だけを歌うのではなく、 人間らしい事象を、高らかに歌にした。 森鷗外らと「新声者を」結成したことでも有名である。 次の歌は、父の普遍的な思いを詠んだもの。 …… 父君よ今朝はいかにと手をつきて問ふ子を見れば死なれざりけり