名歌鑑賞⑧富小路禎子~永遠の処女~ 2019-03-23 18:30:52 | 短歌 第2次世界大戦後、 太宰治の「斜陽」という小説に書かれているように、 多くの貴族が、零落した。 富小路禎子もそのひとりである。 彼女は、 華族同士の結婚に疑問を持ち、 生涯独身をとおした。 ある工場に事務員として働き、 自ら生計をたてた。 歌集に「未明のしらべ」などがあり、 「沃野」創刊に参加した。 永遠の処女としての富小路禎子の作品を2首挙げる。 …… ほのぼのと愛持つときに驚きて別れきつ何も絆となるな 処女にて身に深く持つ浄き卵秋の日吾の心熱くす
名歌鑑賞⑦島木赤彦~湖と三日月~ 2019-03-23 11:32:08 | 短歌 島木赤彦は、明治時代の歌人である。 長野県に生まれ、 視学(現在の指導主事)という、 重職についていた。 歌人としても 活躍していた。 しかし、 長野県にいたのでは、 時代に遅れてしまう。 その思いから、 職も、家族も捨てて、 東京にでてきた。 斎藤茂吉 古泉千樫 らをライバルとして、活躍することになる。 「アララキ」の編集者として、 歌壇に重きをなした。 1首挙げる。 …… みづうみの氷は解けてなほ寒し三日月の影波にうつろふ
名歌鑑賞⑥与謝野鉄幹~われ男の子~ 2019-03-22 21:04:00 | 短歌 与謝野鉄幹は、明治時代 短歌の核心に一役をかった。 「鉄の鉄幹」といわれる壮士風の鉄幹であったが、 詩に生きる主体へと変貌する。 従来の歌の常識を覆す作品を1首挙げる。 …… われ男の子意気の子名の子つるぎの子詩の子恋の子ああもだえの子
名歌鑑賞⑤佐々木幸綱~薬師寺の~ 2019-03-22 17:42:34 | 短歌 佐々木幸綱は、 国文学者にして 歌人である。 優れた研究実績を残したし、 名歌と呼ばれる歌をたくさん詠んだ。 学者としては、 「万葉集」 を講じ、 「梁塵秘抄」 を発見した。 歌人としては、 「心の花」 を創刊したことが特筆される。 ここでは、 薬師寺を詠んだ一首を紹介する。 …… ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なるひとひらの雲
名歌鑑賞③正岡子規の歌~結核と短歌~ 2019-03-21 19:25:24 | 短歌 正岡子規は、 明治時代に、短歌と俳句の革新をとげた。 ただ、若くして当時は死病であった結核を病み、 34歳で亡くなった。 もう少し、生きていれば、 短歌 俳句 小説 等の文学の革新をなしたといわれる。 しかし、短命であったからこそ、 短歌に素晴らしい革命を起こしたのではあるまいか。 子規は、来年はすでに自分は生きてはいないだろう、 と次の短歌を詠んだ。 …… いちはつの花咲きいでてわが目には今年ばかりの春行かんとす
名歌鑑賞②伊藤左千夫~牛乳屋さんの歌~ 2019-03-21 19:14:13 | 短歌 明治時代以前、 和歌は、貴族や支配階級のものであった。 しかし、 明治のある時期から、 庶民の歌も観られるようになる。 さきがけのひとりは、 伊藤左千夫である。 小説「野菊の花」はあまりにも有名であるが、 本来は、左千夫は歌人である。 …… 牛飼が歌詠むときに世の中のあたらしき歌おおいに起こる …… 左千夫は、搾乳業、つまり牛乳屋さんであった。 ただ、 短歌を詠むことにふけり、 晩年は、家族に養われていた。
つじどう会の作品集~短歌の楽しみ③~ 2019-03-13 22:25:25 | 短歌 地域の短歌サークルつじどう会。 月に1回集まって、作品を発表しあう。 5人ほどのメンバーで、 それぞれに個性的な作品になっている。 今回は、3首挙げる。 ……… トトントン 木の香ただよう俎板に七草のせてうたう幸せ 松代の友より届いた草餅の緑さわやか春の野おもう 娘から孫まで4人 振袖の着付けを済ませ わが役おわり
椿の歌~大口玲子~ 2019-03-13 09:09:14 | 短歌 「花」は、短歌における重要な主題である。 古くから、 梅 桜 ひまわり などが詠われてきた。 今回は、 椿の歌を紹介する。 いずれも、 大口玲子の作品である。 ……… 城山の椿は落ちてなほひらき芯のかそけきくれなゐを見す 椿落ちて踏まれたりゆふべ石段に椿の芯も人に踏まれて にんげんを恋にときには戦ひに急ぎ立つるごと早咲きつばき
「老い」を歌う~大島史洋~ 2019-03-13 08:53:56 | 短歌 人間、だれしもいずれは老いる。 歌人も老いる。 短歌の世界では、 「愛」のほかに 「老い」 「死」 も、大切なテーマとなる。 金も地位も名誉も、 そこでは役に立たない。 その人そのものの在り方が問われる。 今回は、 みずからの「老い」 を、 かなしく、ユーモアを交えて詠った3首を紹介する。 いずれも、大島史洋の作品である。 ……… われ遂に七十四となり枕辺の時計に向きて祈らむとする ひさびさに新宿駅に来たりしが吾には冷たき駅とはなりし みずからの足とおもえずよろめけばああ吾は立つ青空のもと
つじどう会の作品集~短歌の楽しみ~ 2019-03-12 21:38:09 | 短歌 地域の短歌サークル「つじどう会」に参加している。 推薦できる短歌も、たくさんあるので、 ご紹介していきたい。 ……… 黒椿 すずめのつがい日ごと来てあわれ花心は餌に変わりぬ わが夫はハシビロコウのごとくなり炬燵に入りじっとお茶待つ 青白きスーパームーン眺めつつ「月白」という釉薬のあり しんしんと時雨の中に父といて軽く響きぬつげ駒の音 震災は北の国をも襲いおり「災害鑑賞人」とは自称できぬ日々 老いのゆえ受け入れられぬ友ありて助け舟さえだせぬ我をさいなむ
地域短歌サークル「つじどう会」例会~優しい高齢者たち 2019-03-06 20:17:41 | 短歌 藤沢市辻堂図書館で、 地域短歌サークル「つじどう会」が 行われた。 短歌の内容は、人生の哀しみや喜び、怒りなど、 多岐にわたる。 それぞれの方々がたどっている人生を 感じさせてくれる。 今回の作品の中から、 4首あげてみる。 しんしんと時雨の中に父といて軽く響きぬ柘植駒の音 黒椿 すずめのつがい日ごときて あわれ花心は餌にかわりぬ 姑のこころを継ぎて四十年今年も五色のゼラニウム咲く 畳の目陽ざしは日ごとのびていく湘南の春もあと二十日なり
アララギ派の重鎮土屋文明~斎藤茂吉がらバトンタッチ~ 2019-02-02 21:16:50 | 短歌 斎藤茂吉の後継者として、 「アララギ」の編集、活動を引き継いだのは 土屋文明である。 写生と叙情性の双方をもちあわせた。 教育者として、教頭、校長を務めたあと、 大学教授となった。 長命で、100歳まで生きた。 92歳にして94歳の妻を喪い、 つくった歌が下記のものである。 ……… 終わりなき時に入らむに束の間の後先ありや有りてかなしむ ……… 自らも数年で夜を去るのに、 いまさらじたばたしてもしかたがないが、 と思いつつつくっている。、 戦災に会い、 家を失って、 疎開先で 農作物をつくって、 時代をしのいだ。 100年にわたる生涯には、 茫漠足る事実の積み重ねがある。 ……… 時代ことなる父と子なれば枯れ山に腰おろし向かふ一つ山脈に にんじんは明日蒔けばよし帰らんむよ東一華の花も閉ざしぬ
点景~上田三四二の世界~ 2019-02-02 20:16:24 | 短歌 上田三四二は、 短歌だけでなく、 小説、エッセイ、歌論も 精力的に作り、書いた。 自らが死病(癌)に侵され、 命が短いと知るがゆえに、 創作へと向かわざるを得なかったのである。 それゆえ、 死との対話をつづけ、 すきとおった感性を、 作品の中に結晶させた。 ……… をりをりに未来をなげきいふ妻はわれの日記を読みゐるらしき マンボなどききゐる妻を憐れめどいくばくかわれの苛立つものを いつまでも厨にうごく音のしてこのごろ妻の歌わずなりぬ 眠らぬ子を負ひてうたへる妻のこゑ闇こくなりし庭よりきこゆ
俵万智とアダムとイブの世界 2019-02-02 20:01:55 | 短歌 俵万智は、日常の平凡なことを なにげなく歌った。 彼女の作品のなかには、 平安な毎日の生活をおびやかすものを 意識した歌もある。 あくまで静かに語っているものの、 ひんやりとした 情感を漂わせるものである。 核戦争後のアダムとイブになりたい、 という願望を歌っている。 ……… 君の言う核戦争の そのあとを 流れる水にならんか 我と After the nuclear conflict you go on about… What do you say about becoming, with me, part of some flowing water.
上田三四二の歌論~藤原定家にも似て~ 2019-02-02 16:39:55 | 短歌 上田三四二は、 前衛短歌グループに組みしなかった。 岡井隆 塚本邦雄 といった歌人とは距離を置き、 ないしは批判して、 伝統を踏まえ、 正統的な歌を主張した。 藤原定家が、 「社会詠」を志向しなかたように、 前衛短歌に溺れることを 拒否した。 岡井隆と塚本邦雄は 前衛短歌の盟友であったが、 上田三四二は違う。 たとえば 宮柊二や 近藤芳美のように 生活詠をふくんだ、 わかりやすい短歌を 称揚したのであった。