まるで誰かの悪だくみのように、急に途方もなく暑くなった。信州松本の暑さは関西の暑さのように、下からむっと沸き起こる湿気ではなく、上から直接叩きつける日差しの強さにある。太陽が近いのである。油断して帽子も被らず外に出ると、すりこ木でごりごりと首筋や頭を押し付けられるような痛みを味わう。めまいがする。足がふらつく。どこに向かっていたのか分からなくなるような感覚に陥る。
先日の日曜日、妻と二人で街を歩いた。日傘を差していた妻もさすがの暑さに参ったらしく、次第に足取りが覚束なくなった。私は私で頭上に容赦なく降り注ぐ日射に辟易し、一刻も早くその場を立ち去りたくて自然と足取りを早めた。気が付くと、二人の間には半町ほどの隔たりができていた。私は立ち止まり、小さく見える妻を待った。
極限の環境に置かれると、人は本性を表すという。私は何だか自分のさもしい本性を見透かされたような気分になり、日差しのまぶしさも相まって、視線を落としてじっと妻を待つ。
首筋を汗が伝う。
妻はなかなか追いつかない。
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