goo blog サービス終了のお知らせ 

た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

不器用からの離脱

2006年09月23日 | 写真とことば
あ、体を信用すればいいんだ、と思いました。
その瞬間。
私自身のこの体を信用すればいいんだ、と。
すると手は滑らかに鍵盤の上を滑り始めたのですね。
私はそのとき気づきました。
生きてきたこの数十年間
ずっと私は
私の体を信用してなかったのだと。

小さい頃水泳大会に無理やり出させられて
全然泳げなくてね。
たぶんそれ以来ずっとです。
私が自分の体に幻滅し
まるで別の生き物であるかのように
自分の体に違和感を感じ
自分の体を嫌い
扱いに戸惑うようになったのは。

私はただ、
信用すればよかった。
それだけのことなんですよ。
それだけのことに
ずっと気づかなかったんですよ。

空を飛ぶ鳥が
自分の翼に疑いを抱いたら
どうして空を飛べましょうや?



箱を集め続けている男

2006年09月13日 | 写真とことば
 箱を集め続けている男と出会った。

 「私はね、箱を見ているだけで安心するんですよ」
 
 「どんな箱でもいいんです。箱でありさえすれば───でも蓋がなくちゃいけません。蓋が閉じて中が見えなくなって初めて、私の望む箱なんです。とても安心するんです。自分の隠れ家を見つけたときの喜びと申しましょうか。箱にほんとに隠れるわけにはいきません。そんな大きな箱はいりません。小さくていいんです。手の平サイズでも十分です。外から見えない空間が中にある。その暗闇を想像するだけで安心するんです。心が落ち着くんです。そういう箱の外側を手で撫でるとね、とても幸せな気分になるんです。ほら、こんな風に撫でるんです」

悔悟

2006年07月23日 | 写真とことば
何だこの今日の
お前を許してきたものは

GIOVANNI MIRBASSI

雨上がりを待ちきれなかった夕べに
馬鹿にしたようなジャズ喫茶で

Jusktke 3Yo

汗ばむ手帳の裏で勝利した  
もっと小さな私の私が

Stefano Battaglia 以下三名。


今日のお前を守ったものは?
シャツの袖で拭いたものは。


無計画な死をめぐる冒険 40

2006年06月21日 | 写真とことば
 奴の声である。私の手を強く引っ張る。最早自分の手の平も見えないほどの闇の中だが、確かに綺麗な女性の手の感触ではある。私はしばらくされるがままにした。美人に手を引っ張られるのも全然悪くない。
 だがその手は私をさらに闇の奥底へと引きずり込んだ。
 「おい、こちらですって、これじゃ何も見えない」
 返事はない。
 気泡が一つ、私の頬を掠めて去った。いかなる生物が出したか、それとも地殻の嘆息か。気泡に気づけたのは、わずかな光の残滓による。それも二度目は無かった。こうなるとどれだけの気泡が立ち昇ろうが、触覚を持たず視覚を塞がれた私にはわかりようがない。
 ついにどこを見渡しても一点の光もない完全なる漆黒に覆われたとき、女は不意に手を離した。私は掴まるものさえ失った。
 「こら、待ちなさい、手を出さんか。おい、こんなところで手を離すやつがあるか」
 「ここです」
 「何がここだ?」
 「あなたをお連れしたかった場所です」 
 「ここ? なるほど、珍しい。他にない場所だ。ただの真っ暗闇じゃないか。ふん、何か我々の間で秘め事でも行うならうってつけかもしれないが。それにしても暗すぎる。お前さんがどこにいるかわからない。私の指さえ見えない」
 「どちらが海面の方角かわかりますか」
 「海面。海面とは、つまり上の方向ということか。ちょっと待ちなさい、ふむ。わからないぞ。おい、これは不味い。上下がわからない。待ってくれ、我々は重力の影響を受けているのではないのか。浮力と打ち消しあっているわけでもあるまいに? 太陽はどちらを昇っているのだ?」
 「身体がないので浮力はありません。重力を身体で受けてないから、上下がわからないのも当然です」
 「私はgraveのみならずgravityにも見放されたか」
 私の必死の冗談を、馬鹿女は黙殺で受け流した。

(つづく)

眼鏡と肉眼

2006年06月19日 | 写真とことば
眼鏡をかけてるとね、
とくに私みたいに乱視がひどいと、
時々無性に眼鏡を外したくなるんです。

ひどく疲れたときとか、
酔っ払ったときとか、
今日みたいな雨上がりの日に。

ところが眼鏡を外してびっくりするんですよ。
現実世界のほうがぼやけてるじゃないかって!
可笑しいでしょ。

でも不思議なことにね、
どれだけぼやけてても、
吐き気がしても、
やっぱり肉眼で見る世界の方が本当なんだと思えるんですよ。

美しいと思うんですよ。

変でしょ?


~ある人の言葉(37)

事故以前出来事以上

2006年05月22日 | 写真とことば
私の目の前で少年が転んだ。



私は声を上げた。少年に無事を確かめた。

少年はあわてて素早く立ち上がり

あらぬ方を向いて(しかし目のはじでしっかり私を捉えて)

「いたくない!」とつぶやいて走り去っていった。



今日が満たされた理由はそれだけではないが。