goo blog サービス終了のお知らせ 

た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

紀行の終わり

2006年03月24日 | 写真とことば
 タオルを肩にスコップを手に
 阿呆のように口を開けて
 つっ立つ私たちに作業服の男が歩み出て言った。

 「今日はここは立ち入り禁止だ」

 私の脚がわなないたのは寒さのせいばかりではない。

 「どうして?」

 「映画のロケが明日ある。そこの大きな露天はロケ用に掘ったんだ」
 彼は付け加えて言った。「しかしあんたら何しにここへ来たんだ」

 ・   ・   ・

 我々は彼に、川原に穴を掘りに来た目的を伝えた。作業服の男は宇宙人でも見るような目つきで我々をじろじろ眺めていたが、やがて撮影用の露天風呂に我々が入ることを許可した。酔狂な観光客をただ帰すわけにも行かず、さりとて周りをスコップで荒らされると撮影に関わると判断したからである。
 こうして我々は俳優──それはたぶん美人の女優さんにちがいない──が翌日入るはずの露天風呂に、先につかる僥倖(ぎょうこう)を手に入れたのである。
 作業服の男たちの見ている中、そして雪の舞う中、タオル一枚になるのは若干の勇気を要したし、風呂の湯加減はややぬるめであったが、何しろ明日は美人の女優さんが同じ湯船でうなじを火照らせるわけであり、何だか、かつて「間接キッス」で興奮した中学生の頃のように我々はうきうきして、ゆったりと長湯をしたのであった。

(完)


※この写真も違う場所です。ロケに遠慮して記念撮影は控えましたので。


忙しいのでまたまた紀行のつづき

2006年03月21日 | 写真とことば
脱輪して助けを求めたり
スリップして郵便局の車と
正面衝突しそうになりながらも

ついに切明へ。(切明とは川原を掘ってつかる温泉である。)

「非常に寒いんだが」と同行者。
「あんたが言い出したんだが」と私。

「ここだ」
「ここだ」

あらゆる覚悟を決め
タオルを肩に、スコップを手に車を降り立つ
われわれを出迎えたのは、

巨大なクレーンと作業服を着た男たちであった──。



※写真は切明の付近であって切明そのものではありません。

紀行のつづきです

2006年03月19日 | 写真とことば
同行者がしみじみとつぶやいた。

──ほんとうに、お年寄りが、

  一人で雪かきしているんだ。

  テレビで見ていたのは、ほんとだったんだ。


まったく同感である。生活者に光あれ!

(ただしそのときハンドルを握る私は
同感どころではなかった。
積雪の上に吹雪き始めたのである。
この車は4WDではなく、
おまけに車体価格0円の中古車で、
我々は川原に温泉を掘りに行こうなどと言っているのだ)


栄村

2006年03月18日 | 写真とことば
戸隠から栄村へ。

大雪で孤立したことがテレビで報道された村である。

そんなことも失念していた私と同行者の二人は、

川原を掘って温泉につかるという話に惹かれて

格段に高くなってきた雪の壁にようやく蒼ざめながら

なおも車を走らせたのであった-----。

(この紀行も続くかも)

石像

2006年01月09日 | 写真とことば
時間に刻み分けられた人間を。

  》石》像》は》彼らのオシリに》》長い尾っぽを》発》見》す》る。

砂時計が音を立てて。

  石》像》は》干》か》ら》びた涙を》》彼らは到底気づかない。

刻み分けられた人間を砕く砂時計。


こうして人間とその影絵だった時間が共に大地に崩れ落ちて石像はひとり見守ったのだ。石像はひとり見守ったのだ。そのことはいつも彼の頭に止まりに来るヒヨドリが得意げに仲間に吹聴して回ったことから確かである。

正月川

2006年01月02日 | 写真とことば
正月だけに見られる川

というのは存在しないが

正月になぜかじっくりと

初めて見るかのごとく

眺める川は存在する。

当然、正月山も正月空も存在する。

正月軒先も、正月交差点も、

正月野良猫だって存在する。

それが正月の正月らしく

そこはかとなくすごいところである。