こころのたね

ここでまく種が、どこかで花を咲かせてくれたらいいな(*^_^*)
2018.8月より再開!母になりました✨

『九つの、物語』

2011-02-01 22:17:33 | 
橋本紡さんの『九つの、物語』という本について書きたいと思います



あらすじ

“大切な人を、自分の心を取り戻す再生の物語”

主人公は、藤村ゆきな。
香月君という彼氏がいる、本好きで平凡な大学生。

実家で一人暮らししていたゆきなのもとに突然戻ってきた、人気者の兄・禎文。
奇妙で心地よい二人の生活。
けれどその生活は、永遠には続かなかった。
母からの手紙が失われた記憶を蘇らせ、その時ゆきなの心は…。


9つの文学になぞらえて進む、ゆきなと兄とその周りを取り巻く人たちの一年間の物語。



                              

相手を思いやる心が、じょうずに噛み合わずにすれ違ったり、
それによって傷つけあってしまったり。
大切に思っていても、うまくいかないことってたくさんありますよね
それでも一緒にいたいと願う相手がいる幸せ、一緒にいられる日々の尊さ

でも、一緒にいる時間が長くなればなるほど、まるでそれが当たり前のように感じてしまったり。
大切にされることが、当然のように思えてしまったり。
陥りやすい、いけない状況
そういうことほど、失いかけて気付いたり、なくして気付いたり。
それでは遅いと思います

そのことをそっと教えてくれる、気付かせてくれる、せつなくて優しい物語でした




心に残ったところ

知らないことがたくさんある。
そういうのはなんだか悔しいけれど、わくわくすることでもあった。
わたしたちはこれから、ひとつひとつ学んでいくんだろう。
手つかずの世界が、目の前に広がっている。
いろんなことを知る過程で、わたしたちは傷つくかもしれない。
辛い経験だってするはずだ。
けれど、わたしには今、恐れる気持ちはなかった。
香月君と進んでいくのは、きっと楽しいだろう。
素直にそう信じられる自分がいた。とても素晴らしいことだった。



小説であれ、空の月であれ、吹き抜けていく風であれ、ただ在るだけだ。
意味を与えるのは、読んだり見たり、あるいは感じたりするわたしたち自身だった。



「先にはきっと、辛いことがあるだろう。楽しいことばっかりじゃないさ。
 それでも、俺はおまえに希望を見てほしい。
 この世界のいいところを、美しさを、ちゃんと求めてほしい。
 これは、俺の望みだ。最後の望みだ。」



自分の選んだ行動や、歩んだ日々が正しかったのかどうか、わたしにはよくわからない。
たぶん、そういう考え方をすること自体が、適切ではないんだろう。
私たちが送る日常には、正しいとか正しくないということはなくて、ただ時が律儀に過ぎていくのだ。
この冬空と同じだった。
美しいと思うか、澄みすぎて薄情だと思うかはわたしたち自身の心で、それだって結局は捉え方のひとつにすぎない。




『夫婦一年生』

2010-11-29 21:43:17 | 
朝倉かすみさんの『夫婦一年生』という本のお話です
装丁が可愛らしくて、図書館で借りてきました



もくじ

1.つきたてのお餅
2.さっくり混ぜる
3.トン・スー・トン
4.一粒万倍
5.カモンナ・マイ・ハウス
6.目には青葉



あらすじ

心がほっこり温まる新婚小説。
結婚したばかりの青葉と朔郎、一年生夫婦の日常を描く。
出会い編、料理修行編、ご近所付き合い編、3億円宝くじ妄想編、
初めての来客編、ダンナの看病編。
愛に溢れた、6編の連作長編集。



                                  

朔郎の転勤をきっかけに結婚し、初めての土地で生活することになる青葉。
その奮闘ぶりが微笑ましく、暴走ぶりが危なっかしく・・・

違う環境で育ったふたりが一緒に生活していくのですから、それは大変なことでしょう。
良い時だけでなく、悪い時も常に一緒に居るのですから、それは辛いこともあるでしょう。
相手の良い所も、悪い所も、きっとよく見える。
帰って来ることや待っていることが当たり前になって、
一緒に居られる幸せを忘れて、一緒に居たくないと思う日もあるかもしれない。
それでもそれを乗り越えて、受け止めて、そうしてふたりは“夫婦”になってゆくのでしょうか


私は結婚したことがありませんので、青葉と朔郎の話を読んでいても、
「そうなんやねぇ」くらいにしか思いませんが、
結婚している人が読んだら、「そうそう!」と思ったり、「ないない!」と思ったり、それはそれで面白そうですね




心に残ったところ

「おれは、帰り道を歩くのが、このところ、ばかに愉快なんだ」
ビールとあんこを取り上げられてもな、と、肩で笑う。
「休みのたびに買い出しに付き合わされても、パンチのない晩飯がつづいても」





『海の底』

2010-10-28 21:35:54 | 
有川浩さんの『海の底』という本について書きます
これは、自衛隊三部作の“海”に当たります



あらすじ

米軍横須賀基地に停泊中の海上自衛隊潜水艦「きりしお」は、唐突な出航命令を受ける。
予定になかったことから大半の乗員が不在のままではあったが、命令に従おうとした「きりしお」は、湾内に潜む何かに囲まれたことで身動きが取れなくなった。
艦を捨てての退去を決断した艦長以下の乗員が陸上に見たのは、我が目を疑う光景だった。
人間大の巨体を持つザリガニのような甲殻類の大群が這い回る基地、そしてそれらに捕食される人々の姿。

基地外への退路が完全に塞がれたことで、きりしおの夏木大和三尉・冬原春臣三尉は、
救助した民間人の子供ら十三名と共に艦内へ退避した。
しかし、艦の停泊場所が米軍基地内であること、また湾内が甲殻類に埋め尽くされていることから早急な救助対応は望めず、孤立した状況に置かれてしまう。
民間人の子供らは、みな顔見知りではあるが人間関係は複雑。
唯一の女子で年長の森生望(17)がリーダーとしてまとめようとするが、
それに反発する遠藤圭介(15)が親の影響で幅を利かせている。
閉鎖的な艦内での様々な出来事で、夏木と冬原は望や子供たちと打ち解けていき、
圭介グループは不穏な空気のまま。

対応が錯綜する中、市民救助のため前線に立つ神奈川県警機動隊は凄惨な戦いを強いられることになる。
甲殻類との戦いは、きりしおの救助は、果たしてどのような結末を迎えるのか・・・。



                                  

序盤から急展開で物語が進んでいって、息をつく暇がありませんでした
甲殻類、本当に勘弁してほしい・・・

外で救助しようとする側と、艦内で救助を待つ側の両面からお話が書かれています。
どちらも限界ギリギリ、どちらも必死。
そんな状況の中で繰り広げられる人間ドラマに、時折胸を打たれました

艦内の人間関係には、ハラハラしっぱなし
特に夏木には最後まで、心配かけさせられました(笑)


それぞれにそれぞれの立場があって、役割があって、気持ちがあって。
全てがうまく噛み合うことなんてないのかもしれない、衝突して当たり前なのかもしれない。
それでもお互いを思いやって、自分にできることをする、その姿勢が大切なんだなぁと思いました

『あなたがここにいて欲しい』

2010-10-25 21:49:20 | 
中村航さんの『あなたがここにいて欲しい』という本をご紹介します


あらすじ

懐かしいあの日々、温かな友情、ゆっくりと育む恋――僕は、守り続けなきゃならない。

幼なじみの又野君に会いに、3年ぶりに小田原に降り立った大学生の吉田君。
けれども又野君はすでに小田原にはいなかった。
憧れのヤンキーだった又野君と小学校時代にシノビという遊びを図書室でしたこと、
受験勉強を教えたこと、怪我を介抱したこと、ゲームをしたことなどが次々によみがえる。
一方で吉田君は、ゼミ仲間の舞子さんに想いを寄せている。
舞子さんと同じものを分かち合い、同じように感じたい。
けれどもなかなか積極的に行動できない。
何度も一緒に帰っているのに告白への一歩をためらってしまう。
そんな時、又野君から突然連絡が来る。そして舞子さんとの関係にも進歩が・・・。
神奈川の小田原を舞台にした青春・恋愛小説。


“人生の三大美徳”を探す大学生の男の子の小学生時代から今までを振り返った、自伝的小説の『男子五輪』と
公園の野良猫に牛乳をあげ、餌をやり、木のうろを通して文通することになった見知らぬ男女二人のやりとりが描かれた『ハミングライフ』を含む、中篇集。



                                        

吉田君の意気地のなさが、もどかしく微笑ましく、ちょっと腹立たしく・・・(笑)
それでもいくつかのきっかけがあって、自分の大切なものを再確認して、
それを守るために行動を起こした吉田君は、とても男らしかったと思います

大切だと思える人やものに出会えることが、まず最初にとても幸運なこと。
それをきちんと大切にすることが、とても難しいこと。
実は、それを大切にしていいということが、奇跡みたいなこと。
私も忘れちゃいけないな、と思いました


この本の中で私がいちばん好きなお話は、『ハミングライフ』です
絵本のような、ほのぼのした物語なのですよ
読後感がさわやかで、心が温まりました

                                        


心に残ったところ

『あなたがここにいて欲しい』より

守れるものの総量は、とても限られている。電柱を背にうずくまり、吉田くんは思った。
呼吸を整え、電柱にもたれかかる。
だからこれからは、大切なものを自分からまもりにいかなければならなかった。


『男子五輪』より

探し続ければ、美徳などいくつでも見つかる。
ならば、と男は考える。いや、違う。考えるんじゃない、感じるんだ!(Don't think. Feel!) 
"礼儀"、"仲良し"に続くもの、それは……。
――もうひとつを探し続けること。


『ハミングライフ』より

誰かの営みの跡を見つけると、少しだけ嬉しい気分になる。
自分だけが気付く、小さな小さな誰かの営み――。
誰かの営みが、全然関係ない誰かをハッピーにする。
それはとても素敵なことに思えた。

『空の中』

2010-10-12 21:29:46 | 

有川浩さんの、『空の中』という本について書きます
こちらは著者の自衛隊三部作の“空”に当たります。



もくじ

プロローグ 早春
第1章 子供たちは秘密を拾い、
第2章 大人たちは秘密を探し、
第3章 秘密は高度二万に潜む。
第4章 人々はそれを裏切って、
第5章 子供は戻れぬ道を進み、
第6章 誰も彼もが未来を惑う。
第7章 混沌は不意に訪れるも、
第8章 秩序の戻る兆しはそこ、
第9章 最後に救われるのは誰か。
エピローグ 盛夏




あらすじ

200x年1月7日、日本初の超音速旅客ジェット機“スワローテイル”が自衛隊演習空域高度2万mを試験飛行中に突如爆発炎上する。
2月12日、航空自衛隊所属のF15Jイーグル2編隊が事故空域を飛行実験中、
同じく高度2万mで1機が爆発炎上、編隊長である斉木敏郎三等空佐が死亡する。
立て続けに発生する原因不明の航空機事故。

その日、高知県に住む斉木三佐の息子である斉木瞬は海で、不定形の、クラゲのような奇妙な生物に遭遇する。
携帯電話を介して拙いながらも言葉を発するその不思議な生物を、瞬と幼馴染の佳江は“フェイク”と名付けて家で育てることにする。
天涯孤独の身になった瞬は、父を失った心の空洞を埋めるかのように、フェイクをまるで家族のように異常なほど可愛がる。

スワローテイルの製造元である特殊法人日本航空機設計の事故調査委の春名高巳は、
自衛隊機事故の生き残りであるパイロットの武田光稀三等空尉に話を聞くことになる。
事故空域からの唯一の生存者であることから厳しい調査を受け、事故の話をしたがらなかった彼女だが、
高巳の熱心な説得に、高巳を事故空域へ連れて行く決心をする。
そこで光稀が、空の異常に気付いた。

原因不明の航空機事故と、謎の知的生命体。それらに関わる人々はやがて、ある場所へと集まっていく――。



                                   

人間の脆さ、心の弱さを痛感させられる展開です
どうなることかと、ずっとハラハラ

自分がひとりぼっちだと感じた時、人はどうなっていくのか。
ひとりではなかったと気付けた時、人はどうなれるのか。


守りたい相手がいる人の強さ。
支えたい相手がいる人の潔さ。
子供を導く大人の役目の重要さ。
道を切り開く子供のたくましさ。


自然との共存、人との関わり、色々と考えたくなるお話です



読書の記録

2010-08-30 20:16:43 | 
感想文は書きませんが、せっかく読んだのだから記録だけには残しておこう・・・というわけで、
読んだ本をまとめて載せておきます



『放課後の音符(キイノート)』 山田詠美さん





『うたうひと』 小路幸也さん

心に残ったところ

ドラマならハッピーエンドで終わる物語は、現実には、いつまでも続いていく。語られていく。
父と母の物語が、僕という形をとって今も続いていくように。


「今の自分の中にあるものは、毎日の暮らしの中で少しずつ積み上がってきたものなんだと気づいたのは、
随分大人になってからだったよ」


人間は、愛したひとりの人に幸せを与えることができればそれで十分な生き物だ。それ以上は必要ない。




『誰よりもつよく抱きしめて』 新堂冬樹さん





『やさしいため息』 青山七恵さん





『窓の灯』 青山七恵さん


青山七恵さんの本は、1冊読んで苦手で、もう1冊挑戦してみたのですが・・・
やっぱり今の私には無理だったようです
そういうのって、ちょっと残念


『ファミリーツリー』

2010-08-14 21:46:52 | 

小川糸さんの、『ファミリーツリー』という本の感想文です。



あらすじ

長野県穂高の小さな旅館で生まれた弱虫な少年、リュウ(流星)は、夏休みになると東京からやってくる1つ年上の“いとこおば”にあたるリリー(凛々)を心待ちにしていた。
流星の姉(蔦子)も一緒に、3人は本当の家族のように短い夏を一緒に過ごす。
リュウはリリーに恋をしていた。

ある夏休みの夜、悲劇が起こる。
その後ずっとふさぎこみ投げやりになっていたリュウに、リリーが近づいた。
2人は周囲の反対なども気にせず、付き合い始める。
遠距離恋愛だったが、互いの気持ちは近くに寄り添っていた。
しかし大学生になるとすれ違いなどもあり、次第に距離をおくようになる。
そんな2人の心に、2人をとても可愛がってくれたひいおばあちゃん(菊さん)が問いかける。
更にリュウの親友(ゴボウ)の衝撃の告白に、リュウは家族のあり方を意識し始める。


                                     

私・・・リュウみたいな男の人はダメです、受け入れられない(笑)
根本的な問題で、イライラしながらカチンときながら読む羽目に・・・
そのせいか、なんとなく読後感がスッキリしなくって
でも、菊さんの最後のお話にはジーンとしました

それから、“家系図がどんどん下に大きく広がって続いていくその図が、まるでクリスマスツリーのよう”という表現には納得
家族のあり方についての話が心に残り、色々と考えさせられました

                                    



心に残ったところ

「生きていれば、必ずいいこともあるよ。神様は、そんなに意地悪なことはしない。よい行いさえしていれば、いつか自分に返ってくる」


「パパとママが出会ったから、私が生まれてきたわけでしょう。
 そういうなが、ずーっとずーっと遥か昔から続いてきたわけでしょう。
 それって、すごいことなんだよ。
 そしたらさ、生きてると辛いこともあるけど、楽しいこととか嬉しいこともたまにはあるわけじゃない?
 そのすべてが、両親からのっていうか、ご先祖様達みんなからのプレゼントなんだ、って思えたの。」



「人って、一人じゃ生きていけないんだね。そのことが、リリーと離れていてよくわかったよ」
僕は言った。
「人が、一人の人間からは生まれないのと一緒かもしれない」
リリーはそう言って、ゆっくりとまぶたを閉ざした。


『きみはポラリス』

2010-08-13 21:43:51 | 

三浦しをんさんの、『君はポラリス』という本のお話です



もくじ

永遠に完成しない二通の手紙
裏切らないこと
私たちがしたこと
夜にあふれるもの
骨片
ペーパークラフト
森を歩く
優雅な生活
春太の毎日
冬の一等星
永遠につづく手紙の最初の一文



本の説明文(丸うつし)

これって恋or愛?いえ、これこそ恋愛そのもの。
世間の注目も原稿の注文も「恋愛」のことばかり。
なら、とことん書いてみようじゃないの!ということで生まれた、ただならぬ「恋愛短篇集」。
初恋、禁忌、純愛、結婚、信仰、偏愛、同性愛…
本気で恋し、だれかを愛したいなら読むしかない!われらの時代のバイブル。



                                   

タイトルが気になって、図書館でこの本を手にしました

読んでみると、私のイメージとはかけ離れていたような、でもタイトル通りのような・・・。
痛々しいお話が多くて、読んでいて辛くなるところもあったけれど、
恋愛にはそういうこともあるのだろうなぁ・・・と思いながら読みました
自分の気持ちすらままならないのですから、相手のことなんて、ますますままならないもの。
でもだからこそ、ポラリスに例えられたのかしら

どのお話の登場人物たちも、良くも悪くもみんな、誰かや何かにひたむきで一生懸命でした。
私もポラリスになりたいです、それから、一生懸命でいたいです。
できるだけ、良い意味のほうで・・・

                                   



心に残ったところ

~ 『うらぎらないこと』の中より ~

恵理花と勇人が自転車や秘密基地とちがうのは、二人が思い出のなかの宝ではない、ということだ。
俺が一方的に大切だと感じるだけではなく、俺のことを大切だと感じていてほしいと、願ってもかまわない存在だということだ。

きみたちを決して裏切らない。だから安心して、きみたちもだれかを愛すればいい。
裏切られ、傷つくことがあっても、恐れずに他者を愛するといい。
俺は態度で、俺の大切な家族にそう示しつづけるだろう。
死ぬまで、飽きることなく。
裏切らず、本気を貫く。多恵子さんが言ったように、それは本当に、簡単なこと。
恵理花が、勇人が、やがて生まれるかもしれない勇人のきょうだいが、俺を求め望んでくれるかぎり、
それこそが俺の幸せであり、喜びになるのだから。



『フリーター、家を買う。』

2010-08-08 20:19:50 | 

有川浩さんの『フリーター、家を買う。』という本のお話です



もくじ

1 フリーター、立つ。
2 フリーター、奮闘。
3 フリーター、クラスチェンジ。
4 元フリーター、働く。
5 元フリーター、家を買う。

after hours
傍観する元フリーター



あらすじ

主人公の武誠治は、就職した会社に馴染めず3ヶ月で辞めて、その後再就職も出来ずにだらだらとフリーター生活を送っていた。
家族との会話もゼロ。
いつかは大丈夫なんて甘い期待をしていた誠治だが、母親が突然重度の鬱病だと診断されたことで、のんきな暮らしは終わる。
姉からもだらしのない現状を容赦なく指摘され、ようやくこのままではいけないと考え始める。

誠治は家族のために一念発起。
再就職して、100万貯めて――猛奮闘の末に、彼の行き着く場所はどこなのか。
崩壊しかかった家族の再生、泣いたり笑ったりの新しい日々が始まる。


≪誠治以外の、武家の人々≫
 父・誠一 :商社勤務「経理の鬼」(ただし酒癖悪し)
 母・寿美子:重度の鬱病に罹る
 姉・亜矢子:名古屋の病院に嫁ぐ



                                   

誠治が一念発起するまでの武家は、それはそれは目も当てられないような状況で・・・
わからずやの父親や自己中心的な誠治が、読んでいて本当に腹立たしかったです
そこで起きるべくして起きてしまった家族の大事件、母親の鬱病の発覚。
その時の家族の衝突は、本当に痛々しいものでした

そこから誠治が奔走して必死で立ち直ろうとする姿は、感動的でした
正直、そこまで物事すべてが上手く進む事はないでしょう・・・という感じは否めないのですが、
物語ですから、それでもいいのです私はそういうお話が好きです

絶対に叶えたいと努力すれば、すごいパワーを発揮することができる
どうにかしようと強く思えば、何とかすることができる
後半は元気がもらえて、希望の持てるお話でした

                                   



心に残ったところ

「諦めてない武さんは間に合ってます。お母さんのこと、絶対間に合ってます」

『きいろいゾウ』

2010-06-27 21:04:52 | 

昨日に引き続き、西加奈子さんの本の感想文です
今回は『きいろいゾウ』という、少し不思議なお話



あらすじ

その昔。少女は、病室できいろいゾウと出会った。
青年は、飛ばない鳥を背中に刻んだ。
月日は流れ、都会に住む一組の若い夫婦が、田舎の村にやってきた。
夫の名は無辜歩(むこ あゆむ)、妻の名は妻利愛子(つまり あいこ)。
お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う、仲のよいふたりだった。
ふたりが九州の片田舎にやってきて、物語がはじまる。


売れない小説家のムコは、周囲の生き物(犬、蜘蛛、百足、花、木など)の声が聞こえてしまうツマをやさしく見守っていた。

ご近所のアレチさんとセイカさん夫婦、都会からやってきた大地くんや、大地くんを好きな洋子ちゃん、
職場の平木さんや、大地くんのおばあちゃんの駒井さんなど、
たくさんの人たちとの触れ合いで、ふたりの世界は広がっていく。

夏から始まったふたりの話は、ゆっくりゆっくりとその年の冬まで進んでいき、
「ある出来事」を機に、ムコがツマを残して東京へ向かう。
それは、背中の大きな鳥に纏わるある出来事に導かれてのものだった。
ひとり残されたツマは、幽霊に出会い、家のそばにある裏山のなかへと進んでいった。
そこで彼女は、あるものに遭遇する。




                                   

登場人物のみんなが、誰かが誰かを一生懸命に愛しているお話でした
一生懸命に好きだからこそ、時には空回りしたり、間違えたり、痛々しかったりもするけれど、
一生懸命に想っているからこそ、喜びや救いがあったりもするみたい

人と人との繋がりの中で生まれるもののかけがえのなさを、じんわり感じました

                                   




心に残ったところ

私たちは、すごい逆三角形の頂点にいるんだ。
お父さんとお母さんの、お父さんとお母さん、そのまたお父さんとお母さんの……、
たくさんのたくさんの歴史を持った逆三角形の、その頂点に。
なんてことだろう。
今私がここでこうやってヨルの寝息を聞いているのは、奇跡みたいなことなんだ。
私の三角形の中の誰かが誰かを愛することをあきらめていたら、
病気になった自分の子供のことをあきらめていたら、私は今ここにはいないんだ。
私がムコさんと出会えたのは、奇跡だ。



僕の世界はツマその人を中心に回っていて、そしてそれは揺るぐことがなかった。
そうだ、揺るぎのない世界だった。
それだけで心底安心して、眠り続けることができるほどの。
それでもそれをとてもあやうい何かだと思い、消えてしまう可能性に怯え、恐ろしい想像に蓋をしていた。
そうではなかった。
ツマがそこにいないことに怯えるのではなく、
ツマがそこにいること、人生のように、日常のように、そこにただいてくれるだけで、
安心して眠りにつけるのだということ、堂々と、幸せだと笑っていられるということ。
どうしてそんな簡単な、だけど途方もなく尊いことに、気づけなかったのか。



ソラで言えるか分からないけど、必要なものは、覚えているのだ。
それはきっといつも、そこにあるのだから。



≪ムコさんの“必要なもの”を書き留めた一部分≫
・朝食のトマトと岩塩
・そば殻の枕
・コーヒーを煎る臭い
・ほうじ茶を沸かす儀式
・明け方の空の色
・欠け始めた月
・ぼくのつま