こころのたね

ここでまく種が、どこかで花を咲かせてくれたらいいな(*^_^*)
2018.8月より再開!母になりました✨

『さくら』

2010-06-26 20:51:53 | 

西加奈子さんの『さくら』という本の感想文です
みなさんにおすすめしたい一冊なのですよ



あらすじ

一生に一度、ちっぽけな家族に起こった奇蹟。

物語の語り手は、長谷川家の次男・薫。
スーパースターのような存在だった兄の一は、ある事故に巻き込まれ、自殺した。
誰もが振り向く超美形の妹の美貴は、兄の死後、内に籠もった。
明るかった母は、過食と飲酒に溺れた。
優しかった父は、家出した。
薫は実家を離れ、東京の大学に入った。
あとは、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた年老いた犬が一匹だけ・・・。

そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。
薫は、何かに衝き動かされるように、実家に帰った。
“年末、家に帰ります。 おとうさん”
スーパーのチラシの裏の余白に微弱な筆圧で書かれた父からの手紙で、家族の時間が再び動き始める――。




                                       

長谷川家のお父さんとお母さんが出会い、結婚して、一が生まれ、薫が生まれ、美貴が生まれ、
サクラがやって来て、一が事故に遭い、自ら命を絶ち、家族が壊れ、再生する。
ひとつの家族の歴史が、ここに刻まれていました

笑ってしまうエピソードや、心温まるエピソードも織り交ぜられながら、
痛々しい出来事やせつなくて胸が張り裂けそうな出来事もあって・・・。
最後のほうは、涙が溢れてなかなか読み進められません
タクシーの中での美貴の話が大好きです


家族になるって、家庭をつくるって、ものすごいことなんだなぁ・・・
みんな当たり前のようにしているようだけれど、実はものすごい奇跡なんだなぁ・・・
そんなことを、しみじみと思いました。
たくさんの努力と、たくさんの思いやりと、たくさんの想いで成り立っている奇跡


何と言うか・・・これまでとこれからの自分の人生についても、深く考えさせられました
私もちゃんと、大切な人やものを大切にしながら、幸せになるために生きていかなくちゃね。

                                       



心に残ったところ

美貴という名前を決めたのは、父さんだった。
実はそれは会議を開くまでもなく決まっていたことで、
ミキを初めて見た父さんは、ミキそのものの美しさや貴さはもちろん、
世界で何より、小さな頃の思い出や、輝ける未来や、華々しい名誉よりも何より大切に思っている女の人が、自分の子をこの世に誕生させる、
しかも家には素晴らしくやんちゃな男の子がふたりも、今か今かと妹の到着を待っているという、
そのあまりにも優しく、奇跡的な日常に驚いて、
「なんて美しくて、貴いことだ。」
と言い、そして、大きな声で泣いた。
 その泣き声は男泣きというにはあまりにも無邪気で、まっとうで、
 病院中に響き渡るそれを聞いた他のおかあさんたちの瞳をじわりと湿らし、まだ見ぬ赤ん坊を起こしてしまったほどだった。
母さんが世界で一番幸せなら、父さんは宇宙で一番幸せな男だった。



「うちな、子供が大きなってな、孫が出来るか分からん、どんな大人になるか分からんけどな、
 どんなことがあっても、うちは、絶対、その子より先に死ぬ。
 それでな、死ぬときにな、言うねん。
 やっぱりな、生まれてきてくれて、ありがとう、てな。
 お母さん、お父さん。な?
お兄ちゃんは死んだけど、な、やっぱり思たやろ?
 生まれてきてくれて、ありがとう。そう、思たやろ?」




『永遠。』

2010-06-04 21:28:31 | 

村山由佳さんの『永遠。』という本のお話しです



あらすじ

父一人に育てられた徹。
その幼馴染で、夜の仕事をしている母(葉月)一人に育てられた弥生。

葉月は亡くなる前、かつて別れた恋人(弥生の父親)のことを、娘の弥生と幼なじみの徹に話した。
弥生はその男の向かいの部屋に住み、彼の講義を聴きに短大に通った。
「お父さん」と、一度も告げられずに。

弥生の卒業式の日、色々な人の思い出が詰まった水族館で、徹は弥生の帰りを待つ――。




                                   

徹が弥生を待っている間の回想と、 再会してからの2人の会話で成り立っています

これは映画、『卒業』のサイドストーリーとして書かれた本だそうです
私は映画をまったく知らずに読みましたが、ついていけましたよ
短く、あっさりしていて、読みやすかったです

この本を読もうと思った理由は、図書館でパラパラ見ていると、水族館での出来事が描かれていたから
どんだけ水族館好き!?とつっこまれそうですが(笑)

葉月さんが残した言葉に、色々ハッとさせられました

                                   



心に残ったところ

「その時ねぇ。私、初めてあのひとがわかった気がした。
 ああ、このひとは、いろんなことに気づいてないんじゃない。
 何にも言わないから鈍いみたいに見えるけど、本当は逆なんだ。
 思ったことをなかなか口にしてくれないのは、
 言葉にするとこぼれてしまうものがたくさんあるってことを、
 よく知ってるからなんだな、ってね」


「一度誰かとの間に芽生えたつながりは、ずーっと消えずに続いていく。
 たとえ、かたちを変えて、いつか思い出の奥にしまわれてしまったとしても、
 かつてそのひとと心をやりとりしたっていう記憶だけは、永遠に残るのよ。
 そう――ちょうど、海の底に沈んだ宝石みたいにね」


「人を恨みながら生きても、誰かと笑い合って生きても、同じように人生は過ぎていっちゃうのよ。
 あんたなら、どっちを選ぶ?」


忘れまいと思うことから忘れていき、忘れたいことほどいつまでも忘れられない。
でも、きっと誰もがそういうものをかかえているんだろうと俺は思った。
<一度誰かとの間に芽生えたつながりは、ずーっと消えずに続いていく>
だとしたら――どんなに忘れようとしても忘れられないのは、
もしかすると、それが忘れてはいけないことだからなのかもしれない。
そんなふうにして人は誰も、ほんとうは大切な誰かのことを、いつまでも記憶に刻んでいくのかもしれない・・・・・・。



『塩の街』

2010-05-28 21:44:55 | 

有川浩さんの『塩の街』という本のお話をしたいと思います

自衛隊三部作の“陸”にもあたる、有川浩さんの原点になる作品。
第10回電撃小説大賞受賞作を大幅改稿、デビュー作に番外編短編四篇を加えた大ボリュームの一冊です。



もくじ

《塩の街》
Scene-1 街中に立ち並び風化していく塩の柱は、もはやなんの変哲もないただの景色だ。
Scene-2 それでやり直させてやるって言ったんじゃねえのかよ。
Scene-3 この世に生きる喜び そして悲しみのことを
インターミッション -開幕-
Scene-4 その機会に無心でいられる時期はもう過ぎた。
Scene-5 変わらない明日が来るなんて、もう世界は約束してくれないのを知っていたのに。
Scene-6 君たちの恋は君たちを救う。

《塩の街、その後》
塩の街 -debriefing- 旅のはじまり
塩の街 -briefing- 世界が変わる前と後
塩の街 -debriefing- 浅き夢みし
塩の街 -debriefing- 旅の終わり



あらすじ

塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。
人間が突然に塩のかたまりへと変わる、異常事態。
その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女。男の名は秋庭、少女の名は真奈。
真奈は女子高生、秋庭は自衛隊の戦闘機乗り。
正常に回っている世界だったら、接点のなかった二人。
静かに暮らす二人の前を、さまざまな人々が行き過ぎる。
それを見送りながら、二人の中で何かが変わり始めていた…。

ある日そんな二人の元に訪れた、秋庭の友人の入江。
入江は秋庭に、協力して塩害を止めようと持ちかける。

どちらが先に塩害になるのかと恐れ、好きな女が塩になるのをみたくないという一心で、
「真奈がいるこの世界を、いつ来なくなるかもしれない明日を守りたい」と、
危険な任務についた秋庭。
世界がこんなことにならなかったら秋庭に出会えなかった、
秋庭に会うためのこの世界なら、どんなひどい世界でも許容してみせる、
「秋庭さんが行っちゃうんなら、そんな明日なんか要らない!」と、ひきとめる真奈。

しかし秋庭は、真奈を置いて任務に向かう。
真奈もまた、命の危険がある状況の中、秋庭の帰りを信じて待ち続ける。
二人の恋の結末は、世界の運命は・・・。



                                   

原因が分からず、健康な人たちが塩になってしまう・・・。
想像しただけで恐ろしいし、悲しいですよね
塩害のくだりは、読んでいて気分が沈みました


塩害と共に物語の大きな柱となるのが、真奈と秋庭の関係性。
やっぱり私は真奈のほうに感情移入をしてしまって、
「秋庭さんのわからずや!!」なんて思いながらヤキモキしてしまったり(笑)
思わず泣いてしまう場面もありました
でも秋庭には秋庭の思いがあって・・・。
自分だけの問題ではなく、相手が居ることですから・・・本当に、ままならないものですね


明日がどうなるかわからないほど異常な社会の中で、失われていく秩序や理性。
そんな中でも、人と人の結びつきがあり、誰かを大切に思いやることもできる。
自分以上に大切に思える相手が居た真奈と秋庭は、幸せだと思います


ちなみに私は、『旅の終わり』のお話がいちばん好き
自分のことのように不安を覚え、腹を立てたぶん、
自分のことのように嬉しくて、幸せで、満たされました

                                   



心に残ったところ

何とかなるのかどうかは分からない。
けれど、少なくとも自分が手を伸ばす自由はある。
手は動くのだ、自分が動かそうとさえ思えば。
たとえ、それが届かなくても。
――恋は恋だ。



自分が先か真奈が先か。たった二人のコミュニティでその恐ろしい命題。
欠けたら痛い一部だと自覚しながら、想像するだに気が重いその痛みを憂いながら、
それでも自分が先になるわけにはいかないと思っていた。
自分の庇護がなければあっという間に世界の中に沈んでしまう、あの小さなものを守らなくてはと――
そうして今、自分が逆に庇護されていたことを知る。



真奈の頬を涙が滑り落ちた。
ここへ来てから泣いてばかりだ、恋はもっと幸せで甘いと思っていた。
こんなに苦しくてままならないなんて。そのうえ――
秋庭自身が一番ままならない。



本当に、何て勝手な、男というのは、何て自分勝手な生き物なんだろう。
ずるくても汚くても、相手さえ無事ならそれでいい。
そんなことを思っているのが自分だけだとでも思っているのか。
それでも許してしまうのが悔しい。
好きだからなんてそんな言葉ひとつでごまかされてしまう自分が悔しい。



「君は重い荷物になるべきだ。
 置いていける、他人に預けていけるなんて思わせちゃいけない。
 残して死ねないと重圧を与えてなくちゃね」
秋庭にとって自分にそれだけの意味があるのかどうか、真奈には分からなかった。
けれど、敢えて重い荷物になることで秋庭が死ねないと思ってくれるなら――重くてもいい。
秋庭が生きて戻ってくるなら、重たい荷物である自分に、秋庭の負担にしかなれないと思っていた自分に、初めて感謝しよう。
そして秋庭が戻ってきたら、軽くなるためにまたあがこう。



「秋庭が作戦を成功させるとしてもね、彼は世界なんかを救ったんじゃない。
 君が先に死ぬのを見たくないってだけの、利己的な自分の感情を救ったんだ。
 そして、その感情の先に繋がってる君を救う。秋庭に無事でいてほしいと願う君をね。
 僕らが救われるのは、そのついでさ。
 君たちの恋は君たちを救う。」



世界なんかどうなってもいい。
あの人が無事だったらそれで――ほかには何も要らない。欲しくない。だからどうか。
あの人をください。あたしにとってすべての意味を持っているあの人を。



『流れ星が消えないうちに』

2010-05-16 21:22:55 | 

橋本紡さんの『流れ星が消えないうちに』を読みました



あらすじ

悲しみはどうしたら消えるのだろう。優しさはどうしたら届くのだろう。
忘れない、忘れられない。あの笑顔を。一緒に過ごした時間の輝きを。
そして流れ星にかけた願いを――。

高校で出会った、加地君と巧君と奈緒子。
けれど突然の事故が、恋人同士だった奈緒子と加地君を、永遠に引き離しました。
加地君の思い出を抱きしめて離さない奈緒子に、巧君はそっと手を差し伸べるけれど……。
玄関でしか眠れなくなった奈緒子の元に、父親が家出してきて、物語は動き始めます。

悲しみの果てで向かい合う心と心。
そこで変わっていくもの、新たに生まれるもの、残るもの・・・
目を背けてきたものと真摯に向き合おうとする人たちの、せつなく優しい物語。



                                   

亡くなってしまった加地君は、奈緒子の恋人であり、巧君の親友でした。
加地君を思い出す奈緒子は、とても痛々しかったです
加地君を思い出す巧君は、温かかったからこそせつなかったです
大切な人の死を受け止めきれず、触れずに放置したまま、いびつに重なり合っていた二人の心。
お互いのために、未来のために、二人は少しずつ加地君の思い出と、自分の心と向き合おうとします。
巧君が決めた覚悟、奈緒子が選んだ答え。
深く考えさせられました

                                   



心に残ったところ

「ここでしか見えない牡羊座流星群です。
 昼間なので見えなくても、本当はこんなに美しい光景があるんです。
 たとえ見えなくても、こんなふうに美しいって、僕はちゃんと知ってます」


「人間ってさ、川嶋が言うように、誰かに頼らないと生きられないんだよな。
 俺もちゃんとわかってんだ、そういうの。
 だけど、ひとりで生きられるようにならなきゃいけないとも思ってる。
 でないと、結局、ただもたれ合うだけになっちまうだろう。それじゃ駄目なんだ。
 ちゃんとひとりで立てる人間同士が、それをわかった上でもたれ合うからこそ、意味が生まれるんだ」


人というのは、変わらないように思えて、ちょっとずつ変わっていく。
ただ生きていくというそのことが、無為に過ぎていくかのような一日一日が、
けれど確かになにかを変えていくのだ。


不幸なんて、いくらでもある。珍しくもなんともない。
けれど、ありふれているからといって、平気でやりすごせるかといえば、そんなわけはないのだ。
じたばたする。泣きもする。喚きもする。
それでもいつか、やがて、ゆっくりと、わたしたちは現実を受け入れていく。
そしてそこを土台として、次のなにかを探す。
探すという行為自体が、希望になる。
とにかく、終わりが来るそのときまで、わたしたちは生きていくしかないのだ。



『幸福な食卓』

2010-05-12 21:53:35 | 

今日は、瀬尾まいこさんの『幸福な食卓』という本をご紹介します



あらすじ

“大きなものをなくしても、まだあった、大切なもの”
とっても切なくて、ちょっとおかしくて、あったまる。
心にふわりと響く長編小説。

「父さんは今日で父さんをやめようと思う」
この本は、主人公・佐和子のお父さんのこの衝撃的な一言で始まります。
佐和子の中学から高校時代にかけての、4編の連作による構成。
佐和子の“少しヘン”な家族(父さんをやめた父さん、家出中なのに料理を持ち寄りにくる母さん、元天才児の兄(直ちゃん))、
そして佐和子のボーイフレンド(大浦くん)、兄のガールフレンド(ヨシコ)を中心に、
あたたかくて懐かしくてちょっと笑える、それなのに泣けてくる、
“優しすぎる”ストーリーが繰り広げられていきます。



                                   

佐和子が失ったものに胸をしめつけられ、佐和子が得ていたものに感動して、
心がゆさぶられました

人生は素晴らしいことばかりではない。けれど、悲しいことばかりでもない。
出会いが人生を変えることがあります、別れが人生を変えることもあります。
自らが選ぶ別れもあれば、自分ではどうしようもないまま引き裂かれる別れもある。
なかなか自分の思い通りにいかない人生だけれど、だからこそ誰かからもらう幸せが特別に思えるのでしょう。

人間の心の闇と光、脆さと強さ、残酷さと優しさ、すべてがここに共にありました。

私は今、自分が持っているものは闇と脆さと残酷さばかりのような気がしているけれど、
そんなことはないのかもしれない・・・ちょっと隅っこに置いてあるだけだったらいいなぁ
少しだけ、そう思いたくなりました。

佐和子と一緒に私も、泣いたり笑ったりしながら読みましたよ

                                   



心に残ったところ

「家族は作るのは大変だけど、その分、めったになくならないからさ。
 あんたが努力しなくたって、そう簡単に切れたりしないじゃん。
 だから、安心して甘えたらいいと思う。
 だけど、大事だってことは知っておかないとやばいって思う」


「全然違うってわかってるんだよ。でも、他に方法がわからないんだ。
 あんたがどうしたらいいかわかんないように、
 私はもっとどうしたらあんたが元気になってくれるのかわかんないから……」


私は大きなものをなくしてしまったけど、完全に全てを失ったわけじゃない。
私の周りにはまだ大切なものがいくつかあって、ちゃんとつながっていくものがある。



『東京バンドワゴン』

2010-05-08 20:34:02 | 

今日は、小路幸也さんの『東京バンドワゴン』という本をご紹介します



あらすじ

東京の下町、明治18年から続く老舗古本屋“東京バンドワゴン”を営むのは、4世代の大家族。
語り手は、天国から家族を見守る優しいおばあちゃん、堀田サチ(故・76)。
堀田家の家族は、3代目店主の堀田勘一(79)、金髪ロッカーの不良息子・我南人(60)、
孫の天然おっとりシングルマザーのの藍子(35)、フリーライターで古本屋の手伝いをしている紺(34)、
我南人と愛人の息子である青(24)、
紺のお嫁さんで併設するカフェを切り盛りする亜美(34)、
藍子の娘の花陽(12)、紺と亜美の息子の研人(10)。
個性の強いキャラクター揃いで、堀田家はいつも賑やか。
古本も事件も引き取ります。
ちょっと変わった家訓に従い、季節ごとに起きる不思議な事件を解決していく、堀田家の1年。
おかしくて、時に切なく優しい、下町情緒あふれる春夏秋冬の物語。


堀田家 家訓
◆文明文化に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決
◆本は収まるところに収まる
◆煙草の火は一時でも目を離すべからず
◆食事は家族揃って賑やかに行うべし
◆人を立てて戸は開けて万事朗らかに行うべし



『百科事典はなぜ消える』
 東京バンドワゴンに小学生の女の子が毎朝コッソリ持ってきて本棚に入れ、夕方持って帰る、
 2冊の百科事典の謎を解き明かす。

『お嫁さんはなぜ泣くの』 
 青のお嫁さんになると言って堀田家に転がり込んできた、みすずという女性。
 堀田家の誰かをストーキングしているような、怪しげな男の影。
 青が不審な男に殴られたり、藍子の絵が切り裂かれたり、店の本が荒らされる事件も起きる。

『犬とネズミとブローチと』
 紺が温泉旅館に本の買取と鑑定に行くが、一晩で旅館の主人も本もきれいさっぱり消えてしまった。
 同時期に、老人ホームから東京バンドワゴンの貸し出した本を持った女性が失踪。
 行方不明の2人を探し、いなくなった理由を探る。
 
『愛こそすべて』
 青の結婚式のために、我南人が青の産みの母親の元へ向かう。
 先代の家訓がびっしり書いてある本が発見され、そこには「冬に結婚するべからず」という一文が。
 


                                   

私が好きな登場人物は、堀田家の紺さん
出すぎず絶妙なタイミングと加減でみんなをフォローする、すごく頼れる優しい男性です
悪い人が出てこなくて、それぞれみんな個性があって、魅力的な面々なのですがね


どのお話も、心温まるお話でした
問題や不思議なことが起こるたびに、家族やご近所さんたちが、自分にできることをする。
お互いが相手を思いやる。
人と人の結びつき、心のつながりを感じられます


『その日のまえに』

2010-05-07 20:44:17 | 

重松清さんの『その日のまえに』を読みました


“その日”というのは、命の灯火が消える日のことです。



あらすじ

僕たちは「その日」に向かって生きてきた――。

昨日までの暮らしが、明日からも続くはずだった。
それを不意に断ち切る、愛するひとの死。
消えゆく命を前にして、いったい何ができるのだろうか……。
死にゆく妻を静かに見送る父と子らを中心に、それぞれのなかにある生と死。
生と死と、幸せの意味を見つめる連作短編集。


これらの短編が、表題作『その日のまえに』に少しずつ繋がり、ひとつの物語となっています。

『ひこうき雲』
 小学生の子供を持つ父親が、思い出の場所に立ち寄り、亡くなった小学時代の同級生のことを回想するお話。

『朝日のあたる家』
 夫を病気で亡くした高校教師が、思わぬ形で昔の教え子と再会するお話。

『潮騒』
 余命を宣告された男性が、幼少時代を過ごした街へ行き、同級生と再会するお話。

『ヒア・カムズ・ザ・サン』
 母ひとり子ひとりの家族。その母親が癌であることを息子が知るまでのお話。

『その日のまえに』
 夫と息子2人と幸せに暮らしていた妻が病気を告知され、余命を宣告された。
 新婚当時に住んでいた町(スタートライン)に向かった夫婦が、これまでのことを振り返り、
 ここからまた新たなスタートを切ろうとするお話。

『その日』
 『その日のまえに』の妻が、亡くなってしまう日のお話。

『その日のあとで』
 『その日』から3ヶ月が経った、残された夫と息子たちのお話。
 


                                   

亡くなった妻が生前、亡くなって3ヶ月経ってから夫に届けてもらうように頼んでいた手紙の中身
そこに書かれていたのは、たった一言、
“忘れてもいいよ”でした。

私だったら・・・そう考えずにはいられません
もしも自分が、まだずっと先まで続くと思っていた人生に終わりを突きつけられたら。
その時に、残していきたくない家族、ちいさい子供がいたら。
私は彼らに、「忘れてもいいんばい」と言えるかなぁ・・・。
もしかしたら、たぶん、その反対で、「私のこと忘れんでね」なんて泣いてしまいそうです
忘れるわけはないのに、それでも。

自分の人生がいつどうやって終わりを迎えるのか、ほとんどの人はわからない。
だからこそ、間違いなく与えられている“今”を大切に過ごさなくてはいけないんだなぁと思いました
後で悔やまなくていいように、大切な人やものを当たり前に大切にしなくてはいけないんだなぁ・・・。
色々なことを考えさせられる、心に訴えかけられる一冊でした

                                   




心に残ったところ

母ちゃんがいて、俺がいれば、世界中どこでも「わが家」になるのかもしれない。
――たとえそこが、病室であっても。



『Presents』

2010-05-01 21:14:21 | 

先日、角野光代さんの『Presents』を読みました


この本のテーマは、“女性が一生のうちにもらう贈り物”です
短編が12話入っていて、赤ちゃんからおばあちゃんまでのお話があります。
帯にある言葉“人生には、大切なプレゼントがたくさんある。”
物だけでなく、思い出や気持ちなどもそうですよね



もくじ(プレゼントの中身)

#1 名前
 両親が初めての子供に付ける名前

#2 ランドセル
 おばあちゃんが贈ってくれたランドセル

#3 初キス
 同級生からの突然のキス

#4 鍋セット
 一人暮らしをする娘に、母親からの鍋セット

#5 うに煎餅
 長く付き合っている恋人からの、ホワイトデーのうに煎餅

#6 合い鍵
 振られた恋人の部屋の合い鍵

#7 ヴェール
 親友4人が縫ってくれた、ウエディングヴェール

#8 記憶
 浮気疑惑の夫から誘われた旅行
 初旅行で行った同じ場所で蘇る、その時の記憶

#9 絵
 家族というテーマで息子が描いた、玄関の靴の絵

#10 料理
 熱を出した時に、夫が作ったおじやと娘がすりおろしたりんご

#11 ぬいぐるみ
 結婚する娘が、もうすぐ離婚する両親に贈ったぬいぐるみ

#12 涙
 最期の時を迎えるおばあちゃんを囲む、家族の涙



                                   

どのお話も、プレゼントにまつわるものですから、心温まるものが多かったです
でも、人生が嬉しい事や楽しい事ばかりではないように、せつないプレゼントもありました。
それぞれの主人公たちはそこから、何を得たのか。
プレゼントそのものだけでなく、贈ってくれた相手の想いを汲み取り、
何を感じ、何を得たのか。
自分の事としても、色々と考えさせられました


個人的に好きなお話は、『名前』と『料理』です

                                   




心に残ったところ


#1 名前

あなたにふさわしい名前を今考えているから。
 あなたにしか似合わない名前をまだ考えているから。
川みたいな春みたいな、光みたいな太陽みたいな、
 人を助けるような頼られるような、健康であるような人に好かれるような、
いや、そんな意味など何ひとつなくたっていい、
あなたがあなたであるとだれかが認識してくれる名前であるならば。



#2 ランドセル

そうして私は、二十七歳になりながら、なんにもわかっていないことに気がつくのである。
人が死ぬことがどんなことなのか、幸福のかたちが違うことがどんなことなのか、
恋が何を私にもたらしたのか、失恋が何を私から奪っていったのか、まるでわからない。

 失ってばかりのような気がするけれど、
 それでも私の手にしているものは、ランドセルに詰めこめないくらいたくさんなのだ。
 逃げるわけにはいかない。もう少し、ここでなんとかふんばらなくては。


#8 記憶

 「なっちゃんと結婚して、それでずっといっしょにいられるようにって祈ったんだよね。
 なんかいろんなことがあっても、それでもいっしょにいて、最後は笑っていられるようにっていうか」

 それでもいっしょにいて、最後は笑っていられるように。
 この先いったいどのくらいの時間を、私たちはともに過ごすんだろう。
 食い違った記憶と、隅まで同じ記憶とを持って。
 許したり許されたり、退屈したり無神経になったり、たった二人でくりかえしながら。

私たちが出会ったときに在ったものを取り戻すのは、たぶん不可能なんだろう。
 私たちふたりきりのちいさな世界に、それはもう二度とあらわれないんだろう。
 思うというよりは知るように私は考えた。
 けれどそれは、以前感じたほどかなしいことではないように思えた。
 私たちはまったくべつのかたちをした何かを、手に入れているはずなのだから。




『エンキョリレンアイ』

2010-04-19 22:31:38 | 

最近特に、空いた時間には本を読むようにしています
もともと好きですし、疲れていても出来る気分転換に、読書は最適
色々読んでいるので、これから少しずつここでご紹介していきますね



今回の読書感想文は、小手鞠るいさんの『エンキョリレンアイ』です
図書館のおすすめだったので、借りてみました
恋愛小説3部作の第1弾だそうです



あらすじ


13年前の春、ふたりは京都駅近くの書店で出会い、優しく切ない恋が始まった。

書店でアルバイトしていた主人公・花音。
そこに、絵本を選んでほしいと来た男性・海晴。
海晴からのアプローチで、二人はお互いを想うようになる。
しかし、出会った舞台は京都だったものの、花音はその日がバイト最終日。
就職のため東京に行くことが決まっていた。
一方の海晴は、アメリカ留学ことが決まっていた。
その後ふたりは、東京とニューヨークという距離と時間の壁を乗り越えて、メールや電話で想いを育む。

海晴の亡くなったお母さんは、女手一つで海晴を育てた。
「未婚の母」ではなく、「ミコンノハハ」なのだと彼女は言っていた。
漢字の「未婚の母」から悲しみと涙が蒸発して、明るくて前向きで世界一幸せになったのが、
カタカナの「ミコンノハハ」だと言う。
ふたりの間に横たわる途方も無い距離に圧倒され、押し潰されそうになり、
海晴のお母さんを倣って、花音もいつしか頭の中で「エンキョリレンアイ」と変換するようになっていた。
「遠距離恋愛」と「エンキョリレンアイ」にも、同じように違いがあるかしら・・・と。

遠く遠く離れていても、お互いを想わない日はなかった――。
そんな、言葉を通わす恋人たちを待つのは、驚きの結末だった。
海をこえてつながる、直球の純愛物語。




                                             

冒頭で「すぐ簡単にそこまで人を好きになれるもの?」と疑問が浮かび、
終盤で「ちょっと出来すぎやない?」とツッコミを入れてしまいましたけれど、
とても純粋に人を想う気持ちが溢れているお話でした

花音と海晴のパターンは特殊ですが、抱えている気持ちや悩みは誰もに共通するもののような気がします
海晴が花音宛てに送ったメールからは、楽しく温かい気持ちをもらい、
花音の葛藤には、一緒にせつなくなりました。
海晴からの連絡が途絶えて、不安に押しつぶされそうになって、
信じられるものが分からなくなって、何もかもが上手くいかなくなってしまって、
それでも気持ちをぶつけられる相手が居なくて、ひとりぼっちになった気がして、
近くに居る人にすがりそうになって、そんな自分が嫌になって・・・。
それでも花音は「海晴を好きでいたい」と、自分の力で何度も立ち上がるのです。

もしも私が花音の立場だったら、それは無理だな~と思います
早々に心が折れて、自分から諦めてしまっているでしょうね。
遠く遠く離れた場所にいる花音の心を、守り続けた海晴もすごいと思います

終盤はどんでん返しもあり、急展開
「えーっ!こんな話だったの!?」とショックを受け、途中で読むのをやめたくなりました(笑)
でも最終的には、読むのをやめなくて良かったです

純粋にひたむきにお互いを想うふたりが、とても素敵でした

                                             




心に残った言葉たち

今のわたしには、ゆるやかな痛みのように、わかっている。
あのひとの言った通りなのだ。
つながるのは心と心。それ以外では、ひとはつながることなどできないのだと。



「愛は他愛ない会話と、つないだ手のぬくもりの中にあるの。
愛は一緒にあるいていくこと。愛は一緒に坂道を登っていくこと。」



「どんなに相手のことを思っていても、別の人間である相手には、その思いは「わからない」のです。
 そして、どんなに深く、一生懸命相手のことを思っていても、
 その相手が同じくらい自分のことを思ってくれているのかどうか、それも、わからないのだと思います。
 しかし、ひとつだけ、わかることがあります。それは自分の気持ちです。
 自分の気持ちだけは、わかりすぎるほど、わかります。」



「カノちゃん、決してオーバーではなく、僕は今、こう思っています。
 もしも、もう二度と会えないとしても、例えば僕が死ぬ前に、誰か会いたい人がいるとしたら、
 それはカノちゃんをおいて、ほかにはいません。
 僕が死ぬ直前に、ひとつだけ思い出したい記憶があるとすれば、それはカノちゃんとの記憶だということです。
 いろいろ書いたけれど、何よりもこのことを伝えたくて、この手紙を書いたような気がします。」



『てるてるあした』

2008-08-08 17:20:01 | 
加納朋子さんの『てるてるあした』についてお話しします



簡単にあらすじをご紹介
主人公は、中学生の雨宮照代。
両親が夜逃げすることになり、ひとりで佐々良という町を訪れました。
そこで照代は遠い親戚だという、口うるさく厳しいお婆さん・鈴木久代さんの家に居候することになります。
自分の境遇に涙が溢れた時、照代に届いた1通のメール
「てるてる あした。きょうはないても あしたはわらう。」
その後も時折、差出人不明のメールが届くようになりました。


照代の周りには、久代さん以外にも色々な人がいます。
久代さんの友達のお夏さんと珠子さん、ご近所のサヤさんと息子のユウスケくん、サヤさんの友達のエリカさんと息子のダイヤくん、
友達になった、スエヒロ電気の松っちゃんや近くの高校生の偉子(通称エラ子)など。
傷ついたりイライラしてつい当たってしまったりしながらも、周囲との助け合いやふれあいで、すさんだ照代の気持ちも次第に変わっていきます。

割れてしまったお気に入りのガラスのリンゴは、吹きガラス工房で溶かして、別の物を作ってもらった。
ボロボロの大型ゴミ同然の“ゾンビ自転車”は、松っちゃんが錆を落として油を差して色を塗り直して、立派な自転車に直してくれた。
だから、壊れた心やバラバラになった家族も、いつかは生まれ変われるかもしれない。
照代はそんなことを思うようになっていきました。


久代さんの家に現れる、透明な女の子。
照代の見る不思議な夢。
そこから浮かび上がる、久代さんの昔の教え子・沢井やす子という存在。
何やら忙しそうにしている久代さん。
そして、照代に送られてくるメール。
すべての謎が明らかになる時、照代の心から溢れる感情の波。
悲しい別れを乗り越えた照代の未来が見えてきた最後に、私たち読者の心に広がる静かで温かい感動。



それぞれ当たり前に欠点を持った人たちがぶつかり合う様子は、読んでいてもどかしいし、胸が痛くなります
けれどその人たちが真剣に相手のことを考え懸命に思いやる様子は、心が洗われていくようです
この本を手に取るきっかけになった、「てるてるあした。きょうはないても あしたはわらう。」という言葉が、私は大好き
心の片隅にしまっておいて、悲しい時に唱えたい呪文のような言葉ではありませんか?
このメールを照代に送ってくれた人が、私の一番好きな登場人物です


厳しさの中にも、優しさはある
つらい毎日の中にも、たくさんの楽しみや喜びがある
誰かの言動は、自分次第で良くも悪くも受け取ることができる
大切なことを教えてくれる本です