時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

世界のバックオフイス化する中国

2006年05月15日 | グローバル化の断面

Graph:Quoted from The Economist May 6th 2006.
  

  インド、中国におけるIT・ソフトウエア産業の台頭が注目を集めている。最近、この問題に関わる小さな調査に携わって感じたことを少しだけ記してみよう。中国が日本、アメリカなどのIT企業のバックオフイス(裏方の仕事場)化していることである。

  先進諸国が海外へ仕事を外注(オフショアリング)する傾向が高まっている中で、世界の労働のあり方
が大きく変わりつつある。特に、ITソフトウエアの分野では、産業の階層分化が急速に進んでいる。とりわけ注目されるのは、中国内陸部へ下層(下流)部分の仕事が移転し始めたことだ。

激変する内陸部
  中国内陸部の古都西安では、一室に数十人から百人近い若い女性労働者が、コンピューターの画面を前に働いている光景は珍しくなくなった。かつての靴、衣服、玩具などを労働集約的に組み立てている光景とはかなり異なっている。しかし、それを支えているものが、他の地域に比較して圧倒的に安い賃金であることには変わりはない。

    彼女たちが行っているは、日本、韓国、アメリカなどのソフトウエア企業や販売業の裏方の仕事である。人手のかかるデータ入力、ソフトウエア・チェックなどの工程、車のローンの事務手続、医療保険の処理などを請け負っている。

ハイテクの裏側
  西安はこれまで中国の宇宙産業の拠点のひとつであった。7500社を抱え、中国のシリコン・バレーといわれてきた。100以上の大学があり、毎年12万人以上の卒業生を送り出してきた。「西安ハイテク産業開発区」として、世界のソフトウエア開発の先端に躍り出る構図を描いてきた。しかし、現実には日本、韓国、アメリカ企業などのアウトソーシングの拠点となっている。BPO(Business Process Offshoring)といわれる企業の工程の一部あるいは全部を請け負っている。

  IT(ソフトウエア)分野ではインドと中国が競っている。英語圏のインドは優れた理系人材と低賃金を基盤に急速に拡大・発展をとげてきた。しかし、最近では大卒の俸給が急騰、離職率も高くなった。

低賃金が武器の内陸部
  他方、中国もこの分野での拡大を目指しているが、初任給段階では中国の大卒給与は月300ドル程度、アメリカの10分の1であり、コスト面で非常に競争力がある。特に内陸部の賃金水準は低い。The Economist(May 6th 2006) が伝えるように、中国でも上海、北京など沿海部と比較して、西安など内陸部の賃金水準はかなり低い。北京、上海の40-50%という水準である。

  IT労働力の質という点で、中国はインドよりも5-10年間は遅れているといわれる。中国については、いくつかの問題点が指摘されている。英語圏でないため仕方がないが、英語を話し、書く能力が不足している(コールセンターなど顧客との頻繁なやり取りを必要とするサービスには不適である)。大学教育もインドと比較すると現実社会との距離が大きい。産学協同の経験も浅い。一部の重点大学を除くと大学生の質が低い。ソフトウエアのコピーなど知的財産権の侵害も多い。

先行するインド
    このように、ITソフトウエア産業について、インドは中国よりも明らかに先行している。中国がデータ入力、ソフトウエア・テスト、定型処理など低層(下流)のBPOのシェアを高める反面、インドは英語圏の強みと理系人材の豊富さを武器に、大きな創造性や言語能力を必要とする中層分野への展開を目指している。

    急速に人口減少が進む日本にとって、下層・中層工程を中国、インドなどへ依存する傾向はますます強まるだろう。問題は、高度に創造的な能力を要する上層部分で日本は生き残れるかという点にある。グローバルな競争に生き残る「創造的企業」とは、いかなるものか。日本が直面する厳しい課題である。


References
'Watch out, India: Outsourcing to China' The Economist May 6th 2006.
「アジア諸国の国際労働移動」Business Labor Trend. April 2006.

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