時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

インドに見る医療立国の姿

2006年06月02日 | グローバル化の断面

  インド旅行中に、メディカル・チェックを受けた知人の話を聞いた。以前、このブログで、日本にとって医療立国の構想が必要なことを記したことがある。その先駆的な例として、シンガポールの状況を紹介した。対象とする患者の母集団を自国民という狭い範囲に限定せず、広くグローバルな市場へと拡大するという医療サービスの開放・立国の方向である。高度な医療技術、設備と丁寧な看護ケアを武器に、ラッフルズ病院などはその方向で成功を収めつつある。高度な医療環境のある国というシンガポールの国家的イメージ向上にもつながる。

  シンガポールのような人口小国にとって、IT産業の成功に次ぐ医療産業での発展は、国家的戦略としてきわめて重要な意味を持っている。日本には残念ながらこうした雄大な構想がない。医師はおろか看護師受け入れでも、目先きの対応だけで将来へのヴィジョンがない。

シンガポールを追うインド
  シンガポールに続き、インドが同様な方向での展開を目指している。インドは近年IT産業の分野で世界をリードする驚異的な発展をとげてきた。すでにソフトウエア開発では、確固たる地位を占めている。

  インドは中国と同様に東洋医学の長い伝統を保持している。その蓄積に加えて、西洋医学の先端を取り入れた近代医学の分野でも新たな方向を切り開こうとしている。 2005年、インドでの医療サービスを受けるために海外からやってきた患者は15万人を越えた。

  英語圏で、言語の壁がないこともITの場合と同様にインドの武器となっている。加えて、高度な医学教育を目指し、インド政府や民間関係者は人材育成に力を尽くしてきた。インド政府はこの方向に沿って、海外からの患者と家族の受け入れのためのメディカルヴィザの発給に踏み切った。

    この背景にはニューデリーを始めとして、インド国外に開かれた病院、医療機関が着々と成果を挙げつつあることを指摘できる。当初は海外に住むNRI(Non Residence Indian 非居留インド人)を対象としていたが、今ではインド人以外の患者が増える傾向にある。空港への送迎、治療費、入院費などすべて含めて血管造影が1日の入院で550ドルと、西欧の病院と比較して安価なことなどで人気を博しつつある。高い医療技術の維持・達成を目標とするこうした病院は、IT産業に次ぐ先端産業としてインドの発展を支えるものとなりそうである。こうした方向はドバイ、バーレーンなどの中東諸国も、模索している。

新たな雇用機会の創出にも
  日本では、雇用機会の海外流出が大きな懸念材料になっている。日本列島に残りうる産業はなになのか。高度な専門性、技術力を持った産業こそが将来の日本を背負うものである。そのひとつが、医療サービスである。日本はこの領域でアジアをリードしうる立場にある。

  世界では、高度な専門技術能力を持った人材の争奪が起きている。このグローバル化の時代に、国内の人材だけで一国の活力を維持してゆくことはできない。世界中から医師、看護師、医療技術者など広く人材を受け入れ、その成果を世界に還元するという視点が必要である。

  地域振興・開発のベースとしてグローバルに開かれた視点での医療サービスのあり方は、急速な少子高齢化で活力を失いがちな日本にとって、検討すべき大きな課題と思う。小児科や産婦人科医師が不足して、子供も安心して生めないという状況では、とても出生率の改善どころではない。高度な医療・看護環境に支えられた人間重視の国というイメージが生まれるような努力が必要ではないか。現実の医療・介護の現場をみると、過酷ともいえる現実が目に入ってくる。大きな視点の転換が必要に思われる。


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