http://www.egyptianmuseum.gov.eg/home.html
エジプト、カイロの国立考古学博物館に所蔵されている有名なツタンカーメン王のマスクに使われている青(ブルー)の顔料について興味ある記事*が掲載されていた。マスクにはかなり多くの着色がなされているが、とりわけ青の成分についての分析である。 いつか、ベルリンのごひいきのひとつ「ネフェルティティ」 Büste der Königin Nofreteteについて書きたいと思っていたこともあって、興味深く読んだ(ネフェルティティについては、後日としたい)。
ミシェル・パストゥローの『青の歴史』にも、古代エジプト人は銅のケイ酸塩から素晴らしい色合いの青と青緑を作ったことが記されている。当時のエジプト人は、自然の青色顔料としては藍銅鉱、ラピスラズリ、トルコ石を知っていたが、ケイ酸銅からも人工青色顔料を製造する技術も持っていた。さらに磁器化の原理も知っていた(パストゥロー邦訳、20-22)。
記事で取り上げられているツタンカーメン王は紀元前14世紀のエジプト王である。父とされるアクエンアテン王は多神教から一神教へのアマルナ改革で知られる。アクエンアテンは新しい青を多用した。「アマルナ・ブルー」といわれ、組成と構造は2002年に宇田応之氏が決定した。
総重量11キロのマスクを彩る 胸飾りの赤はカーネリアン、薄い青はアマゾナイトという天然鉱物であることが分かっていた。しかし、頭巾に使われていた濃い青とつげひげの灰色ぽい緑は、これまで報告例のない顔料であり、宇田応之氏はこの濃い青の成分解析を行った。
古代エジプトでは金、銀に次ぐ大切な色だった青の原料のラピスラズリは主としてアフガニスタン産であった。しかし、原石を見ると分かるが、かなり硬い鉱石であり、採掘・輸送などコストがかかり、高価で入手が難しいこともあって、古代エジプト人は代用品として「エジプシャン・ブルー」を合成したらしい。
アマルナ改革に失敗した父の後をうけたツタンカーメンは王位につくと、父の作った制度を元に戻した。この時、アマルナ・ブルーも廃止し、新しい青を作り出したのではないかと宇田氏は推定している。その理由として、頭巾の青には、エジプシャン・ブルーとアマルナ・ブルーの構成元素すべてが含まれている。そのうえエジプト特有の焼き物の組成も含まれている。宇田氏は「ツタンカーメン・ブルー」と命名したいと述べている。
最近、相次いで「色」の歴史についての研究書が刊行されているが、こうした地道な研究から新たな発見が生まれることを知ることは楽しい。
References
*
宇田応之「ツタンカーメン合金で薄化粧:王のブルー新たに合成」『朝日新聞』夕刊、2006年10月10日
Michel Pastoureau. Bleu, Histoire d'une couleur. Paris: Le Seuil, 2000(邦訳 松村恵理・松村剛『青の歴史』筑摩書房、2005年)