ぼくは、ミリーが何を言っているのか分からなかった。ぼくは、その場を離れたくなった。でも、それではこれまでの自分と同じだ。月まで来たのに、それでは意味がない。ぼくは、ミリーが人を殺したということは置いておいて、自分がここにいる理由を話そうと思った。
「そのサジっていう人が来るまで、少しだけ話せるかな?」
ミリーはわずかにうなづいた。
「昨日、君の夢を見たんだ…」
ぼくは、昨日見た夢と今日の朝みたニュースの話をさした。そして、なぜ今日ぼくがここに居合わせたかを説明した。そして、少し間をあけて、一番気になっていることを聞いた。
「君はなぜ転校したの?」
そう、ぼくが気になっているのは、あのときぼくが話しかけた後すぐに転校したということなのだ。
ミリーはしばらくぼくを見つめた後、話し始めた。
「あなたは、わたしの書いた短編小説を覚えてる?」
ぼくがうなづき、ミリーは続ける。
「あの話は、わたしはSFのつもりで書いたの。そのとき、わたしがいた世界より未来の世界を想像して書いたの。」
そうだろうか、ぼくは確かにあの話をSFだとは思ったが、未来の話だったという記憶はない。
「わたしの描いた未来は、月面上に都市があり、地球と月の間を簡単に行き来できるような未来だったのよ。それは、いまの世界ととてもよく似ているわ。でも、わたしがあの話を書いて発表するまでは、月の上に街なんてなかったわ。でも、あの頃あなたと話していた頃を境に、世界が変わってしまったの。わたしの書いた話が現実世界に染み出してくるのよ。」
「自分が考えた話を他の人に聞かせただけで次の日にそれが現実になってしまったことは、それまでも何度かあるわ。でも、そのときのように世界そのものが変わってしまうのは始めてだったわ。」
「わたしは、怖くなったのよ。これまでの経験で、わたしを知っている人が少なくなれば、染み出してきた想像が消えてくることを知っていたの。だから、引っ越した。」
ミリーが話したことは、到底信じられるような内容ではなかった。でも、ぼくはミリーが嘘をついているなんてことは全く考えられなかった。それで、ぼくはとりあえずこう言った。
「よく解ったよ。」
===
「君が転校した理由は解ったけど…」
ぼくはこういいながら、なにひとつ理解していなかった。でもいいんだ。いまは、ミリーが言うことを聞くだけでいい。
「君はその後、どこにいたの?月に来たのはいつからなの?」
「わたしがルナソルに引っ越したのは、かなり最近になってからよ。あの後、わたしはあの街を離れて、それまで行ったこともない適当な街に住んでいたわ。そこで、サジと出会った。サジは、わたしにとっては、わたしが小説に書いた主人公だわ。それが現実の人となって、わたしの前に現れた者よ。サジは、わたしが小説に書いた通りの不思議な力を持ってるの。」
ぼくは、すごく違和感を感じた。あの主人公のモデルはぼくなんじゃないかと思ってる。それより前に部室で二人きりのときにぼくが話したときの言葉がミリーの小説に現れているからだ。でも、ミリーはそんなぼくの気持ちには気づかないで続けた。
「サジは、ルナマフィアの幹部よ。でも、最初にわたしと会ったころはただの学生だった。ただ、人の心が解ってしまったり、未来のことが少し解ってしまうらしいわ。そのことを自分で悲しんでいるし、怖がっているのよ。『人の心が解ってしまったり、未来のことが解るのは、便利かもしれないけど、すごく悲しくて怖いことだ。』って。』
そうだ、その言葉だ。それはぼくが最初に言った言葉だ。ミリーの考えでは、それはミリーの小説から染み出した言葉なのだろう。でも、最初はぼくのはずだ。
「あの、ぼくがその言葉を君に言ったのは覚えている?」
「覚えてるわ。でも、それは、あなたと話す前にわたしが小説に書いていたことなのよ。」
ミリーは少しだけ間をおき、ぼくの目を見つめた後続けた。
「いままで、わたしの小説が外に染み出したのは、その内容を他の人に知られた後だったわ。でも、あなたのあの言葉は、わたしがまだ誰にも見せていないときだったの。これって、どういうこと?」
「わたしは、二つの可能性を考えたわ。一つはあなたがわたしの見つけたルールを超えて、わたしの小説を染み出させることができるということ。二つ目はだれかがあの書きかけの小説を読んで、それが原因で話が染み出したということ。」
ぼくは、こんな途方もないことを論理的に考えていたミリーに驚愕した。しかし、ぼくはミリーの話にほとんどついて行けない。ぼくのあの言葉も、ミリーの小説から染み出したというのか?ぼくはもうわけが解らなくなった。
その時、サジが現れた。
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「そのサジっていう人が来るまで、少しだけ話せるかな?」
ミリーはわずかにうなづいた。
「昨日、君の夢を見たんだ…」
ぼくは、昨日見た夢と今日の朝みたニュースの話をさした。そして、なぜ今日ぼくがここに居合わせたかを説明した。そして、少し間をあけて、一番気になっていることを聞いた。
「君はなぜ転校したの?」
そう、ぼくが気になっているのは、あのときぼくが話しかけた後すぐに転校したということなのだ。
ミリーはしばらくぼくを見つめた後、話し始めた。
「あなたは、わたしの書いた短編小説を覚えてる?」
ぼくがうなづき、ミリーは続ける。
「あの話は、わたしはSFのつもりで書いたの。そのとき、わたしがいた世界より未来の世界を想像して書いたの。」
そうだろうか、ぼくは確かにあの話をSFだとは思ったが、未来の話だったという記憶はない。
「わたしの描いた未来は、月面上に都市があり、地球と月の間を簡単に行き来できるような未来だったのよ。それは、いまの世界ととてもよく似ているわ。でも、わたしがあの話を書いて発表するまでは、月の上に街なんてなかったわ。でも、あの頃あなたと話していた頃を境に、世界が変わってしまったの。わたしの書いた話が現実世界に染み出してくるのよ。」
「自分が考えた話を他の人に聞かせただけで次の日にそれが現実になってしまったことは、それまでも何度かあるわ。でも、そのときのように世界そのものが変わってしまうのは始めてだったわ。」
「わたしは、怖くなったのよ。これまでの経験で、わたしを知っている人が少なくなれば、染み出してきた想像が消えてくることを知っていたの。だから、引っ越した。」
ミリーが話したことは、到底信じられるような内容ではなかった。でも、ぼくはミリーが嘘をついているなんてことは全く考えられなかった。それで、ぼくはとりあえずこう言った。
「よく解ったよ。」
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「君が転校した理由は解ったけど…」
ぼくはこういいながら、なにひとつ理解していなかった。でもいいんだ。いまは、ミリーが言うことを聞くだけでいい。
「君はその後、どこにいたの?月に来たのはいつからなの?」
「わたしがルナソルに引っ越したのは、かなり最近になってからよ。あの後、わたしはあの街を離れて、それまで行ったこともない適当な街に住んでいたわ。そこで、サジと出会った。サジは、わたしにとっては、わたしが小説に書いた主人公だわ。それが現実の人となって、わたしの前に現れた者よ。サジは、わたしが小説に書いた通りの不思議な力を持ってるの。」
ぼくは、すごく違和感を感じた。あの主人公のモデルはぼくなんじゃないかと思ってる。それより前に部室で二人きりのときにぼくが話したときの言葉がミリーの小説に現れているからだ。でも、ミリーはそんなぼくの気持ちには気づかないで続けた。
「サジは、ルナマフィアの幹部よ。でも、最初にわたしと会ったころはただの学生だった。ただ、人の心が解ってしまったり、未来のことが少し解ってしまうらしいわ。そのことを自分で悲しんでいるし、怖がっているのよ。『人の心が解ってしまったり、未来のことが解るのは、便利かもしれないけど、すごく悲しくて怖いことだ。』って。』
そうだ、その言葉だ。それはぼくが最初に言った言葉だ。ミリーの考えでは、それはミリーの小説から染み出した言葉なのだろう。でも、最初はぼくのはずだ。
「あの、ぼくがその言葉を君に言ったのは覚えている?」
「覚えてるわ。でも、それは、あなたと話す前にわたしが小説に書いていたことなのよ。」
ミリーは少しだけ間をおき、ぼくの目を見つめた後続けた。
「いままで、わたしの小説が外に染み出したのは、その内容を他の人に知られた後だったわ。でも、あなたのあの言葉は、わたしがまだ誰にも見せていないときだったの。これって、どういうこと?」
「わたしは、二つの可能性を考えたわ。一つはあなたがわたしの見つけたルールを超えて、わたしの小説を染み出させることができるということ。二つ目はだれかがあの書きかけの小説を読んで、それが原因で話が染み出したということ。」
ぼくは、こんな途方もないことを論理的に考えていたミリーに驚愕した。しかし、ぼくはミリーの話にほとんどついて行けない。ぼくのあの言葉も、ミリーの小説から染み出したというのか?ぼくはもうわけが解らなくなった。
その時、サジが現れた。
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