最新の審美&インプラント日記

天王洲アイル・天王洲インプラントセンター 小川勝久先生による審美とインプラント治療の日記と情報

夢への責任

2006-09-29 16:44:31 | Weblog
昨日28日木曜日。神奈川歯科大学・顎機能修復科学講座が主催する‘研究談話会’にて「審美領域のインプラント治療を考える」と題して、~審美的に満足できるようなインプラント治療をおこなうには、何が問題で、その対策と術式についてどのような解決方法あるのか~ を、私の臨床ケースから講演させて頂いた。
以前にも書いたけれども、私の歯科医としての‘夢’の一つには、‘大学と競争して勝つ事’だった。
7月には鶴見大学・口腔インプラントセンターにて同じような講演をさせて頂いた。

講演のプレゼンは同じものは無い。必ず、作り変えていくので、自分の贔屓目でもついつい・・自己満足に陥るのであるが。
今回は、ちょっと違った思いがあった

前歯のような審美領域では、その治療の良否を患者様自身が容易に判断できる事が多く、その事以上に、色調や形態、自然感といいた‘見映え’が要求される事が多い。その為に骨の移植や歯肉の移植といった付加的な術式が要求される。しかし、これらの事を一生懸命に診断し、丁寧に治療しても、100%全てに成功し完璧な結果が得られるとは限らない。(読者の患者さんや、今、僕の患者さんでは心配になったり、不安にさせてしまうかもしれませんね・・・)
では、正直に・・・・

私たち歯科医の講義や講演では上手く行った治療の経緯や技法を紹介する事が多く、ミスや失敗に対しての原因を考察を自ら示す事は少ない。
今回の私の講演も、じつは第2案があって、私が過去に行なった前歯1本のインプラント症例16ケースを‘否定的に検討した考察’を作ってみた。
これは・・・本当に前歯にインプラント治療が最良な選択なのか? ブリッジや従来の治療法より本当に優れているのか? もしインプラント治療にミスしたら? 等について、個々のケースから考察を作ってみた。
結果は・・・怖くなった。不安になった。胸が苦しく・・・・。(って事で、やはりこのプレゼンは止めてみた)
このブログは歯科医の先生も多く読んでくれているので、歯科医の先生も心に手をあてて答えて欲しい「前歯に単独1本のインプラントは本当に最良の選択肢なのですか?」
もし、骨移植に失敗したら? もし、感染で周囲の骨を失ったら? もし、結合組織移植に失敗したら? もし、インプラント周囲の骨が溶けたら?
これら多くのリスクを全て回避し、なおかつリカバーできる知識と技量を持った上で、治療を進めて行かなければならないと思う・・・

11月は、母校での講演が控えている。‘夢への責任’として、否定的な見地から見てもより優れた最良の方法だと思える‘診断’や‘術式’、‘理論’に裏打ちされ、安全で安心できるインプラント治療を目指して治療を行なってみたい。

PS 歯科医の先生方へ 
デンタルダイヤモンド10月号にQ&Aとして‘補綴主導型のインプラントの注意点’を執筆しました。
http://www.dental-diamond.co.jp/mokuji/index_h.html



歯科医療を‘見える化’する機器の有効利用法

2006-09-16 23:28:25 | Weblog
写真は歯科専門雑誌‘日本歯科評論’9月号です。

11月(10月後半?)に歯科医療専門誌(日本歯科評論)の特集として、別冊で「歯科医療を‘見える化’する機器の有効利用法(仮題)」がヒョーロン社から出版されます。

現在では、歯科治療も医療器械の進歩から大きく変化し、お口の中を顕微鏡で診察し、レントゲン機器はコンピューター化により、精度の高い画像を得ることができ、CT(コンピューター・トモグラフィー)や内視鏡も応用されはじめています・・・・・って事で、私は、デジタルリニアトモグラフィーという断層撮影可能な歯科用レントゲンの有効利用方法のパートついて執筆させて頂きました。

最後の文章は、~ 医療技術の進歩で、まず第一に恩恵を受けるのは患者さんでなくてはなりません。その最初の診断で大きな役割を果たすレントゲンの意味は大きく、デジタルリニアトモグラフィーは、一般的なCTに劣らぬ情報を医師と患者に提供してくることになります。
今回紹介した、ソケットリフトやフラップレス・テクニック等のインプラント手術での応用は、まさに、見えなかった部分を、医師にも患者さんにも‘見える化’し、従来では成しえなかった医療を支えているのです。
デジタルリニアトモグラフィーの応用が、安全で確実な医療の一助になれば幸いです。~
と、まとめましたが、多くの患者さんから提供して頂いたレントゲンや写真、資料から私自身が一番勉強になりました。

本当に、辛い治療や長い通院にご協力して頂いた多くの患者さんにお礼申し上げます。

PS 明日・17日日曜日は日本歯科医師会生涯研修の一つで、私(小川勝久)とインプラテックス(株)主催の‘審美領域でのインプラント手術見学コース’という、インプラント治療の講義と実際の手術からの研修会です。多くの先生が日本各地から勉強に来られるので、講義用のプレゼンを再チェックして早めに寝ます。

私を育ててくれた人 ~ 保母須彌也先生 ~

2006-09-01 13:12:46 | Weblog
~ 写真は23年前、大学で保母先生が研修をされた時のものです。~

24年前の秋・・・・。松涛(渋谷区)の閑静な高級住宅街にある国際デンタルアカデミーを訪れた。大学を卒業して半年の学生気分の抜けない私は、スラックスにセーターというラフな格好だった。一緒に行った先輩のM先生も同じような服装だったので、玄関の前で「こんな格好で良いのかなあ・・」と言うと、自信なさげに「大丈夫・・・」とガラス張りの大きなドアを抜けていった。

3階までの吹き抜けのある、はじめて見る、都会の近代的な歯科院。壁には数えられないほどのサティフィケイトと感謝状、写真の数々。緊張してソファーには座れなかったと思う。

当時研修部長だった河津先生(現・明海大学歯学部臨床教授)が、私たちを見るなり、「その格好では、保母所長には合わせられない。着替えて出直してきなさい」と一喝。その翌週、今度はスーツにネクタイで再度訪れる事に。

初対面の保母先生の感想はというと、とにかく、きりっとした姿勢で、笑顔が素敵で自信に満ち溢れている先生という印象でした。その喋り方、身のこなし、本当に魅力的な人ででした。診療室や講義室(ジョンストンホール)、技工室(整理、整頓されていて、今でもあれほどキレイな技工室は見たことが無いです)を案内して頂き、セラミッククラウンや咬合についてのお話(保母先生の研究や夢)を聴いた。これがきっかけで、翌年から一年間のコース(UCLAの卒後研修コース)を受講する事になる。

講義は、大学とは全く異なる内容だった。当時、私は大学の‘歯科補綴学第二講座(クラウン・ブリッジ講座)’の助手で、被せ物やセラミック、咬合の研究や臨床、学生教育に携わっていたのですが、国際デンタルアカデミーの講義は、科学に裏打ちされた技術を、トレーニングするというもので・・・例えば、歯の形成(被せ物の治し方。歯の削り方)は6度のテーパーで、グルーブを決められた位置へ、形成面はスムースに、それを、出来るまで。つまり出来ないと終らないのですが、何本も何本も削って、頭や目で覚えるのではなく、身体や腕、指先が覚えるまで、トレーニングさせて頂いた。
咬合論(噛み合せの知識)も、保母先生から、何度も細かく、教えられた。私は咬合論は苦手で、難しい理論やアゴの動きの解析、咬合器の理論を夜遅くまでご教授して頂いた。
今の私があるのは、(東京での開業を目指したり、海外での研修に出向く習慣や歯科医としての基礎)保母先生との出会いから始まったものでした。

温厚な笑顔とは対照的に、歯科医療に対する思いには、それは深いものがあり、講義に遅刻した時や、トレーニングをサボった時には、鬼のような形相で怒られた思いでも・・・
しかし、そのリカバリーが、これまた上手く、人を乗せるのが巧いというか、「小川君。ホントに上手になったね。」とかを、やさしくそっと言うので、また頑張ろうと思ったりもしたのです。

つい最近も、インプラントの咬合や今話題の‘オールオン4’の書籍を出版し、ノーベルガイド(最新のコンピューターシュミレーション)の教本も精力的に執筆されていたようでした。
70を過ぎても若々しく、独特の講演口調や身のこなしは、世界の歯科界においてもスーパースターとして、私の憧れでした。現代の咬合論の基礎を作り、数々の咬合解析機器の開発や、臨床に応用できる技術やノウハウを数え切れないほど生み出した偉大な歯科医であり‘人’でした。