最新の審美&インプラント日記

天王洲アイル・天王洲インプラントセンター 小川勝久先生による審美とインプラント治療の日記と情報

審美インプラントの真髄 (夢が醒めて・・・・その2)

2006-07-25 21:46:45 | Weblog
22日の臨床写真に、多くのブログ読者の質問があるようなので、治療内容を解説してみます。(一般の読者にはチョッと難しいかもしれませんが、読んでみてください。写真は術前と術後のレントゲン像です。)


患者さんは30代前半の女性、インターネットでの治療相談でご自身のお悩みをご相談され、来院されました。初対面での印象は、マスクをして顔を伏せ、不安で全身を覆っているようでした。
重度の歯周病に罹患し、適切な治療や衛生指導を受けていない事から、口腔内環境は残念ながら不良な状態であり、精神的なケアーの必要性からカウンセリングにおいても、患者さんのお気持ちや今までの医療の経緯を十分に察し、慎重にお話を伺いながら治療方法を模索しました。

本来であれば、まず第一に、口腔衛生指導やその必要性を十分に医師と歯科衛生士とで行い、患者の信頼や協力を得て、歯周病の初期治療から進めていく事となります。しかしながら、この患者さんに限っては、口腔衛生指導の重要性を含めブラッシング指導は行ったものの、本格的な歯垢、歯石の除去等を行うことは非常に難しい状況でした。
さらに、スタディーモデル作成のための印象採得もできず、咬合関係の記録やスタディーモデルからの診査も行うことが出来ませんでした。

そこで今回は、口腔内写真とパノラマレントゲンからの情報に加え、CT(コンピューター断層撮影)から得られた各位置方向からの断層画像に加え、立体的3D画像の構築を行い、その立体的3D画像から、保存的治療を選択した場合の将来の治療後の予治性やパーシャルデンチャー等の取り外し式義歯の問題点、インプラントを応用した場合の外科的課題や補綴形体を検討しました。特にインプラント治療を選択した場合では、最終的補綴設計から外科的埋入部位や角度に補綴的考慮を加え、必要なインプラント本数と形状を踏まえ、治療計画や治療方法を検討しました。

一般的には大掛かりなインプラント外科手術時にはCTから得られた情報を元に的確な埋入位置や角度を検討し、最適なインプラントを選択して、その上でサージガイドを製作して手術を行う事となります。しかしながら今回は、抜歯前のCTであり、また、骨整形の必要性から、シンプラントからサージガイドの製作を行い、3D画像から埋入位置や角度を模索し必要なインプラントの種類と本数を検討して手術に当たりました。

実際の手術時では、抜歯後、直ちに骨整形と軟組織の整形を行い、その後、前述した方法からインプラント埋入をおこないました。埋入にあたっては、抜歯部では初期固定を考慮しアダプテーションテクニックを用い、前歯部では口蓋側の骨量にインプラントホールの形成を行いました。また、自家骨移植を併用し、骨量の少ない上顎臼歯部ではソケットリフトや傾斜埋入を駆使しました。埋入の位置とインプラント形態や本数は、最終的には骨質、骨量を十分に踏まえ、顎骨の撓みや上部構造の設計、下部構造の3分割と言った補綴的見地の検討を加えて決定し、上顎に9本、下顎に8本のITIインプラントを配置しました。
なお、麻酔医との連携を行い、静脈内沈静法による全身管理を併用し上下共に1回で、残存している全ての歯を抜歯し、及び骨整形、インプラント埋入手術を適応した。

その後、上下共に通法により印象採得を行い、上下固定性の治療用インプラント義歯(上顎は6本のインプラント。下顎は4本のインプラントで支えている)を作成した。この治療用固定式インプラント義歯から、咬合平面の位置をはじめ、個々の歯の大きさ、形態、を顔貌や口唇に調和するように修正を行い、患者さまの要望や技工士の意見も取り入れ、最終的上部構造の全体像を模索しました。
完成した下部構造上で、前歯部の形態や位置、大きさを口唇や顔貌との調和を計り、歯頚部の調整や支台歯部の角度の修正を行い、再度、正確な咬合関係の採得を再度おこないました。

下部構造の歯肉の部位には、ハイブリッドセラミックスを応用することで失われた歯周組織の形態や歯間乳頭部部の繊細な形態と色調を再現し、個々のセラミックスは全てオールセラミックスとし、生理的咬合面形態はもとより、自然な色調と細かな形状を再現しました。


~  重度の歯周病に罹患し、多くの歯の抜歯を余儀なくされた場合、歯周病の初期治療を踏まえ、患者自身の歯の温存を第一に考えていかなければなりません
しかしながら、咬合機能の回復や、その予治性を十分に検討し、さらに審美性や精神的考慮を苦慮したばあい、今回のようなインプラント治療のその役割と恩恵は大きく、失われた咬合の回復のみならず、得られた精神的な喜びは計り知れないものがありました。  ~


‘夢’から醒めて・・・・・

2006-07-22 08:27:17 | Weblog
*重度の歯周病の術前・術後

20日木曜日。鶴見大学/顎顔面口腔インプラントセンターが主催している‘臨床研修医セミナー’で「審美領域でのインプラント治療を考える」と題して、~審美的に満足できるようなインプラント治療をおこなうには、何が問題で、その対策と術式についてどのような解決方法あるのか~ を、私の臨床ケースから2時間講演させて頂いた。
以前にも書いたけれども、私の歯科医としての‘夢’の一つには、‘大学と競争して勝つ事’だった。(医療は競争ではない。が、医師としての技術や知識を競いあう事は重要な事であると考えているが・・・というより、大学に未練があるという事ですね)
この一ヶ月は、内容やプレゼンの方法、理論的背景、考察、等を何度も見直して作り変えてきた。自分では、わかり易い内容と写真であったと自負しているが、参加された先生達の感想や忌憚の無いご意見が聞きたいと今でも思っている。

ついつい・・私たち歯科医の講義や講演では上手く行った治療の経緯や技法を紹介する事が多く、ミスや失敗に対しての原因を考察を自ら示す事は少ない。
今回の私の講演も、当然、教科書的な内容にそって、インプラント治療の基礎的事項(本当はこれが最も大切なのですが)をケース別に解説しその実際の臨床例を提示した。しかしながら、先生方の経験の度合いや技量の差から、なんとなくであるが‘うけなかった’。で、途中から、私の治療経験の中から「一生懸命治療したのだけれども、上手く行かなかったケース」を提示し、その原因や限界、考察等に変更しみた・・すると、多くの先生の眼つきも変わってくるのが、演壇からでも感じ取れた。
注)審美領域(上の前歯)でのインプラント治療は、いろいろな意味で本当に難しく、骨の移植や歯肉の移植を含めて、医師に多くの知識や技量が求められる。が、その結果を‘審美’という事から判断すると、そこには患者固有の問題や限界があり、全てが必ず成功するという事には繋がらないのです・・・・・・・・
こんな事を書くと、患者さんには心配させてしまうかも。でも本当の事なんです。ですので、審美をインプラントに生かす事は難しい事なのです。

今日(21日)は、朝早くから、目が醒めた。自分の夢に対して、興奮もあった。まして他校のインプラント科の先生に補綴出身の私の考えが理解してもらえるのか(評価を気にしすぎなんですが・・・まあ、夢だったので)、あるいは、自分の夢に対しての自問自答から眠れなかった。
しかし、実際は、上手く行かない事の連続から、勉強しているのであり、反省しているのが正直な本心である。ゆっくり眠るには、この仕事(骨移植や歯肉の移植を含めた手術)を辞めない限り叶えられないのかもしれない。

PS 写真は講演の最後に提示したケースの術前・術後。(重度の歯周病に罹患したケースを、上下17本のインプラントにて治療させて頂きました)

余談ですが・・・・・

2006-07-13 14:31:33 | Weblog
* 写真は1994年。北京医科大学での講演の後、質問攻めにあっている私(中央)。

余談になるが、90年代に7回、中国に行っていた。北京医科大学、上海第二医学院、第四軍医科大学、中日友好病院等に、母校の片山教授の推薦もあり、講義や講演を行なった。
中国の先生方は、皆、熱心で、親切で、温かい人ばかりだった。 数回目の訪中の時、当時4歳になる息子と家内も一緒に・・・・ 暑い日だった。ある一人の先生が、私の講演中に、子供を背負って、北京動物園を案内してくれた。講演が終ってみると、パンダの縫い包みを持って笑顔の息子の横に、汗だくで、ヨレヨレのワイシャツ姿で微笑む先生がいました。

北京での宿泊は、子供と家内が一緒だった事もあって日系のホテルを予約し、そこから北京医科大学に出向いた。
すると、恩師の片山教授から、「中国では、君の宿泊費が一か月分の彼らの給与なんだよ。同じ目線や境遇で、講演をしなければ共感は得られない」と諭された。
『高級ホテルに泊まり、出迎えの車で、講演に行く』これは、思い上がりと見下した事になるのである。‘一緒に勉強させて頂く’の姿勢を教えてもらった貴重な教えであった。

チョッと大げさだが、今の日中問題で、どうも、日本が上から中国を見ているような感じが経済界や政治の世界を見ても思えてならない。 ‘援助してやる’とか‘教えてやる’とかの驕った姿勢では、受ける側の心情は悪くなるだけのような気がする。靖国の問題や戦後の問題・・・・・しかし、もっと人間的な基本的な問題が事の原点にあるのではないかと思う。

昨年の6月に中国での講演のお誘いを受けた。が、ちょうど反日運動の問題の時期と重なり中止に。今年の12月。もし、チャンスを戴けるのであれば、訪中して、インプラントを含めた歯科医療について、お話をしてみたいと思っている。