きつねの戯言

銀狐です。不定期で趣味の小説・楽描きイラストなど描いています。日常垢「次郎丸かなみの有味湿潤な日常生活」ではエッセイも。

Labyrinth of mirrors ー鏡の迷宮ー

2012-05-11 23:09:40 | 日記
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迷い込んだのは鏡の迷宮。色んな私が映っている。
大きい私。小さい私。歪んだ私。細長い私。まん丸い私。
皆私であって私でない。それは他人の心に映る私にも似て…


大きい私はプライドの化け物。本当は弱虫のくせに強がって見せている。動物が威嚇する時に自分を大きく見せようとする本能に近い気がする。

小さい私は劣等感の塊。人の何倍も頑張ってもやはりかなわないと思い知って落ち込んで引きこもる。

歪んだ私は、本当の自分がわからなくて像がうまく結べない。私はどんな人間なの?答えが見つからないからあちこち歪んでぼやけている。

細長い私は背伸びする私。自分の身の丈を考えずにより高みを目指そうといつも無理している。

まん丸い私はためこむ私。不平不満を面に出せなくて黒いものがどんどんたまっていく。いつかはちきれて爆発するのが怖い。

無数の鏡に囲まれて人は自分を見失う。虚像が多すぎて自分がどこに居るのか、本当の自分の姿はどんなだかわからなくなってしまう…。

 薄暗い迷宮の中は無数の鏡が並んだ透明の回廊。時に行き止まり、時に壁にぶつかっては戻りながら出口を求めてさまよう。鏡に映る姿は全て私のはずなのに…
…錯覚?今目の端でとらえた像は違う動きをしていた?
…え?私の顔は今恐怖と緊張で引きつっているはずなのに、笑っている顔が見えた気がした…


本当に皆これは鏡像なの?私にそっくりな別の誰かが、鏡像にまぎれて私を見ているような…
「……ナノ?」微かな声が聞こえた。
「ネェ、アナタハ ホントニ アナタ ナノ?」
「アナタ ノ スガタ ハ ココ ニ タクサン アルノヨ?アナタ ハ ホントニ アナタ ナノ カシラネ?ククク…」
機械のような単調さでその声は話し、笑った。私は本当に私なのかと声は何度も繰り返す。

「私は、私よ」と反論しようとしたけど声にはならなかった。私が本当の私だという信念が崩れ去りそうになっていた。私は鏡像だったんじゃないかという疑念が心をよぎる。誰かに求められ期待される私をあっちでもこっちでも演じてきて私自身がもう、一つの役でしかなかったんじゃないかと不安になる。私が本体よと堂々と言いたいけど、何故か口ごもる。
「本当に私は私なの?」

あちこちぶつかりながら走りだす。鏡像たちは動く度その角度を変え、まるで後を追うかのようだ。迷宮のどこかにある出口をひたすら探し求めて走り続ける。からかうように鏡像たちはうごめき、笑い声がこだまする。

『貴女は ここに いますよ…』
どこか懐かしい優しい声が遠くで囁く。聞こえるはずもない君の声が聞こえた。
『貴女は どんな貴女でも 貴女ですから』
『弱い所も 歪んだ所も 意地っ張りな所も 落ち込みやすい所も 僕はみんな知っています』
『全て 含めて 貴女です』
『良い所だけの 人間なんて いません』
『貴女は 貴女だから いいんです』
『貴女という人間は 貴女以外に いませんから』
『さあ 僕の声の方へ いらっしゃい』

 優しい声に曳かれるように暗い迷宮を歩くと、遥か彼方に小さな光が見えてきた。出口かもしれない。先を急いだ。光は段々はっきりと大きく見えてきた。間違いない。そこに出口がある。もしかしたら君はそこで待っていてくれるのだろうか。

 出口に辿り着いたが、そこには誰もいなかった。もはや一面の鏡は鏡ではなく硝子板のように光を反射してうっすらと影を映しているだけだった。ずっと追いかけて来た笑い声も、優しく語りかけて来た君の声も何も聞こえない。出口から一歩足を踏み出して、振り返った時迷宮はあとかたもなく消え失せていた…

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