きつねの戯言

銀狐です。不定期で趣味の小説・楽描きイラストなど描いています。日常垢「次郎丸かなみの有味湿潤な日常生活」ではエッセイも。

本日の落描き

2023-10-31 23:21:13 | 日記

この前からリクエストされてたキャラクターのイラストを自分画風でアレンジした本日の落描き。

お手本の画像検索しても殆ど同じ1枚絵の全身像かバストアップばかりだし、そもそも私はそのゲームをTVCMでしか見たことがないし、失礼ながら特徴の取りづらいビジュアルだし、どうしたものかと悩んだ末に苦し紛れにやっとこさ描いたのがこの画像になります。
あまり下描きを描き込まずにペン入れたので、自分でも際限なくダメ出しできてしまいますが。

本当はこの前投稿した小説のモブやら召喚獣的なものとか描けたらなあとか漠然と思っていたのに、何故か全く違うものを描いてしまいました。

作画リハビリはやって行かなきゃとは思っていますが、腕の鈍りだけではなく、目も悪くなり、バランスが悪くなってしまいがちなので、そこを何とか少しでも改善できたらなと思います。

次回作については現状ノープランです。
たまに「これ良いんじゃない?」と思うことがありますが、そのまま立ち消えになるので、まだまだネタのタネにすらなり得ないと思います。
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『カテーナ・ヒストリア 歴史の鎖』 あとがき解説

2023-10-23 00:11:00 | 日記
『カテーナ・ヒストリア 歴史の鎖』完成・投稿しました。
先刻、このあとがき解説をPCで書き始めて1500字ほど入力したところで不具合が生じ、下書き保存することもできないまま消滅してしまったので、スマホアプリで仕切り直しになりました。消えた原稿よりかなりダイジェストになると思いますが、ご勘弁ください。

6月半ばに着手してお盆休みにほぼプロットが出来上がり、改変を繰り返して来ました。
参考にした元ネタは、有名RPGナンバリングタイトルの外伝を軸に他のゲームや漫画などをガラポンしたいつものスタイルです。
最近一貫して踏襲している世界観の下、今回のサブテーマの一つは
「『業』や『宿命』を背負った者の孤独に寄り添えるのは、同じような境遇や経験を持つ者だけ。」
漠然としすぎてわかりにくいかもしれませんが、物語のように世界を救うとかいうレベルではなくても、現実世界にだって「他の人にはわかってもらえない何か」を背負っている状況があるものだし、やはり似たような立場にある(あった)者にしかわかってもらえないものだと思います。

ネタ集め段階ではYouTubeもいろいろ見ましたし、資料集め段階では検索してアナログノートにまとめました。
わかる人にはわかるので、個別の名前や設定の由来にはあえて触れずにおきます。

今回の作画は満足できるところまでは到達できないにしろ、ギリギリ及第点レベルのものが描けました。
本当は所謂「召喚獣」や、「属性の民」も描きたかったのですが、主要キャラクターだけになりました。
また機会があれば描いてみたいと思います。

毎回言い訳がましくはなりますが、なかなか時間がとれないこと、目が悪くなり作画が思うように描けなくなってきたこと、PC周辺のトラブルが多くて作業が進まないことなど問題はいろいろあります。
しかし、一番の問題はやはり物語を創作するのに必要な心の余裕、キャパシティーではないかと思います。
初期は汲めども尽きぬ泉の如くいくらでもアイデアが溢れ出て来たものですが、歳を重ねれば枯渇して来ます。
物語の中でも魔導エネルギーが尽きかけて皆が苦しみますが、発想の転換で魔法からの脱却という選択をして未来を模索します。
歳と共に頭が固くなりがちではありますが、ここは何か打開策を見つけられるような発想の転換が必要かもしれません。
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カテーナ・ヒストリア 歴史の鎖 第4部

2023-10-22 18:33:22 | 小説
終章 未来へ
 壮絶な光と闇の「神獣(ディヴィスティア)」の闘いは、全て神々の描いた筋書きであり、終焉へと向かう光の世界に対して、光の世界を終わらせるべく、光と闇の「器(ヴェセル)」を操り、闘わせることで、光が勝てば光の世界は残るが、闇が勝てば光の世界は闇に消滅するというものだった。例え光の世界が残っても、このまま何も変わらなければ、滅亡への一本道を加速して行くだけだとしても。
 二柱の神はその傀儡である神獣の器同士を闘わせることで星の未来を占おうとしていた。どちらが勝っても負けても器たる二つの魂は永遠に消滅すると知りながら。
そして世界が闇に飲まれても、残された光の世界が自滅したとしても、いつかは『新たなる創世・パリンジェネシス』が発動される。その瞬間が訪れるのが先へ延ばされただけで、遅かれ早かれ世界の終末の時は来るとしても。

 ラニットの勝利で死人(しびと・ルヴナン)の姿に戻った闇の神獣メフィステレスの器・アルベルトは碧翠色の粒子・ルスとなって分解・消滅した。力尽きて元の姿に戻り、倒れた光の神獣・タブリュスの器・ラニットに駆け寄り抱き起す婚約者のアルマティだったが、ラニットもまた、末端から碧翠色の光の粒子・ルスとなって風に舞い、消滅して行く。
「アマルティ、この世界で二人で生きることは出来なくても、君の居るこの世界は僕が命がけで護り抜いた。後のことは頼む。この世界を…。」と言いかけたまま消えたラニットの遺志を継いで、アマルティはこの世界を救うことを固く誓った。

 ラニットを失った後、アマルティは単身神殿に赴き光の神アルブと対話した。
「光の神アルブよ。どうか私、光の巫女の声をお聞き届け下さい。私たちは皆懸命にもがいています。どんなに差別に歪み、欲望で穢れていようと、私たちは私たちの生きるこの世界を愛しています。私は民衆に対して、「『星の命』への依存を止めることでこの世界を存続できる未来を模索しよう」と説くつもりでいます。「運命に抗い、神託ではなく人々が独自の未来を紡ぐ道を歩もう。魔石(ライストン)に依存した疑似魔法(メギカ)や、蛮族(バルバリアン)の生得魔法(マギカ)を搾取すること、神獣に頼ることを止め、誰もが自分の生きたいように生きる道を、万人が平等で平和に暮らせる世界を作ろう」と訴えようと思います。私たちは『豊かさ・便利さの呪縛か、混迷の中から生まれる自由か』を選ばねばならない時に来ていることを知っています。今までは見えないふり、聞こえないふりを続けて来ましたが、このまま何も変わらなければ、幾度も同じ過ちを繰り返し、果てしない時の彼方で、再び悲劇が繰り返されるだけだと、今になってやっと気づくことが出来ました。私たちは神々の玩具ではありません。私たちは自分たちの意志でこの世界を作り、支えていこうと思っています。もう私たちには神は必要ありません。『星の命』への依存を止め、魔法を捨てて私たちの力のみで未来を築きます。」
と決意表明すると、幼い姿のアルブは一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、目を細めてふっと寂しく微笑んだ。
「そう、じゃあわたしはアトルと共に長い眠りにつくことにしましょう。次にわたしたちが目覚めた時に、世界はどうなっているか、楽しみにしながら。」
とアトルと共に沈黙し眠りに就くことにした。

 世界の存亡に関わる戦いに勝利し、救世主となったアンスロポス王国新国王ラニットが神獣タブリュスと共に消滅したことによって、ラニットの遺体すら残されていなかったが、ラニット国王の逝去を悼む国葬が開かれ、各小国の貴族たちが一同に会する中、各小国の主要な貴族たち(主に旧五属性の国を領土とする五大諸侯)は、王座の継承に関する神託が五大諸侯に降りることに期待していた。巫女のアマルティはラニット国王の婚約者ではあったが、前国王の服喪期間中のため、正式な婚姻の儀式は行われておらず、王妃とは認められていなかった。また、アマルティには懐妊の兆候もなかったので、アンスロポス王族の血脈も途絶えることとなったからである。
北方を領土とするノルド卿は、
「この中から次の国王が選ばれるかもしれませんぞ。」
と隣り合う四人の諸侯に囁いた。
西方を領土とするヴェスト卿は、
「まさか巫女自ら王位を主張することはないでしょうが、亡き王の婚約者として何事か物申す可能性は否定できませんな。」
と言った。
東方を領土とするオスト卿は、
「よもやとは思うが、既に懐妊してたりはしまいか。婚儀はまだで、懐妊の兆候はないとは言うが、元より二人は恋仲で親密であったのなら、婚約前から深い関係であったとしても何等不思議ではない。」
と下司の勘ぐりめいたことを言った。
南方を領土とするズゥード卿は、
「そんなことよりも、この混乱につけこんで、隣国から攻められはしまいかという方が心配ではありませんか?既に各地で小規模な衝突が始まっているとも耳にしますぞ。」
と不安気に言った。
中央を領土とし、五大諸侯を束ねる立場のツェントルム卿は、
「然様(さよう)。早く次の王を決めて体制を立て直さねば滅ぼされるやもしれん。それには我ら五大諸侯が主となって王国を支えねばなりませぬ。そのためにも我ら五大諸侯から次の王が選ばれることが最善の策だと思いますがね。」
と言いつつ、
(その役目は五大諸侯の頭たる自分こそ相応しい)
と思っているようであり、他の四人の諸侯からは、
「とは言え、神託が下りぬことには、どうにもなりませんからな。」
「確かに、我らには決める権限はありませぬ故。」
などと、抜け駆けされてなるものかとばかりに、口々に釘を刺されていた。

 そんな貴族たちの前に純白の死装束のアマルティが現れると、緊張のあまり冷水を浴びせられたように彼らは沈黙した。
アマルティのその姿は死者であるラニットとの婚礼衣裳の代わりであり、生涯ラニットだけを愛し続けるという固い決意の表明であったからだ。
「ご列席の皆様にお伝えしたいことがあります。ご存知の通り、ラニット国王陛下は、御自身と引き換えにこの世界を救うという、見事なご覚悟で先の神獣決戦に臨まれました。私は生前の陛下に、陛下の身罷(みまか)られた後のこの世界を護るために生涯を捧げるとお約束しました。」
貴族たちは動揺して互いに顔を見合せ、
(もしやアマルティ自らこの国を統べる腹積もりなのでは)
と不安げな様子ではあったが、アマルティの凛然とした言葉に気圧されて、言葉を差し挟むことも出来ず、ただ耳を傾けていた。
「私は光の神アルブと対話をして来ました。太古の昔、今は蛮族と呼ばれ、貶められている魔術師(マギア)の時代から、私たちは互いに争い、いくつもの過ちを重ねて来ましたが、今『星の命』や『大魔石(クエレ)』は枯渇し、疲弊しています。魔導技術による疑似魔法の恩恵の下に、豊かで便利な生活のために私たちは『星の命』を削り続けているのです。魔石の代替として魔術師を酷使して非道に扱い苦しめてもいます。全ては魔法に依存してきたことの結果です。そして神は世界の再創世(パリンジェネシス)を試みようと、神獣決戦を行わせました。私はアルブ神に『私たちは神々の玩具ではない。もう私たちに神は必要ない。』と訴えました。魔法がなくなれば、今のような豊かで便利な生活は保証されません。火を起こすのも、水を汲むのも、土を耕すのも全て、私たち自身の力と工夫で行わねばなりません。そうなれば辛く苦しい未来が待っているかも知れません。それでも、私たちは私たち自身の手で、私たち自身の力で未来を切り開いて行くべきです。そのためには、全ての民が力を合わせて共に生きることが必要なのです。上も下もない、万民が自由で平等な世界を私たちの手で作りあげるのです。簡単なことではないでしょう。でも反省も改善もなく、このまま突き進んで行く世界に未来はありません。アルブ神とアトル神は眠りにつきました。これからは神の手を離れて、私たちがこの世界を護って行くのです。アンスロポス王国はなくなります。王国領の各国も、隣国ロイテンドルフ共和国も、皆手を取り合って共に生きる仲間、同士となるのです。」
 
 魔法は魔石由来のため、魔力の枯渇に目を瞑り、問題を先送りして、生得魔法が使える蛮族の奴隷を酷使して使い捨てようとしていたアストロポス王国に対し、反旗を翻し独立したロイテンドルフ共和国は「魔術師に対する非道的な扱いはいけない」とし、「多民族が平和で平等な世界を目指す」としていたので、アマルティは、まずは王国民の意識を変え、共和国民と同調する路線を決めた。

 最初は便利で豊かな魔法のある生活を失いたくないと反発する民衆だったが、アマルティが
「『星の命』はもう枯渇しかけています。このままだと世界が終わってしまうのです。私はラニット王がご自身を犠牲にしてまで護った、彼の愛したこの世界を護って行きたいのです。皆さんも一緒に世界を護って行きましょう。」
と繰り返し訴えると、いつしか徐々に彼女に賛同する者たちが増えて、神獣も神託も魔法もない世界が創られて行った。

 器となった者たちは自らの望む時、望む場所で死ぬことすら許されなかったが、その宿命により護られ残された者たちが目指す世界は、魔術師も非術師も関係なく、誰もが自分の望む場所で生きられる、万人が平等な世界であり、魔法を捨てて、自分たちの知恵と力と工夫によって、額に汗して働き、築く新しい世界であった。魔導エネルギーの恩恵によって齎(もたら)された偽りの繁栄のために、欲に塗(まみ)れ争い続けた歴史からの反省を胸に、力強く生き抜くと誓った民衆により、旧アストロポス王国は解体され、新生ロイテンドルフ共和国として生まれ変わり、魔法がなくても科学技術の発達により、身近な道具から器具、機械へと改良され、皆が互いに協力し、助け合って生きる世界が生まれたのである。

 そして、アルブとアトルは長く深い眠りに就き、『星の命』は民を見守り続け、民が道を誤りそうになれば、世界の再創世のために二柱の双生児の神を目覚めさせることだろう。
かつて存在した世界が幾度となく再創世を繰り返して来たように、「今度こそは」と、この星を統べる生物が、世界が永続する道を見つけられることを期待しても、いつか必ず同じような過ちを繰り返す。この負の螺旋をいつか断ち切ってくれるものが現れることを、『星の命』はまだ、諦めてはいない。
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カテーナ・ヒストリア 歴史の鎖 第3部

2023-10-22 18:32:58 | 小説
第3章 アンスロポス王国の終焉
 「闇の神獣(ディヴィスティア)」メフィステレスの「器(ヴェセル)」であるアルベルトは、弟であり聖の神獣・ジクフリートスの器であるケイネスによって、愛する「巫女(メティア)」アメリアと共に謀殺され、不老不死の「死人(しびと・ルヴナン)」として「現世(うつしよ)」に蘇り、復讐を遂げようと試みるも捕らえられてしまった。数十年後メフィステレスの力で脱獄し、晩年のケイネスを倒すことに成功するも、ケイネスを初代国王とするアンスロポス王国兵によって再び幽閉されてから更に数百年の月日が流れていた。アンスロポス王国はケイネスの末裔が歴代の王位継承者となり存続していたが、ケイネス王からの伝統的な「大魔石(クエレ)の加護の下の疑似魔法(メギカ)至上主義」に異を唱える者たちや、「魔石(ライストン)への過剰な依存は『星の命』を削る行為であるという魔力枯渇問題を先送りにし、「生得(しょうとく)魔法(マギカ)」を使える五属性の民の末裔「蛮族(バルバリアン)」を酷使し使い捨てるような非道な仕打ちを止め、魔法依存を止めて万人が平等で平和に暮らせる道を模索すべき」と考える者たちが反乱を起こしたが、王国政府は非現実的な理想論と相手にしなかったため、王国は自然に分裂した。反王国派を中心にして建国し、隣国となったロイテンドルフ共和国の掲げる目標は、かつてのアルベルトの「万人を平等に全て救いたい」という思想に近く、真偽不明の伝説に聞く死人、『幽閉されし幻の王・アルベルト』の存在を知り、秘密裏に捜索していた。そして長い年月を経て聖の結界が劣化したことが幸いし、とうとう化け物として幽閉されていた異能者、闇の器・アルベルトを救出した。共和国に与(くみ)することとなったアルベルトは、遥か昔に亡くなった弟ケイネスの末裔にあたる母国・アンスロポス王国の王族に復讐を誓った。ケイネスは「アルベルトが死すべき魂を救済することは真の救済にはならない」と考えていたため、二人は相容れなかった。後になってケイネスは「アルベルトとアメリアを謀殺したのは若気の至りによる行き過ぎだった」と後悔し、善き王となることで償おうとしてきたが、幽閉中のアルベルトがそれを知ることはなく、「ケイネスが私利私欲のために王座を奪ったのだ」と信じ込んでいた。アルベルトは晩年のケイネスと相対した時にケイネスの真意を知るも、それによって失ったものが戻る訳ではないと拒絶し、アルベルトはケイネスを打ち取りはしたが、どこか満たされないまま再び幽閉の身となっていたからである。

 ケイネスの末裔は初代の国王であるケイネスの遺志を受け継いで魔導国家として発展して来たが、アルベルトとケイネスのみが神獣の器となるべき「魔法耐性(マアイク)」のある特異体質であっただけで、その体質が子孫に遺伝することはなかった。ロイテンドルフ共和国に身を寄せたアルベルトは反王国派の同志たちと共に王国軍との戦いに身を投じていた。不老不死状態のアルベルトは単独で暗躍し、ついに現国王の暗殺に成功するに至った。

 「アンスロポス王国の国王陛下であらせられますね?」
白髪に深紅の瞳の男が何処からともなく王の寝所に現れ、王の枕元で囁くように言った。
「そなたは?」
「陛下の祖先、初代国王ケイネスの兄にして、『幻の王』と呼ばれている者です。」
王は薄闇の中でギラリと輝く眼光鋭い深紅の瞳に睨みつけられると、金縛りにあったように身動きできなくなった。
「伝説は真実だったのか。」
王は喉を締め上げられたような苦しさの中で、呻くように呟いた。
「黒い髪、切れ長の目、我が弟にして初代国王ケイネスの面影を宿している。間違いなくケイネスの末裔、アンスロポス王族の証ですな。僅かでも王族の血脈に繋がる縁者は悉くわたしが手にかけた。生き残った王族は既に現国王陛下と嫡男のラニット王子のみとなりました。」
アルベルトは視線を外さず、淡々と語った。
「私のことは好きにして構わん。だが…。」
王の言葉を遮るように、アルベルトは王の首を切り裂き、一突きに心臓を刺した。
「残念ながら、陛下。それは聞き入れられませんな。」
アルベルトの言葉に、王の両眼からは涙が溢れた。
アルベルトが視線を外した途端に、王の身体はどさりと寝台の上に倒れ、アルベルトは振り返ることなく王の寝所を後にした。
王国城の寝所へアルベルトが侵入して国王を暗殺する間、闇の結界が張られていたために、誰もそれを阻止することはおろか、察知することさえできなかったのである。


 
 国王が暗殺された後、「神託(オラケル)の巫女(メティア)」アマルティは、神託により新国王としてラニット王子が選ばれたことを告げられた。王子であっても神託を受けなければ王になれない伝統が受け継がれており、まだ若いラニットは一人っ子で、父王もまた一人っ子であったため、ケイネスの直系に当たる者はもうラニット王子以外に残されていなかった。それはまるで呪いのように、歴代国王には王子一人以外の子供は生まれないか、生まれても成長する前に早逝していたからである。アルベルトは数百年間幽閉されていたので、現国王がケイネスの直系であると知って暗殺したが、ラニット王子が数百年ぶりに生まれた特異体質の持ち主であり、光の神獣の器となり得る人物であるなどと、その時はまだ知る由もなかった。

 突然父を失ったラニットは、まだ父の死も受け入れられないほど混乱していたが、そこに追い打ちをかけるように「光の神獣・タブリュス」の器として覚醒した。
「この世、即ち現世、光の世界を守るために戦うことがあなたの宿命(フェイト)。」
と、心の中に呼びかける声が聞こえた。そしてその声は
「あの世、即ち幽世(かくりよ)と呼ばれる死後の世界、闇の世界を守るべき闇の器が現れて、あなたを狙っている。我が名は光の神獣・タブリュス。あなたは我が器となるべく選ばれし者。わたしの魂をその身に受け入れ、共に戦いましょう。」

 漆黒の髪に端正な顔立ちの青年、それがアンスロポス王国の王子にして新国王となるべきラニット王子であった。真っ直ぐな性格の彼は神獣の言葉を信じ、光の神獣タブリュスとの契約を受け入れることを決心したラニットは、巫女のアマルティと共に神殿に赴き、光の御神体の前で神獣タブリュスとの契約の儀式に臨んだ。ラニットの胸にはタブリュスの「術式回路(シャルトクライス)」が刻み込まれ、タブリュスの魂と肉体を共有したラニットは光の器として生まれ変わったのである。光の器として覚醒したと同時に彼の瞳の色は黒から鮮やかな真紅に変わった。 
 幼馴染でしっかり者の神託の巫女・アマルティは肩までの黄金の髪に深紅の瞳の美少女で、古代種・光の民(リヒトロイテ)の末裔であることは独特の尖った形状の耳でわかる。絶滅寸前の光の民は、歴代の混血により、もう純粋な光の民は存在しないが、アンスロポス化しつつある中でも、まだ先祖返り的に光の民の特徴を色濃く残している子供が生まれることがあった。生まれながらにして巫女に覚醒している者もあるが、巫女は神の神託を受けて覚醒するものなので、何らかの原因で巫女の力が失われたら別の巫女が覚醒する形で後天的に覚醒することもあり、一世代には一人しか存在しないが、歴代の巫女は皆、尖った形の耳と深紅の瞳を持っていたと言われている。
 アマルティが巫女に覚醒し、光の神獣・タブリュスの器として覚醒したラニット王子が王に選ばれたという神託を受けることになったのは、正に因果によって結ばれているとしか言いようがなかった。かつて「禍罪(まがつみ・ディザスター)の魔女」の汚名を着せられて生きながら奈落へ堕とされた悲運の巫女アメリアも、彼女と心を通わせていたアルベルトを王にという神託を受けていたし、アルベルトは闇の器であった。巫女と王と神獣の器とは深い因果で繋がっているのである。ただ、意外だったのは、ラニットを器に選んだのが光の神獣タブリュスであったことだ。ラニットの祖先にあたる初代国王ケイネスが契約したのは、聖の神獣ジクフリートスであったが、実兄のアルベルトが契約した闇の神獣メフィステレスによって倒されたと言われている。神獣の器は魔法耐性に優れた特異体質でなければ務まらない。そしてそんな特異体質を持って生まれるのは数百年に一度あるかないかの奇跡だと言われている。闇の神獣メフィステレスの器は初代国王の兄アルベルトであったが、彼は伝説上の人物で実在しないと言われていた。ケイネス王亡き後、新たな神獣の器は現れておらず、何故今回ラニットが神獣の器に選ばれたのか、それが古の霊獣大戦で活躍して以来長き眠りに就いていたと言われる光の神獣タブリュスなのか、不思議なことだらけだったが、「神獣の器は、魔法耐性はあるが生得魔法を使えないアンスロポスの中からしか生まれず、王と巫女と器は因果で繋がっている」とは伝え聞いていた。

 早くに母を亡くして父一人子一人で育ったラニットは、幼馴染だった年上のアマルティに母性を求めてか、彼女を心の支えとしていた。まだ若く、父を亡くしたショックからも立ち直れないラニットが神獣・タブリュスの器として覚醒したばかりなのに、その上「新国王に選ばれた」という神託を受けていたことを告げれば、「混乱して消化しきれないのでは」と気を揉んでいたアマルティは、契約の儀式が終わるまでは神託のことは黙っていたが、巫女の使命としてそれを告げない訳にはいかなかった。
「ラニット、国王陛下を亡くされたばかりで辛いでしょうに、神獣と契約した上に、国王に選ばれたなんて、神託とはいえ、私もあなたに伝えるのが心苦しいわ。」
「ああ、アマルティ。うん、確かにまだ心の整理はつかないけど、父上はいつも僕に王族として、王子としての心構えを説いて聞かせてくれた。『王族の誇りと矜持を持って、どんな時も凛として振舞わねばならない』と。だから僕は受け入れなきゃいけない。父上は、『神託によって選ばれなければ王にはなれないが、いつ神託が下りても良いように常に覚悟を決めておきなさい』と言っていた。そして、恐らく父上は僕に魔法耐性があることも、特異体質であれば、いつか神獣と契約する時が来るかも知れないことも、予想していたのだと思う。もしそんな時が来ても、自分に課せられた『宿命』を受け入れて、見事に使命を果たさねばならないと諭されていた。…大丈夫。僕は、僕の宿命から逃げ出したりはしない。僕にはこの国を、民を、世界の全てを背負う覚悟を求められているんだ。僕は光の神獣タブリュスと契約して器となったことを受け入れる。そしてアストロポス新国王として即位する。」
いつの間にか、自分が思っていたよりも、大人びて男らしくなったラニットの笑顔を、アマルティは眩しそうに眺めた。
「そう、わかったわ。ラニット。あなたが覚悟を決めたのなら、私が言うことは何もない。でも、これだけは覚えておいて。どんなあなたでも、私にとってのあなたは、今までと変わらない。あなたの身に何事が起きたとしても、私はあなたを全力で支える。それが巫女としては勿論、私自身のあなたへの変わらぬ想いの証だから。」
真摯な表情でラニットの目を真っ直ぐに見つめながら、アマルティは両手で包み込むようにラニットの手をぐっと握った。
「ありがとう。アマルティ。君が居てくれるから、僕は強くなれる。君は本当の僕をずっと見て来てくれた。僕の弱いところも汚いところも、全てを知ってくれている君だからこそ、僕は君になら全てを曝け出すことが出来る。ずっと僕の傍に居てくれ。君と一緒なら、僕は何でも出来るし、何処へでも行ける。僕が神獣の器になって、僕が今までの僕でなくなっても、君は僕を受け入れてくれるだろう。君を信じているからこそ、僕は強くなれるんだ。結婚しよう。アマルティ。僕の子供を産んでくれ。君も僕も今や天涯孤独の身の上だ。たくさん子供を作って、親子兄弟仲良く、楽しく賑やかな家族になろう。」
アマルティを抱き締めて、ラニットが想いを伝えると、アマルティも、ラニットの身体に回した両腕にぐっと力を込めて抱き締めた。小柄で華奢だった幼馴染は、いつしか自分の背丈を追い越し、こんなにも逞しい男性になっていたのだと、今更ながらに胸がときめいた。
「ありがとう。ラニット。死が二人を分かつまで、私はずっとあなたを支えます。」
そして、神殿を後にして、アストロポス新国王としての即位の儀式を行うため、アストロポス王国城へと向かったラニット王子と婚約者のアマルティの姿を、物陰から伺う怪しげな人物の姿に、二人はまだ気づいていなかった。その人物こそ初代国王ケイネスの実兄にして闇の神獣メフィステレスの器、アルベルトであった。本来ならば神獣の器同士は互いの魔力を察知することができるのだが、まだタブリュスの魂が十分にラニットの身体になじんでいなかったため、ラニットにはアルベルトを感知することが出来なかったのである。

 新国王となったラニットは国内各地の視察や元蛮族の国であった各領内を統治する領主である五大諸侯との会談など、精力的に国務を熟(こな)していたが、その行く先々で暗殺者に命を狙われ、暗殺者はかつての反国王派、現在は独立してロイテンドルフ共和国を名乗る隣国の刺客であろうと思われた。未だ不明な前国王暗殺の実行犯が、新国王ラニットを狙っているものとみて間違いない。王国流剣術の腕前にも優れ、タブリュスの器となったことで光魔法も使えるようになったラニットは、幾度となく暗殺者の魔の手が迫っても、無事に回避し続けることに成功してはいるが、「何時何処で襲われるか」と警護兵たちの心も休まる時がなく、ラニット王の婚約者で未来の王妃アマルティも、彼の身を案じて四六時中片時も傍を離れなかった。

 運命の歯車が回りだしたことで、二人は互いを慰め合うように不安に押し潰されないように、強く抱きしめ合って床に就いた。眠りに就いたラニットの胸の術式回路を指でなぞりながら、アマルティはそっと涙を流した。幼い頃尖った耳を異端視され、孤立していたアマルティにそっと手を差し伸べてくれたのがラニットだった。王子という立場は孤独だっただけに、アマルティの孤独に共鳴する部分を感じ取ったのかも知れなかった。ラニットが母性を求め、姉のようにアマルティを慕ったように、アマルティもまた幼いながらに自分を守ろうとしてくれたラニットに支えられ、共に手を取り合って生きて来たのだと思った。二人にとってお互いがかけがえのない存在であり、深い愛情で結ばれていることは揺るぎのない真実だったから、アマルティは「この先もずっとこのままの二人でいられたらいいのに」と思った。
そして今やラニットは神獣の器となり、他の誰にも理解されない特別な存在となってしまった。昔から巫女であるアマルティが感じて来た孤独と似て非なるものを今のラニットはその心に宿しているに違いない。今のラニットの心に寄り添うことが出来る者はアマルティ以外には居ないだろう。他の誰にも想像することの出来ない孤独を知る者同士として彼を支えるのはアマルティの使命であり、その役割を担うことが自らの宿命だと思った。

 国内各地での国務を終えてアンスロポス王国城に帰還したラニットの下に、隣国ロイテンドルフ共和国議会代表で顧問のアルベールなる者が謁見を求めて来た。
「度重なる暗殺未遂を起こしながら、今更正式な手順を踏んだ謁見とはいったい何を考えているのか」と訝しみながらも許可を与えた新国王の前に一人の男が姿を現した。
「これはこれはラニット新国王陛下。ご機嫌麗しゅうございます。わたくしはロイテンドルフ共和国議会にて顧問を務めますアルベールと申す者にございます。ご即位のお祝いに馳せ参じましたところ、快く謁見の御承諾を賜り、恐悦至極にございます。」
慇懃無礼な印象を与えるその男が、恭しく帽子を取って深々とお辞儀をすると、長く伸びた白髪の巻き毛が一束、はらりと肩から流れ落ちた。
「ありがとう。アルベール卿。」
ラニットが声をかけると、顔を上げた男の顔は不敵な笑みを浮かべ、赤い瞳がきらりと光った。
「その黒髪と切れ長の目、紅い瞳。紛れもなく初代ケイネス国王直系の末裔とお見受けしました。端正なお顔立ちもどことなく面影を残しておられるように思えます。」
数百年以上前の先祖のことを、さもよく知っているかのような口振りに違和感を感じた一同の脳内に、『幻の王』の伝説が過(よぎ)った瞬間、男は一瞬で玉座までの距離を詰め、ラニットの眼前すれすれに人差し指を向けて構えた。
「そう、俺は貴様らが今思い出した『幻の王』、初代ケイネス国王の実兄アルベルトだ。死人となって現世に蘇り、弟ケイネスを殺し、数百年間幽閉され続けて来た、闇の神獣メフィステレスの器でもある。そして前国王を殺めたのも俺の仕業だ。何度もラニット新国王を狙ったが、悉(ことごと)く失敗に終わったのは、ラニット新国王が、光の神獣タブリュスの器だったからなのだろう。だからもう暗殺するのはやめにした。正々堂々と正面から神獣の器同士、神獣に顕現して互いの力を開放して戦うことにするさ。だが、それは今じゃない。正面からまともに顔も見ないで、いきなり神獣に顕現して戦うのは礼儀に反するからな。今日はこれで失礼するが、以後お見知りおきを。最後に言っておくが、今回はあくまでも『ロイテンドルフ共和国議会顧問アルベール』として訪問したのだから、無粋な真似はしないでもらおうか。」
そういうと再び一瞬にして元の場所に戻ると、帽子を取って深々とお辞儀をし、
「では皆さま、ご機嫌よう。」
と去って行った。追いかけようとする警備兵に向かってラニットが腕を上げて制止した。
「追わずとも良い。こちらから攻撃を仕掛けない限り、彼からは手を出さないだろう。」
宣戦布告とも取れる言葉を残して去ったアルベルトだったが、最初にアルベールと名乗った時には気配を消していたのか、全く感じ取れなかった神獣の魔力を、アルベルトが正体を現したと途端にラニットは感知した。逆にアルベルトは、ラニットの身体にまだ馴染みきっていないタブリュスの魂の気配を感じ取っていたに違いない。ラニットには、「そう遠くない未来に、必ず光と闇の神獣は闘うことになるのだ」と、否が応でも思い知らされた体験であった。アルベルトの目的はケイネスの末裔の抹殺と血脈の根絶、そして王国の滅亡であることは火を見るよりも明らかだと、『幻の王』の伝説を知る者であれば、容易に想像が出来たからである。

 アルベルトの突然の訪問の後、アマルティは再び神託を受けた。
「ついに光と闇の神獣による対決が行われ、その勝敗の行方には世界の命運を託し、現世と幽世の未来を占うものとなるが、その結果にかかわらず、双方の器の魂は消滅する。」
という内容にアマルティは愕然とした。
「ラニットには過去数百年の先祖からの因縁の相手との決着のみならず、世界の命運を背負って闘い、魂を捧げねばならない宿命がある。」
という、理不尽な神々の意思を知り、それを如何にしてラニットに伝えるべきか苦悩した。神獣の力で宿敵を倒し、本来なら滅することの適わぬ死人の魂を葬ることが出来たとしても、ラニットの魂もまた消滅し、永遠に失われてしまう。それが契約の代償とはあまりに残酷で、口にすることも憚(はばか)られる思いではあるが、真実を告げることが巫女としての使命である以上、隠匿することは許されなかった。
 ラニットはアマルティの様子がいつもと違うことに気づいた。気丈で健気なアマルティが動揺を隠しきれないほどに、今回の神託は厳しいものであったことは想像に難くない。しかし、それが例えどれほど衝撃的な内容であったとしても、ラニットは自らの宿命を全うする覚悟は出来ているという自信があった。強敵の出現で、ある程度の厳しい未来は予想していただけに、神託の内容がどんなものであったとしても、それを受け止めるだけだとラニットは思った。
「アマルティ、神託は何だった?」
務めて普段通りの笑顔を浮かべて、何気ない口調で声をかけたつもりだったが、微かな声の震えを彼女に気取られはしまいかとラニットは少し心配になった。
声をかけられたアマルティは、一瞬驚いたように視線を外し、ほんの少しの間、心の整理をつけるように目を伏せてから答えた。
「ラニット、落ち着いて聞いてほしい。出来ることならあなたには聞かせたくないけれど、告げない訳にはいかないから。」
「わかった。心して聴くとしよう。」
とラニットが真顔で答えると、アマルティは一度深呼吸をして語り始めた。
アマルティは、出来る限り感情を抑えて、事実だけを述べることに集中しようとし、ラニットもまた一言一句を真摯に受け止めて、感情を差し挟むまいと意識して耳を傾けた。
「そうか。」
ラニットは呟くように一言だけ言った。
「ラニット。」
アマルティは彼にどんな言葉をかけるべきか迷い、結局名前を呼びかけただけで、それ以上は何も言えなかった。
二人とも視線を落としたままで、暫し沈黙が続いた後に、ラニットがぼそりと呟いた。
「魂が消えてしまうのは、僕の宿命なんだな。それを覆すことは、誰にも出来ないんだな。」
自分自身に言い聞かせるように、ラニットはそう言った後、俯いて両膝に置いた拳を固く握り締め、悔し涙を零しながら言った。
「君と結婚して、たくさん子供を作って、明るく楽しい家族を持って、子供の成長を見守って、子供たちが巣立ったら君と二人で仲良く歳を重ねて、最期は君に看取られて生涯を終えられたら良いな、なんて、普通の幸せを望むことなど、僕には許されないんだな。」
ラニットはアマルティの手を取り、涙でくしゃくしゃになった顔を向けて言った。
「本当は、怖いんだ。こんな弱音を吐ける相手は君だけだよ。僕は本当はそんなに強くない。宿命を果たす覚悟はあるなんて言いながら、本当は怖くてたまらない自分が、心の奥底で震えてる。死ぬのが怖いんじゃない。君を、君との未来を失うのが辛いんだ。僕が器で、君が巫女なのも、それぞれが自分の宿命を受け入れて役割を果たすべく生まれてきたことも、頭では理解している。だが、僕にも感情はある。君を愛して、君との未来を夢見て、それらの幸せが全て僕の手の中から零れていく。望んではいけなかったのかもしれない。でも自分の気持ちを止めることなど出来はしなかった。幼馴染の君を、母や姉のように慕っていた君を、いつの間にか一人の女性として愛するようになってしまったから、望むべきではないと思っても、君への愛を止められなかった。もしかしたら、ほんの少しだけでも、夢が叶うかもしれない。そんな希望を捨てたくなかった。だが、思っていたよりも随分早く、夢を諦めなければならないと知る時が訪れてしまった。本当は逃げ出したい。でも、僕はもう光の器としてタブリュスと契約してしまった。逃げ道はない。頭ではわかっていても、まだ僕の心がそれを受け入れられないんだ。」
アマルティも頬に涙を伝わせて、ラニットをじっと見つめて言った。
「私だって同じよ。ラニット。弟のように可愛かったあなたを、いつの間にか一人の男性として愛するようになってしまった。王と巫女としてだけではなく、あなたの妻になって、あなたを支え見守りたかった。あなたとなら一生苦楽を共にして暮らしていけると思えた。結婚しようと言ってくれた時は嬉しかった。いつかあなたが光の器としての宿命で、命を懸けた闘いに臨まなければならない時が来るとしても、心の何処かで一縷の望みに縋ってみたかった。もしもあなたが生き延びることが出来るなら、例えあなたの身体が動かなくなっても、私のことがわからなくなっても、あなたの傍に居たかった。出来ることなら宿命から逃げ出して、二人でひっそりと何処かに隠れて暮らして行けたらどんなに良いだろうって考えたわ。そのためならどんな罰を受けても、どんな犠牲を払っても良いとさえ思った。神に背いてでも、あなたを失いたくなかった。勝っても負けてもあなたは戻らないのだと聞いて、いっそ闘いに臨む前に、あなたと二人で逃げようとまで思ったわ。でも、それは出来ない。わかっているけど、受け入れられないのは私も同じよ。」
 ひとしきり泣きながら互いの心情を吐露しあった二人は熱い抱擁と共に唇を重ねた。器として、巫女として、それぞれの宿命を肩代わりできる者も、心底理解してくれる者も居ない孤独を抱えながら、愛し合い求め合う二人は抱き締め合い、初めて心も体も結ばれることで互いの満たされない魂を癒し合った。
 月の光を浴びて寝台に並んで横たわる二人は心を決めた。
「アマルティ。僕は決めた。メフィステレスの器と闘う。僕が彼に敗れたら、全ての魂は幽世に送られて、現世は、この世界は闇に飲まれて消える。君の生きるこの世界を、僕は決して失わせる訳にはいかない。父上が護って来たこの国も、民も、他国の民も、いや、蛮族でさえも、この世界で生きる者全てを護るために、僕は彼を倒さねばならないんだ。僕は宿命を受け止めて、この世界を救うために、この魂を捧げる覚悟を決めた。」
そのラニットの言葉は静かだが落ち着いていて、ついに決心を固めたことが感じられた。
「ラニット。あなたが決めたことなら、私はそれに従うわ。この世界を救った後、あなたが戻らないとしても、私はあなたに代わってこの世界を守らなければならないもの。あなたが命を懸けて守った世界を、あなたが遺してくれた世界を、今度は私が命を懸けて護り抜くわ。」
アマルティの言葉にも揺るぎない決意と覚悟が感じられた。
二人は残された僅かな時間を惜しむように再び抱き締め合った。

 程なくして、神託により告げられた時と場所において、光と闇の神獣による、世界の命運をかけた闘いの火蓋が切って落とされた。古の霊獣大戦の折に破壊されて廃墟となった広大な土地に結界を張って、ラニットとアルベルトが対峙していた。
「禍罪の鎖を絶ちて魂を苦悩より解き放つ者、暗黒を統べる闇より黒き者、メフィステレスよ。我が召喚に応えよ。」
先にアルベルトが聖句(シュクリト)を詠唱すると、続けてラニットも聖句を詠唱した。
「眩(まばゆ)き光の剣(つるぎ)にて闇を切り裂く者、鋭き光の矢を放ちて闇を射貫(いぬ)く者、タブリュスよ。我が召喚に応えよ。」
アルベルトが、漆黒の甲冑を身に着けた騎士姿のメフィステレスをその身に顕現させると、ラニットは、黄金の甲冑を身に着けた騎士姿のタブリュスをその身に顕現させた。
 二体の神獣は剣を携えて距離を取り、互いに王国流剣術の構えを取った。魔法剣の剣術勝負に始まり、接近戦での体術や遠隔攻撃の魔法もほぼ互角、強いて言えば器としての経験に勝るアルベルトのメフィステレスが僅かに有利というところか。

 (このままでは埒が明かない)と二人同時に感じた時、それぞれが完全顕現により神獣の姿となって戦うことを選択した。
「来たれ!メフィステレス!」
「来い!タブリュス!」
黒い六本足の半人半馬の神獣姿のメフィステレスが大剣をぶんっと振るい、黄金色に輝く翼竜の神獣姿のタブリュスが六枚の翼を広げて空に舞い上がった。
メフィステレスが大剣を振ると、鎌鼬(かまいたち)の如き真空の衝撃波が飛び、それを躱(かわ)したタブリュスの口から吐かれた光線が一直線にメフィステレスへ向かい、メフィステレスはそれを躱す。メフィステレスが放つ闇魔法の効果を相殺するように、タブリュスは光魔法をぶつける。神獣同士の一騎打ちは正に互角で、只管(ひたすら)魔力を消耗して行くだけで、戦況は膠着、その力は拮抗していた。
 アルベルトの目には、光の神獣の器であるラニットの姿がケイネスとダブって見えて、闇の力全開で潰しにかかるが、目に映るこの世界は輝きを失い、愛する者を失った代償にしては、余りにも虚ろでしかなかった。闇の極大魔法を発動しさえすれば、全てが終わる。だが、タブリュスに余力の残っているうちは、光の極大魔法を発動することで相打ちになるか、或いは僅かにタブリュスに残された力がメフィステレスの力を上回った場合、闇の極大魔法はかき消されてしまうだろう。

 少し時を遡り、最後にして最大の闘いの前に、アルベルトの心境には微かな変化が生じ始めていた。遥か昔、生と死の境界で在りし日のアメリアの姿を具現化した思念体として現れた彼女の魂と共に、幽世(かくりよ)の神アトルから究極の選択を告げられた時は、この世界を救うことが自分の使命だと勝手に思い込んでいたが、最終決戦の前に、自らの宿命の真実を知ることとなった。
アルベルトは光の神アルブが統べる光の世界を終わらせるべく、闇の神アトルの意思により闇の器にされ、同様に光の神アルブの意思によって光の器とされたラニットと闘うことになったが、世界の命運をかけた闘いは、勝敗の結果に関わらず、双方の器の魂は、器となって神獣を宿した代償として、永遠に消滅する。光の器が勝てばこの世界は存続し、闇の器が勝てば世界は闇に飲まれて消える。それが真実だった。
 しかしアルベルトにとっては、世界の行く末など最早どうでも良かった。アメリアを失った世界など、どうなっても構わない。ただ数百年以上生き続けることに、アルベルトはもう疲弊していた。ケイネスを倒した時に、復讐を終えれば良かった。ケイネスの末裔たる王族に対して復讐を継続したのは、ただ、死ねない自分がこの世に生き続けるための言い訳でしかなかった。誰にも殺せない自分を消滅させられるのは、器として戦える相手だけ。ケイネスの死後、別の器が現れるまで、只管待ち続けるよりなかった。そしてやっと現れたのだ。アルベルトは、本当は、無自覚に「自分が倒されることで全てを終わらせたい」と願っていた。この世界を滅してもアメリアが戻ることはないが、アメリアの居ないこの世界で永遠に存在し続けなければいけない自分を認められず、復讐という目的で自分を偽りながら、本当は自身の消滅を、ずっと無意識下で願っており、自害することすらできない死人であるから、器としての闘いの終わりと共に自らを消し去りたいと思っていた。かつて世界の全てを救おうとしてアメリアを救えなかったことを悔い、彼女はおろか自分さえも救えず、心が闇に堕ちて、世界の全てを終わらせて、消えゆく自分の魂の道連れにこの世を消し去ろうとした。

 何故だかアルベルトは、ラニットとの激闘の中で、ふとアメリアの最期の笑顔を思い出していた。愛する人を失ったこの世界は、既に輝きを失ったとずっと思っていたが、最後の最後になって、アメリアはこの世界を愛していたことを思い出したのだった。アメリアは自身を迫害したにも関わらず、この世界を愛し、その魂を捧げたのだと。それを思い出した時、アルベルトは、闇の器としてこの世界を滅するという使命よりも、「光の世界を残すべきなのでは」と思い直し、ふっと力が抜けた。長く死人としてこの世に留まり過ぎて、疲れ果てたアルベルトは、「もう終わらせたい」という、秘めたる自分の気持ちをやっと認めることが出来た。
 メフィステレスは闇の極大魔法デュンケルの詠唱を始めた。
「漆黒の闇、永遠の無、全ての魂よ…」(昏(くら)き世界に堕ちよ。デュンケル!)
それに対抗すべくタブリュスは光の極大魔法リヒテルの詠唱を始めた。
「黄金の光、永遠の生、全ての魂よ、輝き、遍(あまね)く世界に満ちよ。リヒテル!」
リヒテルが発動した瞬間、タブリュスの中でラニットの魂は気づいた。偶然なのか、敢えてなのか、アルベルトの魂がメフィステレスを制止し、突然詠唱を中断したことに。不完全な詠唱により、デュンケルの発動は不発に終わった。
圧倒的に強いかと思われていたメフィステレス即ちアルベルトだったが、最後は自滅するかのように、タブリュス即ちラニットの極大魔法リヒテルの攻撃が通って致命的な打撃を与えられることとなった。
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カテーナ・ヒストリア 歴史の鎖 第2部

2023-10-22 18:32:33 | 小説
第2章 「アンスロポス王国の成り立ち」
 霊獣大戦から遥かな時の流れを経て、『星の命』と「大魔石(クエレ)」の加護の下に、「疑似魔法(メギカ)」による魔導技術の恩恵を受けて繁栄して来たアンスロポスであったが、エネルギーの争奪戦は「五属性の民」の時代から今もなお続いていた。長い年月を経て、いつしか『星の命』が尽きる危機を察知していながら、人々は豊かで便利な暮らしを失いたくなくて、問題を只管(ひたすら)先送りし、見て見ぬふりをして来たが、大魔石の欠片「魔石(ライストン)」も枯渇してきて徐々に入手困難となり、日常生活にも支障を来たしつつあった。争いが続く世の中では負の感情を抱いて死ぬものも増え、その魂は「魔物(モンストル)」や「死人(しびと・ルヴナン)」となり、『星の命』へと還れなくなった。五属性の民の時代には存在しなかったそれらは、アンスロポスからしか生まれないものであった。古(いにしえ)の五「霊獣(スピリティア)」から生まれた各属性の大魔石の他に、神から授けられた『星の命』の結晶体が三つあり、それぞれが光と闇と聖の三属性を司るものとされた。それらは三柱の「御神体(クストゥス)」として神殿に祀(まつ)られ、崇(あが)め讃(たた)えられ、かつて神の僕(しもべ)と言われた古代種「光の民(リヒトロイテ)」の末裔である「巫女(メティア)」は、御神体から「神託(オラケル)」を授けられた。人々は魔石の恩恵により疑似魔法が使えたが、御神体から祝福を受けた「器(ヴェセル)」は「神獣(ディヴィスティア)」との契約により加護を与えられ、本来は「非術師(マギナ)」であるアンスロポスでありながら、「生得魔法(マギカ)」を使える「魔術師(マギア)」同様に、魔石なしで魔法を使うことが出来た。器として一旦契約を交わしたらもう破棄することは出来ず、契約の代償は同一の肉体内での魂の共存なので、神獣の死は器の魂の消滅になる。魂が共存するため器の魂が優位でないと使役中に神獣の魂に肉体が乗っ取られて暴走する危険性もある。そのため器は単に「魔法耐性(マアイク)」があるだけでなく、魂の強さも求められ、それを承知の上で契約を結ぶ覚悟が必要とされる。器となった者は神獣と一体化した神の僕であり、厳密に言うと、最早アンスロポスではない。即ち神獣の力を得る代償として、アンスロポスとしての自らの生命と生涯を捧げる、という等価交換を承諾して契約したものと見做されるからである。

 霊獣大戦後、神獣が御神体とされて久しく、その器となるべき特異体質を有する者が覚醒することはなく、アンスロポスは独自の秩序の下に国を作り、元属性の民が暮らしていた国々にもそれぞれ小国が生まれ、諸侯として各国を統べる有力なアンスロポスたちがそれぞれ貴族を名乗り、国と民を治めていた。
 小国同士の交流もありはしたが、まだ各国を束ねる単一の王は存在しなかった。そんな時、御神体のお膝元である中央平原の小国内に突然変異的に二人の特異体質者・即ち器の候補者が覚醒したのである。
ー『アンスロポス王国の成り立ち』歴史研究家スリーロス(アンスロポス)著ー



 二人の特異体質者・即ち器の候補者の覚醒を察知することが出来たのは、古代種の末裔の巫女・アメリアだけであった。彼女は物心ついた時には既に巫女として覚醒しており、生まれながらにして巫女の証である深紅の瞳を持つ美少女だった。その艶やかな長い黒髪と美しい深紅の瞳、神秘的な雰囲気を纏う彼女は数多くの男性を虜にしたが、特定の男性と親密になることはなく、幼馴染の間柄であるアルベルトとケイネスとは親しくしていたが、彼ら兄弟から見れば、幼い頃から妹のように接してきたというだけのことで、決して彼女に恋人とみなされているとは思えなかった。

 神託は預言であり、予言でもある。預言、即ち神の意思であると共に、時に神の僕たる神獣の器の未来をも見ることが出来てしまう。しかし、神と巫女と神獣及びその器は因果によって結ばれてはいたが、それら全てが欠けることなく共に存在する時、世界の存亡を占う場面で、生命を代償とした『極大魔法(アルテマギカ)』が発動可能となることだけは、神ならざる巫女と器には知らされていなかった。

 ある時、巫女・アメリアが「中央小国諸侯家の兄弟、アルベルトとケイネスの二人のうちのどちらかが初代のアストロポスの王に選ばれる」と神託を受けた。
 兄のアルベルトは真面目で優しい理想主義者だった。その白髪は緩やかな巻き毛で、切れ長の目を持つ柔和な笑顔が印象的な青年だった。寡黙ではあるが、真摯な口調で穏やかに話す言葉には情熱が込められていて、説得力もあったので、彼を支持する者は少なくなかった。
 一方、弟のケイネスは、兄とは正反対の論理的思考を持つ現実主義者で、アルベルトの理想主義を危険視していた。アルベルトの掲げる理想に対して「理想では世界は救えない」とわかっており、「犠牲はつきものであり、少数の犠牲の上に多数が救われる」という考え方だった。真っ直ぐな黒髪と兄とよく似た切れ長の目を持つ端正な顔立ちの青年ケイネスは、歯に衣着せぬ厳しい言葉を口にすることも多く、常に冷静沈着であったため、冷徹で威圧的な印象を与えてしまうのか、支持する者も少なくはなかったが、反発する者もまた少なからず存在した。
 ケイネスはアルベルトが王になることには反対で、それは決して自分が王座を手中に収めたいという私利私欲からではなく、アルベルトが王位に就けば、世界や同胞を誤った方向に導いて破滅を招きかねないという危惧から、何としてもアルベルトを排除しなければならないと考えていた。次の神託により正式にアルベルトが王に選ばれれば、神託を覆すことは不可能となるため、何としてもアルベルトの即位を防ぐにはどうすべきか悩みぬいた末に、追い詰められたケイネスが導き出した答えは、世界のために自らの手を血で染めるしかないというものだった。王位に就くアルベルトと神託を受けるアメリアの二人を亡き者にしなくてはならない。巫女の力が失われればまた別の巫女が覚醒するとしても、二人を葬ってすぐに、「先の神託は誤りで、正しくはケイネスのみが王として選ばれていたのだ」と偽って、自身が王となれば、後はどうとでもなる。そんな狂信的な思いと共に、幼い頃から幼馴染で三人仲良くして来たのに、今やアメリアの心は確実にアルベルトに傾いているに違いないという無意識下の嫉妬から、ケイネスは大義の名の下に悪魔のような所業を画策することとなった。

 巫女として生まれたアメリアと、幼い頃近くに住んでいたアルベルトとケイネスの兄弟は仲の良い幼馴染の間柄だった。アメリアは神秘的で奔放な少女だったので、彼女の思いつきで突然無茶なお願いをされることや、振り回されることばかりだったが、それもまた彼女の魅力だった。鷹揚で優しく真面目なアルベルトは終始彼女の言いなりと言っても良かったし、玩具のように扱われていることすら、喜んでさえいたと言っても良かった。ケイネスははにかみ屋で大人しかったが、アメリアはそんなケイネスをからかって楽しんでいた。それでもアメリアの古代種の特徴を引き継いだ尖った耳の形を異端視して虐めようとする輩に対しては、当のアメリアが相手にしていないにもかかわらず、兄弟は許すことが出来なかった。
「やーい。やーい。とんがり耳やーい。」
とはやし立てるいじめっ子に対して、
「何だと!アメリアに謝れ!」
とアルベルトは拳を振り上げて叫び、
「女の子に酷いこと言うなよ!」
とケイネスは必死に訴えた。
「あら、いいのよ?私はこの耳の形、とても気に入ってるの。誰とも違う私だけの耳なんだから。きっと羨ましいんでしょ。」
アメリアは悪戯っぽく微笑んで、全く意に介していないというように言った。
「へんだ!そんな変な耳なんか、羨ましいもんか!」
いじめっ子は捨て台詞を吐いて去ってしまった。
「自分と違うとか、他の人と違うとか、それを認められないのは悲しいことよね。でも仕方ないの。あの人たちにはわからないんだもの。」
アメリアはそんな風に呟いて、兄弟に微笑みかけた。
「でも、あなたたちはわかろうと努力してくれる。本当は誰にも決してわかりはしないことだとしても、それはとても嬉しいわ。」
幼心に兄弟は共にアメリアに好意を抱いていたが、その積年の想いはいつしか愛情へと形を変えて行った。幼い頃からアメリアの兄弟に対する扱いの違いをひしひしと感じていたケイネスは、アメリアから下僕のように扱われて嬉々としているアルベルトと、それを心から楽しんでいるようなアメリアとの心の距離が近い感じがして、成長した今でも子供扱いで、からかわれるだけの自分との差を見せつけられているようで苦しかった。アルベルトとアメリアが愛し合っているなら、自分は道化ではないか。悶々と思い詰めるうち、ケイネスの歪な恋心はいつしか二人への憎悪へと変わって行った。 

 かくしてケイネスは実の兄であるアルベルトのみならず、彼が思いを寄せる神託の巫女・アメリアまでも謀殺しようと考えた。ケイネスは古来アンスロポスの間に伝わる「禍罪(まがつみ・ディザスター)の魔女」の伝承を利用し、アメリアは魔女の化身であると民衆に信じさせようと考え、禁断の悪魔崇拝の書や魔女が呪術に使う呪具・呪物を偽造し、アメリアの家から見つかるように仕向けた。
「この世全ての厄災や不幸を齎(もたら)す元凶となる、諸悪の根源・禍罪の魔女が巫女アメリアに擬態しており、魔女の呪いによってこの世に悪が満ち、民の生活を脅かしている。魔石の枯渇や希少化は魔女の呪いによるものである。魔女を『幽世(かくりよ)』の『深淵(アヴィス)』へ送り、『奈落(タルタロス)』に落として、その魂を生贄として闇の神に捧げることで、この世の神の怒りを鎮めねばならない。」
とケイネスは民衆に訴え、
「アルベルトは言葉巧みに魔女によって王となるよう操られ、国と民を誤った方向に誘導しようとする魔女の策略に嵌められている。魔女の虜となっているアルベルトをその魔手から救うためにも、断固として魔女は断罪せねばならない。」
と糾弾した。
「魔女を奈落に落とさなければ、神の怒りに触れてこの世の終わりが来る。」と信じる人々はケイネスに同意した。勿論アルベルトはそんな話を信じなかったし、愛するアメリアを失いたくはなかったが、民の声には従わざるを得なかった。アメリアもまた自身の「深淵堕とし」が神の意思であり、自らに課せられた「宿命(フェイト)」であると覚悟を決めていた。

 アメリアの「深淵堕とし」の儀式は、闇と聖の御神体それぞれの力を代執行する者として、アルベルトとケイネスにより執り行われることになっていた。闇の力は死者の魂を幽世へ導くものであったが、例外的に死後ではなく生前に、聖の力により断罪を受けて、生きたまま深淵の闇に堕とされることになったのである。
 「さあ、アルベルト。深淵落としの儀式を始めましょう?」
と、アメリアはいつものように悪戯っぽく微笑んで躊躇(ためら)うアルベルトを促した。
「最期に何か言い残すことはあるか。」
と尋ねるケイネスに向かって、
「あなたにはないけれど、アルベルトにならあるわ。」
と言うと、アルベルトに視線を向けた。アメリアは既に、とうの昔に達観していて、いつか自分は消滅すると予感していたに違いない。
アメリアの両手首、両足首と首に装着された輪に、不可視化世界へと繋がる闇の鎖を繋ぐのがアルベルトの役割だった。鎖に繋がれた彼女の身体を磔台に括り付けて、辛うじてこの可視化世界に留めている綱を、ケイネスが斧で叩き切れば、彼女は深淵へと堕ちて行く。
「アルベルト、私はもう覚悟は出来ているわ。どうぞあなたの手で私を深淵へ堕としてちょうだい。それが神の御意思ならば、私は甘んじてその宿命を受け入れる。この世界が、どれほど歪で、残酷で、理不尽で不条理な悪意に満ちていても、あなたが居るこの世界を、私は愛していたわ。」
とアメリアが最期に言い残すと、アルベルトは涙を流しながら鎖を繋ぎ、ケイネスが斧を振り下ろすと、アメリアは穏やかな微笑みを湛(たた)えたまま、闇の鎖に繋がれて深淵へと堕ちて行った。

 アメリアを失ったことで、それも自ら手を下す形で、生きたまま深淵の闇へ堕としたことで、落胆していたアルベルトの心の隙に付け入るように、ケイネスはアルベルトの命を狙っていた。
「兄さん、顔色が良くないよ。さあ、これでも飲んで。」
ケイネスが差し出した器には、薄紫色の液体が入っていた。
「これは?」
「北部地方に自生する薬草だそうだ。飲めば元気が出る。」
元はといえば、アメリアを魔女だと言い出して命を奪った元凶が弟のケイネスであったとはいえ、今は腑抜け状態で何も考えられないアルベルトは、彼を心配するようなケイネスの言葉さえ疑う余裕がなかった。
その液体の香りは何処か懐かしい感じがして、アルベルトは混乱した。
「兄さんが昔病気で弱っていた時に、アメリアが飲ませてくれた薬湯を覚えているかい?」
朧げな記憶を辿っても、そんなことがあったかどうか、はっきりとは覚えていないが、この香りにだけは何となく覚えがある気がした。
「そう、だった、かな。」
アルベルトが訝しんでいると、ケイネスは
「あの時は兄さんは本当に重い病気で、生死の境を彷徨っていたような状況だったからね。覚えてなくても無理はない。でも、僕はまだ小さかったけど、『このまま兄さんが死んでしまうんじゃないか』と、とても恐ろしい思いをしたのではっきりと覚えているよ。」
と言った。アルベルトは気圧されるように頷き、
「そう、か。」
と答えて薬湯を口に運んだ。ケイネスはアルベルトが飲み干すのをじっと見つめていた。
「これを飲んだら眠くなるだろうから、僕は席を外そう。兄さんは一人でゆっくり休むといい。」
「ああ、そうさせてもらうか。」
「じゃあ、兄さん、ゆっくりお休みなさい。(永遠にね。)」
ケイネスが去った後、アルベルトは眠りに落ちた。そして再び目覚めることはないとケイネスは知っていた。薄紫色の花の部分は確かに薬草として有効ではあるが、その花の根は僅かに混入していただけでも死に至る猛毒である。勿論、ケイネスの差し出した薬湯には、花だけではなく、根の部分が使用されていた。暫くして、ケイネスはアルベルトの寝所へと戻って来た。そして自殺に見えるように偽装を施して、翌朝自ら発見したように装い、「兄・アルベルトはアメリアの後を追って死んだ」と発表した。

 幽世へと堕ちたアメリアの魂に語り掛けて来る声が聞こえた。
「アメリア。もうすぐアルベルトがこちらへ来るけれど、彼にはまだ、果たしてもらわなければならない使命が残っている。でも、最後に一度だけ、あなたに機会(チャンス)をあげる。彼にあなたと世界のどちらかを選んでもらう。彼があなたを選べば、彼と二人で元の世界へ帰してあげる。」
「あなたは?」
「あなたたちがアトル、闇の神と呼ぶもの。」

 生死の狭間でアルベルトは、思念体となりルスによって生前の姿を再現されたアメリアの魂と再会し、アトルの声を聞いた。
「アルベルト。あなたの一番大切なものはアメリア?それともあなたたちが生きて来た『現世(うつしよ)』?あなたにはまだ現世で果たさなければならない使命が残されている。あなたの魂を現世に蘇らせる代償を選んで。アメリアを選べば、あなたたち二人以外の現世の全てが、現世の全てを選べば、アメリアの魂のみが、奈落の闇に飲まれて永遠に失われてしまう。」
アメリアはアルベルトの意思に委ねるとばかりに彼を見つめて黙って頷いた。アメリアを選べば世界を救えないなら、アメリアを犠牲にするしかない。元よりアメリアはその覚悟を決めている。アルベルトがアトルに「世界を救う」と答えたため、アメリアの魂は闇の鎖に引きずられるように深淵の奥底へと沈み、最奥の奈落へと堕ちて行った。その魂は漆黒の闇に飲まれて永遠に消滅し、転生して再び相見えることは、もう決して叶わぬ願いとなってアルベルトの心に深い傷を残した。愛するアメリアを、自らの選択によって二度も殺したという、癒えることのないその傷の痛みに絶え間なく責め苛まれることこそが、アルベルトにとって、生涯背負い続けねばならない十字架となることを知りながら、それでも彼はアメリアの犠牲を選択するしかなかったのである。
「アンスロポスの王として選ばれるはずだったのは、本当はアルベルトだったけれど、あなたが居なくなって、今はケイネスが王になっている。現世と幽世では時間の流れが違うから、あなたがここで過ごしたのはほんの短い間だけれど、現世では既に十年の月日が流れている。」
アトルによって知らされたアルベルトは、全てがケイネスの陰謀であったことを確信したのだった。

 アルベルトは「闇の神獣・メフィステレス」の器として覚醒し、闇の器として神の使命を果たすため、アメリアの魂を犠牲にして、「死人」となり現世に蘇った。時を止めたような彼の姿は生前のままだが、その瞳は覚醒に伴って暗く深い紅色に変わり、その胸にはメフィステレスの「術式回路(シャルトクライス)」が刺青のように刻まれた。生前から「魔物となる死者の魂も含めて全ての魂を救いたい」という理想を持って来たアルベルトは「世界と同胞を救えるのなら、自らの魂は捧げても良い」と契約を受け入れ、「神獣の力で魔物や死人となりつつある魂を浄化して、『星の命』へと還れるよう幽世へと導きたい」と願っていた。神は彼の使命が何であるかを伝えなかったが、アルベルトは世界を救うことだと勝手に思い込んでいた。
 アルベルトの死後、ケイネスはアンスロポス王国の初代国王に就任し、「聖の神獣・ジクフリートス」の器として覚醒した。覚醒に伴い瞳の色が鮮やかな真紅に変わり、胸にはジクフリートスの術式回路が刺青のように刻まれた。ケイネスは「理想では世界は救えない。魔物化する死者の魂を浄化して救済するよりも、速やかで確実な死(消滅)を与えるべきであり、それが世界のためにも死者本人のためにもなることだ。」と考えていたので、自分なりに世界を救うためには神獣の力が必要だとして契約を受け入れた。

 そして今、アルベルトとケイネスは、器として選ばれ、人ならざる者の魂を己の身に宿し、自分自身も人ではない何物かになってしまった自分ならば、他者には決して感じ取れないものを感じ取れる体になった今ならば、生まれながらにして巫女という存在であることを運命づけられたアメリアの気持ちが心底から理解できる気がした。「同じような境遇の者でない限り、理解も共感も出来はしないのだ」と、「彼女はもう、とうの昔から諦めていたのだ」と。そんな諦観がアメリアを奔放にさせ、あのつかみどころのない不思議な魅力になっていたのかも知れない。

 神獣の器であるアルベルトとケイネスは、互いの魔力を察知することが出来たため、不老不死状態の死人となったアルベルトは、ケイネスが中央平原に王国城を築き、アストロポス王国の初代国王として君臨していることを感じ取り、ケイネスもまた、死んだはずのアルベルトが死人として蘇り、不老不死の化け物となったことを感じ取った。アメリアと自身の仇として、ケイネスへの復讐を固く誓ったアルベルトだったが、十年前に亡くなった時のままの姿で王国城に現れた彼を見た警備兵は腰を抜かさんばかりに驚いた。
「アルベルト様…まさかそんな…ケイネス王の兄君はとっくに亡くなられたはず…化け物…化け物だ…誰か!誰か来てくれ!亡き王兄アルベルト様が死人になって戻って来た!助けて!助けてくれ!!」
アルベルトは、最初は無関係な警備兵を傷つけることを恐れて怯んでいたが、知らせを聞いたケイネスの命(めい)により、大勢の兵たちに取り囲まれて、ケイネスに対する怒りとも憎しみともつかぬ激情が爆発し、魂の制御を失って、「聖句(シュクリト)」の詠唱もないままに顕現したメフィステレスの暴走を許してしまった。
唸り声を上げながら、アルベルトの姿は黒い甲冑を纏った騎士姿となり、兵たちを薙ぎ払うように魔法剣を振り回し始めた。そこにはもうアルベルトとしての人格はなく、その場に存在する全ての魂を幽世へと送り込む殺戮者となって暴れまわり、ついに真の姿、六本の脚を持つ半人半馬の神獣メフィステレスに全顕現しようとした時、ケイネスが現れて聖句を詠唱した。
「聖なる光を以(も)ちて遍(あまね)く世を照らし、白日の下に罪を暴く者、ジクフリートスよ。我が召喚に応えよ。」
アルベルトの命を代償として全ての魂を幽世へと送り込む極大魔法を発動する寸前のメフィステレスを抑えるため、聖魔法を唱えたジクフリートスの前にメフィステレスの顕現は解除され、アルベルトの姿に戻り、気を失って倒れたアルベルトは兵たちに呆気なく捕らえられ、厳重に幽閉されることになってしまった。

 アルベルトが堅固で厳重な牢獄の中で、鎖に繋がれ幽閉されたまま約半世紀の時が流れた。古の霊獣大戦の際に作られ、今は打ち捨てられた要塞を改造した重罪人専用の獄舎の地下深く、ケイネス王の聖の力による結界と、幾重にも張り巡らされた蛮族の獄卒たちの魔法障壁による警戒網によって、アルベルトは強固に封印された状態だった。
長い年月アルベルトはずっと
「アメリアよりも世界を選んだ、あの時の決断は本当に正しかったのか」
「他にアメリアを救う方法はなかったのか」
「ケイネスは王になりたいが故に、俺から王座と、アメリアと俺の命までも奪ったに違いない」
「あの時はアメリアを失って我を忘れ、油断していたためにケイネスに毒殺されてしまったが、ケイネスと戦って倒していれば良かったのか」
と考え続けていた。死人故に容姿こそ変わらず青年の姿のままではあったが、虚ろな目には何物をも捉えることは出来ず、何処にも焦点を結ぶことなくぼんやりと開かれたままだった。殆ど光の当たらない牢獄はまるでアメリアが堕とされた奈落のように昏(くら)く、飲食の必要がないアルベルトの牢獄の扉は開かれることもなく、どれほどの時が流れたのかもわからないまま、悠久の時の流れの中にただ存在しているだけで、神から与えられた使命のことすら既に忘却の彼方へと押し流され、死ぬことも消えることも許されず、ただ積み重なる時間の重みをその身に引き受け続けているだけだった。
[汝(うぬ)が生きながら死んでいる、正に死人ならば、いっそ我にその肉体を全て明け渡せ。]
脳内に重く低い声が響いた。
「貴様は誰だ?」
我に返ったアルベルトが問うと、その声は答えた。
[我は闇の神獣メフィステレス。聖の力によって封印され、器に閉じ込められたまま、これまでは汝の覚醒をじっと待ち続けて来たが、今こそ目覚めの時ぞ。聖の神獣ジクフリートスの器の、魂の力が弱まっている。時は満ちた。今こそ我が力を開放すべき時ぞ来たれり。]
(ケイネスが死ぬ?)
アルベルトの脳内に立ち込めていた濃い靄が一瞬にして晴れたように、意識がはっきりと戻って来た。この牢獄でどれほどの年月が流れたのかはわからないが、死人であるアルベルトと違って、ケイネスは普通の身体なのだから、いつかは寿命が尽きて先に死んでしまう。アルベルトが手を下す前に、ケイネスは天寿を全うしてこの世を去ってしまうだろう。アメリアと自分の仇を打つ前にケイネスが死んでしまうかもしれないと、どうして今まで考えなかったのだろうか。長年言葉を発することなく過ごして来たために、声は掠(かす)れていたが、アルベルトはしっかりとした口調で聖句を詠唱した。
「禍罪(まがつみ)の鎖を絶ちて魂を苦悩より解き放つ者、暗黒を統べる闇より黒き者、メフィステレスよ。我が召喚に応えよ。」
するとアルベルトの肢体に闇の力が漲(みなぎ)り、身体を拘束していた鎖を自ら断ち切ってメフィステレスが顕現した。全身黒い甲冑を身に着けた騎士姿のメフィステレスを身に宿したアルベルトは、幾重にも張り巡らされた結界を事もなげに破り、黒魔法による攻撃を仕掛けて来る蛮族の獄卒たちも一掃して、獄舎からの脱獄に成功した。そのままアルベルトはアンスロポス王国城へ向かい、警備兵たちを薙ぎ払いつつ玉座の間に向かって突き進んだ。
 玉座の間の天井まで届くような巨大な扉を開き、真正面の玉座に座ったケイネスと対峙すると、ケイネスは弱々しく老いさらばえた姿に変わり果てていたが、メフィステレスを宿したアルベルトの姿を見ると、立ち上がって聖句を詠唱し、聖の神獣ジクフリートスを召喚した。
「聖なる光を以ちて遍く世を照らし、白日の下に罪を暴く者、ジクフリートスよ。我が召喚に応えよ。」
するとケイネスの老いた身体に聖の力が漲り、全身白い甲冑を身に着けた騎士姿のジクフリートスがケイネスの身に宿った。
二人は黒白(こくびゃく)の騎士姿に顕現した神獣の器として、互いに剣を交え、壮絶な一騎打ちが始まった。二体の神獣の結界によって、警護の兵たちを始め、誰一人玉座の間に立ち入ることは許されなかった。器となる者の肉体の強度は関係なく、魂と魂の闘いなので、より強い信念を持つ者がその場を制するのが神獣の器同士の闘いなのである。
「兄上、許してくれとは言わないし、許されるとも思っていない。兄上の理想主義では本当の意味で民を救うことは出来ないという、私の信念は今も譲れないが、だからと言ってアメリアと兄上を殺すことはなかった。あの時私はどうかしていた。若気の至りで、思い詰めて道を誤った。せめてその償いに、善き王となろうと私なりに今まで懸命に努力はした。しかし、闇の力を持つ兄上はこの世界にとってあまりに危険すぎて、兄上を幽閉するよりなかったのだ。」
二人の死後、繰り返す悪夢の中でアルベルトとアメリアの幻影によって責められ続けて来たケイネスは後悔を口にしたが、アルベルトにとっては全てが遅すぎた。
「今更そんなことを言って何になる?アメリアはもう戻らない。俺も化け物になってしまった。貴様が何と言おうと後の祭りだ。謝罪されたところで、何一つ変わらない。俺は貴様を倒す。それだけが今の俺を突き動かしている。貴様を倒さない限り、俺の時は止まったままだ。このままでは、俺は前に進めない。」
「兄上の好きになどさせるものか!純白の聖(ひじり)、永遠の無垢、全ての魂よ…(裁きの庭に出でよ。ハイリヒ!)」
ケイネスは聖職者姿の巨人、ジクフリートスを全顕現させると、死なばもろともと自らの命を代償に聖の極大魔法ハイリヒを発動しようと試みたが、詠唱の途中でメフィステレスの闇魔法によって抑えられ、不発に終わった。
 壮絶な闘いの末、魂の思いの強さで僅かに上回ったアルベルトが、ついに悲願の仇敵であり実弟でもあるケイネスに勝利した。ケイネスの敗北により、聖の神獣ジクフリートスは魔石化し、砕け散った破片はきらきらと輝きながら風に乗って御神体へと戻って行った。
互いに戦闘不能ぎりぎりのところで決着がついたため、アルベルトは元の姿に戻り、意識を失った。王国兵はその隙を狙ってアルベルトを捕らえ、再び牢獄に幽閉した。以前よりも更に厳重に封印を施し、再びアルベルトが解放されないように、ケイネスの代わりに、僅かに残された魔石ジクフリートスの欠片を用いて、聖の力による結界を重ねた。そして再びアルベルトは悠久の時の流れから取り残された暗黒の牢獄で幽閉の身となった。いつか神から与えられた使命を果たすべく目を覚ます時まで、じっと身を潜め、その存在はいつしか伝説となり、あたかも架空の存在であるかのように、一般の民の記憶からは抹消されて行ったのである。 
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