きつねの戯言

銀狐です。不定期で趣味の小説・楽描きイラストなど描いています。日常垢「次郎丸かなみの有味湿潤な日常生活」ではエッセイも。

銀狐通信

2013-06-11 03:16:39 | 日記
時空城へようこそ。

この迷宮の案内人・銀狐です。

「涙壺」全3章完結・投稿しましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか。
毎度要らぬお世話とは思いつつ、少々作品のメイキングのお話と解説をさせて頂こうかと思います。

そもそもの発端はTVの朝のワイドショーでオリンピック招致の話題で聞こえてきた「トルコ・イスタンブール」という地名。
何故だか不意にずっと以前に小説で読んだ気がする「ペルシャの涙壺とトルコキキョウの花」を思い出しました。

その時は単に「何かのネタに使えるかも」くらいの印象でしたが、別の日に同じワイドショーで「DV(ドメスティックバイオレンス)/ストーカー」についてのニュースを見た時、何となく脳内の回路が繋がった気がして、この作品の構想がスタートしたのです。

ヒントとなるキーワードやイメージが浮かんだら、とりあえずそこから連想されるものを片っ端から検索します。
その中で意外だったのは「泪壺」という渡辺淳一氏の小説の存在でした。

私が涙壺で最初にイメージしたのは一時どっぷりはまっていた別の恋愛ミステリー作家の何かの作品だろうというおぼろげな記憶だったのですが、その「泪壺」のダイジェストを読んでみると、何となく読んだことのあるような気が…もしかしたら学生時代に幼馴染に勧められ、借りて読んだ渡辺淳一氏と村上龍氏の数冊の小説の中の一冊だったのかも知れません。
その時読んだ数冊の中の断片的なシーンや表現は今でも覚えているものがいくつかあるくらいなので印象深かったのだと思います。
不思議な縁(えにし)を感じたのは偶然ではなかったのかも知れませんね。

本文に在ったように涙壺は本来涙を溜めて愛の証にするものですが、初めてそれを知った時、一応医療系学士の端くれだった私は
「あんなに乾燥した気候の場所で溜めた涙は乾いてしまわないのか?」
などと意地悪な事を考えたものです。
なので、実際に涙を溜めるよりも「想い」を溜める方がいいのではないかと考えた時、「想い」を溜めるのはリア充の恋人同志だけではなかろうと片恋マイスターのきつねめは思ったのです。
叶わぬ恋の切なさとDVがそこで一本に繋がりました。

人物については最近身近なところでちょっとした軍服ブームがあったので、男性キャラは軍人という設定にしようと思いました。
ビジュアル的には手近にあるコミックの憲兵隊長の中尉さんを参考にし、画像検索で憲兵の装束と帝国陸軍の階級章を調べました。

ヒロイン・桔梗は「トルコキキョウのような女性」のイメージでした。
不美人で精神的に脆弱という設定なので、最初に考えていたオリエンタルビューティーとは黒髪ロングヘアであること以外全く別のものになりました。
桔梗は自分が不器量であることから全てにおいて自信がなく、極端に自己価値が低い女性です。
他者に依存し、他者に評価されることでしか自分の存在価値を認識できません。
彼女がもう少し自分自身を認めて、もう少し自分のことを好きになれていたら。
とうとう彼女が自分自身を好きになるきっかけを見い出せないままに終わったのは不運としか言いようがありません。

夫、甘糟完二はDV加害者にありがちな精神的に幼稚で自己中心的な男性として描きました。
ビジュアルのモデルは特にないので挿絵ではのっぺらぼうです。
「甘糟」という姓の人物は歴史上に複数実在しますが、実は全く無関係です。
「甘えん坊でカスみたいな男」というところからつけました。
「完二」は某アニメ・ゲームのキャラクターの名前から。音感が合ったのと女嫌い=男が好きと誤解を招くというだけの連想です。
甘糟はいわゆる「俺様人間」。世の中は自分中心に回っていて、自分以外の人間を見下しているように見えますが、その実劣等感の塊で、「なめられる」「馬鹿にされる」ということに対して非常に過敏です。
無意識のうちに相手を貶めることによって相対的に自分が優位に立とうとします。
それでいて本当は甘えん坊の寂しがり屋で妻にべったりと依存しています。
幼少時に母親に甘えることの出来ない環境にあったため理想の母性を妻に求め、自分の思い通りにならないと駄々をこねるかのように暴れたり暴言を吐いたりする子供じみた男です。
しかし桔梗も又「必要とされること」という承認欲求に飢えているので、どんなに虐げられても夫に甘えられ依存されることによって自分の存在価値を見出すべく夫に依存しているという非常に不健全な相互依存(共依存・co-dependency)が成立しています。
アニメやコミックで、物心つく前から奴隷だった少女を非道な領主から救おうとしても彼女はなお領主を庇おうとしてしまうであるとか、大きな鳥籠の中で鎖の付いた首輪をつけられた少女が自分を拘束している男性に歌や物語を聞かせ解放されても彼の元を去り難く思うであるとかいうシーンがありますが、愛情と誤認されがちな相互依存の延長上にDVやストーキングがあるような気がします。
そして往々にして当事者はそれに気づかないか、或いは認めないものなのでしょうが。
余談ながら甘糟の混乱した思考の中に現れる蛇はエデンの園でイブに禁断の知恵の実を食べるよう唆した悪魔(サタン)がモデルです。
そしてまたある種の精神疾患では神や悪魔、宇宙人からの言葉が聞こえるという幻聴の症状が現れることがあるので、ラストの精神崩壊への伏線にもなっています。

ヒロインの想い人・高倉樹のモデルは某コミックのイケメン少尉、正確にはその弟であるプレイボーイの侯爵です。
勿論その他のいろいろなイケメンキャラクターのエッセンスも加えつつ、少女漫画に出てくる典型的な「これぞイケメン」のイメージで描きました。
高倉の姓は京都の通りの名称の一つでもあり、平清盛の義理の甥で後白河法皇の院政のために擁立された色白で美しい容姿だったと言われる高倉帝の名でもあり、昭和の二枚目俳優高倉健氏の姓でもあります。樹という名は某アニメの特殊能力を持つ謎めいたイケメンキャラクターから頂きました。
つまりは高倉樹という男は夢幻のようなものなのです。
恋愛に憧れる少女が、天使のように清く正しく美しい理想の男性像の具現化であるかのように錯覚している対象というものを表現したかったのです。
だから敢えて「真実を知らないだけで本当の男というものはそんなに綺麗なものじゃないんだよ」というエピソードを挿入してみました。但しこれは本題ではないのであくまでもさらっと。

サブキャラクターの范大佐(のちに総統)と艶美夫人(副総統)のモデルはミュージカル「エビータ」のアルゼンチン大統領ファン・ペロン大佐とエビータことエバ・ペロン夫人です。
このミュージカルはそれぞれ別のキャストで2回見たことがあり、大変好きな物語です。
桔梗が高級貴族、高倉が下級貴族、甘糟が平民出身であるという格差と、斜陽族の悲哀を描くのであれば革命(クーデター)の前後の軍隊という背景が必要であろうと発想でした。
ファン→范(はん)、エバ→艶美(えみ)という名がその由来を暗示しています。
実は范総統には賢剛(けんごう)という下の名前も考えてはあったのですが、遣う場面がなく本文には登場せずボツになりました。
ラジオの女優で水着のモデルだったエバと、エバが33歳で病死した後ペロン大佐が後妻に迎えた若い踊り子イザベラのエピソードは艶美の前身や范の愛人のエピソードの下敷きとなっています。

実を言うと、最終章の執筆を開始した後もまだ涙壺が壊れた夜以降の展開は未定でした。
甘糟が荒れ狂った後妙に優しくなり、桔梗に甘えてくるという典型的なDV加害者らしい場面だけは決まっていましたが、それ以外は全く正反対の展開に改変することになりました。
本来の涙壺の用途から連想して甘糟が高倉を戦地に追いやるとか、絶望した桔梗が毒を呷って自害するとかいう展開になる予定でしたが、どうも納得出来ずにいるうち、発想の転換というか、より現実的で矛盾のない流れとして、艶美夫人が高倉を昇進させようとして甘糟が総統に見切られプライドを傷つけられて精神崩壊をきたす方向に変更すると、自然と桔梗は甘糟の手によって殺害されることになりました。
桔梗の心そのものであった涙壺が壊れたことは桔梗の絶望の象徴であり、確固たる自我を持たない桔梗が自ら死を選ぶというよりは「殺すというのなら殺されてあげましょう」という方が彼女らしいと思いました。
甘糟が取り押さえられるシーンでは抵抗して殺されるという案もあったのですが、それではあの世でまたぞろ顔を合わすことになってしまい、桔梗が安らかに眠れないだろうというせめてもの作者の温情で、牢獄のような病室で拘束されるという結末になりました。
桔梗の葬儀のシーンは全く勢いと思いつきで付け加えられたものです。
最後にもう一度冒頭で出てきたトルコキキョウを登場させたかったのと、真実を何も知らぬまま逝った桔梗の魂が今も高倉を想い続けているという暗示を入れておきたかったのかも知れません。

大変長くなってしまいました。
ここまでお付き合い頂いてありがとうございます。
最後に心理学・精神医学的なテーマを扱ってはおりますが、あくまでも個人的な見解に基づくフィクションでありますことを申し添えておきます。

次回作の予定は現時点では全く白紙ですが、更に精進して参りますので今後とも宜しくお願い申し上げます。

よろしければまた時空城へお越しください。

あなたを摩訶不思議な異世界の旅へとご案内致します。

またのお越しを心よりお待ち申し上げております。
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1 コメント

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すばらしい (Kenjiro Ishiki)
2013-06-11 10:56:22
Nobuko、『涙壺解題』、読ませてもらいました。そのときどきのさまざまなイマジネーションや印象がだんだんと折り重なり、化学反応を起こして作品へと至る謎解きをしていただきました。ありがとう、Nobuko! 健二郎
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