内容紹介
昨年、衝撃的なニュースが朝日新聞の夕刊一面を飾った。
そのタイトルは――[友達いなくて便所飯? 「一人で食べる姿、見られたくない」]――。
あの東京大学で、驚くべき張り紙が発見された。「トイレ個室内での以下のような行為を禁止します」。そこには、「喫煙」「落書」に加えて、「食事」を禁止する項目が。「えっ、よりにもよって、なぜ、わざわざトイレで食事なんかするの?」。
一見、信じがたいこの行為には、「あいつ、友達がいないから、しかたなく一人で食べているんだぜ」と、他者から見られたくないという心理が働いている。だから、「誰も入ってこない、トイレの個室に逃げ込む」のだ。これを称して「便所飯」という。
なぜ、いつの間に、若者たちはそのような行動をとるようになってしまったのか?
所謂「ランチメイト症候群」の発展型と見なされる「便所飯」行為。この症状が悪化すると、より深刻な心の病を抱えることになる。実際、「友達がいない」ことで、勉学に身が入らず、退学する生徒が後を絶たないという。
ネットやメディアで話題になったこの「便所飯」騒動について、心理学および教育論専門の著者が洞察し、その元凶を鋭く指摘。そして、「夢を持てない」「老後のことを今から気にする」「お金を遣わない」…いまの若者の姿の理由がここに解き明かされた!
内容(「BOOK」データベースより)
ネット、マスコミで騒然!「便所飯」の心理と病理を解読する。
ランチメイト症候群(ランチメイトしょうこうぐん、ランチメート症候群とも)とは、精神科医の町沢静夫によって名付けられた[1]精神症状の一つ。学校や職場で一緒に食事をする相手(ランチメイト)がいないことに一種の恐怖を覚えるというもの。本項目では類似の概念であるひとりじゃいられない症候群や、関連するインターネットスラングである便所飯(べんじょめし)なども含めて解説する。
概要
ランチメイト症候群という名称は、町沢静夫に相談を訴えた者が、食事をする相手のことをランチメイトと表現したことから着想を得た呼び名であるという。学会に認められた症状名や病名では無いが、2001年の4月頃から報道で取り上げられたことでこの呼び名が広まった。
主な症状は、一人で食事することへの恐れと、食事を一人でするような自分は人間として価値がないのではないかという不安である。学校や職場で一人で食事をすることはその人には友人がいないということだ。友人がいないのは魅力がないからだ。だから、一人で食事すれば、周囲は自分を魅力のない、価値のない人間と思うだろう。この症状の当事者はこのように考えがちである。こうした考え方が主な症状である恐れと不安を誘発する。さらに、断られることを(「価値のない自分」への不安を惹き起こすから)恐れているので自分から誰かを食事に誘うこともできない。ランチメイト、つまり食事相手を確保できない者は、一人で食事をする姿を学友や同僚に見られないように図書館などで隠れて食べることがある。中には食事の様子を見られそうになってトイレに隠れたり、ひどい場合は仕事を辞めたり就職を諦めたり学校へ行けなくなる。
ネットを対象としたアンケート調査では、一、二割の男女が一人での食事に抵抗を感じていることが明らかになっており、また女性に多い傾向であることも現れている。町沢も著書の中で、最近は若い男性にもその傾向が現れているとしつつも、大学生や20代の女性の症例を中心に紹介している。日本の女性は特に群れることを好み、一人でいる時に抵抗を感じてしまう傾向がある。自分自身を客観視して「自分はどう見られているのか?」を気に病むことから、ランチメイト症候群は当事者のみではなく、周囲の人間環境にも起因していると考えられる。
町沢はランチメイト症候群のルーツを、集団に守られつつ他者を非難する日本の村八分の現象に求めているが、コミュニケーション論を研究する辻大介は、こうした友達がいないように見られることを恐れる傾向はアメリカの若者にも多く見られるとし、先進国に共通した特徴ではないかと述べている。また辻は、このような感受性を持つ者は募金やボランティアなどの社会活動に積極的で、他者への信頼も高い傾向が見られたとし、これらは他者への敏感な気遣いの現れの一つであり非行のような問題行動に繋がる傾向ではないという持論を展開している。
諸富祥彦は自著『孤独であるためのレッスン』の中で、ランチメイト症候群などの、集団の中で孤立することを恐れる心理を「ひとりじゃいられない症候群(孤独嫌悪シンドローム)」と名づけ、「ひとりでいられる能力」、言い換えれば「孤独になる勇気」と「孤独を楽しむ能力」の重要性を説いた。また法政大学教授の尾木直樹は、一人でいられず孤立を恐れる大学生の心理について、高校時代における他人との交わりや生活体験の不足が理由ではないかという考えを述べている。
便所飯
便所飯(べんじょめし)とは、一緒に食事をする相手がおらず一人で食事を取るところを他人に見られたくないという理由から、特にトイレの個室を食事の場所に選ぶことを指すインターネットスラングで、ランチメイト症候群の一種として同一視されることもある。人目を避けて食事する場所として他ならぬトイレを選ぶ理由としては、一人で食事しているところを友達の友達にも見られたくない、人目につかない場所が他にない、トイレの個室は誰にも邪魔されず監視もなく自分を守ってくれる空間であり居心地が良い、といった理由があるという。
この言葉は2005年初めから2006年頃にインターネット上で広まり、特に寂しい学生生活を表すスラングとして、面白半分のニュアンスで語り継がれていったとされる。その後次第にメディアで注目されるようになり、特に2009年7月6日に朝日新聞が夕刊一面で社会現象として取り上げ、続いて翌日の「めざましテレビ」「情報プレゼンター とくダネ!」といった情報番組でも紹介された際には、ネット上で「便所飯」が検索キーワードとして急上昇するなど大きな反響があった。
一方で「便所飯」の存在自体を疑問視し、一種のジョークや存在の疑わしい都市伝説として見なされることも少なくない。例えば前述の朝日新聞の報道では便所飯に関連する事柄として、複数の大学のトイレで見つかった「便所飯禁止」の張り紙を紹介し、何者かの悪戯である可能性を指摘しつつもこれを若者の間で広まっている現象の一つとして取り上げたが、これは便所飯が実在する根拠としては乏しいものであり、同紙はインターネット上に流布する実体のない悪ふざけに踊らされたのではないかと見る向きもあった。また、過去においてオンライン百科事典のウィキペディア日本語版における「便所飯」の項目には、便所飯を行う上での詳細な注意や、その他真偽の疑わしい冗談半分の投稿が相次ぎ、このことから繰り返し記事の削除が行われ、項目が存在しない状態であったことも、報道上の話題となった。
こうした便所飯の実在を疑問視する意見に対して、識者によるコメントの紹介や、実在を確かめるための検証も試みられた。例えばJ-CASTニュースは、ランチメイト症候群の命名者である町沢静夫による、実際に「便所飯」に関する相談を何度か受けているという談話を紹介した。また、MSN産経ニュースでは記者が取材を行った結果として、「便所飯」を体験したことのあるという人物の談話や、外国でも便所飯の痕跡を見たという目撃談などを紹介し、実在を疑われるのは便所飯自体が他人に知られないための行為であり、また辛く苦しい体験であるために、名乗り出る人が少ないからではないかという意見を取り上げた。いずれも「便所飯」が一部の現象に留まらず、社会現象と呼べるほど広まっているかどうかについては定かではないという立場を取っているが、朝日新聞は後に、尾木直樹が大学生400人を対象に行ったアンケート調査の結果に基づき、2.3%の回答者が「便所飯」の経験があると答えていることを報じている。しかし、他の世代(大学生以外)のアンケート調査は行っていない。
一連の報道について、過去に朝日新聞や「とくダネ!」などで「便所飯」という言葉を紹介してきた辻大介は、自身のブログにて、メディアがこの現象を面白おかしく取り上げることへの懸念を述べている。
僕も独りで昼食に行くのが好きなので、「便所飯症候群」なのかもしれない。