大阪が舞台で出て来る連続ドラマをやった。僕はAPだった。
脚本家は巨匠のIさん。制作会社のプロデューサーKさんはIさんとは何本もヒット作を手掛けており、彼が「脚本の流れ」を仕切っていた。
僕はウチの局のプロデューサーUさんとIさんの御自宅にお邪魔し、テイクアウトの中華料理を御馳走になりながら、ドラマに関して何回か雑談をした。
原作の無いオリジナル。
「多摩スタジオ」のスタッフルームで原稿を待っていると、カタカタと音がして、Iさんから原稿が数枚単位で送られて来る。
Kプロデューサーは急いで生原稿を読み、脚本家のIさんに電話をかける。
「先生、面白いですねー!すごく感動してます。この先が本当に楽しみです!」
歯の浮いた表現で、脚本家を褒めちぎるばかり。問題点があったとしても、一切指摘しない。
脚本家Iさんから送って来た原稿はそのまんまFAXで台本印刷会社に転送され、「決定稿」になるのである。
つまり、「初稿」イコール「決定稿」、脚本家Iさんには「脚本直し」という概念が存在しなかった。それだけ巨匠という事なのか?
そんなある日、「大阪のお好み焼き屋」のシーンが出て来る事になった。下町の大阪のオッチャンの会話。もちろん、全て大阪弁のシーン。
Iさんから名指しで僕にそのシーンを書いて欲しいとのリクエストがあった。
僕はプレッシャーと大きな責任感から、自宅のワープロの前でうんうん唸りながら時間をかけてそのシーンを書き上げた。
僕の書いた原稿はIさんに送られ、僕は巨匠Iさんが「僕の書いた文章」をどんな風にアレンジして面白くしてくれているか楽しみにしていた。
カタカタFAXが鳴って、Iさんの原稿が来始めた。
僕の書いたところは・・・
Iさんは僕のワープロ原稿をそのまま原稿用紙に貼り付けていた。一字一句直しは無かった。
僕は「こんなんでイイのかよ!」と思った。「初稿」イコール「決定稿」の脚本家が。
このドラマではこんな事もあった。
ある日のスタジオ収録が午後8時前に終わった。
連日の超過密な収録が続いていたので、プロデューサー陣も僕も疲れが溜まっていた。
「今日は早く帰れる!」とプロデューサーもAPの僕もワクワク。
あとは主演女優のMさんがスタジオを出るのを見送るだけ。
しかし、他のキャストやスタッフが帰ってスタジオがガラガラになっても、Mさんはなかなか控室から出て来なかった。
控室の中で物音や声がするので、明日の衣裳合わせをしているのだろうと思っていたが、それにしても遅い。
最終的に何をしていたのかは分からなかったが、 Mさんが控室から出て来たのは午後11時半だった。収録が終わって、3時間半後!
何事も無かったかの様に彼女は車に向かい、我々プロデューサーも何事も無かったかの様に顔に作り笑いを浮かべ、彼女の車が視界から消えるまで見送った。
Mさんもベテランの女優さんだ。毎回、プロデューサーがお見送りするのは知っているはず。
この出来事を境に僕のMさんへの印象は劇的に変わった。
やはり、ドラマに出る側の人でも、彼ら彼女らの事を支えているスタッフがいる。
その事を常に忘れないで、「謙虚」に行動して欲しいと思ったのだった。
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