思考の踏み込み

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戦国夜話9

2014-03-21 08:40:24 | 歴史
悪人列伝となってくると触れざるを得ない人物がいる。

荒木摂津守村重である。



彼もまた悪人どもの例に漏れず、主を追い権力を手繰り寄せた人物だが、日本史上でも最も理解し難い行動をとった男でもある。

有名な信長への謀反から、有岡城の単身脱出である。

このため村重の一族家臣たちはことごとく処刑された。
村重の不可解さはその後なお、秀吉の庇護を受け生き続けた事にある。

仮にも一時は織田軍団の有能な将として信長に認められたほどの男が、妻子重臣たちが惨殺された後も平然とその余生を送った心事というのは、ちょっと想像し難いものがある。

一説には黒田官兵衛や秀吉と、信長暗殺の陰謀に関わりそれ故に秀吉が保護したともいわれるが、その実際はともかく、それだけでは村重が生に執着したことの説明にはならない。

このことはある一点から焦点を当てて見たときに唯一かろうじて後世の我々を納得させるものがある。

それは何か?

もちろん村重がキリシタンで自殺ができなかったなどという事ではない。

彼は茶の湯の魅力に憑かれていたらしい。

死んでいった者たちの亡霊に夜毎うなされながらも、なお生にしがみ付いたということは、この時代の瑞々しい茶道という、新しい芸術の魔力的なまでの魅力を想像しなければ中々理解に至れない。

だがその一点から荒木村重という人物を見ると、これ程に正直で人間らしい男もいないとさえいえないだろうか。

毀誉褒貶も後世の評判も、全て投げうっても生き続け、浮世の美に執着したこの男の姿はまったく愛すべき戦国の一奇景といえよう。