海神奈川吹奏楽部愛好会ブログ

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古墳少女佑奈5 古墳vs弥生 その5

2007年05月31日 10時35分22秒 | 上月佑奈

第5章 古墳vs弥生



 佑奈と茜、舞子の3人は山奥中学校を出て神社の境内を横切って昼食をとるためペンション<パンプキン>に戻ろうとしていた。境内に紺のブレザーとジャンパースカートに白い丸襟ブラウスの制服の少女がいるのが見えた。その子は全身泥まみれだ。舞子がそれに気付き
「あら、弥生ちゃんじゃないの。どこ行ってたのよ。みんな心配して探していたのよ。どうしたの、全身泥まみれじゃないの」
昨日から行方不明だった関口弥生がひょっこり戻ってきたのだ。しかし舞子の問いに弥生は答えない。
「弥生ちゃん、どうしたの?」
「舞子ちゃん、この子知り合い?」
佑奈は弥生から妖気を感じ取っていたので舞子に尋ねる。
「はい、同じクラスの関口弥生ちゃんです」
「そう、でもこの子何か危険よ」
「そんなことないですよ、ねぇ弥生ちゃん」
舞子の問いに弥生は佑奈を指差し
「お前か、相模の国から来た妖術使いは」
「失礼ねぇ、誰が妖術使いよ」
この子はただの女子中学生ではないと確信したから佑奈の目は真剣だ。
「佑奈お姉様『妖術使い』ってなんですか? 前から弥生ちゃんを知っていたのですか?」
舞子は状況が飲み込めず質問してくる。舞子が知るふだんの弥生のしゃべり方ではなかった。茜も
「佑奈お姉様、どうしましたの?」
「茜」
「はい、なんですの?」
「お姉様の言う事を疑問を持たずに聞いてくれる」
「はい」
「舞子ちゃんを連れて先帰って」
「佑奈お姉様はどうされますの?」
「この子といろいろとやり取りすることがあるの」
「???」
「いいから早く帰って!」
佑奈が真剣な表情で声を荒げるので茜はびっくりして舞子に
「舞子ちゃん、佑奈お姉様の言う通りにしましょう」
「でも弥生ちゃんが…」
「いいからとにかくゆきましょう」
いぶかる舞子の手を引いてなんだかわからないまま茜は小走りにその場を去り鳥居をくぐろうとすると二人は透明な壁に突き当たった。
「痛ったぁーい、なんですのこれは。見えない壁があるですの」
「うそっ、いったいこれは…。神社から出られないの?」
二人は見えない壁を手でたたいてみた。鳥居の下だけでなく見えない壁はずっと続いているようだ。茜は
「佑奈お姉様、見えない壁がありますのぉ」
と佑奈に言う。舞子もこれで弥生の異変にようやく気付いたようだ。泡を食っているから佑奈たちは気が付いていないが弥生が結界を張ってから外部の物音が遮断され境内はしーんと静まり返っている。佑奈は弥生に
「あんた結界を張ったわね」
「周りからいらぬ邪魔が入らないようにしたまでよ」
「あの子たちは関係ないでしょ。出してあげて」
「我が倒すべき相手はお前のみ。だから手出しはせぬ」
「ひとつ聞いていい?」
「なんだ」
「昨日お婆さんを殺したのはあなたね」
「あぁ、あの巫女のような老婆のことか」
「やっぱりあなたが…」
「術者としては格が低いのに我を封印しようなどとするからだ」
「ひどい、そのせいであたしが疑われたのよ」
「そのようなことどうでもよいわ」
「どうでもよくない!」
「どうせお前も倒すべき相手だ。黄泉の国で老婆と再会するがよい」
そう言うと弥生はいつの間にか手にしていた銅鐸を振り優雅に舞い踊り始めた。弥生は太古の昔に滅びた旋律を抑揚を付けてカランカランと銅鐸を振り鳴らす。最初「この子一体何を始めたの?」と佑奈はぽかんとそれを見ていたが魔力の高まりを感じ
「二人とも物陰に隠れて!」
と叫ぶ。二人ははじかれように境内のお稲荷さんの社の裏に隠れこわごわ様子を窺う。術者ではない茜と舞子にも感じられる位に強い殺気が弥生の小さな体からほとばしっていた。佑奈が反射的に飛びのくとそれまで佑奈が立っていたところに電撃が飛びガガガッと音を立て地面が大きくえぐれた。佑奈は勾玉の腕輪という魔神具を用い呪文を詠唱し複雑に指を組み結印する事で術を発動させるが、弥生は銅鐸を振り舞い踊ることが結印に銅鐸の振り方で音に抑揚を付けるのが呪文を詠唱するのに相当し術を発動させる。古墳時代と弥生時代では術を発動させる儀式や原理が異なるようだ。相手も術者なら術を使って対抗しないとこの限定空間ではやられてしまうし術を使うとうるさく言う泉崎礼香もこの場にはいないから佑奈は術を使って反撃することに決めた。
「妖術使いはあんたのほうじゃないのよ。こっちも本気出すわよ」
佑奈が呪文を詠唱し複雑に指を組み結印する。弥生も次の術を発動させるべく舞い踊っている。弥生が再び電撃を放つ。佑奈は金棒を出現させ地面に突き立てる。電撃は金棒に引かれねじ曲り地面に流れた。佑奈は避雷針を立てて弥生の電撃をアースしたわけだ。古墳時代の術と現代の科学的知識をミックスして弥生の攻撃を無力化する。
「おのれ妖術使いめ、こしゃくなまねを」
自分の事を棚に上げて弥生は再び舞い踊り火炎を佑奈に放つ。佑奈は氷の壁を出現させそれを受ける。氷の壁は一瞬にして蒸発するが佑奈は無尽蔵に氷を繰り出すことで弥生の攻撃を無力化していた。ついで佑奈は土の壁を出現させ弥生との間に築きこれを防壁とした。弥生は後ろにはえているイチョウの木の小枝を佑奈目掛けて雨あられと放った。しかし防壁に突き刺さるだけで佑奈には当たらない。
「これならどうだ!」
術の応酬では勝負がつかないと見た弥生は銅鐸を銅矛に変形させ防壁を乗り越えて佑奈目掛け突進する。佑奈も呪文を唱え鉄剣を出現させてこれを受ける。ガキーン。二人が斬り結ぶ音が境内に響き渡る。弥生の突進の勢いを込めた突きは女子中学生の佑奈には受け切れない。だから佑奈は突きのベクトルを反らすべく弥生の矛を払った。弥生は第一撃が失敗するや身を翻して間合いを取る。矛は柄が長いぶん間合いを広く取らなくてはならない。だから佑奈と接近して戦うのは不利なのだ。第二撃で佑奈は弥生の攻撃をかいくぐり間合いを詰めようとする。剣は矛に比べると間合いが狭く接近しなくてはならないので不利だが、相手の懐に飛び込めば圧倒的に優位に立てる。ガキーン、ガキーンと斬り合う音が無音の境内に響く。甲乙付けられぬまま二人の激しい斬り合いは続く。双方深手は負っていないが激しい斬り合いで全身に無数の擦り傷切り傷を負っていた。激しい斬り合いで佑奈のパーカー、弥生のブレザーとスカートはずたずたに破れている。とりわけデニムミニスカートをはいてきた佑奈の足の傷が目に付いて茜は
「佑奈お姉様痛そうですの」
と心配している。弥生に一気にとどめを刺せれば簡単なのだが、佑奈はできるだけ弥生の体を傷つけないように攻撃しているからなかなか勝負をつけられない。
 果てしなく続くかのような斬り合いにも終りがきた。佑奈の勾玉の腕輪と弥生の銅鐸の魔力は拮抗していたが、術者にした関口弥生という女子中学生は体力的に虚弱な子であった。それにくらべ佑奈は米軍で軍事訓練を受けているので術を用いず純粋に斬り合いをやっても弥生に勝てる体力がある。また銅鐸は弥生の体を乗っ取ってからずっと休息をとらせずに弥生の体を酷使していた。だから銅鐸の意思は戦闘続行を望んでも乗っ取った体がついてこなかった。体力の疲弊が激しく弥生の膝が笑ってきて腕が重くなりだんだんと突き出す矛が甘くなったのを佑奈は見逃さなかった。佑奈が鉄剣で銅矛を全力で横になぎ払うと弥生の握力が弱っていたので銅矛ははじき飛ばされる。銅矛を手放した弥生は魂が抜けたように白目をむいて地面にくずれ落ちる。地面に落ちた銅矛は本来の銅鐸に姿を変えてカランカランと音を立てて境内を転がり茜と舞子が隠れているお稲荷さんの社の前まで転がった。その白銀に輝く姿を見て茜は魅入られたようにそれが無性に欲しくなってきて
「あれ欲しいですのぉ」
と言いながらふらふらとお稲荷さんの社の裏から出てくると茜は銅鐸を手にしようとする。
「茜だめぇーっ」
佑奈が絶叫する。そばにいた舞子も
「茜ちゃん、それは危険よ。いっちゃだめ」
と茜をはがいじめにして止めようとするが銅鐸に魅入られた茜はものすごい力で舞子を振り払う。茜に突き飛ばされた舞子は「ぎゃっ」と言って地面に転がる。銅鐸に近寄ると嬉しそうな笑みを浮かべて銅鐸を手にする。銅鐸は体力の限界がきた弥生の体を捨てて今度は茜に乗り換えようとしているのだ。銅鐸にとって術者の体は術を発動させる儀式を行わせるための使い捨ての憑代(よりしろ)にすぎないのだ。佑奈は銅鐸に魅入られた茜に対して術を発動させるのをためらった。ここで攻撃呪文を発動させれば茜のみならずそばにいる舞子まで巻き添えをくう。その間に銅鐸を手にした茜は「ぐわっ!」と普段上品な茜が発したとは思えない声を上げて苦しそうにのたうつ。手にした銅鐸から邪悪なものが茜の中に入ってくる。茜は銅鐸を投げ捨てようとしたけれど手に吸い付いたかように離れない。邪悪なものは茜の体のすみずみまでなめ回すように見て回りとても不快だ。だんだんと茜の意識の中に邪悪なものが押し入ってきて茜は自分を見失いそうになる。そして茜は放心したかのようにがっくりと両膝をついてうなだれた。
「茜ーっ」
佑奈が叫んだがもう茜の耳には届かないようだ。
 それから少しして銅鐸を手にした茜がすっくと立ち上がり佑奈に向き合う。佑奈は警戒した面持ちで対峙する。
「あんた茜なの?」
と問うと茜は
「そうですの。佑奈お姉様」
といつもの調子で答える。
「銅鐸に心を奪われているのではないでしょうね」
「佑奈お姉様、銅鐸さんははじめ私の心と体を奪おうとされたんですけれど、わたくしが『そーゆーことしちゃだめですの!』って叱ったらわたくしにその力のすべてを託して眠りにつくことになりましたの」
「それどーゆーこと?」
佑奈と舞子にはまるで理解できなかった。銅鐸は弥生の持つ容姿や学力といったものへのコンプレックス、すなわち心の闇を増幅することでエネルギーとしていたのだが中学1年生にしてはまだまだ子供で純真無垢な茜には付け入る心の闇というものがなく、逆にその清らかな存在に触れ銅鐸は屈服させられてしまったのだ。
「茜ちゃんすごーい」
と舞子はよくわからないけれど感心しているが佑奈は
「そうなの?」
と理解できない様子。
「とにかく銅鐸に体を乗っ取られているんじゃないのね?」
「そうですの」
と答える茜の様子から佑奈は茜は本当に銅鐸を屈服させたのかしらん?と半信半疑であった。そして弥生にかけ寄り
「弥生ちゃん、大丈夫?! しっかりして」
と介抱している舞子の姿を見て佑奈は
「いったいどうやってこの結界から脱出したらいいのかしら」
と頭を悩ませていた。
「今わたくしが解きますわ」
と茜は弥生のように銅鐸に抑揚を付けて振り舞い踊ると結界が解けた。外界はすでに日が暮れて夜になっていたから急にあたりが暗くなって一瞬佑奈たちは何も見えなくなった。そしてそれまで外界と遮断され全く音がしない世界にいたのにまわりの音がわっと耳に入ってきて3人は思わず耳をふさいだ。弥生もそれで気が付いたようで
「あれっ? なんであたしこんなところで寝てんだろ。やだっ泥だらけじゃないの。制服もぼろぼろになってるしぃ…」
「弥生ちゃん大丈夫?」
「舞子ちゃん、なんであたしこんなとこにいるの? 昨日からまるで記憶がないんだけど?」
「あのね、弥生ちゃんはね…」
弥生にこれまでのいきさつを説明してやろうとする舞子を佑奈は止めた。魔物にとりつかれていたなんて聞いても弥生には信じられないだろうし知らないほうがいいと思ったのだ。舞子もそれをくみ取り
「さぁ? 狐にでも化かされたんじゃないの?」
と舞子もごまかした。
「なんかすごく体がだるいんだけど」
「舞子ちゃん立てる? おうちまで送るね」
そう言うと舞子は弥生の肩を抱いて神社を後にした。
 二人の後ろを歩きながら弥生に代わって二代目弥生少女になった茜はニッコリ笑って佑奈に銅鐸を見せながら
「これでわたしくも佑奈お姉様と同じ術者になれましたのぉ」
とうれしそうに言った。なんてったって茜には手芸店で買ってきたプラスチックの勾玉で作ったニセモノの腕輪しかなかったのだから。

エピローグ


 保護された弥生はひどく衰弱していて村の医院にかつぎこまれた。佑奈との激しい斬り合いで全身擦り傷切り傷だらけになっていた。着ている制服もぼろぼろで暴行された疑いもありその点も調べられたが弥生の貞操は無事と判明した。弥生は点滴を打たれ入院したが若さゆえ回復も早く3日目の夕方には退院した。
 佑奈は村中が弥生に気をとられている隙にペンションに戻りシャワーを浴び全身の泥を落としぼろぼろになったパーカーやデニムミニスカートを着替えた。佑奈はこのパーカーがお気に入りだったのにもう着られないことが残念で仕方がなかった。佑奈も全身擦り傷切り傷だらけでシャワーが傷に染みた。佑奈は長袖のシャツと長ズボンに着替えて腕や足の傷を隠したのでさほど傷が目立つことはなかった。
 佑奈と茜、舞子は弥生発見のいきさつを警察に聞かれたが弥生が銅鐸に体を乗っ取られて妖術を使い結界を張りそこで佑奈と激しい斬り合いをしたなんて信じてもらえないだろうし、佑奈が傷害罪に問われかねないから茜・舞子と3人で口裏を合わせ中学校の帰りに3人で遊んでいて偶然神社の境内でぼろくずのようになった弥生が倒れているのを発見したことにした。回復後弥生は警察の事情聴取を受けたが銅鐸を手にして以降の記憶がまったくといってなかった。ナオ殺しについてもまるで覚えていなかったのは弥生にとって幸いであった。体を乗っ取られていたとはいえ自分の手が人を殺したことを覚えていたら弥生には耐えられなかったであろう。
 ナオ殺しについては佑奈犯行説が色濃かったが証拠はなくみだりに未成年の佑奈を勾留して取り調べるわにもゆかずついに捜査は迷宮入りした。
 風の噂によればその後舞子は吹奏楽部に入ったらしい。
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